イカすぜ、喜界島 (1)

 


不況続きの世の中で、なかなか休日がとれなかったのだが

幸運にも4連休を作ることができた。

今回目指したのは奄美群島の喜界島。

(羽田名物富士山そば?)

友達が移住した徳之島にしたかったのだが

徳之島への旅費は南大東と同じであったから

まずは手前の喜界島からにした。

 

とは思ったものの、とりたてて情報もなく

何を釣ったものだが、どこへ訪れたものだか

さっぱりであった。

 

飛行機は押さえていたが、レンタカーは2日前

宿は前日にようやく取れた。

 

へそ曲がりなせいか、空港近くの繁華街には

絶対に宿は取らないから、島の反対側にある

早町というところの宿を選んでいた。

 

実のところ、冬の島は釣りものが少ないから

今回はのんびりして写真でも撮りながら

魚がだめでも港でイカでも釣ろうかなあと思っていた。

 

せっかく行くのだからと

旅行者の人に窓際で富士山側の席を所望してあった。

富士山はそこそこ撮れたのだが、鹿児島を通過したときから

南の方角には、ものの見事に雲のじゅうたんが広がっている。

 

鹿児島まではすっきり晴れ、そこからは曇りのようだ。

 

着いてみれば、種子島よりもずっとひなびた空港。

波照間空港よりは大きくて、きちんと土産屋もある。

離島の玄関としての風情は逸品だといえるだろう。

  

レンタカーの人が来ていないのが気になったが

外を眺めたら、喜界レンタカーサービスという建物が見え

あそこに行けという事か・・・と割り切れないが納得。

電話ではナンモ教えてくれなかった。

島の旅らしい滑り出しである。

幸いレンタカー屋さんで地図をもらった。

あっただけ御の字だが、道がろくにのってない

観光地図で、これまた半分以上役立たずで、実に島らしい。

さまよってみたが、載っている観光地を目指しても

ぜんぜん行き着けない地図だったのがオモシロイ。

 

昼過ぎ空港に着いてから、夕刻、余裕を持って宿に着くまで

あちこち道草しながら、島を一周半できるほど、便利な島だ。

シケがあったら、島の反対側へ30分以内に行き着ける

これが釣りには大切な利便性であった。

 

対馬や種子島、奄美大島は大きいので

島の反対側に回り込むのが大変なのだ、半日かかってしまう。

だから宿を取ったら最後、その周辺でしか釣りができない。

そうなると宿のとり方次第で当たり外れが大きくなるのだ。

そこへいくと、喜界島は非常にお手ごろなリゾートである。

 

周囲48.6キロ、反対側の集落までは30分以内で行ける便利さだ。

南大東が21キロだから、倍くらいだ。

 

島を回り始めたところ、どうもトンビでない鳥が

飛び回っているのが気になり始める。 

(サシバだった)

トンビよりずっと小さくカラスよりもなお微妙に小さい。

それがサトウキビ畑の脇にある電柱でよく休んでいる。

 

とりあえず、島の北の端を目指して走ってみる。

北端は集落がなく、ヤケになだらかな磯が広がり

海が300度見渡せる極端に広い眺望の磯である。

それだけノッペリとしているのだ。

朝日と夕日がどちらも見られるお得な場所でもあるそうだが

釣りに関しては浅いため無理そうだなぁと思って海を眺める。

と、アオサ採りのおじさんおばさんの向こうの海原に何かいる!

おおっ久々登場、イルカさんである。

それも二十頭を超えるような群れだ。

こりゃ、魚が釣れない率100パーセントの悪役登場だ。

鼻が短く、白いラインが見えるので、たぶんカマイルカだろう。

いきなり厄介なお土地柄を悟ったのであった。

 

この島には珍しく高台がある。

島の西側からはなだらかに高くなり、東側は急に断崖に近く

急峻に落ちている。

この高台の眺めはすばらしい。

ただ、天気はよろしくない・・・

それから、見渡す限り、東側は地形的には釣りに向いてない・・・

さっきの北端のような、浅いリーフがダラダラと続いた海岸が

むなしく広がっているのが悲しい。

吹き抜ける風もずいぶん寒い。

 

日が照るとすぐ暑くなり、陰って風が吹くとかなり寒いので

何を着てよいのかよく分からん気候である。

 

