島旅は想いのままに
やりたいことを造ること。
やりたいことを楽しむこと
やりたいことを続けること。
不思議と案外難しいことだと思う。
僕はまだいろんな事を知らない、見てない。
いろんな人に出逢っていない、話していない。
いろんな魚が釣れていない、食べていない。
だから旅に想いを募らせ、まだまだ続けていける。
生き物を見つめること、それは魚も鳥も同じ。
自分たち人間が生きていくための環境が
どうなっているのか、どうなっていくのかを知る手掛かり。
寒い風が吹けば、魚も鳥も生活を変える。
人間も当然変わるべきである。
変わろうとしないから風邪を引いたり、病になったりする。
流転する自然に抗わず、生きていくことも
不思議と案外難しいことだと分かってきた。
さて、そんなことを考えつつも、島での生活は
釣るか、撮るか、食べるか、飲むか、寝るくらいしかやらない。
シンプルな生活の中だから、頭もすっきりしてきたようだ。
大東に居続けを決め込んでいるには理由がある。
次の目的地が、大東同様寒くて、行っても仕方がない。
それから、大東にいろんな鳥が毎日のように来ている。
更に、深場に住む、美味い白身魚や、カンパチを釣らねば気が済まぬ。
といったような訳があった。
ある遅い朝、鳥類観察ポイントの空港の草っぱらを目指した。
ふと見ると、その手前にある柵に、見たこともないやつが居る。
ゴクラクチョウとまでは行かないが、奇妙な尾羽をし
体中が真っ黒で、大きさはヒヨドリよりちょっと大きい程度。
ヒヨドリとカラスを足して2で割って、ゴクラクチョウエッセンスを
ちょっと効かせた感じである。
こぉ〜れは日本初渡来マチガイなし!!!
と、喜び勇んで撮影し、早速モズ博士Tのところへ急いだ。
途中に出くわした、動物写真家N川氏に見せたところ
たちどころに答えが返ってくるではないか!
「あーそれ、台湾のカラス、オウチュウですよ、沖縄本島には
よく迷い込んでくるやつです。」
・・・・・さすが、プロの動物写真家・・・無念・・・日本の初物だと
信じきっていたのに・・・迷鳥などというものは
なかなかそうそう素人に見つけられるものではないのである。
改めてモズ博士Tに確認したところ、昨年から渡来し始めた
という。この島で見るのは結構珍しい方だと慰めてくれた。
う〜む、それでは基本に戻って、この島のスタンダードな鳥から
取り組んでみよう・・・あっさり方針を転換した。
もともと、今の変わり行く世界の環境の中で
動物たちがどう生き生きと生き抜いていくかを写したかったという
原点に返っただけのことなのだが。
これまで、釣りの行き帰り、バイクでどこかへ海岸へ出かけたとき
などなど、島のあちこちで聞こえるウグイスの声。
すぐ近くで鳴いているのに、まったく姿を見たことがなかった。
良く行く釣り場に降りる道の周辺にウグイスが何羽か居るから
そこで待ち伏せすることにした。
幸い、寒いためかやぶの中でも蚊がほとんどいない。
近い、けど見えない。
鳴いているときくらいじっとしているのかと思ったら、さにあらず。
おっと、今道を横切った影は???
影の向かった方向で、今度は声がする。
す、素早い・・・・・
あせってはいかんいかん、じっくり待つぞ。
するとまた、声が近寄ってきた。
を、枝の向こうに動くあれがそうか?
夢中でピントを合わせ、シャッターを切る。
やっぱり、やっぱりウグイスだ!当たり前のウグイスだが
南大東のウグイスが撮れて、ナゼかすごくうれしかった。
モズ博士Tによると、本土と同じ種なのだそうだが
鳴き方がまったく違う。ホーホキョホキョとかホーケキヨっ!と
ホーは同じだが後ろはまったく違うのだ。
ウグイスの方言といったところだろうか。
口の周りが黄色いのは、若鳥なのか?とたずねたら
オスはホルモンによって、そうなるのだそうだ。
気をよくして、あくる日から、朝の巡回を始めた。
貯水池、自然の池、飛行場を早朝釣りをして、朝食の後
ゆっくりとカメラを持って回るのだ。
S藤さんが、貯水池でアカガシラサギを見たと教えてくれたので
行ってみるのだが、毎度居るのは、セイタカシギだ。
次々と群れがやってきているのか、それとも居続けしているのか
見分けがつかないのでなんとも言えないが、ちっとも珍しくなくなった。
今度はバイクで回れる道端に接した池をくまなく見て回る。
集落のすぐそばにある池に、見慣れない白い鳥が飛んでいる!
オニアジサシらしいのが来ていると聞いたが、コレか???
とりあえず撮影には成功。ちょっとケータイメールでTにたずねた。
「オニアジサシの腹は黒いのか?→黒くないです。」
じゃあ、もっと珍客かもしれないぞ!
