夕焼けが心にしみる6日目


暗いうちからコッソリ出かけても潮が動きにくい潮回りは

昨日より進んでいるので

最後の朝といっても、もうジタバタしない。

 

7時過ぎに起きてシャワーを浴びて、ゆっくりとした朝を過ごしながら

タオルを肩に近くのコート盛りという昔の狼煙台にのぼる。

 

朝の風はやや弱い気がするけれど

どうやら北よりの風が吹いている。

 

コート盛りの回りには高い木が茂っていて

ここへなぜかカラスが集まってくる。

朝からカラスとは縁起がよろしからざる始まりであるが

沖縄だから気にしない。

 

それにしてもこの島のカラスは気が強くて

磯にいても、ここコート盛りでも鳴きまくったり

近くを飛び回ったりして威嚇(いかく)してくるのが楽しい。

 

いい加減カラスと遊んだら朝食に戻る

運が悪いとまだ出来てないけど

それでもまあ気にしないのが波照間風だとようやく悟った。

 

朝食を食べる時はどうもおヒツのご飯が無くなり気味で

欠かすべからざる日課の三膳飯も

毎朝のなぜか申し訳ない気分までが日課となっている。

 

本日はアンデス浮浪者男と小笠原放浪男が去る。

朝食の時、ことのほかゆっくりと話をして

お茶も何杯も飲む。

お話をするために飲むのではなくて

毎朝何杯もお茶を飲むことも大切で

飲んでおかないと磯で脱水症状に見舞われてしまうのだ。

 

そこに本日はお話が付いたのである。

 

彼の地元の話やサラリーマン生活の話しをした気がするけど

今となっては全然覚えがないが、浮浪者風の顔は

好むと好まざるとに関わらずハッキリと覚えており

我が身ながら訳の分からん記憶力である。

 

思わぬ長話になって周りの食卓がスッカリ片付いたころに

打ち止めにして、準備を整える。

歩いて数分の別館へ最後のバイクを借りに行くと

あいも変らずいつもの台詞

「何時間借りられますかぁ」である。

当然

「いちんち」と無駄無く答えると

「4000円でぇす」とくるから

「はいはいー」と財布からお札を出すのである。

「行ってラッシャーい」となって

「行ってきまぁぁす」で締めくくるのが日課となった。

もうしばらく、この会話はできないことになる。

 

やっぱり芸もなく高那崎を目指す。

山田商店のおばちゃんも牧場の黒牛さんも

草っパラの山羊さんも元気元気。

太陽もまぶしい。

 

今日も暑そうだけど雲の位置や形を見極めておかないと

スコールがやってくることになる。

 

スコールの前は風も強くなるので

風に気を配っていればズイブンと高確率で察知できるわけで

しかしながら風の場合、察知できたらいとまがないから

急いで片づけなくてはイケナイ事が多い。

 

さて最後の一日のキャスト開始!

ポッパーも良く飛ぶ。

安いポッパーなので自分の針で傷つきボロボロになってきて

お魚には影響ないからと気になってもそのまんま。

 

もう一本の長竿をセットしてミノーも投げる。

ミノーにはヨクヨク見ると青い40センチくらいのお魚が

まとわりついてくるのが見える。

良くあるのは青いナンヨウブダイ系や大きなベラ系のお魚が

ルアーにタックルしたりついてきたりしてしまう。

珍しいのか、同類のテリトリー侵犯と思うのか

それとも鱗をカジリ取るつもりなのか

ともかく足元まで追ってきている。

 

けれど、肝心のフィッシュイーターの姿はない。

 

昼過ぎまでヒタスラ投げ続けて

根性を見せたけれど、海は応えてはくれなかった。

 

昼飯がわりのオリオンビール500ccを買いに行こうとすると

みのる荘の若旦那と安栄のスタッフの服を着た従業員が

たむろしている現場に遭遇。

通り過ぎようとすると「釣れました?」と聞かれ

「全然ですわぁ」と答えると最南端下も釣れるという。

「さ、サイナンタンシタ?」

そう、そうだ最南端の下は行ってなかった!

