ああ、後悔のカスミアジ


美味しくいただくには今朝が最後のチャンス、大き目の魚は一晩おくと

身が丁度よくしっとりとして食べやすいものです。

だから、今朝が最後の朝だったのですが、来たのはカスミアジ。

足元でちょろちょろと泳ぎ回ってはポッパーの後ろでちょくちょく顔を出す

だから、チョットばかり欲が出たのか、カッポレじゃないのに掛けてしまいました。

正直なところ、ヒラアジをポッパーで上げた事がなかったので

それもあったかもしれませんが、そのカスミアジは一気にポッパーを飲み込み

フッキングさせると同時に血を吐いている所を見ると

鈎がエラまで行ってしまったみたい。

格闘するというよりも、あしらってしまった感じがあって、

太仕掛けは今日はもうやめて、これまでのナイロンの6号なんですが

それでもほとんど、もがくだけで走れないくらい強いみたいなのです。

一度だけ、数メートルの突っ込みを見せましたが、ほんの数十秒で

疲れ果て、上がってきました。18号とは言え、思ったよりアジの重みが

つかんで手繰り上げる手に糸を食い込ませて、激痛が走ります。

おかしい、思ったより何だか重たい、これは6キロどころじゃないな、

などと考えながら、何度か持ち替えて防波堤へ上げ、老成したカスミアジと

確認して、慌ててリリースしに浅瀬へ走りましたが、虫の息。

とうとう、元気に磯へは帰って行きませんでした。

これまでにない後悔、これまでにない心の痛み。

どうして釣ってしまったんだろう、どうして殺してしまったんだろうと

ずいぶん頭が混乱しています。

本来なら釣らなくてもいい魚、食べたってさほど美味しいサイズではない

なのになぜ?どうして掛けてしまったんだろう、命をもてあそぶように。

思ったより大きかったため、処置が遅れてしまい、記念撮影も

計量もせずに走ったのですが時既に遅かった。

ここまで立派に育ったアジを殺してしまうとは、何たる事。

これまで見たカスミアジの中ではダントツに大きく、苦労してきたのか

ヒレが擦れて短くなっています。

「ごめん」と謝ったところで始まらないけれど、手を合わせて

それから目の後ろにトドメを刺してやりました。

こうなっては美味しく食べてやるしかない..........そう思ってバイクに乗せ

とりあえず、またカッポレ狙いに戻ります。

これくらいなら十分何人かで食べきれるし、カッポレなら冷凍して

お持ち帰りも可能なので、今釣っておくしかないと思ったのです。

けれど案の定、朝日が昇ってきて納竿。

海釣りは始めてといいつつ、器用に餌を使わずサビキだけで

キントキダイの子供やカンモンハタを釣っているオバサンとひとしきり話し

それからウロコをとって腹を割き、宿へ帰ったのでした。

一応計量した結果、これまでにない大きなカスミアジで

全長85センチ、重量8.4キログラムもありました。

カスミアジは通常6キロでも立派な方で、1メートルにはなるようですが

このサイズもナカナカ今ではお目にかかれないサイズです。

腹にはわずかながら卵が入っており、水温が低いせいか、もう少し産卵が

先になっているようです。

朝日に照らされる背中には、誇り高いブルーのラインが入っており

まだ力強く輝いています。

この魚をカスミアジといいますが、もう少しましな名前で呼んでやりたい

今回不思議とそう思いました。

 

宿に帰ってすぐさまさばきにかかって、1時間ほどですべて終了、

包丁研ぎから、まな板洗浄、骨埋めまで割合手際よくできた気がします。

宿のオバサンは流石島の人、さばいた魚を見るや、

「これ8キロじゃないんじゃない、もう少し大きくない?」といい

「実は8.4キロなんです」というと「やっぱり、すごいでしょ」などと

僕の複雑な気分とは別に、明るく笑っています。

さっそく、昨日の便でやってきた八丈の夫婦に出してもらい

硬直前のカスミアジを味わっていただきました。

魚の身がイカル(硬直してこわばる)前なので、プリプリして

身自体もパサつかず、プリッとして腰のある刺し身にびっくり!

これまで、大東でも硬直前というのは食べた事がなかったのですが

老成していても、硬直前がこんなに美味しいとは思いませんでした。

身のプリプリ感と舌触りはそう、生きたイセエビに似ています。

もちろん、イセエビX5くらいありますけどね。

食べている最中に身がだんだんと水を出し始め、硬直していき

やっぱりバサッとして舌にざらつく感じへと変わっていったので

やっぱり硬直前は特別な味のようです。

釣れたばかりの特別美味しい状態のカスミアジを食べて、八丈の永山夫妻は

宿のオジサンの駆る軽バンで半日島内観光へ出かけていきました。

八丈のお魚ほどではないのに嬉しそうに食べて「運が良かった」といい

お礼を言ってくれましたから、このカスミアジをもって帰れた事が

すべて悪いわけではなかったのですが、やり様はないのか、なぜ掛けたのかが

自分の心の中でわだかまりとなって、その渦が広がっています。

 

大きな魚を釣るたびに、このやりきれない気持ちが膨らむこのごろ

すこし釣りと距離を置いた方がいいのでしょうか。

竿が少し短くなっただけで、これほど大物が上げやすくなってしまい

足場が比較的安定している事もあって、いとも簡単に釣れてしまう。

まあ、これは小笠原だからだと思いますが、やっぱり本土でもっと工夫して

いろいろと悩みながらルアー釣りを続けることも必要なのでしょうか?

それとも、やっぱりしばらく釣りを休んだ方がいいのかもしれない。

この十年のほとんどを釣りばかりして生活してきたので

それ以外の事は頓着せず、きっと失った事が沢山あったはずです。

そろそろ、他の事にも目を向ける時期なのかもしれません。

 

とはいうものの、まだ休みが終わったわけではないので

今日のカスミアジでボロボロになったルアーを補修して仕掛けも作り直し

明日の朝、最後の釣戦をします。

カッポレか、アカマスかが来てくれるととても良いのですが

明日はもう、今日のような後悔などしない、美味しい魚だけを見つめて

釣りをしようと、手後れ気味に決心しています。

あと1日半、小笠原での長いようで短い3週間いろいろあったけど

それでもまだ、最後にもう一匹だけ美味しい魚が釣りたい。

この三週間で魚をさばく腕も上がり、多くの?お魚も味わう事ができました。

ありがとう、母島、ありがとう太平洋、もう一匹だけ願いをかなえて。

33歳、節目のとし、ちょっとだけ誕生祝の前借りをさせてください、と

誰ともなく、大自然に向かって祈るのでした。


ではまた