またしても、初魂が復活してきた。
早速、Tの研究室へ向かい、被写体の正体を調べたのだが
どうも図鑑には似た写真が載っていない。
ついに洋書も引っ張り出して調べてくれたら、どうやらクロハラアジサシ
そのまんまの名前のアジサシがあった。
沖縄本島には渡りの途中によく通りかかるらしいが
体中が白っぽい冬羽が多く、ここまで完全な夏羽は珍しいらしい。
でもやっぱり、初ではなかった。残念。
別の日、今度は足を伸ばして空港を偵察。
むむむっ先日、海上で投げたルアーの糸の下をくぐった
大型のシギが居るぞ・・・こっそりと接近して撮影だ。
しかし、気づいたのか、距離があるので、さっと逃げずに
ととととととっと歩いて逃げる。
逃げるならパッと飛んで逃げてもらったほうが諦めがつくのだが
実に意地の悪いやつだ。
調べてみると、コシャクシギかと思われたが、コシャクなわりに
普通種のチュウシャクシギであることが判明。
地味だし、意地悪いし、もう二度と撮らんぞ!と心に刻んでおいた。
その後、気を取り直して、また空港へ。
すると、今到着したかのような群れ、しかも見覚えがある。
おおっコレこそ、撮ってみたかった鳥、ツバメチドリだ。
一昨年だったか、ツバメチドリをT博士率いる鳥類学者軍団と
一緒に観察に出たときに見て以来である。
あの時は残念ながら望遠レンズは持っていなかったのだ。
今回は案外近くまで忍び寄れて、撮影に成功。
美しい、すらりとした体つき、地味だがコントラストのある
調和した配色が、何枚ものシャッターを切らせた。
ひとしきり撮影し、これはと思いT博士に連絡したが
しばらくして、午前便の飛行機が着陸し
皆どこかへ飛び去ってしまった。
4羽も来ていたのに見せたかったなぁTと軍団たちに。
飛行機が着陸すると、間違いなく飛ぶだろうと予想していたので
飛ぶシーンの撮影に備えておいたかいがあった。
備えたわりにはピンボケである・・・
が、すごい格好イイ。カッコウではなくて、ツバメチドリだが。(念押し)
一方、釣りの方は、これまで通っていた磯だが
沖合いが非常に深く、それでいてドロップオフではない
つまり途中から急に深くなるのではなくて、足元から
急角度のスロープ状になだらかに深くなって行く事を発見した。
どうやら50m以上ありそうだ。
ただ・・・リーフが2段になっていて、足元の水中にリーフが3mほど
せり出している。まず間違いなく、あげられる寸前に魚はここへ
逃げ込もうとするだろう。
ともあれ、キャスト開始。85gの細長いジグが、40秒くらいカウントして
やっと着底することもあり、すこし起伏があるようだ。
深く、遠すぎて、着底したかどうかのコンッという手ごたえが
5みりくらいわずかに竿先をピクリと動かすほどしか伝わってこない。
おまけに途中で何者かにかじられているらしく、見る見るうちに
ルアーの塗料が穴あきチーズ状にはがれていく。
何投かのあと、魚信があった。
「きたっ!」魚信が遠いので、大アワセを入れてフッキングさせる。
が・・・・・引きというか魚ががんばる手ごたえはビンビン伝わるのだが
その力自体は強くなく、リールがするする巻ける。
おかしい、重いのに手ごたえがなさすぎる・・・・
案の定、手前のリーフ下へ逃げ込もうとするが、そこは力でねじ伏せる
装備がしてあって、強引にリーフ上まで巻き上げてしまうと・・・
引かないので、バラハタかと思って、赤い魚を想像していたら
まったく違う、緑がかった銀色である。ひれも長く、ヒラアジのようだが
カスミアジではない。
30センチくらいしかないので抜き上げてみると
カッポレではないか。
でも黒くない。
でも、シルエットはどう見てもカッポレである。
図鑑では黒いが、それはどうも死んで時間がたったものらしい。
よくあることだが、こと魚に関しては、図鑑の色はあてにならない。
まあ、鳥のほうも個体差や、夏冬の生え変わり、幼鳥時、オスメスなど
全部載せる訳にいかないので、似ていないことも多いのだ。
初カッポレである・・・しかし・・・30センチくらいである・・・
体高は思ったより高いけれど、厚みがなくて、刺身がとれそうにない。
噂ではカッポレを踊りたくなるくらい美味いから、カッポレというらしい。
食べてみたかった。
フックはカエシのないものを使っているので、すぐに外れた。
大東でこのサイズを持ち帰るわけには行くまい、俺は長男だぞ!
と、自分に言い聞かせ、キロを超えるまでは我慢することを誓いつつ
放流してやった。
すると、また来た!今度は少し引きが強い。
よし、今度こそ!
