(あらた)の魂

後編

 


納車が伸びた。

納車寸前の車体と思われる、多分我がパッソが裏手に見えていた。

 

一週間延長の納車、それはバンパーとカスタムマフラーの関係であった。

納車の日、それは正に納車後に感じられる事態となった。

 

だが

それ以前に、納車の瞬間に車を一目した時

ディーラーのエンジニアが、冷静に

「シャコタンですねっ♪」

と微笑んでいるのが、かなりシリアスに思える長男である。

 

う〜む・・・・・・ しゃこたんってあんた・・・(シャコタンは頼んでないんじゃが・・・)

 

我が家の納車は、ディーラーへの引き取りが基本である。

数分間のディーラーへ行く道行きで、あーだろうか、こーではないだろうか・・・

などなどと想いをめぐらせて行くのがならわしとなっていた。

(といっても二度目だが)

 

た、確かにシャコタン・・・

なまじ、エアロを大人しいものにしただけに、ヤケに怪しい。

いや、むしろ可愛さあまって悪さ百倍・・・である。

非常に普通のパッソとそっくりなのに、ヤケに低い。

写真では手前にあるの我が車、だが、通常の遠近法ならば

手前の我が車が拡大されて天井も高くなるはず、でも手前なのに低い・・・

さらに、更にだ

手前にあり、拡大されるはずのバンパー下(エアロ下?)の影が細い・・・・

 

し、シャコタン・・・北海道が呼んでいるというのか・・・積丹半島・・・

んなわけねーだろっ!

でも長男は、ともすればこの車を駆り、ダジャレに応えて赴こうとするだろう。

 

そんなことは別にして、この低さは、駐車場によくある車止めブロックも

当たってしまう低さ・・・

思わぬ不便になってしまった、本来的便利追究小型車両の姿であった。

 

さて、カギをもらって、いざ!乗車せんっ!

おおっこれこそモデリスタの10万もするバケット系シート・・・

今見れば、あんましカッコよいようにも見えぬが、まあヨシ。

ん?座面の高さ調整無いの???

車の説明をしようと隣に乗り込んだS原氏の表情がくもる。

くもる理由は、調整のあるなしではなくて、知らんらしかった・・・

そりゃそうだ、モデリスタのシートをつける車など

閑静な住宅街である横浜日吉かいわいのご家族では、全く不要なのだろう。

 

あ・・ん〜っと・・・あ、これね、あれっ違うわ・・・

ん〜 ・・・・・・・・・・

 

長男の構造を把握する脳みそ空転しながらも見抜いたところでは・・・

 

「これって、高いけど高さ調整ないんやね!」

ズバっと、なぜか関西弁でS原氏を突き刺していた。

 

「でへへっ、そう・・・・そうみたいで・・す・・か・・・・ね」

シート周辺を見回しつつ、笑いはだらしなそうだが

実に素直で、実直で、合点の早い人だ。

合点は早いが早合点も多いのが珠にキズだが・・・ナゼだか信用したくなる

買物で冒険したくなる不思議な人となりをもった人である。

 

モデリスタの、(やや)カッコいいシートは、隣にある普通のシートより低い。

だから、窓枠にひじをかけて、オッサン肘かけ乗り(そんな名はない)を

澄んで涼しい空の下に楽しもうと思ったが、ちょっと窓枠が高く感じて

ひじが窮屈になるのが残念であった。

 

さて、あとはそうそう

マフラーどうなった???

こんなかんじというS原氏の視線の先には、結構微妙な曲線を描く

バンパーのエグリに納まったマフラーの姿があった。

この手仕事日本的な微妙な曲線を描くのなら、自ら削らせて欲しかった・・・

そう思う長男でもあったが、その時節には大東で釣り三昧だったのだから

ワガママ言っては許されぬ。

 

それから間もなく、ディーラーのスタッフが

うやうやしくいざなう通りへ、新車パッソを駆り、出撃する長男があった。

 

昼がちょっとすぎて、ハラペコだったので

パッソの記念すべき第一目標は、釣具屋の近くの牛丼屋すき家である。

普段、卵を買わずに我慢しているから、今日くらいは、と

新車記念に奮発した結果だ。

 

食べ終わり、満腹感が心を満たし、エンジンをかけた時・・・

ドゥ〜ン!ドゥルルルルル

いい感じで新車らしい、初々しいエンジン音が心地よい。

 

しばらくすると、ゴガガガガガガガゥンと聞こえるようになっていた。

 

「ん?さっすがはモデリスタのマフラー!

 こんな活きのいいエンジン音を演出するわけ???

  じゃけど、ちょっと・・・かなりヤカマシイというか、響くんじゃねぇ」

 

しかし変だ。

 

妙にボディに響くというか、車体全体にびびびびっと響く感じだからだ。

こりゃ、エンジン音じゃないな。

 

後ろへ回ってみると、バンパーへマフラーが豪快なサウンドを伝えている。

 

車検証の品番的にも「改」、となった車両には、モデリスタ仕様のマフラーが

標準装備であった。

そして、もともとパッソの標準装備であるバンパーを、長男は所望していた。

標準装備のバンパーには、鼻からモデリスタのマフラーは合わないのだが

そこを「でへへへ」男こと、ディーラーS原氏はナンクルナイサ(なんとかなる)的

度胸で、長男をたぶらかしたのであった。

 

やるぜ、S原よ。そーいうの好きだぜ、長男は気分良く乗っちまったぜ。

 

そして、微妙な間隔を保ったバンパーであったが、かくして接触を免れない。

駄目じゃん!でへへへって言ったじゃん!(答えになってないか・・・)

 

納車当日、小一時間のすき家クルージングはあえなく終了し

もう一度ディーラーへ差し戻しとなって、夕刻まで改修にかかってしまう。

 

あくる日は休日出勤で乗れないのは運命だが。

 

マフラーの一週間納期延長が、数時間ですむのには違和感はあるものの

明らかに改善したパッソはそこにあった。

 

多少・・・いびつな削りはマシになったげな・・・

けんども、微妙なカーブはあるげな・・・

ま、車の性能には関係ないのでヨシとすることに。

 

あらためて、走ってみると気になる手元。

マニュアルトランスミッションの取っ手が安っぽいぜ、

店に行ってイイのを見つくろうとすっか!

と思ったのだが、実はそれがまた失敗。

 

いまどきマニュアル車などほとんどなくなり、数年前とは違い

全く、本当にマッタク、マニュアル変速グリップは無くて

イエローハットに立ち尽くす長男があった・・・・・・・・・・

 

ま、まいっか、マニアのお店に行けば、きっと分かってもらえる

きっとマニュアル仲間が見つかるさ・・・きっとな・・・

と心に言い聞かせ、とんでもない小型車を買ってしまった後悔を

前向きに、できるだけ前向きにとらえようとする長男であった。

 

改、あらたの魂に安住の地は無い。

だが、あらたの幸せは、このたゆまぬ前向きな気持ちにこそ宿る!と

限りなく不毛で意味不明に近い納得のうちに、

次なる不毛の地、オーディオ刷新へ向けて

意識を切換えつつある、いっそう前後不覚状態の長男でもあった・・・


ではまた