風の島 八丈に
長男のペース崩れる
羽田から小一時間のフライトで着いてしまう離島、八丈。
観光客も多く、ホテルも二軒つぶれたらしいが、民宿は充実。
だが、人が多く訪れるがゆえに、長男としては遠い島であった。
この季節、ミズイカ(アオリイカ)を狙いに再び奄美諸島にするか
迷ったのだが、やはり、イカ釣りよりは釣ったことの無い魚を釣りたい
一生のうち必ず釣っておかねばならない魚を狙うべきだろうと思って
八丈のヒラマサと幻といわれるヒラスズキを求めての旅だ。
今回は気合を入れるために、デジタル一眼レフを置いてきた。
撮影は小型ポケットサイズのミノルタディマージュだけ。
代わりに職場の先輩からもらったCONTAX、T2を持ってきて
もし巨大なヒラマサなんかがつれたときには、原寸大デジタル魚拓に
事欠かないようになっていた。
撮影に集中しないように、38ミリの短焦点レンズ。
画像は美しいらしいが、スナップくらいしか撮りようが無いので
撮影はほどほどで切り上げることができる。
さて
着いていきなり、神湊釣具をめざす釣り人の一団に
リュックを奪われそうになった。(笑)
リュックにライフジャケットをくくりつけてあるので
思わず自分らの仲間のだろうと、カートに乗せちまったらしい。
陽気な連中である。
どやどやとオレンジの送迎バンで去っていった。
レンタカーを予約してあったが
10年位前、初めて大島へ行こうと思ったころ調べたときより
ずっとずっと安くなっている。一日3000円という格安さだ。
もちろん、空港まで送迎してくれるところも万全。
さすがは観光の島だけのことはある。
どこぞの島と違って、場所も言わず、空港前にあるから
勝手に来いというのとはズイブン差があるぞ。
しかも、ガソリンスタンドで貸しているから、満タン返しも楽勝だ。
地図だって、何種類もある。
宿は島の南にしてあった。
この時期、北向きの風が吹き荒れるはずだから
風裏になる中之郷というところに宿をとったのだ。
思わぬことに、近くには外湯がたくさんある。
実は、中之郷は出で湯の町であった。
だが、残念ながら釣り人である僕は、温泉は後回しだ。
というか、宿のご主人や、釣り客の方々としゃべっていると
結局夜は遅くなり、普通のお風呂に入って寝るしかないのだった。
ちなみに、内湯はない。
多分、パイプで引けば維持費が大変だし、地形的に見ても
湧き出し口と宿では、宿が高い位置にあるからだろう。
旅装をといたら、いよいよ海だ。
あちこち回り、スケールのでかい磯を確認するのだが
降りるのが一苦労だ。
磯自体は意外に多くなく、降りられない崖や、ゴロタ場(岩の浜)があって
最盛期、釣りのできる磯では、かなり必要以上に賑わうことだろうが
今回はオフシーズンだからガラガラだ・・・・というより風が強くて
立ってられんというのが正直なところ。
うわさには聞いていたが、1月から3月は風が強くて船も出られず
海は豊かだが、釣りも漁も思ったようにできないという厳しい島だ。
おまけに寒い。
そりゃもう寒い。
八丈島は思った以上に山がちであり、そのもっとも下にある港や磯なら
風を避けられるだろうと思ったら、さにあらず。
風が強いためか、空気力学的に?風をまわしこみやすいのか
どこへ行っても風があって、釣りは辛い。
てゆ〜か、風が強すぎるのかもしれんが。
気温は東京と変わらない。しかし風は数倍吹く。
体感温度などはずっと低いから、トイレットペーパーをだいぶ拝借し
鼻水対応が大変だ。
まあしかし
断崖を見ながら釣りができるというのは、小笠原気分である。
でっかい釣り、でっかい旅をしているんだなあと思い込んでよい風景だ。
どっぱーんと打ち寄せる波に寒い風、あまりに寒いので
北風に向かって、北の漁師の演歌をぶちかましたい気分に襲われるが
残念ながら練習していなかった。
沖縄の歌も良いが
こういうときのために、島を渡り歩く長男として
演歌も練習しておかねばなるまい・・・・と
びょうびょうと吹きすさぶ北風と荒海を前に
決意を新たにすることとなった。
雨の日は半端じゃない。
通り雨のようにザーっと来たらそれっきり一日。
時折晴れながら降るので、止んだか?と思って外へ出てみると、さらさらと降っていて、部屋へ逆戻り。
寒さもしんしんと来るから、宿のおこたも伊達じゃない。
まさか、八丈にきておこたに入って海を眺められるとは
思わなんだぞ。
快適すぎて、釣りに行く気がしないくらいだ。
外は強風、雨が降っていながら晴れているから
当然のように虹が立つ。
びょうびょうと風が吹き、雨はさらさらと止まない。
ざわざわと草木が揺れる音だけが聞こえ、夕方を迎えた。
右の窓には海、左の窓には虹、そしてテレビの窓には黄門様。
ポカポカ暖かいおこた・・・もう絶対動けん。
やることもないので
ふと窓の外をのぞくと、たくさん明日葉が生えている。
あしたば荘という宿だが、その名のとおり
朝菜夕菜に文字通り明日葉が出るので、ビタミン補給は完璧だ。
その向こうに、初めて見る鳥が!