・・・・水面にはわずかに大きなカッポレがヒラヒラしている。
またしてもリリース。
こうしてカッポレ初日は2匹を放流して終了。
次の日は3匹をリリースした。
雨の日をはさみはさみ、釣り場へ通う。
不思議と夕方は来ない。
もともとカンパチ狙いだから、朝が良いのは分かるが
孤島では沖磯と同じように潮が動けば来そうな物だが
ルアーに魚信はない。
次の朝は、アタリ自体がない・・・
潮が変わったのだろうか。
ようやく来たアタリだが、アワセがたりなかったのか
2秒で外れてしまった・・・ショック・・・
しばらくしてまたアタリ!今度こそはと思い切り竿をしゃくり
思い切りアワセを入れる。
今度の魚はこれまでより確実に大きい。
けれど、リールは割合軽く巻き取れる。
さすがに足元のリーフが迫ると右に左に走り
ズリズリと糸がリーフに擦れる、いやな手ごたえが伝わってくる。
こんなこともあろうかと太めにしておいた仕掛けだが
竿が中通しだから限界があり、16号ナイロンと8号PEがハリスだ。
手ごたえとしては、この仕掛けを断ち切ることはない。
糸はささくれたが、ようやくキープサイズのカッポレが釣れた。
44センチだが、1.5キロ少しある。
(頭というより顔がでかい)
これなら十分に刺身が取れそうだ。
魚信はこれまで。
その夜はT博士軍団と刺身と潮汁(うしおじる)をいただく。
沖縄のマース煮は塩で魚を煮付けたもので、魚をお湯から煮るらしい。
本土の潮汁に相当するものは、味噌汁(赤だし)しかないようである。
潮汁を作ろうとしたら、「なんで?魚の味が、全部おつゆに出てしまうさ」
と不思議な顔をされたが、ナイチャーの釣り人は潮汁を
良く食べることを知らないようだ。
刺身と潮汁、あとは茶漬けが、鮮度の高い魚に対する、
釣り人による主な調理法なのが、ご当地、南大東では違うようであった。
もったいない・・・こんな美味しい汁物を知らないとは・・・
おそらく、磯の臭いが強い魚を多く食べるので
塩味だけという汁は食べにくいのだろうか?マース煮が食べれるのに・・・
暑い土地だから、熱い椀物は作らないのかもしれない。
刺身は繊細、脂ものっているが、まったくしつこさがなく
逆に繊細すぎ、ワサビが強すぎて香りが分からなくなる。
(見た目はヒラアジの身だ)
旨みはかなり強く、舌触りが滑らか、まるで白身魚である。
T博士いわく、シマアジに匹敵する味ではないか、と。
しかも、潮汁たるや「なんだ!なんだこれは!」と驚かされる。
澄んだ味はまるでマダイの潮汁のようであり、さらにコクがある。
(H江さんの秀作だ)
肉質もふんわりとし、旨みもしっかりあり、出汁が出たとは思えぬ
味わいがあって、やはり白身に若干の青物の味がする感じだ。
もちろん、臭みはまったくなく、きらきらと程よく脂が漂う。
あまりの美味さに、T博士はご飯を入れて食べてしまった。
隠し味の泡盛と醤油と蜂蜜が効いたのだろうか?
もう少し大きいのが釣れれば、もっといろんな料理にしてみたい
そんな、とてつもない伏兵が潜んでいた海。
漁獲するほど居ないようで、昔はモリで突けたらしいが
今は深い場所にわずかに居るようだ。
小笠原でもずいぶん減ったと聞いたことがある。
カッポレといえば1mくらいにはなる魚だから
運がよければもう少し大型が居ても良さそうだ。
どうでもいいが「ぶんさんに似てる・・・」とポツリとつぶやく声が。
そりゃないぜA谷さんよ!心に浮かんでも言ってはイケンぞ。
額の広さが・・・・似てるんだろうなぁ・・・・返す言葉もないトです。
そんなこんなで、とりあえず来週いったん本土へ帰ることに決めた。
いやいや、カッポレに似ていると言われてしまったことが
ショックだったからではない・・・・断じてない・・・・ないっ!!!
寒くて雨の多いこの時期にクロウサギを狙いに徳之島へ行っても
あまり良い結果は得られそうにないし、増してやトカラ列島など
もっと調子悪そうである。5月下旬までお預けとした。
帰りの船まであと数日。
どれだけチャレンジできるか天気が気にかかるが
あせっても仕方がない。
有難い事に、友が送ってくれた新たな仕掛けがある。
これをしっかり使えるように仕上げる時間も取ればいい。
ともあれ、このところの早起きの連続で眠い。
晴遊雨眠を決めこむことしにした。
時には遊びにも休養が必要だ・・・などと意味不明なことを考えつつ
のんびりとシュライゾウとたわむれる長男であった。
落ち着いてくれていいけど、気を抜いておしりの力まで抜くなよ・・・