三京秘境

 


ところで、ほっくり系でなく、汁多め系の肉じゃがに

カレー粉を入れ一煮立ちさせて一晩置くと、

とても味わい深い和風カレーになる。

肉じゃがカレー、お袋の味の強引な再現であるから

お袋っぽいものを沢山とりいれると、強力になるだろう。

ルーでもいいだろうが、缶に入ったカレー粉と

食べる直前に片栗でトロミをつけると、大正風味のカレーになる。

それに、崩れてきたバレイショのトロミも大切にしたい。

バーチャンが作るカレーは、SBカレー粉と片栗仕様だった。

 

僕はあっさりした鶏肉バージョンが好みであるが

とにかくカレーなんだから、肉は何でも美味しいに違いない。

まー美食家の食べるものではないが気持ちの休まる味だし

インドでもヨーロピアンでもないカレーは乙なものだ。

お金をかけずに、時間だけかけて作るので

キャンプ場では作られない、一品カレーといえるだろう。

好みは別として・・・


さて

かねがねやってみたかった沢登りに誘われ、ついに果たした。

ま、珍種の生物など派手な発見はなかったが、楽しいものだ。

 

せっかくハブの姿が見られるかと思ったがヘビの姿は皆無。

ガラスヒバアやヒメハブの姿もなかったのである。

 

平均年齢は58歳くらい、ハブがいても電話が通じない秘境

三京には危険なパーティーである。

っていうか、僕が完全に担ぎ役なのだが、右ひざの皿が

どうも座ってくれないので、かなり疑問が残りつつの参加だ。

 

中学校時代、バレーのスパイク中に発覚した膝の皿のズレだが

今となっては公然と現れて、曲げた状態で力を入れて踏ん張ると

外れてチカラが入らない状況が続いている。

磯釣りを若いうちにと、生き急いできた理由の一端がそこにある。

 

スクワットでもやれば、少しはマシになるだろうか。

今日から始めてみよう。

 

いきなり閑話休題

島の沢は、いささか水浸しで登り辛かろうと想像していたが

スパイク付の磯長靴であれば、おおむねラクラク登れてしまう。

時々現れる数メートルの滝で、えらく遠回りすることはあるものの。

夏場なら、ぐでーっと昼寝するハブが居そうで楽しみだ。

ハブは、暑過ぎるとこうした水辺でぐでーとするそうだ。

鍾乳洞などにもいるという。

 

歩きながら考えていた。

どこが終点か分からない行程というのはペース配分に困る と。

 

カメラは5人中4人が保有しているが、なにしろ暗く

撮影していたのは、N村歯科医と僕である。

シャッタースピードが1/8秒なんてざらである。

仕方なく高感度に切り替えてもせいぜい1/40。

沢の石に生えたシダを撮るにも緊張する。

1/10秒露出である。

 

すっきりした晴れ間がやってくると少し回復するが

なにしろジャングルなので、雲の動きなど読めようはずもない。

上空も木々の葉に覆いつくされている。

 

明るくなったときを狙うと、これまた白黒のようはコントラストで

暗い部分は真っ黒、明るい部分は真っ白にしか写らぬ。

 

なにも無理して撮る必要はないけれど

島の人でも知らぬ、なぞの生物がチラホラ現れる。

キノコの類いは、おそらく土地土地で派生した種が多すぎて

分類が進んでいないと思われるけれど、これは一体何なのだろう・・・

 

巨大なキノコ類はあまりなく、

むしろ一番寒い時期に多かったように思う。 

 

もう半月もすると梅雨に入るだろうから、その時期なら

夜光タケが見られるだろう。

たくさん倒木があったから、

一面の夜光タケ畑・・・になると素晴らしい。

なかなか見ごたえがあるし、ハブを覚悟してやってくる

気概も生まれよう。

 

うまい空気、薄暗がりの森林、風のそよぐ音しかしない。

水を飲んだり、キャンディーを口にするととても美味い。

水と森と風とオッサン達だけで流れる時間の世界。

何分歩いたか、良く分からない。

おなかがすいたのか、喉が渇いたのか気づかない。

なのに、口にするものは美味しかった。

 

一人で来ると、多分だるくて、すぐに面倒くさくなり

帰路の苦労が思い浮かんで進み辛くなるのだろうけれど

皆で来ると、不思議と足が軽い。

 

もう少しオドロキが多いと、もっと足が軽かったろうが

サラサラと静かに流れる沢の水以外、動くものが見当たらない。

 

沢の上をカトンボのようなものが飛んでいるのに

N村歯科医が気づいた。

見たことのない、シオカラトンボくらいの大きさの

大型イトトンボに見える。

 

沢には一種類のトンボしか見られないようだった。

動くものといったら、コレくらいのもの。

調べてみたところトクノシマトゲオトンボ。

亜種だが、トクノシマ固有の生物である。

薄暗い沢にしかいない種類だという。

 

