釣りどころじゃない4日目


本日こそ予約しておいたバイクがあることを祈りつつ

夜明け前の真っ暗な道をみのる荘旧館へ向かう。

歩いて2分の工程が一抹の不安で彩られ

要らぬ想像の交錯する長い道程に感じながら

いよいよみのる荘前に来た.......。

 

果たしてそこにはバイクが存在した。

遂に僕の思いが通じたのだ

常識的なことも努力しなくてはイケナイ、これもまた島情緒である。

 

満足感にどっぷりと浸りながら

朝の涼しい集落を抜けて磯へ急行すると思い通りのシケ。

 

せっかくだから夜明けを待って

シケでも出来る場所をじっと見つめて探し出す。

半時間も見ているとどこに潮が乗らないのかおおむね見当が付く。

ただし、だからといって乗らない保証にはならないけれど

それ以降は勘と賭けであり、これが磯釣りの醍醐味でもある。

失敗すると走馬灯を見られることでもあるし........。

 

一個所だけ波がよけている場所がある。

潮流なのか波の方向なのか

ヨタヨタと複雑な波が立つのがここ高那崎の特徴。

そのなかで一個所波が乗らない磯があるのを発見したのだ。

ただ高い磯でもダメでこういうところを見出すことも楽しみの一つ。

 

感心してないでさっさ高台から降り、竿をセットしキャストし始めると

目の前の水面が盛り上がり足元をかすめて右へと砕けて行く。

かぶらないけどかなりオトロシイ心持ちで緊張感がうれしいポイントだ。

 

しばらく投げていたらどうにも満ち潮で恐ろしすぎるのと

っぷーんと一発来たので納竿。

以上を持って午前の磯の部は終了。

 

昨日やってきた一人旅の女性衆が一致団結して

海水浴に行くらしく、今朝の朝食でそれとなく顔見知りになったせいか

午後のひとときのお昼寝タイムに海水浴を、かなり念入りに誘われた。

珍しい、実に珍しい事態であるが

ここまで誘われたら行くしかないし、

夢のビーチでの初泳ぎが女性付きというのも記念としては実によろしい。

 

女性陣は先にお食事に行くとのことで

こちらはゆっくりと釣り具の手入れをしてから行くことに。

ザブンと来たからアドベンチャーサンダルも

洗って乾さないと気色悪い。

沖縄の磯釣りはスパイクよりこれに限るわけだけれど

ナカナカこれが乾かなくて苦労する。

今回も夕方のスコールでだいぶ湿ったことが多く

晴れていても油断は怠ってはならないのだ。

 

おもむろに浜へ行くと、まだお食事中なのか来ていない

居ようと居まいと、この美しいビーチで泳がなければ罪に近いと思い

泳ぎ始めると、これがまた美しいコバンアジやらカスミアジが

すぐ近くまでくるし、派手なハギがそこここでお食事中。

少し沖合いにあるコンクリートの波止モドキの周辺には

熱帯魚の小魚が群れていて、コバルトスズメなんかもおり

南海風情にことかかない。

こんなの大東では絶対見られない海であり

リゾート気分が一際感じられる至福のひとときである。

(水の中から空を見るのも気持ちいい)

しかしながらシュノーケルを借りてくるのをサボったので

下を見とれていると苦しくてたまらないし

撮影で足ひれも無しに魚を追いかけるとかなり苦しい。

リゾートビーチにシュノーケルは必需品である。

 

しばらく夢中で泳ぎヘロヘロで浜へあがり

大の字で寝そべって、まぶしい空を見上げると

沖縄ツアーのCM気分が込み上げてくる。

「これが普通の沖縄なんだなぁ」

とシミジミしてしまう。

 

シミジミとは別にジワジワと体が焼かれていく

日陰が欲しいので屋根のある休憩所へと向かうと

ちょうど女性陣が到着。

一休みしていると、なんだか人が集まりだした。

女性の一人旅同士とはやたらに友達が作りやすいらしく

自転車で島を一周している間に知り合った人たちだとか。

 

まあ、こちらにしてみればまぶしい浜辺に

まぶしい水着姿が沢山見れて思わぬ嬉しい収穫。

念入りに誘ってくれた女性は関西の伏見(淀競馬場がある)在住で

もう一人は千葉県の我孫子から来たそうだ。

実はこの二人は夜通し飲むほど酒好きで人は見掛けによらない。

 

笑顔がきれいでツーショットしてしまった女性は

東北から来たそうであるが、奥手な自分がうらめしい限り。

 

