大東ヘロヘロ日誌(2)
ヒラアジの釣り味、根魚の食味の魅力
寝不足、飲みすぎ、食べ過ぎ・・・至って厳しい日々であるが
それなりに過ぎた日々を充実して過ごす努力は欠かさぬのが長男。
正直なところ、平日の仕事の方がよっぽど楽だし、朝夕が命がけにもならぬ。
さても半分命がけの日々に釣れてきた魚は、先週記事以来・・・少ない。
というか、二匹だけ。
正直、悔しいが腕が及ばなかった。
何しろ、食べられるだけ釣ったらフィッシングソウルがナエる長男。
大物がかかってしまうと、場数が少なすぎて、上手にやり取りできぬのだ。
最終日というのは何かが起こる。
今回も5月6日夕刻、それは起きた。
西風のなか西側の磯へ向かった。
怪しい霧が、なんだかこの島ごとタイムスリップして
昔へ行ってしまいそうな、そんな霧が何かを感じさせていた。
うねりは小さく、風波が磯を洗って、いいサラシが白く広がっている。
少々波はかぶるがいいポイントを見つけてルアーを投げ始めた。
半時間ぐらいたって・・・足元の白い泡の中に
真っ黒くなっている7〜8キロのロウニンアジがルアーを追い始めた!
まずもって、地元ダイバーや釣り人も
口をそろえて魚が居ないというほどの中・・・目の前に回ってきてくれたのだ。
大きさは80センチオーバーくらいのお手ごろサイズだと安心した。
だが、水面下でもじもじするロウニンアジを見て
少しもぐるルアーに換えた次の一投・・・もうルアーを上げなきゃという
磯際ゼロセンチ!での引き込み!!!
竿先の真下である。
びゅううううううっ!という音が耳に入る。
「アツっ!」
左手は、あまりに真下へ引き込まれる竿を支えようと
糸ごと竿をつかみ、見るとグローブの皮が切れて、ちょっと指も切れたようだ。
手袋とハイテクPEラインがすれる音がしていたのだ。
さあ、次は取り込みが難しい。
あまりに強力な引きに耐えながら、右の岩陰に走ろうとするのを
右に竿を倒し、引かれた方向とは逆に反応する習性を見越して
魚をコントロールしているつもりで、周りを見回しながら
糸の先を、ぼんやり見つめていた。
糸を出されっぱなしにされたら、いずれ魚が 根を回ろうとするのに・・・
なぜか、糸を巻き上げずに、ぼぉっとしていた。
案の定、右の根に絡み、あっけなく糸は切れた。
「どうすればよかったんじゃろうか・・・」
思わずつぶやく。
強烈な魚の引きのせいで、体中が震える中
ぶるぶる震える手をだましだまし
夕暮れまでに、まだもう一戦やれる!と仕掛けを作る。
仕掛けを作るうちに、ムクムクとやる気が湧いてくるし
作戦も考える余裕も出て、そうして震えも止まってきた。
正面からの風も弱まり、やや波もおちついてきている。
すこし震えが残って怪しい足取りだが、また、磯に立ち
今度は残っている、先ほど食いきらなかった方のルアーを投げてみる。
ただダラダラ引いたのでは食わないだろうから
チョン、チョンっとしゃくりながら引いてみると・・・
沖でロウニンアジがジャンプして食った!!!
水面下で食いつき、勢いが余ってジャンプしてしまったのだ。
こいつは白い。白銀に見えたから多分メスだし、やや小さい。
今度は糸を全くやらない。(出さない)
ドラグ(テンションが強くなると、糸が切れないように糸を出す機構)を締め込み
それでも出て行く糸をリールごとスプール(糸巻き)を抑え
糸の出を押さえつけた。
ほどなく、数十秒でバテたメスのロウニンアジが水面に現れた。
やっぱり小さめ、5キロくらい。
これなら取れる・・・と思ったら、左のせり出したリーフの角に差し掛かった瞬間
ルアーがポロリと外れた・・・
これだ、これである。
カンパチもそうだが、ヒラアジも、ルアーを外す技を持っている。
磯際を泳ぎ、ルアーを岩や硬い海草に掛ける事で
ハリを抜くか、皮膚ごと引きちぎって外す。
手ごわい・・・
あれだけ大シャクリを何度も入れてしっかりハリ掛かりさせたはずだが・・・
深呼吸して、また投げてみる。
今度はちょっと角度を変えて、またチョン、チョンっと・・・・
ガガガン!
また食った!
こんなの初めてである。
何匹いるんだ?群れないはずのロウニンアジなのに・・・
今度はデカイ!引きが倍は違う!
