何のためにこの島に


 ●ウワサ男?噂のさかな?●

 

意気揚々とバイクで自由の身を噛み締めつつ、

宿へ戻ると、大東そばの伊佐さんちの前に

女の子が2人!

例の磯であった民宿金城に一泊二食3500円で

泊まっている金はない?がかわいい女子である。

この島には高校がなく、したがって高校生以上の

独身女性はまずもって見られない禁欲の島であり、

そこへ膚の白いナイチャーの女子とくれば、

いくら内気なぼくでも声を掛けてしまいそうになる。

今日は向こうからだった。

 

どうも細仕掛けで10キロのあかなを上げた事が

とても気に入ったらしく、社長が島中宣伝してくれたらしい。

「大きいの上げたんでしょぉ、あそこで」

「釣った魚ってどうするの?」

「宿のお客さんとみんな出たべるんだよ」

(標準語に近い言葉づかいになっていることに注意)

「へぇー、もうヒーローですね」

流石にたった10キロのお魚でヒーローは照れる照れる。

顔も緩みっぱなし、長男台無しである。

まあ、ナイチャーの女子にはヒーローと思っていただいて

大いに結構であった。

いつしか晴れた炎天下、白い膚が眩しいひとときであった。

(いかん!生涯一磯師や!邪念を捨てなあかん!)

 

と、いっている端から女子二人組みが

明日一日しか島にいない事を聞いてがっかりであった。

いったい、何しにきてんだろうあの二人?

もうすっかりまぶしいお天気である。

 

昼間は偵察のみを行って、夕刻、

昨日の悪夢を振り払うように、同じコースを回る事に。

フルミナミはやはり水柱が立ち、

頭から潮の洗礼を受ける事になった。

「っだぁぁぁ、ずぶぬれやぁーもぉー」

と波に語りかけても乾かないし、

またもう一度来そうであった。

とりあえず、まだテストしていない

お手製ペンシル「えんじぇるふぃん」を試す。

(上の青い字をクリックすると、つたないルアーが見られます)

 

「よー飛ぶやんっ」

と口に出すほど良く飛び、リアフックがないので

着水のときのしぶきが時々見えないほど小さい。

90グラムの重さからか、ちょっとノタノタするけれど

オートマティックに良く泳ぐ。

 

と1メートルくらいのダツが飛びながらやってくる!

どや?と思った瞬間、ダツが空転していた。

多分後ろの部分に噛み付き、すっぽ抜けた挙げ句、

噛んだ顎が勢いあまって痛かったのか、

とにかくびっくりして前回りに回転していた。

その後何度かダツがやってきたけれどフッキングなし。

ダツもデカイから試しに食べてみたいんだけどなあ。

 

結局部長釣り場へ移動しても何もこず、

残ったのはお手製ペンシルのダツの歯形だけだった。

やれやれ、またボーズになっちまったのである。

10キロの男が台無しだ、などと

またしても長男の心は少し痛むのであった。

 

と、今日の夕食は最後のあかなで

ぼくにはカスタムの塩煮(マース煮)が出てくる。

この調理法は沖縄独特で、調味料は使わず、

塩水で煮るだけなのだそうだ。

味のある魚だから、そのものの味が出て美味い!

オリオンビールと塩煮に

すぐさま心は癒され、緩んでしまっていた。

 


●そんな思いでこの島へ●

 

 この島を訪れる人の多くは迷鳥のようであって、

土木関係の仕事以外のお客は至って意味不明な生活を

送る事に相場が固定されている。

おおむねはまず、役所で鍵を借りてホシノ洞

ここは人の気配を検知して自動的に明かりがともる

ハイテク洞窟である。

次は海軍棒で泳ぐか海軍の立てた「ただの棒」を見て

まさか、あれが海軍ボーってんじゃあないよね?

と思いながら帰ってくる。

でもあのボーが海軍棒なのだ。

領土宣言の印らしい。

まだまだ暇があるので島の湖にある天然記念物

オヒルギ群落を見る人も多い事だろう。

いわゆるマングローブが池に生えている。

上が真水で下が海水の池では、河口で育つ

マングローブが育ってしまうらしいが、

飛んでは来ない細長でっかいマングローブの種が

なしてこげん高か島の真ん中ばやって来て

生えちょっとか分からんバイ的でもあるが

気づく人は少ない。

 

大体これで観光スポットは打ち止めであるので、

みなは大抵、港などへお散歩に行ったり、

資料館へ行ったりして

ガラにもなく地理や歴史を学んだりしてしまう。

 

で、

 

◆名古屋発のK氏の場合◆

名づけて「タダの観光客」である彼。

島の玉突き屋(ビリヤード)を見つけて退屈の余り

行こうとしてしまった彼。

 

公務員であるが今は暇になった瞬間なので、

金券ショップで沖縄のチケットを

買ったまでは良かったが行くところがなく、

大東路線しか空きがなかった、迷鳥的な訪れ方。

弓の試合があるため、

雨の間だけ島にいたとっても悲劇の人であった。

が、

人間としては非情に爽やかであり、

ぼくの人生に残るあの10キロのワンカットを

撮ってくれた恩人であった。

  

後日、手紙をもらったが、

弓の試合の事は何も書いてなかった.......