亜種などというが、どちらが源流かは分かっていないから

亜種だからと軽んじてはいけない。

いやむしろ、亜種といっている方が源流だったとしても

学問の面子と体系を重んじるばかりに、見直されていない

場合も多いのだろうと、簡単に想像がつく。

 

胸の黄色い筋がほとんど見えない黒い固体がいるようだ。

画像処理してみたが、オスには明確な筋が見当たらなかった。

 

期待した鳥だが、オッサン特有のニオイがするのか

それともウダウダ感や倦怠感が森じゅうにしみわたるのか

一度アカヒゲを見ただけで、あとは鳴きマネで寄ってきた

アカショウビンが頭上でキョロロロロロロと鳴いた程度。

 

せっかく持って行った超望遠レンズだが、

暗すぎて使い物にならなかった。

ISO6400のテクノロジーが必要なのかもしれない。

でも、その前にもっと沢と親しくする必要があるだろう。

道具から入ったところで、分からない動植物を撮影できない。

 

唯一、超望遠レンズでかろうじて撮影したのが着生ランだ。

大木の幹に生えいてるので、超望遠でしか狙えないが

高感度にしても、せいぜい1/60秒だから、

400mmレンズをぶん回すのには、光量不足である。

しかも、EOS1なのにピントが合わないからマニュアルだ。

厳しい・・・密林の撮影には、まだまだ修練が必要だ。

 

そんなこんな感じで

わりと単純なてん末が続き、思いの詰まった重い装備のわりに

沢登りそのものが、パッとしない感ただよう。

やはり動くものが見つからない退屈さが否めない。

 

一団に倦怠感が訪れたころ、

大地の神様は、オッサンたちの心と、無駄な沢登り労働を

慰めてくれるサプライズを用意していたようである。

12、3mはゆうにある、立派なヒカゲヘゴが姿を現した。

うだうだなオッサン達に、面白くなかった発言されては

面白くないと思った大地の神様が反撃にでたのかもしれぬ。

 

日本のシダ類最大、恐竜のいた白亜紀、ジュラ紀よりはるか前、

3億6千年前の昔から続いているとされる巨大シダだ。

古生代の石炭紀というころからの血筋らしく

地球上のいかなる大型生物も、ヒカゲヘゴ先輩には

うだつがあがるまい。 

 

というほどの由緒正しい、文字通りの古株である。

 

徳之島では、家屋や薪炭用に沢山のシイ、カシが伐採され

ほとんどの森林が生活のために一度破壊された。

山頂などの険しい場所以外、島じゅうが二次林ばかりである。

日陰が減ってしまった森林で生き残ることができなかったようで、

今はほんど死滅している。

わずかに残ったものが、5m程度にそだっている場所もあると聞くが

戦後、これほどの巨木は見たことも 聞いたこともないという。

大島や沖縄の島々にもあるものが、徳之島にないのは

いささか引け目を感じていたが、これで1つクリアできた。

 

しばし、感動にひたる一向。

でも・・・歳相応なのか、疲れを忘れるほどでもないようだ。

歳はとりたくないねぇ・・・

感動も髪の毛も薄くなると、人生まで薄っぺらくなったようで

ついでに財布まで薄っぺらが加速しそうな気分になる。

 

沢づたいに、地味な不明のラン、エビネ類がポツポツとあったが

テンナンショウの類いは見当たらない。

 

いずれも地味ながら

アオシマのアトランジャープラモデルを持っているとか、

お気に入りのアロマキャンドルと宝飾つき大型犬用首輪で

SMプレイをするくらい、マニアの中のマニア、

もう人間の域を超えたマニア魂が、恋焦がれる植物群だ。

ま、これらのランは名も分からず、

山下弘さん著「奄美の絶滅危惧植物」にもないので

普通のランなのかもしれない。

 

マニア魂には、まったく響かない花達かもしれないが

私には別の意味で響いてくる。

 

オッサンらしさを呼び起こしてくれた。

「この花たちは、やっぱりワカラン!」(一応、お約束)

 

著者の山下さんは

名瀬の空港職員であるが、植物研究では著名な方で

僕も加わっているクロウサギのNPOにも参画されている。

 

今回

道案内というか、けっこう迷ったが、先導してくれたのは

NPO代表のM村さん。

徳之島への、国外追放海兵のリサイクル施設・移設問題で

よくよくメディアに登場する、無農薬を誇る百姓である。

 

そんなわけで、自然観察して分からないことが

分からないままになることのないネットワークがあるのが面白い。

まちょっと、菌類やナメクジは例外だが・・・

 

私を除いて、山に入りたがる島生まれのオッサンらは、

たいがい昔に、森の植物を庭木にしようと山に入った口であり

そっちの植物には詳しく、食事がままならなかった幼少時に

食べられる植物を求めてやってきたようで、可食かどうかも詳しい。

やっぱりキノコは別として・・・

 

こうして

針葉樹が一切生えていない森に入るのは、初めてかもしれない。

深い森は思った以上に下草が乏しく、歩きやすい。

ドングリの時期以外、クロウサギやネズミ、昆虫もあまり

住めそうな林ではないから、ハブも少なそうである。

 