(枝の向こうが鳥、手前の葉は明日葉)
それこそ、その昔「ぬえの鳴く世は恐ろしい」というキャッチに出た
ぬえ、ことトラツグミである。こんなときに限ってカメラがない!
もう無理してカメラを持ってこないというのは止めようと深く反省した。
カメラを持ってこなければ釣れる、というわけではなさそうだし
何より、せっかくのチャンスを逃したのは一生の不覚だ。
5メートル先に、くつろぐトラツグミがいるなんざ
一生のうち、一度あるかないかのチャンスではないか。
心と体にわるいなぁ、この我慢は。
(上の写真は手元にあったCONTAXで撮影し、部分拡大したもの)
宿の方はコタツをはじめとしてイロイロとすばらしい。
観光地というのが、これほど快適なのか。
客が多いときは騒がしくていかんが、この季節は特に良いと思う。
クサヤもリクエストできるし、ご主人やお客さんとゆっくり話せる。
(クサヤは好まないお客さんがいると、臭うので焼けない)
手で裂いて、アシタバ湯で割った焼酎といっしょに食べると
くさいはずなのに、この上ない幸せ感が味わえる。
(明日葉の湯で割った焼酎も格別)
この島のクサヤは臭いが少なく、ちょっぴり残念だが
味は良いので、入門者向けのクサヤといえよう。
話によると、新島のクサヤが凄いらしい。
こうなったら、長男としては、新島にヒラスズキを狙いに行き
返す刀で極めつけのクサヤをいただいてこなければなるまい。
うーむ、2月中に連休ってまだあったかいな・・・
でないと来シーズン、来年になっちまうな・・・
もうこの歳になると、それまで横浜に居られる自信がないぞ。
ヒラスズキはほかでも釣れるだろうから、とりあえず
3〜4月のシーズンオフに食べに行ってくるかな。
この時期ちょうど、新鮮な出来たてクサヤが食べられるシーズンだ。
ぬえを見た次の朝はもう最終日だ。
ぬえは見ないほうがいい、と宿のご主人に言われたが
それはそのとおりだったかも知れぬ。
風も雨も止み、絶好の釣り日和となった朝、
とびきり早起きして勇んで藍ヶ江港に行ったのだが
どうもしっくりこない。
一投目、ぶちっ!
いきなり仕掛けを作り直しだ。
作り直している最中に、別の釣り客がどしどしやってくる。
自分の場所が取られやしないかと、焦って仕掛けを作るが
二度失敗。
すっかり日が昇ってしまって、早起きの意味がなくなった。
それでも、ここまできて、釣りをしないで帰るのも嫌なので
心を落ち着けて、仕掛けを作り直し。
でもどうも体がおかしい。ぎこちないのだ。
何かこう、いつもとぜんぜん違って、何かを焦っている。
いつもなら、帰りのフライトのある日はやらない。
でも今回は焦りがあるのか
今朝釣っても食べられないことを承知で釣りをしていたのが
どうもひっかかっていたのだろうか。
それとも、どしどしやってくる釣り客が気になったのだろうか・・・
満を持して作り直した仕掛けを投げるにも、どうも体が嫌がる。
また切れ飛んでしまうのではないか。
それはすぐさま現実となった。
数投したとき、バチッ!という音とともに
残り一本となった大事なヒラマサ用ルアーは
竿のガイドを道連れにして飛んでいった。
ガイドはへし曲がり、折れた。
この朝、何をどうやってもだめな朝。
もはや、釣りをする勢いも萎え、すごすごと退散である。
宿に帰り、駐車場に車をとめたところで
ご主人がアロエの刺身を朝食で出そうと
駐車場脇の路地系野放しアロエ園?に来たので
今朝の顛末を話すと・・・
「気が乗らないときは、やらないの」とアッサリ。
アロエの葉とともに今朝の長男のわだかまりを
ばっさりと切って落とされた感じだった。
結局、慣れない人の多い港で釣りつづけた結果がこれだ。
ぶちきれと、小さなマダラエソ2匹。
(口の中に手を入れて魚を持つのは危険)
絶対リベンジすべきだが、もう気負わない。
良いのだ、釣れなくても。
今度はカメラを持ってきて、好奇心を押さえ込まずに
あれこれアチコチまわって過ごす事にしよう。
釣りにシャカリキになるなんて長男らしくない。
何を勘違いしていたのだろうか。
気合なんて釣りには必要ないじゃないか
せっかくの島へ行くというのに。
ヒラマサ用の仕掛けをしっかり考えて
20キロクラスが来ても大丈夫なように準備して
はたまたゆったりマッタリ過ごせるような装備も準備しよう。
釣りによって旅のペースを崩してしまった長男。
頭を冷やし、鼻水と喉を治し、顔を洗って出直しである。
それにしても、アロエの刺身。
シソ風味のポン酢で味付けされ、そりゃもう絶品。
トロ〜リとした、たっぷりのヌルが舌の上で心地よくたまらない。
夏場なら汁椀いっぱい食べたくなるだろう。
朝のわだかまりが、ほんのりと癒されていく逸品であった。