ふるわんかったんかなー。

 

◆大田区発のT氏の場合◆

前述のように農学博士である彼は

ひねもすモズを追いかける。

一年中モズを追いかける情熱的な男である。

モズを研究する事で生き物の由来や

生きる意味を探求しているようだ。

資金的には苦しいらしく、

日焼け止めも無ければ、レンタバイクも借りれず、

大東そば屋の伊佐さんから崩壊寸前かつ

爆音暴走型のスクーターを借りたのか、いつもやかましく乗り回している。

音でお出かけが良く分かる男である。

 

金が無い割には小笠原から大東へ来るという

実にうらやましい生活であり、

ただ、釣り具まで運ぶ余裕が無いのが残念らしい。

 

あの、

三宅島のジャックモイヤー博士も知人であるのは流石。

そして、日本では少ない

公認のカスミ網仕掛け人でもあるのだった。

 

ただ、朝な夕なに布袋を持ち、その辺の人に

捕獲したモズの大人や雛を見せている

どうしようもなく変な男でもあった。

だがしかし、この男のモズへの情熱が

そうさせるのだと信じる事にしている。

誤解を招くといけないので続けると

捕まえたモズは血を少しもらって遺伝子鑑定し、

亜種としてみとめられるかどうかを

チェックしているのだ。

捕まえるのはあくまで食べるためなんかじゃない。

そんな彼が言う、

「女は要領がよくって嫌ですよ」

「研究をキャリアアップかなんかのためにしてしまって、

もっと命を懸けてやってほしいっすよ!」

と語気が激しい。異常に黒い顔で言うなよ・・・恐いから。

 

でも、そう言いつつ島で出会う旅の女性には

しっかりつなぎを付けてくる訳であり、

「おれは女そのものが苦手なの!」と

心の底では言いたかった。

 

ちなみに、

ここのモズがレッキとした亜種ならば

この男が名付け親となるのだ。

もちろん、

名付けのヒントは、ぼくと料理長がきちんと指導している。

 モズの学名かあ、たのしみだなー。

  

一応、鳥の話しもコナすぼくは

ひと通り彼の説を聞いてみたのだが、

思ったより楽しそうな内容が印象的だった。

内容については

ここでは専門外なのでやめときましょう。

えせバードウォッチャーだと思われても困るし。

 

◆「真夏の台風おんな」T嬢の場合◆

去年の夏に館長の事態の読み違いから

ぼくより早く帰るはずが居残りになってしまった

悲劇の京都女、T

 

大東周辺に台風の連泊、

気象が荒かったせいで

当時の小さなデハビランドカナダ6型機は

あえなく欠航したのだった。

 

気性が荒いのは彼女のほうで、

「だいじょぶやって、俺にマカシとけぇ」

なんて館長が請け合ったものの

予約は取れず、怒り狂った彼女は

フロントのカウンターに乗り込んで

館長の胸ぐらをつかんでつるし上げたほどだ。

 

あの後、2日後に何とか那覇へ飛び、

キャンセル待ちで帰ったらしい。

「そりゃもーあの後、たあいへんやったんやからモー」

とは料理長の談。

くわばらクワバラ。

 

でも

もう大丈夫、今の機体は高性能でまずもって

欠航する事はない、

安心してまた訪れるがよい!Tよ!

朝から晩まで酒を飲みまくって

気性まで荒い彼女に正面きってこんなことはいえない・・・。

 

◆正体不明、料理長の場合◆ 

夫婦ソロって社長の求人キャッチコピーに

乗せられて本島から移住してきたことは

以前書いたことがある。

 

週休一日の彼が最近力を入れているのが

家の柵作りである。

 

コックチョーとか料理長とかごーさんとか

よばれるこの、気のいい男。

最近一年半もこの島から出てないらしく、

意地になって「記録つくったろか思てなーァ」

なんていっているが、

今、島の人からはいぬ牧場と呼ばれる一家の長である。

正しい大東犬である「びー」と人見知りして

しかもものの隙間が好きな「ちー」との

間に生まれた6匹の子供。

うち3匹はもらわれて3匹が残ったのであるが、

これまでの3匹の成犬と合わせて6匹

これがまた似てなくていいのに

人に吠え付く性格が「びー」譲り。

油断すると家族総出で猫に吠え付きに行くのだ。

それを阻止すべく、犬牧場といわれながらも

しっかりとした柵を築こうとしているのだ。

 