細い木々をかきわけて行くと

薪炭にされなかったイタジイ(スダジイ)や

オキナワウラジロガシの巨木が時折見られる。

昔、このあたりには、大木を使った炭焼きが居たようである。

炭焼きが、炭焼き窯をふさぐために、土を掘った跡が

ところどころに見受けられるが・・・なんか新しい気もした。

立場上、あまりウラジロガシの板根というのを見たくない。

なんか響きがヤである・・・まだ結婚したい気持ちが

心のすみっこの綿ぼこりの中にでも残っているのだろう。

 

このごろの来訪者といえば

春先に、バカマツタケと呼ばれるミナミマツタケを

根こそぎ採りに入る人が居るだけのよう。

空き缶がアチコチに落ちていた。

島人のオバカな貪欲ぶりは海でも山でも、どこでも同じ。

 

バカマツタケは、バカが採るからか、

美味しくもなく、採るのがバカバカしいからなのだろう。

島人の間でも、別に食べる必要もない、

香りのない大きいだけのキノコだ、という向きが大半。

確かに、食べるに困らない時代に、

マツタケを模擬的に味わいたい・・・というのは

かえって惨めで悲しいことだ。

 

まーマツタケを採る場所に缶を落としてくること自体

いろんな意味で十重二十重(とえはたえ)にバカ重層している。

バカマツタケ好きが居たら、気をつけよっと。

 

ちなみに

標準和名バカマツタケは、島のマツタケもどきより

ずっと香りが強く、オリジナル以上らしいから

ミナミマツタケの亜種あたりではないだろうか。

 

いいかげん、単調な渓相に引き返すことにした。

もう、どれだけ進んでも、ヒカゲヘゴ以上のサプライズは

絶対にない!と誰もが確信している。

 

帰りはすんなりかと思ったら、甘かった。

島のバアチャンが作る漬物くらい甘い考えだった。

島では漬物に砂糖を入れない人は居ない・・・

 

沢づたいをやめたら大丈夫だと思っていたら

いきなり何度か崖っぷちにでて、往生した。

最後の最後も駐車場を目の前にして、

45度のススキの茂みを10mくらいくだらなければ

たどり着けなかった・・・

  

ところが

降りた場所は、県道の法面の上、切り開かれた場所なのに

一面、コモウセンゴケに覆われていた。

 

モウセンゴケはもっと大きな植物かと思ったが

そこにあったのは500円玉くらいのものばかりだった。

右に出ているのは花芽、まだ咲いていないが、もうじきだ。 

コイツは虫の多い我が家でたっぷり育ってほしいとも思うので

今度こっそり植えてみるかな・・・

 

これまで秘境と思っていた三京(みきょう)だったが

狭い島は、人が入っていない場所などないようだ。

ま、駐車場が開拓されている時点で気づくべきだったようだ・・・

 

だが、人間が入ろうと、道を作ろうと、生物達の前進は進む。 

とりあえず、スパイク付長靴を買いにいこっと。

僕も、長靴はいて、夜の森へ前進だ???

 

そうそう

せっかくだからタフブックにカシミール3Dを入れて

地形を間違えないように、あるいは生物の居たポイントを

詳細に記録できるようにチャレンジしてみよう。

ただのルート記録とコンパス機能しかないガーミンGPSを買うより

まずは、地形をキチンと見定められる道具を用意しておきたい。

遭難しないで戻ってくることが先決だ。

パソコンは重いが、予備バッテリーも含めて、鍛錬にもぴったり。

 

実は先日、もっと分かりやすそうな場所に入った島のガイド本人が

三京山方面で遭難してしまい、警察も消防も総動員という騒ぎがあった。

三京周辺はほとんど圏外だから、運がよかったのだ。

けれど、電話したのはガイドではなく客の方だった。

笑えそうで笑えないというか、オバカなガイドもいたもので

徳之島はつくづく油断ならないというか、

信じるものはみなダマサレルなぁ。

 

人のフリ見て我がフリ直せというが、反面教師が多すぎて

全うに学べないような気がしてくる。

自然に学ぼう・・・やっぱりそれが一番正しそう・・・

 

そうそう

内地は暑いらしいが、コチラはいたって涼しく

扇風機なしで十分過ごせる爽やかさだ。

温暖化は着実に進行し、

気候が激変しているのが実感できる現象だ。

我が家の風呂は半年で10リッターの灯油で十分。

メインの電球は数ワットの蛍光灯のみ。

パソコンは低消費電力型のCPU搭載である。

エコだなぁ・・・

でもやっぱり

ひとりで生活すると、トータルではエコじゃなさそう。

エコのために誰かと同居するというのも変な話だ・・・

といっていられる余裕を持ってよいやら悪いやら。

 

まだ一週間以上、涼しい若夏はつづくらしい。

今年の夏も、何か記録的なことが起こるのだろう。

巨大雹(ひょう)だけは、勘弁してほしいが。


ではまた