洞窟だ、白い長靴だ、ホエールウォッチングだっ!
そろそろ大東も5年目である。地元の知合いに言わせると、まだ5年か?と
不思議がられるのだが、勘定するとそういうことになる。
一回の滞在が10日近くあったりすることもあり
ずいぶんと付合いが濃ゆくなっていることもあるからだろう、有難いかぎりである。
TVで、タレントさんが知名度の限りを尽くしてサービスを受けるのを
うらやましく見ていたものだが、島の人が島を愛し誇る心がなんとなく
わかってきたこの頃、釣りばかりしなくても無理なく島で滞在できるように
なってきたようだ。サービスはないが昔ながらの普通の付き合いがあり
道を歩けば知人と挨拶し、暇なときは島を案内してくれたり
時にはお裾分けをいただいたりしちゃうわけである。
トンボロマンのOとこだわりのS氏に着いたその日から洞窟に案内された。
特に釣りばかりしにきているわけでもないので、どうせ着いた日は夕方
といっても西の果てにあるので、関東より体感としてずいぶん日が長い。
そこで、島内を軽く一周しようということになった。宿でチェックインを済ませ
昔はトイレ付きシャワー付きで大東諸島のロイヤルスイートであった部屋だが
今はホテル吉里になって、そちらは風呂の湯船まであるそうだから、
高級旅館?並となった部屋に入る。209号室は多分二度目だ。
ザックを下ろし、カメラだけもって外へ、するともうS氏がてぐすね引いて待っていた。
この島のこと、いろんな機械のこと、飛行機のこと、虫のこと、おおむねパソコン意外は
何でも知っているオジサンである。ビーサン、短パン姿のOもすでに合流している。
とりあえず、海、ということで港へ行った後
二人のペースにはまり、早速ガリガリ穴とかいう奇妙な地へ。
いきなり藪こぎとは、なんだなんだ?
二人は上機嫌で案内してくれているが
僕はいきなり不機嫌だ、なにせ心の準備も何もなくイキナリ藪こぎだぜ!
長旅、那覇空港の駆込み乗車&搭乗で疲れているのに、である。
じょーだんじゃねーよ状態に近い状況であった。
しかし、次第に彼らが迷わず案内したいのがワカル気もする風景に
なってきたのである。
やがて巨大なクレバスでその一部が埋まったのか
不思議な穴になっている。
その穴を抜けると
クレバスから空へのびたビロウが幻想的な空間を作っており
外とは別世界である。
しんとした、ほの明るいそこは、ただ、上の方で静かに
空の音のようにビロウの葉がさらさらといっているだけ。
イメージとしてはトトロの巣みたいな感じだ。
柔らかな光がただよい温かそうな枯葉と静かに苔むした
奇妙に居心地の良い、落ち着く場所なのである。
隆起環礁の島というのは、もともとサンゴ礁でできているので、全島化石である。
それに石灰岩なので、鍾乳洞だらけになることが多いのだ。
この島は、鍾乳洞もあれば、水がたまって、底なし湖になったところもある。
荒海しか見ていなかったし、山のないフラットな島なので
とてもこれが大東の風景だとは思えない。
次は、水中鍾乳洞をみせてやろう、とOが言った。
その日、実は頭の中はかなり混乱していた。
鍾乳洞でも面倒なのに水中なんてどうすんだ?
もぐるのか?このサッブイのに・・・しかも洞窟で???
そのうえOよ、お前はビーサンだぞ?と思ったらその日はナゼか業務用?の
白い長靴というのがまたイカス。
こんなの魚屋か寿司職人か豆腐屋か?くらいしか見たことないが
違和感なくスキッと?履きこなしている。
はたして、水中洞窟とは???
疑惑と魅惑に満ち満ちた名前とは裏腹に、その入り口は牧歌的な
イメージの中にポッカリと空いている、というか茂みの中にひっそりとたたずんでいる。
牧歌的なのはよいが他人の畑の真ん中でもある。
Oは「今朝のドシャ降りでグジャグジャかとおもったらキビの葉があって
歩きやすいよ、安心したっ♪」と上機嫌であるが、やっぱり他人様の畑であった。
思ったより広い穴へ入ってみると、さっそく一度迷った!
しかも出入り口から10メートルの序の口で・・・
大丈夫か?Oよ、おれはこのような入り口付近で遭難するのか?
