春の味

山に

海に

 


関東は晩春である。

だが、関東より北では、春真っ盛り。

やや、遅いかなあとも思うが、海の中も冬。

 

このごろの八百屋系スーパーは賑やかである。

そろそろワサビの花は終わったが、山菜などが週代わりで味わえる。

 

今週はこれまで見なかった?いや見つけていなかったのがあった。

一つ目はギョウジャニンニクである。

なんといっても、山野草の書物を買った時一目惚れしたほどの

美味しそうで栄養豊かで、死ぬまでに一度は食べておきたかった。

もちろん栽培品だが、個性派なので

栽培品ぐらいがちょうど初心者の長男には食べやすそうである。

その昔、オカヒジキは栽培品と自然のものがあまりにも違う姿だったし

味もかけ離れており、その上美味しくなかったこともあり

思わず引きそうになったが、ギョウジャニンニクともなれば

たとい栽培されたとて、個性を引っ込める事はあるまい。

 

書物を見ると、生食がもっとも個性を味わえるという。

 

長男は体質的に唐辛子の辛さはダメである。

だが、カレーもキムチも好きで、食べ始めてから困ってしまうこともある。

基本的には辛さにはからっきしダメで、思い浮かべただけで汗をかく。

なかでも、大根の辛さは大好きだ。

唐辛子の激辛を好む人もいると思うが、大根の辛味は温めても冷やしても

口の中が痛く、極めて辛い(つらい)、いや辛い(カライ)ものだ。

これをしのぐ辛さに出会ったのが今回であった。

最初は島ラッキョウの味に似たネギ系の辛味だなあなどと

余裕をかましていたが、たった一本だが最後までかみしめていると

口の中でも特に弱い部分が刺激されてきて

下の裏が痛くなってきて、辛味が頂点に達するのだ。

もしも、辛さで退屈している向きがあるのなら

ギョウジャニンニクをほうばって噛みしめてみてほしい。

とかく辛いものが得意という方々は、よく噛まない方が多いと見受けるが

これは噛まなくては負けである。

噛まずに飲んでは味わえぬ、芳醇な辛味がそこにある。

あとからジワジワとやってきて、しつこく居座るたまらない辛味で

ビールを飲もうが熱燗をふくもうが、とにかくカラく、痛い。

汗というよりは、脂汗がでてきたというのが正直なところだが

ニンニクとは違った爽やかな香りと辛味がたまらず

味噌をつけて生食するのにはまってしまった。

 

口の中だけではおさまらず、食べた後は胃袋に向かう食道で

心臓の横の方までジンジンと温かくなるスゴサがたまらない。

行者が修行中に山中で食べると元気が出るということだが

これは根っこの方だそうだ。

だが、ヤサ人間の長男には、葉でも十分で

これを食べながら日本酒をグイッとやれば元気10倍だ。

(辛すぎて、最後はおひたしに・・・)

 

二つ目はカタクリ。

見れば本当にカタクリの花がついており

正に春真っ盛りのカタクリが収穫されているのが分かる。

書物によれば、おひたしと天ぷらが美味いとあるので

ここはストレートにおひたしにした。

栽培品だからだろう、アクもなく、ちょっと残念だが香りもそれほどない。

だが甘味が強く、セリの歯ごたえを持った、ほうれん草という感じ。

ゴマのおひたしだが、ゴマの歯ごたえを忘れそうになるほど

シャキシャキと歯ごたえがたまらない。

細身の茎と薄い葉だから、沸騰した湯にさっと通すだけだが

十分に火が通った感じであるから、今度買ったら

ざるにカタクリを置いて、上から湯をかけるようにしてみたら

もっと新鮮なシャキシャキ感が味わえるのではなかろうか。

 

これでは野草が特別美味そうに見えてしまうが

とにかくエグくて苦味があって、どうしようもなくスジっぽいのが野草。

春先、若芽だけがみずみずしく、食べやすいところだけをいただくのが

一般的な食べ方である。

まず、興味があったけれども食べる機会がなかったという向きには

今のシーズン、東北からの春の息吹を味わってみてはいかがだろうか。

 

気をつけなければならないのは、今の時期に東北からくる味わい

関東から南の地域では往々にして2月がシーズンである。

正月過ぎてウカウカしているとスグにとおりすぎてしまうので

気をつけるべし。

 

ところで

海沿いに暮らしてきた長男にとって、冬から春先に食べたいもの

それはワカメである。

伊勢では冬場、浜辺に流れ着いたワカメをひっかけて収穫する。

スルスルと伸びる玉の柄(釣り用の網の柄)の先に

針金を三本、ヒッカケとして付けた特製の道具をひっさげ

シケ気味の浜辺に向かうのだ。

何度も打ち上げられぼろぼろになってしまったものではない

凛として根っこの石までつかんだままのワカメこそ

鮮度120%、うまうまのワカメである。

毎朝の味噌汁に、こんなワカメが入れば元気100倍である。

香り、歯ごたえ、味わい

どれをとっても乾燥ワカメにはない。

なんといっても茎が美味い。

茎のコリコリ感と、葉のほんのり甘い柔らかさがあいまって

ワカメ〜っ君はワカメだねぇ〜っ、口の中で弾んでる甘さ、歯ごたえ

君こそ、求めていたワカメさぁ〜っ!!!

という幸せ気分の怒涛に身を任せられるのである。

ワカメは薄い葉だけでは味わえない味があるのだが

知らない人は、知らないままが幸せであろう。

あなた方のワカメは薄っぺら、それで十分。

本当の生ワカメの美味さは、海辺の人だけが知っている・・・。

とりあえず、めかぶを買ってきて日本酒としょうゆと少しの蜂蜜で

浅炊きにしてみた。

昆布のように分厚く、香りも強い。

とりあえず、都会で暮らすぶんには、これでガマンガマン・・・

 

ああ、都会に来て味わえる味。

関西では、東北の山菜は味わえない。

とりたてて食べたくはないが、ホッケやニシンも売っている。

関東に来て出会える食べ物は多く

だが、虚勢ばかり張って心の貧乏が多い関東では

キャビアを探すのも大変だ。

日本の首都でキャビアを探さねばならないのだから

日本の都会の豊かさなんて、上辺だけなんだよなあ・・・

やっぱり美味しいものは産地で食べるのが基本である。

都会に回ってくるのは、産地で消費しきれずあまったもの

最後の最後だ・・・

でも見かけたからには

味わわないで見過ごすわけにはいかない

やむなく都会で生活しながらも

長男の意地を発揮する春先のスーパー店頭であった。


ではまた