お待たせしました、33歳を目前にひかえ、ようやく自己記録を更新

漁港の朝には
カンパチが良く似合う

(例によって前振りは長いですから、あしからず)


いやはや、とんだ朝になりました。

ミノーにも普通のポッパーにも反応が出ず、漁船の出動まで30分を切り

「じゃあ、試しに一番信頼してないのを投げようかな」などと

とてつもなく魚とは遠いイメージのペンシルポッパーを軽くキャスト。

(鉛筆みたいに細長い形で水面を波立たせるのがペンシルポッパー)

バサバサと水面にお尻を付けたり跳ねたりしながら、お魚が慌てて

水面を飛び出して跳ねながら逃げる、究極的逃避行動を年中演出するのが

この手のルアーなのですが、どうも今一つ食った事がない。

でも、今回は「小笠原だし.......」ということで、3本も購入していて

使わないと後悔する状態だったのです。

でも、その開き直り的な選択は見事に的中して、漁港の朝の静寂を

突然に破る事となってしまった。

 

沖合いから何かが追尾してきて、岸から10メートルくらいの所で

「ボシュっ」と水面を割って食いつきかけて、いきおい足元へ来ます。

見ると90センチはあろうかという、ヒレナガカンパチ!

視力がよろしいのかどうか、一発で見抜けました、というのも

大型アジ類は、ターンする時に全身のヒレを全開にするので形が一目瞭然

特長さえつかんでおけば、フォルムと色と形で魚種が分かるわけ。

で、例によって全速力でターンして沖へ帰っていくのを見て

もう一度沖へフルキャスト!30メートルくらい沖合いで水柱が

「バシャッ、ゴボッ」とたち、その後5メートルおきにガバッ、ガバッと

襲いかかるけれど、どうも気まぐれに動くルアーに食い切れないみたい。

(口もそれほど大きくないし........)

「じゃあ、ちょっとユックリにしよっと」と気軽に沖へ投げて引き直し。

そうすると何度かの水柱の後、手前15メートルほどの所で

「ボゴッ、バシャッ、バタッ」と水面をたたくように水中へ。

「お?水面にルアーがない.......」と思って竿をあおるとギュイッと

重さが伝わってきました!「乗った!」3回ほど竿をシャクッて

合わせ(鈎掛かりさせる)をするやいなや、「ギュウウウウウッ」と

竿といわずリールといわず引きずられだして、糸が重々しく引き出されます。

この時、新しい中物専用の非力な竿?のためか、あきらめというか

開き直りのせいで、冷静に時計を見ると、4時50分チョット前くらい。

いつもはこんな余裕はありませんが、不安定ながら頑丈なテトラポットの

上という事と、右の浅瀬以外は「根」(魚が逃げ込む障害物)がないため

直感的に腹が決まったみたい。

 

ゆうに50メートルは走ったでしょうか、ほんの少し止まるので

こちらも、テンションをあまり変えない様にして少しづつ巻きます。

一機に竿をあおって倒し、そのあまった糸を素早く巻き取るのが

一般的な巻き方ですが、これは船用の殿様ファイトで、巻き取る時ガクンと

衝撃を与えながらテンションに変化を出してしまうと、魚が走ってしまう。

カッコはよろしくないけど、倒されて耐えている竿を1メートルづつ立てて

ほんの少しテンションを弱めて、元の耐えていた位置まで巻き取ります。

少しづつ何回か巻いて岸に近づくと、大海原のお魚ゆえに、焦ってまた走る。

右へ走り、向きを変えて渾身の力で左へ走る、魚のパワーが不思議に

やんわりと身体に伝わってきます。これが、ハイテクラインでなはい

普通のナイロンラインのすごい所で、伸び縮みしながらある程度パワーを

吸収しているみたい。でも、今回はセール品で細めの道糸6号。

メーター級のお魚にスレスレ耐える強度の糸を使っているので無理は禁物。

寄ってきた時に一瞬見えたのは、掛かっている魚以外にも何匹か後ろに

付いてきているわけで、メーターに近い黒い影がいくつも追うのを見て

ちょっと背筋が寒くなりました。

カンパチの習性で、一匹を引き付けておくと群れがとどまってしまう

つまり、仲間思いというか集団心理というか、そういう癖があるのです。

だいぶ手前に寄せた時、一機に右の浅瀬へと走り出し、これは入るか?