ちょっと釣り座が不安定そうなのと

潮が乗ってくるので眼中になかったし

釣場がすごく狭いのである。

 

しかし、地元の推薦とあれば行かないわけにはいかない。

 

本日は幸いにして北よりの風になっているし

仕掛けを見直しながら栄養源のオリオンを飲み干し

少しお昼寝することに。

最後の日でもお昼寝はリゾートの釣りには欠かせない。

再チャレのために仕掛けを見直してトットとお昼寝し、

トットと起きて早めの夕方釣行。

 

釣場へ向かう黒牛さん山羊さんも目に入らない。

この何日かのチャレンジが走馬灯のように浮かぶ。

「間違ってなかったよな.........俺の釣方って」と

どこかでつぶやいていた。

 

黒牛さん、山羊さんが目に入らなかったのは

実はルートが違って最南端行き最短ルートをたどったせいでもあった......。

 

たくさんの碑が林立するところにデーンとバイクを置いて

最南端を降りていく。

波の音が聞こえる、岩の上にあがるしぶきが見えて

すこし波が上がってきているけど、問題ないレベル。

 

右はすぐに浅瀬が広がっていて

目の前にはカウンター上の段があって

引き潮のときはここでやれるのだろう。

時折潮がかぶってくるので避けながらの釣りを始める。

 

まずはミノー。

波が高めなのでポッパーのアクションが安定しないからで

ミノーは少し風で飛びにくい。

 

しばらくあちこち投げたけれど反応がないので

今度は浅瀬側へポッパー。

 

何をやっても全くアタリがでない。

 

こうなると一番やりたい釣りになるので

今回のテーマであった、蛍光イエローのミノーが食うのか?

という原点に立ちかえって、ひたすらミノーを投げる。

 

足場がちょっと気になる高場からキャストをし

ゆっくりとリーリングしてくる。

南国では速引きで食わせるのがメソッドといわれるが

そんなしんどい事ばかりはやってられないし

この際ゆっくりの方が食いそうな気がしていた。

 

すると

んっ

重みが伝わったかと思うとギュギュギューンと引きだした。

ドラグも出始める。

初めてこの竿(風刃)で味わった大物の引き!

しかし、スタンスが狭くしか踏ん張れない地形で

引きにとても耐え切れない。

思い切って竿を担いで磯を上り始めたとき

 

ふっ

 

軽くなった.........。

水面に泳ぎ出した黄色いミノーが見えていたのである。

おかしい、あれだけの引きで水面下を泳いでいるとは

それもフッキングしないでドラグを引きずり出すとは!?

 

カメ?

 

ルアーを巻き上げてシゲシゲと眺めると、案の定というか

お約束のような歯形、それも

釘で刺したような後がボツボツと彫り込まれている。

バラクーダか、オオカマスの仕業だろう。

オーマチ(アオチビキ)ならもっと牙が少ない。

こういう圧力というか歯形計としてのウッドルアーの意義は大きい。

割れないし深さで力の程がうかがい知れ

わかんなかったら噛んでみると魚の実力というか気持ちが判るのだ。

「味がない......けど.......イイ硬さかも........」

磯に居るときは人目をはばかってコッソリと味わわないと

怪しさもヒトシオである。

(良い子は鈎ごと口に入れないようにしましょう、結構痛いですし、カドミウムも危険です)

 

それはさて置き

オオカマスなら美味しい白身だったものを.......。

 

こうして波照間最大最後のアタリは去り

そのあとは静かに夕暮れが訪れるだけであった。

美しい、悲しいほど美しい海と夕暮れ。

 

「勝ォ負ありっ.....だな

これが初公開?定番の釣りを終える掛け声である。

 

疲れた。

 

本当にやるだけやった。

 

道具のテストも十分終わった。

 

釣果は全くなくて小魚一匹かからなかった。

 

正真正銘、完全無欠、まごうことなきボーズが決まった。

スズキ釣り時代の得意技が戻ってきた気がして

ちょっとムズガユイ笑いを浮かべて

夕闇せまる南の果ての磯に立ち尽くすのであった。

 

しかし、このときまだ

失敗など気付いていない、またしてもヤッチャッタことなど。