超長文警報発令!
長男仕掛けに
女神様が微笑んだわけ?
雨の中、宿にたどり着く。
低くモウモウとした雲が垂れこめて来たので
雷にロウニンアジごと黒焼きにされはしないかと
かなり心配したが、大丈夫であった。
植え付け前のキビ畑は高いものが何もない。
ホテルの社長の娘で美人姉妹の一人、
カウンターにいたM田さんにお願いし
記念撮影してもらうことに。
まだ体が興奮し、汗は出続け、息は激しい。
多分、正常な精神状態ではない
リミッターが外れた状態から復帰するのには
多少時間が掛かるのだと思う。
顔も赤いらしい。
一応、一世一代の笑顔を作らねばと、苦労してみたりした。
記念撮影後
へたり込んでホテルの玄関先にそのまま魚を置いて休む。
やがて宿のお客さんが帰ってきては、魚を見て驚いてくれる。
おっ!うちなーんちゅが見てもソコソコ大きめなんだ・・・
嬉しさがわいてきた。
驚くお客さんたちにクドクド説明する必要もないが
何しろほとんど内地用の仕掛けである。
実は秘密にしていたが、ちょっとした野望があって
キッカケは後述の徳之島で釣りをするためだったが
日本全国、果ては世界中、とりあえず出かけるときに
一種類の道具だけ持って出かけられないか?
全地球制覇とまでは行かないが、日本縦断用の
仕掛けとして研究を始めたところだった。
いわば全国共通中物仕掛けなのだ。
道糸に使っていたPE3号は
伊豆大島で美味しいオカズを釣りに使う
定番の細糸である。
全国共通ルアータックルの基本はここにあり
磯からのルアー釣りに困らないことが基本。
もちろん、スズキにもヒラスズキにも使えるしなやかさ
サケにヒラマサにも絶える強靭さ、アオリイカにも使える繊細さを
兼ね備えた糸に、と願って選んだのが高級糸、PE3号。
本当はナイロン糸が好きなのだが、旅先で毎日塩分を
拭き取ってやらねばならないので、やむなくPE糸を選んだ。
聞こえはカッコ良いが
正直なところ最近旅装が大げさになったので
とりあえず釣具だけでも合理化を・・・といった
ちょい、曲がった発想でもあった。
望遠レンズ、ガンマイクに釣竿・・・男の旅装は長いものばかりだ。
さて
選んだは良いが、どうしたものか・・・
遠投するには便利だが、磯では根(沈んだ岩)に擦れたら
数秒で切れる代物である。
この擦れに対する弱さが、最大の弱点だ。
まあ、たとえばカマサー(大型のカマス)をはじめ
歯の鋭いお客さんが団体でやってきて
ルアーだの糸の結び目だのにジャレついた時は仕方ないとして
魚がしっかり針掛かりして、磯に逃げ込まれた時には
長男たるもの、絶対逃がしてはならぬ。(美味しい魚に限るが)
寝ても起きても
頭の片隅に仕掛けの事を置いておきつつ
3ヶ月間、練りに練りあげた仕掛け。
ルアーに直結し、先端に使用する「根」との勝負糸は
小笠原の母島カンパチの一件以来、信頼している
安価な18号ナイロン糸。
(根=主に水面下にある磯の岩のこと)
ルアー人とは妙な舶来高級観念があって
ハリス(ルアー人の間ではリーダーと呼ぶ)に
引っ張り強度を要求する向きがある。
「リーダーには50ポンドのラインを使ってます」
と言ったりする。
擦れと勝負するのに、引っ張り強度は関係ない。
とはいえ極限まで切れかけたときには強度が必要だが
最低限、リールに巻かれたミチイト(ライン)の
強度より強ければ問題なく、糸が擦り切られる磯において
強さ=太さだと思う。
もしも狙う魚に切られたら、もっと太くすれば良い。
18号もあれば、10キロくらいまでの魚なら、大丈夫。
これ以上太いと、糸自体の巻きグセや結びコブが大きくなり
ルアーの飛距離も落ちてしまう。
太すぎは、中物狙いの場合は邪魔なのだ。
問題は
ミシン糸みたいなPE3号を
何倍も太く、コシのある18号ナイロン糸に直結すると
実はトラブルが起こる事だ。