と思ったら、想像通りに自分からUターン、そう、僕と同じで

閉所恐怖症のお魚だったんです。「やっぱり!」と思った時に

少し勇気が湧いてきました。「これは寄せられる!!!」

疲れてきたアジ類独特の重い泳ぎに変わってきました。

ゆっくりと隙を狙いながら、沖へ向かってテンションをかけて泳ぐので

竿はグイン、グインと一秒づつリズムを刻んで微妙に倒れては起きる。

こちらも落ち着いてきて、お腹に当てた竿尻が痛いので、お股に切り替え。

隙を見せたつもりはなくても、岸に近づいてテトラポットを目撃して

危機を感じるのか、何度か走ったのち、とうとう水面へ近づいてきました。

どうやら、メーター近くありそう。今までのお魚よりは多少大きい!

実は、何日か前に同じ漁港の突端で、餌釣りのオジサンが、ヒラマサをかけ

テトラに潜られてはと自ら海へ飛び込んで大物を仕留めた!

という話を聞いていたけれど、

一昨年の秋の伊豆大島ブチ切り事件のカンパチ(本カンパチ)も根を「すり抜け」て

糸を切っていった事があり、しかも、大洋育ちで閉所恐怖症の性格なので、

逃げ道のない暗くて狭いスキマになぞ、チョロチョロ逃げ込むような

小さいスケールの魚種ではない! と確信していたのです。

 

「このまま寄せても大丈夫」そう信じてジワジワと間合いを詰めていくと

案の定まだ、力が少し残っているので、ギュウウウウっと10メートルくらい

走って、また寄ってきます。やっぱり!沖へしか走らない!

ようやく観念したというか、力を使い果たしたカンパチが波に身体をまかせ

すっかりテトラ際の波を寝床の様にして漂う姿があったのです。

 

さて、これからが問題。大物用に用意していたとは言え、磯上物用の

玉の柄(磯釣りのタモ網用の長い振り出し式「柄」)なので、せいぜい

10キロ程度までしか持ちそうにない、けど、背中にはこれしかない。

おもむろにスイーっと伸ばしてみると、これまでになくチャンと伸びる。

何度か、先に付けたギャフ(大きな引っかけ)が回転して失敗した後

胸ビレの後ろ辺りに掛かって、ズッシリと重さが伝わってくると

今度は波まかせになった魚体がズモモーンとテトラの下へ回り込んでいく!

魚体が岸と平行になっているので波をモロに受けて、玉の柄の先が

「ギリリリリッ」とコンクリートのテトラに当たって折れそうになるけど

忍の一字しかない。強いとは言え、先端の太さは男性の小指ほど。

何とか出てきた所を渾身の力で持ち上げるけど、なかなか上がらないし

持たなかったらどうなるんだろう???とチョッピリ臆病な長男魂が

回復してきてもいます。水面から2メートルを引き上げて、足元のテトラへ。

つまり、テトラポットの丸い部分に曲がって乗っているわけ。

時計を見ると、4時56分ごろ。格闘した割りにすごい短いファイトタイム。

 

堤防までは3メートル、高低差2メートルといった所だけど、荒目のテトラと

なんとも微妙な所にギャフが掛かって、魚がブラリと横になるので歩きにくい。

さりとて、暴れるかもしれず、掛け直しなんてこともできない。

考えながらも、竿が付いてこない様に、仕掛けを切り、後はギャフだのみ。

幸いな事に、足元のカンパチは、もう力を使い果たしたのか暴れないので

こちらも少し休むけれど、こういう魚は苦しみがある一線を超えた時に

バタバタとモガキ出すので、ノンビリもしてられず、思い切って

ヨタヨタとテトラを登頂!、そして、安定した堤防上へ。

そう、登頂と書いたのは他でもない、この堤防上は、下の歩けるところまで

3メートルはあって、ここを今度は玉の柄を滑らせながら、ズリズリと

カッコウ悪い及び腰でおろすわけ。ようやく下へおろし、自分もおりて

眺めていると、毎朝僕より早めに来てるオジサンが過て切った仕掛けを

回収しに、別の突堤からやってきており、第一発見者となったのでした。

「こんなのが、タマにはおるもんだねぇ」のひとこと。

そんな言葉は耳を通り抜け、冷静に見るとケッコウでかい!!!

乱れた呼吸に震える手でメジャーを当てると........ヒャクニジュッセンチ?

