尻すぼみは後味も良く


 ●来ても困るローニン●

  

実は竿を折ってしまった6キロのがーらが来た日の夕方

モズ男Tと同じ実釣場で釣りをしようと待ち合わせ。

せっかくだからモズだけでは残念だからと

釣りに誘ったのだ。

 

けれど待てど暮らせど来やしないので

ちょっとライトタックルでと

テクニウムと13フィートのシーバスロッドで

ラパラの11センチを投げていた。

(上二本はヤガラに人気のクリスタルミノー、中ほどが問題のラパラ、

下はガーラチューンのリッププラス・ブルーオーシャン)

 

時々大型のベラや足元から「みーばい」(ハタ)の

小さいやつが飛び出したりする。

と、また何か影が見えたなーと思ったら!!!

「ずもももーん」

とこれまでにない馬鹿でかい影が。

 

足元までミノーを追いかけていたのは、

1メートルを遥かに超えるオスのロウニンアジ。

 

なんでオスかって?

黒いイカツイ体がアップで見えたから分かって当然。

始めてみた20キロ以上と想像がつく巨体が

堂々と足元に来たとき、正直恐かった。

 

だいいち、夕方とは言え十分明るいのに

堂々とミノーの後をついてきたのだ!

こんな巨体で、余裕ともとれる行動に見えたのだ。

ヒラアジは泳ぐのに体をほとんど動かさずに

高速で移動できるから、余計に不気味でもあった。

 

焦りながら残された投げ竿をセットして投げたけど、

来なくて良かったと思ったものだった。

 

これを執筆中の現在、石鯛竿を改造しつつある。

色々な仲間から教えてもらった、いわば

「釣り師の衆知を結集した仕掛け」

で次はこいつに挑まなくてはならない。

もうたじろいではいられない。

 

しかし、

その時、最後に残された我が家最強の竿とて

簡単に折れる境遇にあろうことなど知る由もなかった。

 


●竿は折れやすいもの●

 

次の日は最終日。

明日は午前の便で帰らなくてはいけない。

 

いまさら潮も悪いのに朝飯前のお出かけはやめて、

たっぷりと三膳飯を食べてからの

余裕の釣行。

 

ここに来てようやくリズムをつかんだ感じでもあって

ちょっぴり残念でもあり、

そんなものかと悟った感じも。

 

今更ではあるけれど、あのロウニンアジが

闘争心を掻き立ててか、はたまた実釣場へ。

 

原付を降りて5分は歩く磯なのに

つい行ってしまう。

ここの5分は結構きつい。

ジモトンチュウ(地元の人の意、造語)も

来ない意味は十分に理解できる地形であった。

 

妙に左の切れ込みの奥の磯際にわく

大きなサラシにこだわりがあって、

そちらに集中してしまって.....

でも、あたりがない。

  

サラシなのでと青いラパラから

ここぞというヘンテコカラー

いやアピールカラーのラパラに交換し

キャスト。

 

思いは通じたかに・・・

「くんっ!」

ときたもんだ。

 

手に伝わる引きは余りにも小さい。

ナイロンラインの30ポンド(7号)だったので

訳もないと余裕のやり取りをしていたつもりが

意外にテンションを嫌った魚が根に走り

ググッと止まってしまった。

「え?」

そげんこつ!こげな魚に?的な

思いが心を満たしつつも根に入った魚は動かない。

 

まあ、糸は太いので切られはしない。

 

とりあえず引きずり出すと

自由を得た魚はまたしても手前の岩の出っ張りの陰に

鋭く走り込む.......

「なに?」

またしても糸が止まってしまった。

正直この小さい相手に

何やっちょるんかぁ的な呆れが長男の心を突き刺したのである。

 

しかたなく岩の前まで竿の出る位置まで進んで

甘んじて潮の洗礼を足に受ける。

 

ホンの小さな磯の切れ込みからヒョイッ

魚を引き抜こうと力を入れた瞬間、

「ばききっ」

と竿が3分割した!

