とんぼ男、Oちゃんの島

後編

 


徳之島から帰ってきて、すでに二週間ちかく。

しかし、どうもココロが戻ってこないというか半分横浜に居ない。

この現象を最近、長男のなかで「トクノシマイズ」された、と表現している。

そうねえ、惚れこんだ人をココロが持ちつづけているのとチョット似ているが

安らぎ具合とか、ゆるみ具合が違うなぁ。

等身大で人生を生きていく、そんな大好きな感覚が戻ってきてくれた

といったところだろうか。

特段、どこが良い!ということはない。

大東のように海が青すぎることもなく

伊豆大島のように美味い魚が釣れるでもなく

八丈のように鳥が多いわけでもなく

種子島のようにサーフィンができるわけでもない。

でも、なんだか丸ごと気に入っている感じである。

まあ、人間でも同じだが、惚れ始めというのは華々しいもので

冷却期間も必要かもしれない。

 

と、思いつつも

 

ついに夏休みは徳之島へ行きっぱなしを予定していたりする。

だがその裏側は、夏休みが仕事の具合で一日削れてしまうという

事情があった・・・

暇だった?これまでとは一味違う夏である。

夏休み半分づつにして、帰省と島にするのが難しくなったから

親不孝を承知で、徳之島に専念してみようと思ったのだ。

トクノシマイズ、コンプリートモードといったところだろうか・・・(意味不明だし)

さて、本編に戻るとしよう。

 


 

宿は、北部の山(さん)というところだが

特に徳之島の中でも静かな方だ。

従って自然から見た場合、都会ということになる。

周りは自然だらけであり、そこを間借りして人のたたずまいがある。

 

宿から歩いて二分くらいで海につくが

そこは穏やかな湾になっており、ビーチと漁港がある。

漁港をはさんで右側がビーチだが、左側は残念ながら泳ぎ辛いが

リーフが広がっている。

珊瑚礁がゴツゴツと海を埋めているのだ。

釣りも難しそうだ。

だがまてよ、ココは喜界島とも程近い。

リーフにはひょとすると、あのコブシメが居るかもしれぬのだ。

残念ながら今回はイカ餌木はもってきてなかった。

宿には、漁師というご主人が作ったのだろう、巨大な餌木があった。

やっぱり巨大イカ、コブシメは居るのだ。

 

ともあれ、暑い。

夜はクロウサギ撮影、朝夕は釣り、寝る暇がないではないか?

そんなことはない。毎夜毎朝毎夕やるわけではない。

しかし、やっぱり生活リズムが複雑で眠いものは眠い。

そんな時は、朝寝昼寝に限る。

畳の上に大の字になって寝るのだ。

これが気持ちイイ。

Macもデジカメもお昼寝中・・・

畳の上に寝転んで昼寝など、チープな横浜のフローリング生活では

ありえないからだ。

 

あんまりゴロゴロしていると、奥さんに覚られて

サーターアンダーギー(沖縄のドーナツみたいな味の揚げ物)や

懐かしい味の蒸しパンなどをいただきながら、お茶を飲むことになる。

昼飯は食べないから、ちょうど良いゴロゴロ用の栄養であった。

 

寝るのに飽きたら、ビーチがある。

 

昼間は魚釣りにならぬ、ということはないかもしれないが

暑すぎてやる気にならぬし、今はちょうど大潮である。

今朝の朝飯にも出たが、奥さんがチョチョイッと掘ったくらいで

ハマグリが出てくるお土地柄もすごいが、つまり潮干狩りできるほど

潮がよく引いてしまっているということで、釣りは無理。

 

そうなれば、泳ぐしかあるまい。

ついでに、湾の右側に流れ込んでいるところに魚が群れていないか

などを調べておかねばなるまい。

 

ギュウナクサミという祭りの準備で

宿の奥さんがかりだされている公民館のそばをとおり

子供達が遊ぶ住宅のすぐ横を抜けて、ビーチへ出る。

相変わらず、踏み入れた瞬間、プライベートビーチである。

せっかく二十年以上も腕立てで鍛えた胸を

ビーチギャルにみせちゃろうと思ったが機会はゼロだ。

 

水温は思ったほどぬる過ぎず

下のほうは流れ込む小川のために結構冷たい。

伊勢の海の感じに似ている。

 

潮は思った以上に濁っており、せっかくマンティスの水中眼鏡や

シュノーケルも持ってきたのに、魚どころではない。

しかし、長男はひとり遊びが得意であった。

まずは、水中カメラで水面を撮って癒し系画像で遊ぶ。

いいなあ水の中は・・・

地上に帰る理由が見つからないくらい美しいぞ。

 

飽きてくると、ちょっと甲羅干し・・・と言いたいところだが

日差しが突き刺してくるので油断できぬ。

ふと、波打ち際の波を見て、次なる遊びを思いつく。

 

「おおっ、この波打ち際の、チビ波を使って

 徳之島のビッグウェンズデー撮影をできんものか?」

 

つくづく、つまらんことを次から次へと思いつく頭である。

すぐに波打ち際に腰を下ろして撮影だ。

水中に持って入るカメラは小さくてヘボだ。

ピントもすぐには合わないから、あらかじめ思うところへ

シャッター判押しでピントを合わせておいて

波が盛り上がったときにすかさず切るのである。

うおおっのまれるっ・・・

なんだ小波じゃん・・・

やっぱりのまれるっ!