投げるときに、太いナイロン糸はクルクルと
糸巻きに巻いた巻きグセ(糸の寝癖みたいなもの)に
細い糸が翻弄されてしまう。
投げる瞬間、釣竿のガイド(糸の通り道のワッカ)へからんだり
ガッチリ結ばってしまったりするのだ。
本当に瞬間的にガイドへ結ばってしまうのには
毎度驚かされるが、そのときに大枚はたいた
お気に入りのルアーが無情にも飛び去ってしまう事も多い。
この瞬間結び術はいつか何かの技術転用ができぬか
思案しているところだが、今のところ何の利用価値も
見出せないでいる。
話を戻すと
要は太いハリスと細いミチイトの間には
仲介役が必要なのだ。
そうしてアレコレ考えて生みだされたのが今回の仕掛け。
「PE3号+PE6号+ナイロン10号+ナイロン18号」という
昔は「そげんメンドな仕掛けば、磯で作れんとです」と
嫌がっていた、ココ一番面倒な作り方だった。
仕掛け(リーダーシステムと呼ぶ)は切られたら
磯で作り直すか、予備の糸巻きに取り替えて釣りを続行するが
一発で夕食のオカズが釣れたら用は済む、と考えを変えた。
それぞれの糸の働き方はこういうイメージ。
●ミチイト・PE3号 = 細くて強く、飛距離も稼げるうえ、お手入れ楽チン
●PE6号 = からみ防止仲介糸、PEなので擦れに弱く、長すぎは禁物
●ナイロン10号 = クッション+サブ根ズレ勝負糸
●ハリス・ナイロン18号 = 根ズレ勝負糸
◆ミチイトから先の部分は南大東の標準的中物(2〜7キロ級)を
最悪の場合、宙ぶらりんで手繰りあげられる8m以上が必要
※根ズレ=魚が岩陰に逃げ込み、釣り糸が岩に擦れること
仕掛けの材料を順に見てみると
(今回の原動力、高級なPE3号のミチイト)
(ビミニツイストで二重糸をつくる)
(シンプルな漁師結びでPE6号と結ぶ)
(一度使って、ホッタラカシだったPE6号糸をリユース)
(オルブライトノットでナイロン10号糸へ結節)
(経済的なナイロン10号糸)
(ナイロンどうしはシンプルな漁師結び、下手です・・・)
(しなやかで経済的ナイロン18号糸)
こういった感じだ。
一番ややこしいのは異種素材を結ぶ
オルブライトノット(残念ながら和名なし)である。
上の写真をヨーク見てもらうと分かるが
ナイロン糸が上下2段になり、上の短い方がナナメカットだ。
これがミソで、ルアーを投げるときのスムーズさが見違えるよう。
去年までは
PE4号+PE8号+ナイロン18号だったが
今回の秘策は悩んだ末に10号ナイロンをクッションに入れたこと。
PE糸も18号糸も伸びないので、万一大きな魚が掛かったとき
魚の強い引きを吸収し、結び目や、魚に掛かった細めの針への
負担を減らすためだ。
(最後の4行で済むのに、長文解説になり申し訳ございません)
そのヒントは
ペンシルポッパーという水面を跳ねさせて使うルアーがあるが
これを使うときに、PE8号が繊維の間に水を含んで重くなり
水面を跳ねにくくなる現象にあった。
何とか太目のPE8号糸を短く出来ないか・・・
それでいてスムーズに糸が出て、擦れに強くならないか・・・
カクカクしかじかアレコレどれそれと悩んだカイがあった。
我ながら、対中物/非常大物用としては
結構イケている仕掛けだと自信があったが
まさか本当に大きなヒラアジが食いつくとは思ってなかった。
不思議なことに
18号と10号ナイロン部分だけが
限界まで根に擦られているのに
弱点のPE糸の部分には傷ひとつ見当たらない。
理由は分からないが
もしかしたら、
魚が岩の向こう側へひっぱって行った時に
10号ナイロンが岩に触れ、ビヨーンと伸びて力を吸収して止めたか、
オルブライトノットの小さな結び目部分がわずかに岩にひっかかり
止まってくれたのかもしれない。
いずれにせよ、偶然にしては出来過ぎである。
南大東10年の歳月に
青の女神様が力を貸してくれたのだろうか?