「き」が二つあるのはそのせいだ。

 

慌てて糸をたぐってあげてみると

40センチ半ばの1キロ台のカスミアジ。

なんやぁ、またお前かぁと言ったか言わなかったか、

それくらい脱力し尽くした。

 

これほど小さい魚に良く良く見ると竿は4分割して

穂先の一部は3センチくらいどこかに消し飛んでいたのだった。

 

おそらくは、ポッパーを投げつづけた時に

妙な力が掛かりつづけたか、

その回数が素材を虫食んだか位しか考えつかない。

少なからずスピニングロッドは

ひねりが相当無理を重ねるに違いない。

 

どうでもいいが、もう竿がない。

あのロウニンアジを掛ける竿も無くなったのである。

悔しいからキチンと活けジメし、

はらわたも出してみると、これまた見事な

真子が出てきてびっくり。

 

これにて、今回の大東(うふあがり)釣行は

千秋楽を迎えてしまったのである。

 

シーバスロッドまで折るわけには行かないのであった。

それこそ、折れたとて無理もないのである。

  


●力尽きた素潜りのはてに●

 

その午後は料理長とモズ男と共に

潜りに行ったわけで、

貴重な料理長の日曜は僕らのスキンダイビングに

当てられたのであるから

これには全身全霊をもって応えなくてはいけない。

といっても潜るまでである。

大東島の周辺は1500メートルの深海。

10メートル沖は10メートルの深さ、

50メートル沖は50メートルの深さかと言われている。

 

そんな沖から波が来て、沿岸まできたら一気に

波が持ち上がる!

エントリーには苦労の連続であった。

 

沖でも波にシュノーケリングが苦しい場面もあって、

見た目には優しげにみえるのに

とても厳しい海原であった。

でも、お魚はいたって普段着であり

ぼくらの非力さだけが強調された形となった。

余りの上天気は名古屋のKに申し訳ないくらい、

ホンの十数分炎天下に出ていただけで

いまだに太股や腕の皮がむけている。

 

潜っていたと言うか、波間に漂っていた時間は

わずか十分程度だけれど疲労コンパイ。

もうたくさんであって、

最後の一日はこうして体力を十分に使いつつ

本土からしてみると

五月の時を超えた日々を味わいすぎた程であった。

 

宿に帰ったら力尽き、ついに夕刻まで熟睡し

なにげなく贅沢に終わりの刻をむかえつつあった。

 


●悲しくも美味しいお子様がーら●

 

真子を持っていたのでお子様とも言いがたいけれど、

とにかく小さ目のカスミアジ。

夕寝にすきっ腹を抱えた夕食は

日曜ゆえにカレー。

でもぼくにはカスタムのお造りが登場する。

無理を承知でお願いしたのであった。

 

でも奥さんいわく

「きょうのは包丁が油でべとべとした」

と言うほどのノリノリのお刺し身。

 

普通は卵の乗る時期はまずいという。

でも、

食べてみない事には本当に分からない、

個体差も手伝うことだし。

 

またたび、なぜか登場するモズ男Tに

お造りをすすめてみる。

「マジでウマイっすよ」

目の色が変にぎらぎらしている。

(こ、こいつ俺よりたくさん食っちまうのでは?スゲー心配だ)

つまりは、

釣った本人のエコヒーキはなしの状態である。

事態はもう寒ブリ。

身の張りはカンパチ!油は寒ブリ!

(そんなに脂の乗ったカンパチは食べた事ないんですが)

二人はオリオンビールとカレーをさて置いて

それこそ目の色変えて美味い美味いと連発しつつ

大自然の神秘と恩恵にひたりきったのであった。

 

なぜか、小さいと美味しい「がーら」とは

通常、大物をねらっている向きには全く歓迎されず

釣れたところで

とほほのほーっ

につきるのであるが、ぼくはかなり気に入った。

 

あっという間の9日間であった。

 


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