晴れ間と凪はスランプ日和


●社長が切れる日●

 

去年はあれだけ豊かな釣場だった部長釣場。

荒れてしまったのか、それともエルニーニョのせい?

 

理由はともあれ、ルアーに反応する魚は全然いない。

ボーズ続きのぼくに社長がついに切れた!

「島の東側の降り口だけ教えまるから、後は自分でやってみて」

「部長釣り場だけでは馬鹿の一つ覚えといわれても仕方ないよ」

客に言うには非情にキツイ一言であったが、

来て以来どうも釣りに対して煮え切らない

ぼくの姿勢に気づいていたのだろう。

 

3時までは時間があるから、行こうという。

わざわざ社長は四駆を操り、

降り口どころか限界まで車を入れてくれた。

どう見ても行けそうにない50センチはあろうという

ワダチを日常茶飯事的にすり抜け、

釣場の上まで行ってくれる。

  

長三切抜、国京下、斉藤港、高幕、実釣場、

愛作切抜、銅浜などなど

何個所も地図をながら回るが、

名前と地図と磯が一致しないようで、

農道が急ピッチで整備されているので

地元の人でも分からなくなるようであった。

 

とりあえず、東だけでなく、南側まで到達し、

こんなにして、社長って暇なの???と

つい邪念が入り込んでしまった。

 

と、道の脇で遅目のキビ刈りをしている知人に

「宿のお客さんに釣場を案内しているんだ」

という趣旨であろうウチナーグチを発していた。

遊んでんじゃない事を説明しておかないと

いけないんだと、ぼくにも説明してくれたが、

いったい

息子に残りを刈らせると言っていた

キビ刈りのオバチャンにどうして説明が

必要なのかは一向に理解不能であった。

 

3時に何があるのかと思えば、

釣りをしている奥さんを亀池港へお迎えに行く事であった。

まだ、2時過ぎ、

奥さんは早すぎるとご機嫌斜めらしい。

 

昼から2時間程度で50リッターのクーラーは満杯。

もうすっかり片付いているところを見ると

ずいぶん前にノルマは達成したようで、

その辺の磯でカサ貝を採っていた。

これは明日の味噌汁の身となるのである事は

ぼくは知るよしもなかった。

 

社長の知り合いは多い。

流石に島の商売の第一人者だ、その日の港では

ムロアジを刺し身にしていた人に遭遇し、

すすめてくれたので、遠慮なくご相伴だ。

お弁当パックに一杯のムロアジの刺し身だが、

酢醤油でいただくと美味い!

炎天下でとても鮮度を保てる状況ではないが、

釣りたてなので気にする事はない。

だが、酢醤油は殺菌の意味もあるとのことだ。

 

そんなことはこの際どうでも良く、

昼飯抜き状態の上に磯を巡ってきたので腹ペコ。

あっという間に2人でたいらげてしまって、

奥さんには少ししか残っていないどころか

釣った本人の分など全然残らず、容赦無い食いっぷりである。

 

それにつけても美味しかったなー。

いったい、釣りはいつするんだろう?

奥さんの釣った数キロ分の釣果もあることだし、

とりあえず夕食にあれが出る可能性は高い。

特に釣らなくても問題はなかったが、

釣りに行かないとは、

今更ながら釣り人としては深刻な問題である。

 

こんな島でのスランプは辛いなー。

社長に案内され、釣らないわけにはいかない

が、

この夕方は島の真東にあたる磯の深場ポイント

斉藤港へ赴くもあたりなし、

港の変なおやじが言っていたように、

「浅場と深場が接するところ」が釣れるらしいことが

だんだん分かってきていた。

 

でもこの夕方も釣れはしなかったのである。

 重々しい気分のままの夕食は久々の肉食。

明日こそは釣らなくてはいけないが、

オリオンビールがまたしても気分を軽くして

まあいいか、ビールも美味いし、

もうすぐ21世紀でもあることだし、と

お気軽体勢に戻してくれたのだった。

  


●釣らなければ人間関係が●

 

ここまでしてもらって、釣らないわけにはいかないし、

これでも一応ルアー釣り師として

分かってもらったばかりなのに

これまた全然釣れていないではないか!

意を決して

浅場のあるポイント「実釣場」へ

「じっちょう」とは読まず「みのつりば」と読もう。

 

目の前は水柱が立ったり、

水が乗ってきたりするわけで、

脇の切れ込みのところで辛うじて竿が出せるだけ。

しかしここはヒラスズキ経験者。

サラシといい、浅場の広がり具合といい

がーらが回遊してきそうな雰囲気ムンムンであり、

やる気も湧いてくる。

どうもサラシの下には魚が居そうな気がする体質は

全然変わって居ない。

それにあかなが来たとき、サラシが魚を呼んで

食わせてくれる事をそれとなく感じていた。

 

ラパラのファーストリトリーブは難しく、

抵抗が大きくてとても続けられない。

でも夏には反対にスローでしか来なかったので

あまり気にしていなかった。

でも、青物の基本である事を軽んじすぎてはいまいか?

 

左側の切れ込みの中では、

一瞬3キロくらいのハタが

下から水面まで上がってきたがノーヒット。

 

仕方なく右の浅場との際に投げる。

「クンっ」と何かが当たった!

久々の当たりだがチェックしたルアーには

釘で引っかいた様な跡が深々と着いていた。

これはバラクーダ他、カマスの皆さんの仕業だ。

気を取り直して投げつづける。

しかし、サラシが気持ちよく広がるが、

足元に乗る潮も相変わらず、多めである事も確かだった。

 

ちょっと気分を変えて左めに振ってみたとき、

「がっ」

と久々に食いついた!

竿は投げ竿3.9メートル、リールはステラ8000、

ラインは珍しく30ポンドのナイロン!

実にヒラアジらしい仕掛けだが?

じきにこの魚がこの仕掛けには

抵抗し得ない事が分かった。

 

竿で磯際をかわしつつ、

緩いドラグを全部絞め込んで糸を出さずにファイトする。

ドラグを出す必要は全く無いと判断したのだが、

これが不思議と大正解。

 

波に乗せて引き上げると、

お久しぶりの美しい眩しいカスミアジである。

(4.5キロ、60センチ、長さが同じだと、重さはヒラスズキの1.5〜2倍もある。)

引きも楽しかったし、

何しろその美しさが目に染みる、心に染みる。

とりあえず、気まずかった人間関係は

改善に向かうはずだが、

この時はそのようなことは微塵も感じず、

釣れて良かった、ヒラアジ、がーら

という気分が心に満ち溢れて満足しきっていた。

 

しめるには早いと思い

ストリンガーに掛けて放すと元気元気!

この姿がいつもぼくまで元気にさせてくれる。

「非情」に険しい感じだが、

多分冷静に考えるとこのとおり険しいはずだ。

釣っているときはそれどころではないけれど。

 

当たりも来ないし、

早めに上がる事にして、道具を片付け、

磯を上がっていくと、思ったより重く、

帰りの行程がきつく感じる。

この時、はかりは持っておらず、

60センチという長さから3キロ程度だと

信じており、一回り重い事に気づくには

この傾斜と岩登りが必要だったのだ。

 


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