竿にいたっても
腰は強いのだが、先がとても柔らかいことで
切れそうな糸を守り通してくれたことも確かだ。
グリップのある根元でも人差し指くらいの細身だが
意外にもほとんど曲がらない。
安心してがっちりつかんでいられる。
(普通の内地用に見える竿、シマノGAME・AR−C1206)
一節目がスズキ用に使えるほど柔らかく
二節目が強烈な引きにもしなりと反発力を放ち
三節目の根元はびくともしない安定感でやり取りも安心。
内地用なのに、まったくもってラッキーな竿に当たったようだ。
ちょっと高価だったが、元がとれた気がする。
ついでにリールも南国用にはやや小さめであるが
やはりいざというとき遠投ができ、糸の巻取りが高速な
シマノのツインパワー8000H。(Hはハイスピードタイプの意)
徳之島では、黒いので小さく見えてありがたいし
見た目が大人しいので、四十歳が使っても恥ずかしくない。
ドラグ(設定した力以上の引っ張りに対して糸を出すしくみ)が
とってもなめらかで、値段もお手ごろ。
ちなみに
釣ったときは予備に買った同8000PG(パワー重視タイプ)の
糸巻きがつけてあった。
(糸巻きの距離識別用シールが派手だ・・・)
単なる色違いだが、更に色が落ち着いていて
四十代向きシックカラーであり、竿とも合うからお気に入り。
最近金ピカとか青々したのとかあるが、南国以外では
恥ずかしいので、コレくらいがちょうど良いわけだ。
もともとは、Oちゃんのいる徳之島で使うときに
ごっつい道具では、ことごとく奇異の視線を向けられてしまうので
さりげなく、細くて強い竿、シックなリールを探したのであったが
ここまで耐えてくれるとは思わなんだ。
よくぞこんな道具達と出逢わせてくれたものである。
長男のDNAのおかげか、これも青の女神様の仕業か・・・?
針掛かりも絶妙だった。
後ろからぱっくり食おうとしたのか
ゆっくり引いて泳がせていたので
怪しげに感じ腰が引け気味だったのか、後ろの針を食っている。
そして、あまった前のフックが沖へ逃げている最中に
あごの下へもぐりこんでエラの下側にしっかりアンカーとなって
くい込んでいた。
異常な状況下でもキッチリ撮影、これが長男DNA・・・?
