2000年二度目の釣行は遠征だ......

(前編/激釣編)


年々寒くなっていく沖縄のゴールデンウィークへ

恒例と決め付けて突入してみたまではよかったけれど

イキナリ飛行機が欠航...

デハビランドカナダ8、ダッシュ100は強風にもつよいので

そうそう欠航はしないはずなのに

いかんせんこの日は地上からの視程(視界は広さ、視程は距離のこと)が

200メートルを切っていて、霧が深すぎた。

でもって、一度パスして旋回してみたものの駄目ということで

結局上空までいったのに引き返すハメに....。

航空会社にもよるかもしれないけれど、この場合の引き返しは無料、

自動的に明日の臨時便へと乗れる手はずになってるそうな。

けど、宿がない。

色々交渉した結果、松戸から来たK氏と共にふたりぼっちで

ホテルを予約してもらった。

琉球エアコミューターのサービスにはちょっと感激したものだ。

まあ、ほとんどが地元のひとの足だから、ホテルを予約、なんて客は

ほとんど居ないらしいはずが、それなりの段取りをしてくれたのには

担当者のばらつきのうち、良いほうにあたったみたいで

最初に僕が尋ねたオネーチャンは全くその気なしという感じで

勝手にすれば、といった風情が漂っていたのは言うまでもない。

が、たまたまK氏は当たりが良く非常に普通な対応の出来る

立派なオネーサマに行き当たったので、こちらも便乗したのである。

一応、はじめての那覇宿泊は無事宿がとれたのであった。

 

明くる日は更に霧が立ち込めていたけれど

昨日のように、状況によっては引き返します!が宣言されないまま

みなそれにはあえて触れず、こそこそと、今日は戻らなくて済みそうだと

内輪で話をしつつ、飛行機は飛び立った。

北大東へは無事着陸、天気が良い方向の曇り

けれども、南大東は雨....天気が悪い方向の曇りである。

たった7キロしか離れていないはずだけど、これが事実なので仕方がない。

 

こうして雨の中、欠航を食らって始まった大東の遠征は

釣りに関しても暗示的な結論を予感させるに十分な幕開けとなった。

 

●きょうがくのおじさん

昼の臨時便で到着した初日は雨の中の偵察に終わり、寒さのあまり撤退。

新品で600キロしか走っていない原付は快調そのもの。

でも20度に届かない気温で雨を受けて走るというのが

これほど寒いものとは思わなかった。

はじめての朝は飛行機から確認しておいた磯でシケを避けて釣り開始。

ちょっと離れた磯ではドッパーんと来る怒涛も、愛作切抜の磯だけは

全く静かというマジック的な釣り場だった。

しかし、風裏なので、漁師さんの船もやってきて、どうやらムロアジ釣りを

しているみたいだが、エンジン音をたてられたら魚は疎開してしまうのが普通だ。

今年のムロアジは鯖のようにでっかくて立派であるのはよろしいことだが

目の前で漁をしてもらってヨロシイかというと、それは別問題。

結局「もう駄目だな、かえろっか....」と言った矢先に

何物かが14センチのルアーに食いついた。

漁師の船を物ともせずにルアーを食う勇敢な魚、それは一体....

長いひげ、青い体、見たこともないオジサンであった。

(通所オジサンと呼ばれるタグイで本来のオジサンという種ではなく、マルクチヒメジらしい)

こいつは流石に不味そう極まりない姿、写真を撮って即座にリリースだ。

とはいえ、見た目には美しい色彩で、食欲とは全く関係のない

アーティスティックな色彩であるので、撮影はもっとしておけば良かったと思う。

ヒメジ類にしては1キロくらいあって、片手では握れないので

両手で持たなければならないほどのレッキとした中物だが、

こんなやつがルアーを食うものだなあと学んだし

おそらく、こんなものを食べては、奇妙なオジサンに捕まってしまうものだなあと

彼もしみじみ反省したに違いない。

オジサン同士、双方一両損で大岡サバキ的に共学した(ともに学んだ)のであった。

 

●高級魚の予感

さて、

今回は点数稼ぎ的な昼間のジギング(重いルアーで深場の小物を狙う)はやらず

とにかく磯を巡って状況を判断することに徹したのだが。

珍しく東側の磯に上がれるので、昨年開拓した実釣場(みのつりば)の左奥の

奥ミノ釣場(ごく個人的に命名)に上がったところが

今年はミノー(普通に水中を泳ぐルアー)には反応がない。

つまり、カスミアジがほとんど居ないのである。

しかし、小笠原で最も信頼の置けなかったペンシルポッパーだが

のちに人生最大の大物を呼んでしまったことのある

例のルアーを投げて、水面をばさつかせると

なんと大東の2番目の高級魚アカナ(バラフエダイ)が足元まで追跡してきた。

他の島では毒魚だが、この島ではその引き締まった白身で人気の魚。

近年その数は減り、最近は狙う人も居なくなったそうだが、今回はバラフエの

気配がとっても濃厚なのである。

しかし、結局食っちまったのはピョンピョン飛んでルアーを追ってじゃれ付いた

ロウニンアジなのであった。

何度もじゃれ付いてバシャバシャやっているうちに手応えが伝わって来たかと思うと

あの小笠原の1.2メートルのカンパチよりも数段引くじゃないか!

あのときは道糸6号、今回は8号だからテンションは強めになっているけれど

それ以上にこの馬力はなんだ!