全長123センチ!

(尾ヒレの切れ込みまでの長さ、「叉長」が114センチ)

どおりで重いはずだぁぁぁぁっ!!!

フィールドでは良くあるんですが、水中だからより小さく見るんですけど

それ以上に透明度のせいか?魚がチッチャク感じるんですよ。

まあ、大自然の中では人間もカンパチも小さな存在ということでしょうか?

これまでの魚と違い、あの大型リール「ステラ」が小さく見える。

おっかなびっくり追いついて食べたのか、後ろの鈎だけ食ってる。

外してみて、こっちがビックリ!!!

「スプリットリングが伸びてるぅ!!! アブねーっ!」

ちょ、長男の緻密な思考によるベストバランスを追求したはずで

わざわざ交換したステンレスリングがぁぁぁぁぁぁぁ。

へたな針金細工みたい。

「釣りは運です」

そして勘です、そして根(こん)です、そして仕掛けです、最後に技です。

弱いと思われたセール糸は伸びたかもしれないけど大丈夫、良く耐えた!

でも、竿と糸でショックを吸収しきれないアゴの力を受けるリング

そこには長男の計算をはるかに超えた力が掛かっていたのです。

宿の人が起床するまで、一通り撮影を終えて、ぼんやりと

港の岸壁沿いに泳ぐ大きなアバサー汁の材料(ハリセンボン)を

おぼろげに「食べないなー」と思いつつ、見つめながらも

「どおやってもって帰ろうかなぁぁぁ」と独り言。

原付にもヒケをとらない大きさ! 卑怯長物アオヤガラ以来だっ!!!

で結局、大東特製玉ねぎ袋に頭を突っ込んでバイクに乗せ

地面をすってしまう尻尾を爪先で持ち上げながら、ヨロヨロと宿へ。

途中、集落で気づいて驚く人の顔がチラホラ。

もう六時、東にあるこの島の朝は早いんです。

 

案の定、宿に戻ると腰を悪くしている宿の主人と奥さんが起きており

最初はちょっと「そんなに大きくはないんでしょ」的に反応。

で、実物を見て納得したみたいですが、やっぱりさばくのはお客。

自慢するために起こしてきた「海老名オジサン」ことサイトウさんが

「おれ、昔、築地の河岸にいたからさぁ、おれがやったるわ!」

と、渡りに船!!!なんてラッキー。

切れない包丁を僕が研いで、サイトウさんがさばく。

ものの1時間ほどで解体終了。

離島だからと水もほとんど使わず、手際よい作業に感激でした。

「おれも、こんなでかい魚をさばくのは初めてだ」といいつつ

力強くさばく姿がとても印象に残っています。

アラは食べきれないので畑に埋めて、ようやく朝食。

二人で顔を見合わせ「やっぱり南のカンパチはだめだな」

「刺し身はむりですよね」と話が弾む.........。

そう、マズイの。大味というか、バサバサしてるっていうか

脂はある程度はあっても乗りきってなくてイマ三つ(今一つX3)という感じ。

中物師のカンパチロマンが伊豆諸島へと逆戻りしていくのを感じます。

(ごく一部の部品で皿は40センチあります)

こうして、大型魚を目の前でさばききり、コツを伝授してくれた彼は

もう今日の午後、父島へと渡って行きました。

もちろん、次の宿へのお土産のカンパチを持って。

「本当に、ありがとうございました、サイトウさん」

多分、この思いは一生のものであると思います。

白い顔に赤く日焼けして剥けたその顔が日本猿に似て逞しくも愉快なオジサン

人の巡り合わせとは面白い物です。

さばくのが優先したので、重量は測りませんでしたが

持った感じでは20キロちかく有りそうな感じでした。(子持ち)

(カメラポーズが大変だった事、大変だった事.......)

 

とうとう、メーターを超えてしまった自己記録

しかも、非力にした仕掛けによって更新されてしまった。

この先どこまでが中物師に許されるやら........。

どうするんだ?わざわざ作ってきた小笠原専用の「銀柳」は???

 

そんなこととは関係なく、水平線には朝霧がたちこめ

小笠原母島、沖港(沖漁港)の外堤には中物師の手に余る自然が

ゆったりと時を刻んでいるようです。

 

「でも、今度カンパチがきたらリリースだな、不味いし......」

長男のフィッシングスピリットには決して味覚は欠かせないのです。


ではまた。