「そうなんです」なんていうなよ。
言ってみろ、そこここに落ちている鍾乳石の落ちたやつで
お前の後頭部をラッコのように連打してやるからな・・・と思っていたら
そそくさと新たな正しい道を発見してくれた。やれやれラッコにならずにすんだ。
晴れたところからイキナリ闇へ侵入するので、かなり暗く感じるが
釣り人なので夜釣り用の頭にもつけられるライトを持ってきて良かった良かった。
狭く低い鍾乳洞を片手にライトを持って歩くのは結構難しい。
ただ、何気ない旅人がライトなど持ち合わせていたら滅法怪しまれるが
僕は釣り人だから安心だ。職務質問されてもナイフとライトは商売道具である。
他人の畑に忍び込み、洞窟に入り、怪しい装備までもっているとなれば
そりゃただじゃ済みそうにないかもしれんが・・・。
今朝のドシャ降りの影響で、天井(地上方面)からは、あちこち水がしたたり
デジカメを濡らさないように、鍾乳石に頭をぶつけないよう慎重に歩く。
やがて現れたのは、地底の池である。
Oが照らす先は更に水中から奥へ続いている。
そう、ピンぼけだが、これこそ水中洞窟であった。
どうやら、これ以上は進まなくてもよろしいようで助かった。
ドシャ降りの副産物の水滴であるが、写真にするとことのほか美しく
写真を見て、関係者一同感激したものだ。
この独特の形状の鍾乳石もスゴイ貴重らしいのだが、
モッコリとした、なんていうか、おごそかに男性なら心のどこかに
こう、どう表現したものか、心あたりのある形状であった。
大変珍しいのだが、どうもハジメテなのに懐かしいような
あまり見つめると恥ずかしいような珍妙な鍾乳石である。
撮る方としては、オートフォーカス(自動焦点)が働かないので
手動にして勘で撮りまくった。
このあと、自然に感動しつつ調子に乗って、S氏から借りている車にも乗って
いつしか時の過ぎ行くのも忘れ、いい年した二人は、更に海へ向かうことに。
普段「悩みなんか全然なかとですよ」といった風なOが
多少こわばった笑顔で「今度は僕が運転するよ」というので
任せたのはよかったが、案の定であった。
彼は免許こそ持っているが、まだ運転はホトンドしておらず
ピン札のようにシャキシャキのペーパードライバーのため
自分で運転した方がどれほどか幸せだったろうか・・・。
「人生、至るところに落とし穴あり&伏兵あり」である。
本来なら洞窟関連の感動と感想の言葉を交わしたいところだが
運転を最優先してほしいと、ヒタスラ願ったのであった。
例年、北大東と南大東の間の数キロの海に鯨はやってくる。
幅数キロだが、水深は1500メートルもあるという。
しかし、見渡す限り風波で、鯨など見当たらないというよりも鯨がいても
ちっともわからない状態である。
じゃあ海軍棒(風裏の東側)へ行って帰るか、そろそろ、という話になり
行ってみれば、いきなりその場に娘さんと来ていた島のオジサンが
「さっきその辺で鯨を見たよ」というではないか。
コレはイカン、と、慌てて超ズーム光学ビーム砲レンズつきビデオを取り出し
二人海をにらむ。
そてにしても、この海の青さは半端ではない。
目にしみるくらいの青い光に満ちている。
Oは未だかつて肉眼で見たことがないので発見には自信なさげである。
波なのか潮吹きなのか判らんというのだ。
しかし、いきなりその疑問は解かれた。
イタッといいつつ僕が最初に見つけた。
凪いだ海、思わぬ近距離、これなら誰が見てもはっきりワカル状況だ。
同時にズームを向けたが倍率が高く
ピンとも合わせておいたのだが、画角内にとらえられない。
鯨は数秒で潮を吹き潜る。
やがて一頭目はカメラを向けてズームを操作して終わり、
次の一頭が出てくることを祈ってカメラを向けて待つのが正しいのだと
わかってきた。
すると二頭目、しかし、ズームの拡大率が大きすぎて、画面に入らない。
失敗だった。
せっかく大枚はたいて買った望遠だが、はずして再チャレンジ。
ちょっとだけウマク撮れた。が、潮吹きから尾ひれを水中に没するまでを
中央に撮りきれていない。
息継ぎの間隔からして、あと15分は浮いてこないだろう・・・と
タカをくくっていたら、いきなりあらぬ方向にOが鯨を発見!!!
油断した!しかも岸から200メートルないくらいの近場である。
カメラの電源を切っていたので、全然間に合わずであった。
その後、待ちに待っても出現しない。
「じゃあ1時になって出なかったら帰ろう」ということにし
さて、帰ろうかと思ったとき、出たっ!ジャスト1時!!!
画像をクリックすると超高画?MPEG4圧縮のAVIファイルがダウンロードできます。(2メガ強もあってたった13秒)Windows98SE以降ならほぼ確実に見られますがそれ以前のバージョンなら最新のメディアプレーヤーをマイクロソフトのホームページからダウンロードする必要があります。根性と好奇心と新しいマシンをお持ちの方だけご覧ください。 |
今度こそ潮吹きから、深く潜る合図である尾ひれまでしっかりと撮れた。
この日は前述のようにS氏のお言葉に甘えてバンを借りて出かけていた。
きっと午前中から午後まで出っ放しだったので足が必要だったろうと
ちょっと反省しつつ、お詫びにガソリンスタンドで燃料を入れることにし
その前に資金を調達しに郵便局へ。
入り口前に異様なポストが屹立している。
(Oも長靴姿で屹立している・・・)
それがダイトウオオコウモリだろうがなんだろうが、生き物とは言いがたい
テラテラとしたコーティングを施された像が、アクリルケースに封入されている
その異形は訪れる者を摩訶不思議な世界へ引きずり込む感じだ。
それに、夏の台風でも飛ばされずにいるだろうか?
マスコットというにはアマリにも程遠いのが
この島のセンスっちゅうものなのだろうか。
やっぱり帰ってみると、奥さんが苦笑いして言うには
S氏は自転車で仕事にでたという。
しかし、鯨に感動しきって、未だ陶酔するOと僕は、
怪しげなポストコウモリにもS氏の迷惑も心の隅に追いやってしまうほど
興奮のルツボなのであった。
尚、後日調べたところ、目撃した鯨はどうやらザトウクジラであるらしい。
残念ながら、ブリーチング(ジャンプ)はナカナカやってくれないようだ・・・。
10メートル弱の小さな?体とはいえ、あれが我々と同じ哺乳類であるとは
なんとも不思議な気分であった。
ああ、クジラは良かったけれど
ついに釣れないまま
最後の太陽もシミジミと沈んでいく・・・
そんなこんなで大東は釣りに行くだけじゃあもったいない。
でしょ?
おわり