ルアーはラパラX-Rap Jointed Shad・・・にしても長い名だ。
定番のラパラマグナムと長さは同じだが、太っちょだ。
カラーリングはラパラ社ホームページにも記載がなく謎の脳天気色。
長男のテーマカラー?であり南大東の海と同じ「青」だから許す。
(長く見ていると目が痛くなるほど青い海)
針は交換してあって、刺さりの良い細手のもの。
もちろん伸ばされやすいわけだが
伸ばされることで内側から広がり、えらの硬い骨にかかる。
細い針ならではともいえるケガの巧妙だ。
(針はスティンガートリプルST-46の1番)
普通なら余った前の針を岩に擦り付けて
身が引きちぎれても外そうとすることもあるが
ルアーが体の下にもぐりこんだことで
針を岩に引っ掛けることができなかったのではないか。
それから、ジョイントがあることで
魚が沖へ走り、ルアーが岸側に引っ張られたとき
ボディが曲がり、針が体に密着しやすい構造ともとれる。
あくまでも後ろの針を食ったときの話であるが。
こうした偶然が重なりに重なっているようだ。
こっそり中物魚限界と定めていた
20キロには届かなかったものの
あれこれ考えてみるにつけて
自分なりに考えた結果も出ているし
仕掛けの限界と荒磯ファイトの限界と体力の限界もみた。
やるだけやった限界点であり
満足してもいい結果は出せたんだろうな、と思えてきた。
キックボクサー館長にも見てもらうと、心底喜んで
ちょっと待ってというから何をするのかと思ったら
玄関のすぐそばにある自販機でオリオンを出して
即座に祝杯をあげてくれた。
美味い、本当に美味い
多分これまでの人生で一番美味いビールだ。
その昔、投げ竿を使い、生まれて初めて5キロあまりの
ロウニンアジを上げた。
まだ朝早く、寝ている館長をたたき起こし
記念撮影してもらってから、やがて10年か・・・
長いような、あっという間のような10年だったなぁと
ちょっとしみじみしてしまった。
そのうち、モズ博士TとM井君に、今年から加わったタロー君たち
鳥類研究者が駆けつけてきた。
(先ごろNHKラジオに出たM井君)
Tの「やりましたね」の言葉が嬉しい。
何しろ、この男は鳥研究で世界中を回りながら
機会を見つけては釣りもしており、釣りの腕も半端ではない。
そんな男の言葉は心にしみわたる。
けれど、やっぱり二度とやりたくないなぁ。
モズ博士Tは更に手際よく、釣具屋へ先回りして
魚拓の手配もしてくれている。
生まれてはじめての魚拓である。
ちょうどざーざー降りになった雨で流しながら
魚体をごしごしとタワシで洗い、水をふき取ってから
墨を塗っていく。
(墨塗りはO山さん、洗ったのは長男)
おなかの部分をふき取って、濃淡を調整しておき
そこへ布を置いた。
釣具屋スカイボロジノのオヤジさん、O山さんと
モズ博士Tは、なぜか息もぴったりである。
長男はただひたすら、魚拓をとるというのは
まるで芸術作家であり、実にかっこいいものだと
感心してばかりいた。
(何だか目つきが変だ・・・)
正直興奮が冷めておらず、冷静でもなければ
体もガタガタ、ガクガクだから手を出せないのである。
検量の結果
107cm、17kg
だいとんちゅから見たら、まったく高校生くらいの若魚だが
内地のヘナチョコ長男にしてみれば、必要以上に大物だなと
魚拓を仕上げてもらいながら、少し落ち着きを取り戻し
その達筆を一文字一文字読み取っては感慨にふけっていった。
(向こうには変なおじさんモードの、モズ博士T)
本来ならその後、鳥類研究軍団の夕食に参戦するはずだったが
そのまんま釣具屋さんで、すきっ腹に久米仙水割りジョッキの
歓待を受け、島の超こだわり人間、S藤氏も加わって
夜半まで話を続け、飲み続けてしまった・・・
一夜があけ、二日酔いのなか起き出すと
太ももが痛く、うまく歩けない。
部屋じゅうが魚臭いので、魚が触れてしまった
タオルから服からリュックまで洗ったのだが
その最中にも段々痛みは増していく。
やっぱり来たか・・・
思った以上にダメージが大きい。
想像はしていたが、これほどとは。
鍛えておかないとイカンなと改めて思う。
ついでに、大型魚が掛かったときのために
背負う道具も思いついたが、多分用意すると
使う機会が遠ざかる気がするので
作ろうかどうしようか、微妙である。
問題の夕食、料理長へお願いして
宿のみなさんへ出してもらうようにしたのだが
釣った本人には非常に多めな量が毎度登場する。
今回は異様に大きい・・・
一体、ゆうげはどうなってしまうのだろうか・・・
釣った後も、不安材料は尽きない。
つづく
全国共通中物仕掛け・兼・旅装合理化の
南国版はとりあえず達成した。
次回、北を目指す前に、やはり戦は食卓へ・・・