上陸直後の一日目


船の中で振り回されること一時間ちょうど

様々な島々を通過して

おおかたの人が台湾と間違えてしまう西表島を見渡す港に到着。

途中何度か大波の衝撃に減速しながらもジェットコースターをつづけ

その割には全く酔った人がいないのは、一線を超えたせいかどうか。

島の港らしくない立派な待ち合い所があり

そこで立ち話するオヤジの傍らに

目指す「みのる荘」の文字があった。

しかし

僕の事は大して気にしていないので

名乗るとようやく「乗っていくか?」的に車に乗せてくれる。

どうなっとるの?この態度は???

後で聞いたが、この宿は対抗する安栄観光の

オフィシャルスタッフで、切符の販売も一手に行うのだそうで

したがって安栄以外の船で来る客は迎えに来ないそうだ!!!

なんて宿、なんてオヤジ!そんなこと旅行者が知る由もない。

旅人が適当にやってきてモウカルから

ソンナ事が言えるのである。

全く甘えたオヤジであった。

 

ちょっと釣り場について聞いてみたら、案の定

あそこの港の先っちょでやるといい、磯は危険だからと

やはり都会から来た人間には通り一遍である。

まあ、これはどこも同じで

海の関係者は往々にしてこのような反応をするから

まあ威張らせてやろうと心優しく思ったのである。

狭い世界に住む人にはありがちな現象だから仕方ない。

(右端に立っているのがみのる荘)

さて、そうして間もなく着いた「みのる荘」では

八畳くらいの玄関ロビーで従業員とも旅行者ともつかない連中が

だるそうに駄弁っていて、一見非常に感じが悪く

とても離島風情にあふれていて、これでよろしいのである。

おおかた何日か後には、これに加わってしまうことだろう。

しばらくすると、

話の分かりそうな可愛い女性がやってきて

宿帳への記入を促した後、部屋へ案内してくれる。

宿帳には日本全国から最南端を一度見ておきたいという人たちが

沢山訪れていることを物語る地名が羅列されていて

ただのヨレヨレ大学ノートだけど

そこいらのサイン帳より見ごたえがあるものだ。

 

この宿ではヘルパーさんという

バイトより安く住み込みで働く人を雇っている。

可愛い彼女は十日まえにやってきたばかりの東京の人だ。

ヘルパー制度は南の島で住みたい

働きたいという若者を狙ったもので

一日2000円で朝6時半から夜9時ごろまで色々なお手伝いなどを

やらされるわけだ。

あのオヤジにしては冴え渡るアイデアであり

これまた実に甘えた感じのシステムである。

くわえて、一日2000円では前向きに働く奴はいない。

のんびりと、なるだけ楽して済ませる姿勢が付きまとうのだ。

とはいえ、

オフシーズンに最果ての島でソンナに仕事もなく

宿と食事付きなら2000円は妥当である。

なぜなら

昼過ぎから夕方まで、かなり長めの昼休みまであるのだから

うらやましい限りの島生活とも言えるのだ。

シーズン中はただ働きも良いとこだ!、と

「もうすぐ大阪に帰れる......」と語ったヘルパー兄ちゃんは

僕に後日訴えていたけど。

 

さて、部屋へ行くと、狭い!

鍵がないのは仕方ないとして一番狭い部屋じゃないか!

しかし、大東の吉里会館が広すぎるとも言える。

小さな島に来て、細かいことを気にしてはイケナイ。

エアコンもコインクーラーというもので一時間で100円だ。

こんなの見たことない、宮古島にもなかった。

テレビは幸いにしてタダで見られるようで

狭い分、優遇されているラッキーさだった。

他の部屋はやっぱりコインテレビである。

傑作なのは世飢魔Uが宮古の泡盛「菊の露」の宣伝を

担当していたことである!正に世紀末的CMに笑いが込み上げてくる。

 

一泊二食5000円だが、クーラーにテレビ、そして洗濯機

全部100円で稼動する。

大東では全てタダだから、ちょっと抵抗感があるのだが

気にしてはいけない、気にしない......。

 

部屋に荷物をおいて、早速しまめぐりだ!

と思ったけどヤケにお腹が空いていて

沖縄では普通昼飯は抜くのがマイブームだけれど

我慢できずにお食事タイム。

旅行ガイドで見たのか、この島でのお食事ポイントは

限られているのでブラついても見つかりそうになく思って

ちょうど先程部屋へ案内してくれた彼女がやってきたので

さりげなく聞いてみると、星空荘の下で食べられると

教えてくれた。

 

行ってみると、やにわに「ソバしかありませんけど」という。

別のお店も見当たらないので、ソバをいただくしかない。

「じゃあ、ソバください」

待っていると、地元のおじさんが、そば三つ!と

表の戸をあけて叫んで行ってしまう。

「ほほぉ、人気じゃん、ここのソバ!」と思いつつ

心待ちにしていると出てきた。

宮古のソバに似ているが

これはのちに八重山ソバというのだと知ることになる。

通常、ソーキソバは出汁がらの豚バラが味付けされて

どどーんと面の上にトッピングされる。

この豚バラで丁寧にとった出汁がソーキというらしい。

しかし、八重山ソバは控えめに出汁がらが切り身的に載っている。

食べると結構うす味で、出汁まで薄めな気がする。

麺はノビノビで全体にぬるい。

まあ島では細かい事は気にしない、気にしない。

ただ、最後まで行くにはあまりに美味しくなく、込み上げてくる物を

入れる物で押し込む感じで、かなりの努力を必要とした。

気にしないんだ、気にしないようにするんだ.....。

でももう、星空荘の八重山ソバを食べる勇気は湧いてこなかった。