ああ、憧れの
Golden Tooth !
なにしろ、右奥歯にヒビが入ってから4年が経つ。
歯が割れてしまってから40日が経つ。
1000時間ほどの時が流れ去り
120食以上の食事が悩みの時となった。
硬いものが好きである。
この時期のサンマなど、背骨も残さぬから
さいごの皿にたたずむのは頭部のみである。
バランスをとり、油断できぬところから
いっきに一つの事に集中できるようになった
心温まる木製ベンザもありがたいが
毎食ごとに硬いものを左へと導きつつ
そっちの親知らずの隙間に食べ物が入り込むのを
悩ましく思いながら食べてきた。
仮歯には、信頼が置けぬので
結構慎重に食事をするのが、かすかな緊張を帯び
そろそろ慣れ親しんできたころであった。
ついに本日
コンジキの歯が完成した。
思ったとおり
○愛会歯科の美人ナースが、しずしずとその歯をもってやってきた。
歯科医というのは、マスクの向こうに顔を潜め
瞳だけで会話するところが、なんとも想像力をかきたてる。
声と、瞳だけで、先生やナースの方の顔を想像しながら話すのは
不思議なものだが、なんだか楽しい。
お願いして、撮影させてもらうことにした。
いやいや、大ファンの美人ナースではないよ。
え?美人かどうかなぜわかるかって?
瞳美人・・・なんかな、正確には。
声までとっても素敵なんだけど。
撮影させてもらうのは、5万もの大枚をはたいた、コンジキの歯である。
それはもう、美しい金色である。
あまり濃厚にキンキンせず、適度に爽やかなプラチナを感じさせる金だ。
それにしても、ボンドで二度も仮止めし、割れた部分を引っこ抜き、
仮歯のために削り倒したのに、写真撮ったんか?と思うような
リアルな造形でよみがえっている。
ま、まてよ・・・・
これって、本当に調整なしでパカッてはまるんか?
ほんとか???
だとするとすごいなぁ。
ピンク色の素敵な白衣?に身を包んだ、大ファンナースの声に応え
口をおおきくあけて期待に胸をはずませた。
おもむろに、ギュッとはめてくれたんだが・・・!?
ま、前後の歯が押されてますな・・・
ナースは言っていた。
キンバを撮影する間、歯とデジカメの画面を見つめる
歯科医の歴史には到底ありがたき不思議な二人と化した
彼女が「この場所の奥歯はこういう形って言う風に作れるんですよね」と。
形はとった。
でもあとは大きめに作ったそれらしいインチキ・・・
なんか型が用意されており、大きめに作っておいて
現場で削って合わせるのがトレンドのようであった。
「ハイ、噛んでください、カチカチカチ・・・」毎度おなじみ
赤い色が歯につく歯科用カーボン紙みたいのを噛んで
調整が始まった。
ひたすら、瞳の美しい大ファンナースは、僕の出来上がった
それはもう、生きている歯のような形状を、容赦なく
「何度も」削り始める。
ああ、金が・・・削られるのね・・・
まあ、パラジウムとの合金だけど、風に舞って
ときどき、削ったのが僕の右頬にあたってるよ・・・
あの見事な鋭い歯の形が、シュゥイーンという音と共に
刻々と形を変えるイメージが走馬灯のように浮かんでは消える。
真中の一番くぼんだところが、日の光に透けるんじゃないの
否、ともすれば、穴あいちゃって大ファンナースが心の中で
「マいっか」なんて思いながらハメられたらかなわんなあ・・・
でも、クレーム言えんよなあ、大ファンだし・・・などと
口をあけたまま、あれこれ葛藤する長男であった。
なぜか
フィニッシュに近くなった時、いつもの先生にバトンタッチ。
ん?最後までナースでやって欲しかったき持ちもありつつ
今度はどう調整するんだ???とワクワクする。
「は〜い、カチカチカチ」
結局またカーボン紙を噛まされ、また削るんよね・・・結局。
大ファンナースが苦労して削り込んだ荒削りを
絶妙の削りこみで微調整する先生。
「じゃあ、磨いてもらってきますから」という。
おおっ磨くんか?いや、つや消しにしてほしいくらいだが・・・
と思いつつ、ちょっと手のあいた先生とデジカメ談義。
「さっき、撮影されてましたよね」
ううっ、大ファンナースとの微妙なヒトトキを
実は監視してたな!とちょっとした怒りが芽生えたりしたが
そんな広い診察現場でもないので、そりゃサトラれるだろうなぁ。
キチンと頼んだし・・・
本当は、大ファンナースに、奥歯の型にはまった金歯をもって
にっこり笑ってピースしている記念写真にしたかったのを
グッとこらえにこらえて、金歯だけを撮影した手前
ちょっとガマンが怒りに変わったようであった。
・・・
あえて、あえて仕上がった金歯を撮影はしなかった。
きっちりはめ込まれた歯は、夕食の千葉産中葉ウルメイワシ一夜干しを
ものともせず、隙間も完璧で、小骨が隙間に入り込むことなく
快適であったのだから、仕上がりは良かったのだろう。
(休日の無精ヒゲが・・・)
撮影しなかったのはね・・・
あれだけ削ったら、角がしっかりした、奥歯らしい奥歯が
かなりの変貌をとげているだろうし、その形を無視して
削ってしまったんだなあ・・・のような印象を
大ファンナースに与えてしまうことが、とてもイカン事だ!と
思ったからに他ならないのであった。
とりあえず、らしさより使い心地が大切。
それにしても、金歯。
笑顔に金歯。
あくびに金歯。
叫び声に金歯。
コーラスのア〜の声に金歯。
苦々しく、歯を食いしばった顔に金歯。
これからの人生、ぼくには金歯がパートナーである。
先生は、これから、違和感から痛みが出るかもしれない
と言っていた。
だがどうだろう。
親知らずの虫歯を快感と思った長男である。
痛んでも痛みと思わないかも知れぬ・・・
とりあえず、歯科医ナースフェチではない長男だが
ツルツルに磨かれ、5万円あまりの支払いを終えた今
ナースの素顔を空想しつつ、秋刀魚の刺身をいただきつつ
極力硬いものは左で噛み、ちょっと金歯をいたわりながら
実はかなりナース好きかもしれないなぁと、風の強い夜空に思いを馳せ
夕食をつづける長男であった。