本来なら釣りに行きたいところだろうけれど

犬牧場のオーナーとしての責任が

彼を柵へと向かわせるのだろう。

 

でも、最後の日曜には、モズ男Tと

潜りに連れて行ってくれた、優しい男である。

この人は客ではないが、なんでこの島に居るのか

今一つぴんと来ないのでつい書いてしまった。

来るたびに話題に事欠かないのは

この人のお陰でもある。

 

いつも料理してくれてありがとう、

感謝して合掌

 

◆「無線の男」の場合◆

名前は知らないが、話す友も居ないのか、

宵の口にフロントへ興奮して下りてきた。

聞けば、屋上で「あまちゅあむせん」の

アンテナを撤収していたところ、

ゆーほー(Unknown Flying Object)

目撃したらしい。

意外に冷静に、あっけらかんとしていたらしい。

で、今は興奮気味らしかった。

館長は全然驚かずに、

「この島の人はその辺のおばちゃんでも結構見とる」

とこっちもあっけらかん。

空が澄んでいるから、テレビもなかったから

きっとそうだろう。

 

まーいろんな人が居るが、

アマチュア無線しにこの島へ来るなんて、

贅沢って言うか終末的っていうか、

何だかなー。

見た目にも決して観光客にも

ダイバーにも釣り師とも全然違う、

生っ粋の、紛れも無い100%ピュアな

アマチュア無線家である。

 ただ、何者かはいわれるまで分からず、

ひたすら怪しげであった。

 

あとで職場の無線家に聞いたら、

「あーいたいた、大東島から発信してるやつが」

と、いうことは彼の努力は

結構報われているのである。

無線って浪漫なのかなーと思ってはみるが

どうにも想像がつかなかった.........

 

◆ダイバーの場合◆

この場合誰という事はないのだが、

大東に来る目的で一番それらしいのがダイビング。

毎年色々なダイバーが来るのだけど、

一番多いのが集団でいつもの生活引き続き的

身内だけ盛り上がり派

次は

自分たちだけの世界に浸りっぱなし派

(2人組みの場合)

そうして、

ただ、一人でしんみりぼんやり派

(独りの場合1)

一人の割に明るく動き回り派

(独りの場合2)

といったところ。

 

前者2つ二大勢力は、モズ男Tいわく、

「あーゆー人たちって親和性悪いっすよね」

確かに、島の人にもお構いなしな傍若無人ぶりが

見ていてウトましい事もあったりするのだった。

 

それにも増して、実際困った人が登場する。

忘れたころに。

それは、ベジタリアンダイバー! 

物資の少ないこの島で、

それでなくても青菜が少ない上にこう主張するのだ。

こういう人を私は、無常識と呼ぶ事にしている。

全然お構いなし的に

何も考えないで自己主張タイプなのだ。

長男のぼくからしてみると

とても幸せな性格に思える。うらやましい。

 

でも、料理長とてタダモノではない、

しこたま僕らにボヤいたあげく、特別食を作っちまった。

 

近年増加の一途を辿るらしいベジタリアン。

宗教や体質や痩せたい願望や、

ただ思い込みなどなどタイプは様々。

世の中は知らないほうが幸せというものだという事を

しみじみと感じ入る事態であった。

何でも食べられないベジタリアンには島には合わないものだ。

 

◆困った学生の場合◆

偵察の帰りにふと見かけた細ーい白ーい彼がそうだ。

館長いわく

「毎日親と電話しよる、何しに来とんやろなー」

親からも何度も電話が掛かってきているようだ。

 

モヤシ君と言うには余りにも老けて見える。

でも学生らしく、とっても人見知りが激しいらしい。

それでもこの島へチャレンジした気骨

認めてあげるべきであった。

 

人間と接するのが下手なのか、

あまりに叱られて生きてきたのか、

自分独りになると何をして良いか分からないらしい。

ただ、フーラフラとその辺を

カメラを首から下げて彷徨している。

 

せっかく来たのだから、

いろいろ回っていけばいいのに

やっぱりどうして良いか分からないうち、

親から再三の電話の後3日ほどで帰って行った。

まだ予定の半分も泊まってないらしい。

「俺も、ドンだけしっかりせいとゆうてやりたかったか」

とキックボクサーは語ったが

キックボクサー自身も自分の経験がものすごすぎて

かえって、それが彼に

小さな自分に気づかせるという敗因につながる事は

薄々知っているのであった。

 

「客商売続けて来たからな、だいぶ辛抱強くなったんやぁ」

とウチナーンチュなのに関西風の

ヤマトグチを使う館長であった。

 

それにしても、釣りはどこへ行ったんだ、

ぼくこそ何をしてるんだろう、この島で。

  


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