それでも糸は出せぬ、もう絶対に出せぬ。
ドラグは力負けしてしまうからと、スプールごと糸を止める手のなかで
糸が数センチづつ出されてしまうが
こっちも無理矢理少しづつ負けじと巻いて応戦する。
魚は根と根の間、正面の水中で抑え込むはずだったが・・・
真下に突っ込んだ瞬間!ぷつっと糸が切れた手ごたえ。
ナイロン26号があっさり岩で切られていた。
真下にも岩があるのか・・・知らんかった・・・
恐るべし、磯際のヒラアジ。
究極の土壇場、火事場の馬鹿ヂカラに完敗である。
磯際、それは魚にとってのガケップチ
なのだろう。
未だに、いちかばちか糸を出し、走らせ、弱るのを待つのが良いのか
やっぱり引きに耐えて、もっと高いテンションの竿で魚を弱らせる方が良いのか
分からないままである。
だが、こうなると俄然、釣ってみたくなった。
磯際のロウニンアジ・・・面白いヤツじゃのう。
「今度は負けんけんの・・・」
最初はどうしたらイイか分からなくて多少弱気に悩んでいたが
ジワジワと何やら長男のフィッシングソウルが燃焼を始めたようである。
最終戦を終えて燃え上がってどうすんだ・・・
大東、磯際のロウニンアジ、相手にとって不足なし
むしろ我が身に不足がありすぎる。
「また出直しじゃな」
宵闇の迫る夕暮れの磯はもうタイムアウトである。
帽子を取り、いつもの様に、海に向かって
「ありがとうございましたっ!」と頭を下げた。
試合をしてもらった魚に、海にいつもこうするのが長男流。
南国の釣りは今年でピリオドと思ったけど
なかなか止められんな・・・この生き方は・・・苦笑いもした。
さて
フレーム・オブ・ソウル?の燃え上がりはおいといて
4キロを超えたロウニンアジは磯臭くて美味しくないことが多い。
釣ってはみたいのだが、美味しくないのはいただけぬ。
それを考えると心の炎の温度がだいぶ下がってしまうのであった。
実は
コレ以前に釣れた小さな一キロ級のカスミアジは絶品であった。
若夫婦だったのか?二匹釣れたあとは釣れず
料理長によれば、一匹は卵を持っていたとの事。
気のせいかも知れぬが、東側の荒い磯で釣れるカスミアジは
とても充実しているように思う。
T博士とも話していたのだが、内地のカンパチ、ハマチ系より
カスミアジの刺身はずっとサッパリして食べやすい。
それに脂が乗っても美味さが増すだけで、しつこくないのだ。
刺身もさることながら、コレマタ煮つけがいい。
料理長が気を利かせ、皮も煮付けてくれていて、これまたトロリとうまい。
もちろん、目のまわりや、頭の背側の部分の肉もうまい。
これくらい脂と肉の味がからみあう煮付けはなかなか食べられぬ。
昼間、アチコチの磯に立ったり、カメラを構えたりして
おなかが空いていることも最高の調味料だろうが
それにしても余りあるうまさであった。
むろん、午前に釣って、今が食べごろ・・・という鮮度の高さもある。
(いうまでもなく、釣ってすぐにキッチリしめて血抜きしてあるが)
大きな魚は浪漫があるのだが、ここまでのうまさはない。
残念ながら、最高級トロマグロでも、ここまでのうまさは出せぬ。
きめが細かく締まり、適度な脂の乗った身にくらべ
大型魚はどうしてもきめが粗く、下触りが変わってしまい
間違いなく大味になってしまうか
べとべとに柔らかい場所を選って食べるしかない。
これは仕方がない事である。
ところで・・・モズ博士Tが印象的でなかなかスルドイ事を言った。
「確かにカスミアジはうまいんだけど、4、5切れでもういいって感じですよね」
これはその前の日に食べた毒魚、バラハタを受けての言葉である。
貴重な、食べられる毒魚のスリルを差し引いて考えても
確かに長男もそう思う。
前の日に食べた白身の刺身は、T博士ジキジキの刺身という事やら
若い女性達と同席という事を割り引いても余りあるうまさ。
白身マジックとでも言おうか・・・どうしても箸を止められぬうまさがある。
T博士・・・味に関してもタダモンじゃねえよ・・・こん人は・・・
ひょっとすると、切れない包丁でギコギコ引いた刺身なんで
表面積が増え、旨味成分が舌をやさしくつつんでいたりして。
けど、何はさておき、そもそもうまかった、それは長男も認めるし
気づくと、きれいサッパリ無くなった皿でも証明済みだ。
何なんだろうか、白身のうまさとは???
ただの白身魚ではない、根魚である。
根魚とは、底性魚、しかも岩のある海底に住む魚だ。
大した運動もせず、待ち伏せ方がほとんど。
ただ、今回のバラハタは例外で、昼間堂々と泳ぎ回っているが
大概は夜行性で夜だけ浅い海に行ったりして狩をするという。
それでも締まった身と脂の乗りを両立してしまう不思議な魚。
ダッシュ力を蓄えた魚独特の旨味といったところだろうか。
もちろん、スープもうまい。
これが長男を魅了して止まない白身の魅力であった。
マダイでもない、ヒラスズキでもない、南国の根魚・・・
南国のうまい魚。
それは、よほどの人間関係でもないと食べられない絶品白身魚。
フエダイ、フエフキ、ハタ類・・・
普通の旅人には味わうチャンスすらない。
根魚は網では漁獲されにくいので市場に出ず、
潜りで突いたり、釣ったりしなければ食べられぬのが実情だ。
小さくてもシッカリおいしいイシミーバイ(カンモンハタ)なんかも
地元ではすっごくポピュラーなのになかなか旅人には食べられぬ。
下手だから、たまにしか釣れてくれないが、釣り人で良かったとシミジミ思う。
ともあれ、うまさというのは、自分で骨を折ってこそ
そして、
料理してくれる人や、一緒に食べて楽しい人がいてこそ最高にうまい。
旅先で、こんな味わいが出来る事は
長男にとって、本当にもったいない事である。
感謝、感謝、感謝。
T博士、O山組女子寮兼研究室の方々、コハマさんとこで修行中のY君
地元農家のKヨシさん、大東そばMカズさん、ケブラー繊維をくれたS藤さん、
宿の社長、奥さん、館長、フロントのM田さん、料理長さん、ありがとうございました。
お毒見奉行やら、癒し系の芸をやってくれたネコのジジ、インディー、ありがとうね。
みんなでおいしいって事は最幸の形なんだなぁ。
今回の南大東もまた、釣りは不発っぽいわりに
忘れられない、忘れちゃバチがあたりそうな旅となった。