これは結構遊べた。

日差しが強すぎて、カメラの液晶ではほとんど確認できないが

512MのSDカードが入っているので、撮りきることはまずない。

電池切れまで遊べるのだ。

レンズにシブキがかかると、ボケてしまうので

シブキは息で吹き飛ばして、またチャレンジだ。

 

気が付くと、肩が、背中が痛い・・・

む、むむっこの感覚は・・・

「つ、ツムジのあたりがジリジリッとくるぞ」

長男人生最大の弱点、薄毛は、女性に声をかけにくくするとともに

日差しにとっては無防備なのであった!!!

ううっマズイぜっ!

 

その夜、寝るころには、なんともいえぬ皮の突っ張り感が

何をか言わんや・・・であった。

 

さて、ひとしきり海で遊んだら、夕方までは昼寝である。

夕方といっても横浜と一時間ぐらい遅い感覚だ。

4時半といっても、ガンガンに太陽が照りつけてくるが

とりあえず、港へ偵察だ。

最近、島の人の関心事がスクという魚だ。

磯に偵察に行った時は、潮溜まりに居て驚いたが

沖縄と違い、徳之島ではこの瞬間を狙うらしい。

潮溜まりのスク

沖縄では網を打つが、ご当地では潮溜まりに入り込んで

出られなくなったところをすくうらしい。

だから、すくう、が訛ってスクというのだ。(ウソだ)

 

港にもスクがズイブン入ってきている。

もっと固まって玉になる

しかし

それにもまして、ズイブンとアバサー(ハリセンボン)が多い。

夕方になると、ウジャウジャ水面に沸いてくるすごさだ。

アバサー汁にすれば、何千人分?というくらい居る。

 

沖縄の人は、スクを塩辛にするというが

ここではピリッと辛い酢味噌和えである。

スクは結局のところアイゴの子供であるので

海草を食べ始める前のこの時期は臭いが少ないという。

まだプランクトン食、ということだろうが、それでもチョットくせがある。

でも、そのくせとピリ辛の酢味噌がマッチして黒糖焼酎と良く合う。

刺されると強烈な痛みを伴う、毒をもつ背びれは

不思議と酢味噌漬けになると毒を失うらしいが

それにしてもジャリジャリと豪快に歯に当たる。

この歯ごたえがまた良いのだろう。

あえて魚を縦にして口に入れるという、マゾ的な食べ方も

正しい食べ方として伝承されているらしい。

そこまでマゾとは、やるなあ徳之島。

 

島の人は強烈に好きらしいが、炎天下にわざわざすくいに行くほど

というわけでなはい。

 

というわけではないが、出てくるとぜひ食べたい・・・

結構いける島の味覚である。

 

こうして、釣れない釣りを過ごした後も

島の味覚をゆっくり楽しめる生活が、なんとも等身大である。

 

ところで

この島の海の良さは、やっぱり山に尽きると思う。

なんのこっちゃ、と思われるかも知れぬが、徳之島は川が多い。

美しいセセラギが、突然森の中から聞こえてくるのである。

この山の滋養をたくさん含んだ水が海へ流れ込むのである。

ヤマメなどはいなさそうだが、ゴリは居た。

 

水辺の木には

ジワワワワワっと強烈に情熱的に鳴いて

ぴたっと止めるアブラゼミも居る。姿は本土とおんなじなのに。

探検すると、どこもかしこも必ず本土と微妙に違うのだ。

これがなんとも楽しい、飽きない。

一年365日アレコレ違ったことが発見できるはずだ。

とにかくこの島に惚れたOちゃんの気持ちも

しみじみわかる気がする。

 

自然がギュッと詰まった感じだからだろうか。

ハブが居ることが、山を残して来れたのかもしれないなあ

そう思うこともある。

とにかく、島の人は山には滅多に入らない。

動物達の居場所にはハブが居て人間を追い払ってきたのだ。

山は、ともかく深く豊かなままである。

 

それにもまして

この島の人たちの心意気というか、寛大さというか

自然の深さと似たような懐の深さがあって、文化があって

それもまたOちゃんはすごく気に入っているようだ。

 

そしてこれがOちゃんの家だ。

島の人から借りているとのことだが、山羊さん付きだ。

多分食料用だろうが、オーナーさんのだから手出しできぬという。

夜通し鳴いて困ることもあるというが

我が家の向かいにある吉川ハイツの飼い殺し系座敷犬の群たちが

ギャンギャン嘆きの声をご近所に振りまくのよりは、ずっとマシだろう。

 

ともかくも

今回の旅の思い出アレコレは、このOちゃんのお陰である。

彼が居なければ多分、徳之島へは一生行かなかったかも知れぬ。

 

居る間、ビーチギャルがいないせいか、長男はのびノビのびノビ・・・

伸びきってしまうくらい、ゆるんでしまっていた。

ありがとう、徳之島、ありがとう、Oちゃん、ありがとう、山海荘。

そして、やっぱり、ありがとう、海。

Oちゃん、見送りにまできてくれてありがとうなっ!

大東でも、これまで来てくれてたんだけど

なぜか今回は、長男、涙チョチョギレだぜっ!!!

 

今度は、どんな徳之島の暮らしができるか、楽しみだ。

行くぞ徳之島!夏休みの休日出勤など、ヘノカッパっ!!!

人生折り返しのためにも、何か新しい暮らしを見つけねばならぬ。

 

さあっ夏よ、徳之島よ、もっと遊ぼうぞっ!

 


ではまた