はたまた波照間

 


新天地への一日目


南大東島の友人に電話して

今回は浮気して南の果てへ行くことを告げ

むかった最南端の島。

 

季節外れの台風が吹き荒れたあげく、

友人には止められ、フライトも危うい。

それでも秋休みと飛行機の予約をとってしまった手前

行かなくちゃどうしようもなくて向かった新天地。

 

たまたま、本当に偶然台風は止んだ。

台湾の近くにいながらにして低気圧になったのであって

別にどこかへ行ってしまったわけでもなく

トランスオーシャンの飛行機は飛んでも

実はそこに低気圧の中心は居候であった。

 

でも、夏以来の忙しい日々をぬけて

ようやくやってきた贅沢な秋休み。

 

そう、久々に開けた宝箱のような感じ。

 

 

飛行機は朝一番、直前にとった予約でさえ

特割とやらで4割引。

朝一番に羽田空港に行くてだてはなくって

割り引いた分でタクシーを頼んでおくしかなかった。

 

タクシーは朝霞の静かな川崎の町並みを抜け

ひっそりとしてお祭りの後の様な感じのする

羽田空港へ着いた。

広いロビーに人がいないのがすごく新鮮。

しかしちょっと遠回りされてしまったせいか

料金を七千円近くとられてちょっと懐が寒い。

 

チェックインをすんなり済ませて

発着ロビーへ降りていく。

トランスオーシャンの石垣直行便は小さいらしく

ロビーへ横付けできるタイプとは違い

バスで飛行機へ向かうので下のロビーである。

 

改札はまだ係員もいない

六時になるとやってきて

キーを挿して様々な機械を起動させ始める。

その中には例のマイレージの登録端末もあり

起動するまでは店も開いてないし

出来ることといったら、川屋か自販機でコーヒーを

買ってあくびをするくらいのもの。

 

どやどやと集まってきたウチナーンチュらしい男たちが

早速開いた店から買って朝からビールを飲んでいる。

この人たちはこの後、フライト中ずーっと

観光バスのノリで飲み食いと

大声の会話とおトイレの往復を繰り返すのである。

 

色々な旅はあるが、この男達はたぶん

どこへ行くにも宴会が好きなのだろう。

 

僕はといえば準備に手間取って昨夜というか今朝は一時就寝

それで四時起きだから、まぶたが重い以前に

身体全体が重々しい。

 

飛行機ではゆっくり寝るつもりだったけれど

朝から飲む気にはなれなくて

大東島の友人の書いた本を出して

宴会の余興をよそに無理矢理おだかやな気分になる。

 

バスに乗り飛行機へ向かうと案の定小さい機体で

ボーイング737、130人くらい乗れる

ベテランとも言える機種である。

で乗客は49人

バスの係員の通信がそう語っていた。

  

宴会おやじ達にはまたとない環境でもあり

間隔をおいて席のある僕もゆっくりできる。

窓際を陣取ったその横の2席は空いているので

ごろ寝したい気分だけれど美人のスチュワーデスさんの手前

良い子にしていることに決めた。

 

思わぬ揺れが襲うのだけれど、これは飛行高度が低いから。

ジャンボではないので5000メートルくらいを

ひたすらに沖縄へ飛ぶのだ。

つまり、気流が穏やかならぬ雲の中を抜けるわけで

これが揺れの原因。

3時間あまり揺られ揺られて石垣へ着いた。

気温29度、東京の朝は10度そこそこだから、かなり暑い。

こういう旅は着る物が面倒である。

着て行ったトレーナーを脱いで腰に巻いて

タクシーを拾い港へ急行するさなか

運転手のおじさんが深刻に問う

「波照間海運ですか、安栄観光の船ですか」と。

「え?港が違うんですか?」と聞くと

手振りで左と右を指で差すそぶりをみせて

「ちょっと離れてますから」という。

港は一つと思っていたのにどうも違うらしい。

 

で、波照間海運でお願いすると

離島桟橋の向かいにある写真屋さんの前に車を着けて

この中で切符を売っているからと言う。

ちなみに空港から港までは810円だった。

石垣のワンメーターがとっても安くて助かる。

 

で、言われるままに切符を求めて

ヨクヨク通りの向こうから周囲を確かめると

安栄観光の切符売場が10メートルくらい左にある!

「ぜ、全然離れとらん......」

沖縄の人たちは大らかそうな誤解をしていたが

実のところは非常に神経質なくらい細かい心遣いだった。

この神経質な長男の心をも打つほどの細かさである。

感動はさておいて暑いさなか一時間ほど暇ができた。

荷物は日陰にほっといてそこらを歩き回る。

釣り具やもあって、見たこともない品揃え

港は緑色だが結構濁りが入っている。

昨日まで雨が降り続いていたにしては

たいして濁っていないといったほうがいいかも。

足元の排水口みたいなところにアイゴの稚魚が群れていて

ときおりそこへ突き刺すようにカスミアジの稚魚が横切る。

どちらも体調は7センチくらいまでで

食べたり食べられたりといったことはなくて

ただカスミアジのパトロール路線に

アイゴの群れがいるだけのようだ。

と、排水口のなかにヒラリとみえるのは藻ではなく

20センチ近いハナミノカサゴだった。

 

波照間海運のもち船は「ニューはてるま」といい

島まで50キロあまりを一時間で結ぶ高速船。

海上を50キロ以上で走るというのはかなりのもの。

台風明けのこの海だから一時間では着くまいなどと

なめていた僕はそのあと体験する

天然自然のジェットコースターを.........