極楽リゾート男風なのは久米島でホテルマンをしていたらしく

しばらくは旅をたのしむそうである。

 

リュックの女性は八重山を自転車でこぎ回りたいそうで

あちこちこぎまくってはテントを張るらしい。

 

世の中いろいろである。

 

おおむねこの人たちは八重山列島スタンプラリー旅が目的らしく

次の日は黒島、その次は小浜島など

一日づつあわただしく移動なのだそうである。

歳のせいか?このような、せからしか旅は出来ない性分で

リゾートを次々めぐる旅と聞くだけで痛ましい気持ちになるのは

なぜだろうか。

旅の仕方もさまざまである。

 

ん?そういえば、僕は旅ではなく釣りをしているだけだった。

  

力いっぱい泳いだ後

我孫子の女性が先に帰るのでお見送りして

三々五々お昼ねや自転車こぎ、暇つぶしなどに散って行く。

例の惜しいツーショットの女性からは

「夕方までヒマぁ〜ぁ?」と聞かれて

つい、「本業の釣りにもどるわぁ」などと言ってしまった。

帰りのバイクで誘ってたのかなぁと、しまった事に気づいたけれど

後の祭りである。

 

シャワーを浴びて支度を整え日課の港での釣りだ。

先ほどの失敗など忘れて、もうジグのキャストに専念している。

 

一度目はすぐにバレたけれど、二度目のヒットは

足元まで寄せた、もう一息で姿が見えるという瞬間

ポロリとバレテしまった.........。

ジグはこれがあるから怖い。

引きからするとカスミアジの40センチ弱クラスと思うけれど

ひょっとしたらカマスかもしれず、

姿が見られないのは、しこたまハガユイものである。

これをもって本日の釣りは終了となってしまった。

 

いつになく女性とお魚を逃がし

チョッピリ悔しい気分を噛み締めて、

星の見え始めた夕暮れに急かされて

空を見上げながら帰路についた。

 

これまた日課の夕暮れのシャワーを浴びて

食事に行くと、本日はいきなり仲良くなった

女性陣の明るい声が響き渡る食卓である。

黒くて筋骨たくましい割に、ヤケに人の良さそうな男がいて

聞くと小笠原から職を求めて来たらしい。

小笠原では漁業関係のお手伝いをして暮らしていたそうで

住みよい島を探して放浪生活をしているそうである。

 

実の所、僕とて釣りをしながら理想の島生活をもとめて

何気なく旅を続けているけれど

最近分かってきたことがある。

 

考えるに、住みよい島なんてありはしないのだ。

自然こそ美しいが、島の生活は苦しく

また狭い世間での癖のある人間関係はどこも同じ

加えて異常な水温にも見舞われて日本中どこも海がおかしい。

やりたいことがハッキリしているか

それ以上に島や海が好きであるということしか

切り札はないようなのだ。

他には男の場合、カミサンの実家があるというのもありだ。

 

どちらにせよ理想の島などない

自分で理想の島にするしかないのである。

 

旅行者よりは住み込んだほうが島の本来の表情に触れられる。

しかし、分かれば分かるほどドロドロとしてくるもので

美しい姿の裏に、厳しい自然と厳しい現実、人間関係があるのだ。

 

住みたい島ナンバーワンの伊豆七島は三宅島とても

肝心の真冬、1月から3月はシケすぎて

全く釣りにならない日々が続くし

肝心の土日も東京からの客で磯は込み合うときもある。

 

とかくこの世はウマクいかないものなのだ。

 

ともあれ、島を放浪する生活など

キモッタマが小さく、神経質な長男の僕には

到底できないハナレ技であるから、本当は大した男なのだ。

 

明るい夕食はあちこちの島の話題や

自分の住んでいる土地の遠さにお気軽な知名度争いで

にぎやか至極である。

 

実は浜に行った女性陣は二人とも僕の隣と更にその隣に泊まっていて

隣などは薄い扉一枚で仕切られたの向こう側で

ちょっぴりドキドキものであるのだが

その夜は泳いだこともあって

釣り具のお手入れをしてトットと寝てしまった。

(長男の部屋は沖縄風に片付いたたたずまいである)

この後寝入ってからも風が複雑で、雨が降っては止むという

窓の開け閉めが一際あわただしい夜は更けていったのである。

付けたら利きすぎる100円クーラーを使うには涼しすぎ

制御の難しい自然との戦いは昼夜となく続くのである。