いくらなんでもアノじゃれ付いていたサイズとは違うんじゃないか!?

と数十秒持ちこたえていたらイキナリ穏やかに泳ぎ出した。

すなわちスタがミナぎれたわけで、あっという間に大人しくなっていく。

引き寄せてみれば、なんと、最も力を出しやすい、背中に近いところへ

フックが掛かっているじゃないか!!!

じゃれ付いていたから仕方ないとは言え、相手の最も力の出る体制を

作ってしまったというか

自らトン走環境を構築したGT(ロウニンアジ、ジャイアントトレバリー)に完敗である。

ギャフが上手く使えず、仕方なく糸を手繰って上げてみると

やっぱり大した大きさじゃないわけだが、一応計測を怠らないのが長男だ。

(オジサンの時は余りの不味そうな姿に翻弄されて計測していなかったりもするが...)

ロウニンアジとしては2年半ぶりにして、記録更新の6.1キロ、77センチあった。

小さめとはいえ尻尾の下も欠け、写真とは反対側の面のえらにも切り欠きをもつ

死線をくぐり抜けたツワモノである。

今回は吉里会館へは持っていかず、大東そばの伊佐さんちへ持っていくことに決定。

調理に関しては、別の週へ譲るとして、結局今回、まともに食べれたのはこのお魚だけだった。

 

●推参、信頼の置けないルアーに超高級魚

その日は風向きが回ってきたので島を一周して見まわることにした。

途中、伊佐さんの知人で島切ってのコダワリ男であるS氏に発見されてしまい

職務質問のあと、暇だから釣り場まで行ってみるか、と何気なくポイントへ連行されてしまった。

ジーっとコダワリ男に見つめられて釣るのはやり辛いが、

ここはひとつ釣るくらいしかやることもないので、ルアーを投げつづけている。

S氏はやおら大きなタモ網を取り出して、トンボ捕りをはじめてしまった。

島切っての虫男である西山先生に献上するのだそうで

何とかアカネだとか、ホニャララトンボだとかぶつぶつ言いながら

シュッ、フワンと60センチのタモに捕虫網を張った特製のコダワリネットで

快調にトンボを捕りつつ、たまに見に来るが、釣れないので、じゃあと帰ってしまった。

やっと一人になった。

ここはモトヒラという磯らしく、非常に人の足が入っており、そこらじゅうにゴミが落ちている。

離島としての風情は全く台無しだが、とりあえず独りで釣れるので安心して没頭することに。

やがて投げてはタチドコロに引いてくるポッパーに身も心も疲れたので

これは断然信頼が置けないからと実験に持っていったトビウオ型のペンシルポッパーに換えて

ノッタリ、クネクネと死にかけたトビウオ情緒をかもし出して遊んでいると

ルアーの周りの海が突如、赤と金に変わった...。

そして、一度だけ、ゴボッと巨大な口が水面を割ったものの

その後はしばらくルアーの周りを回っていたものの何時しか海は青へと戻っていった。

高級魚にして数少ない10キロ級以上のバラフエが水面を染めたのだった。

「もう、これっきりだろうな...」とクネクネアクションに疲れたころ

ボワンと巨大な横綱的貫禄のお魚が、ルアーを一飲みに...

あまりのユッタリとして、はたまた堂々とした食いっぷりに唖然としていると

体を海へ引きずる力が伝わってきた!

その後は、糸の出を抑えようが竿をあおろうが、ただただ糸がズリズリ−ッと出て行くだけ。

やがては根にすれて道糸が切れていった。

おなかの所が一メートルを超えていた感じなので、どう見ても20キロでは収まらないサイズ。

いつかは出会う相手だろうとは思っていたけれど

日も高い11時前に磯から30メートルの場所に

堂々と出現するとは思ってもみず、しばらく手足の震えとは別に

自分の実力では、いや、並みの人間の力ではどうしようもないお魚への恐怖なのか

しばし呆然としているしかなかったのであった。

煮て良し刺身で良し、ほとんどアラユル料理で美味しい大東一の高級魚ミーバイ(ハタ)類は

人類最後の巨大釣り対象魚のヒトツで、馬鹿ヂカラと巨体の持ち主。

今回のは魚種までは判別不能だけど、ハタ類は最大で200キロを超え、ハリ掛かりした瞬間

ひたふるにフルパワーでもって住家へ帰ろうとする引きは、時に人では御せないとも言われている。

ああそれにしても、50号でも捕れそうにないのに、7号ラインじゃねえ...。

美味しいお魚だとはいっても、今後もあまり出会いたくない相手なのであった。

 

そんなこんなで最終日、夕暮れにようやく形の良いロウニンアジの追いがあったものの

ハリに掛かったのは60センチくらいの小さなオキザヨリ。

我が家で最強のロッドでは、なにかくっ付いているかな?程度にしか感じない。

振って落とそうとしたら、反対に下のハリにしっぽが引っかかってしまい

やむなく収容してハリを外してリリース。

本来なら生けバエ(延縄釣り)用の餌に最適だが、運の良いやつだ。

 

こんな釣りしかできんとは、断釣状態からの復帰にしてはあまりにも断腸の思いがつのる。

今回こそ点数稼ぎのジギングをしておけばよかったと夕日に向かって反省したが後の祭、

けれどもコダワリS氏のガーラ(ロウニンアジ)料理は逸品である。

その模様は次週の中編(人情編)へつづく。


ではまた