さて

今回も観光客が利用する湾港

(港湾のミスタイプじゃなくて湾という地名の港)をさけ

大きな入り江を港にしている早町漁港にしたのは正解だった。

 

宿の名はまんま、早町漁港にあるから早町荘。

宿の玄関を入ったら、呼んでも誰も出てこず

宿の子供とその仲間たちが出かけざまに

「額に点々をつけたらクリリンだ!」という奇抜なホメ言葉をのこし

玄関からドヤドヤ出て行った・・・。

(クリリン:ドラゴンボールに登場する当然スキンヘッドの少林僧の少年)

 

裏手に回ってみたら、怪しげな取っ手のない中華なべみたいなので

さらに怪しげな内臓らしき物体を庭先で似ている女性に遭遇。

どうも宿の人には思えなかったが、実は宿のご家族であった。

その後、怪しげな料理には夕食で再開することになるのだが

その前に、ちょっとつまませてもらった。

 

これこそ、ヤギである。

ヤギの肉と内臓を刻み、海水で洗ってニラにそっくりな

ニンニクの芽と血液を加えて炒り煮してあるものだ。

一見味噌味風に見えるが、塩味のみ。

一口含んだ瞬間、凝縮されたマトン系の香りに襲われ

内地にはない、いや、外人から見た納豆に匹敵する

癖のある、衝撃的な食べ物であった。

こ、これが夕食に出るのだな・・・この時点で小さな覚悟は決まった。

 

そこから港は目と鼻の先、というか道を挟んで向こう側が港。

10メートル先にある。けっこう広い漁港なので車でかけることに。

ほどなく、広いコンテナヤードみたいなところに出ると

地元の人が一人だけ釣っている。

 

しばらく、何をやっていいか判らず、あれこれルアーだの餌木だの

やたら投げていたら、釣りにまっしぐら系でほかに趣味なし!みたいな

かなり見た目に不器用らしい男が、思ったとおり不器用に

「何を釣っているんですか?」と聞くので

「何がつれるんでしょうねえ・・・」と正直にとぼけたら

見事に思ったとおり怪訝な顔をしていた。

 

結局その人が始めたのはイカ餌木、ということは

ご当地の人気はミズイカのようである。

「イカがつれますよ」くらい言ってくれてもよさそうだぞ、不器用男よ。

そして、右手にやってきたおじさんも始めた。

 

不器用男は餌木をシャカシャカとテンポの速い

めずらしく内地で流行の釣り方でやっている。

餌木の扱いは、人間性よりよっぽど器用で、一見カッコいい。

いかんせんセッカチのようで、沈め方が足りない気がする。

結局不器用なのだろうか・・・

右手のおじさんは伝統的のんびり系。

 

日がどっぷり暮れて暗くなるころ、もう帰ろうかな、と思った瞬間

ググッと来た。ユンユンと二度ほどウォータージェット?の手ごたえ。

めったにイカは外れないのだが、引きが強くて外れてしまった。

 

その二投あと、またググッときて

今度はしっかりかかっているようだ。

タモ網を用意しておらず、グイッと竿でゴボー抜きしたが

落っこちずに運よく成功。

地元の二人を差し置いてイカ様にありついた。

 

最近、イカ釣りはツイていて

地元の人をさしおいて釣り上げてしまうことが何度も続いている。

 

重さを量ると一キロジャスト!

人生最大級のミズイカことアオリイカさんであった。

このサイズは、10年位前に和歌山県、御坊で釣って以来だ。

 

よくよく考えると、おおっ!何と今年最初の釣果。

イカが初釣果というのは如何なものかとも思ったが

釣れた物は仕方がない、マイッカ・・・ということになった。

マイカじゃなくてアオリイカなのが残念だともチラと思った自分が

微妙に年齢を感じさせ、夕暮れにしみじみしてしまう。

 

宿に持って帰り、かなりコワオモテのご主人に渡す。

驚きもせず、黒いゴミ袋に入ったイカをむにゅむにゅと触って

「ああ、ミズイカミズイカ」と笑っていた。

なんか感動がない・・・どうしてだ?と思ったら

どうやら、この宿のご主人は漁師。

この程度のことでは驚かないのと

どうも、もっと小さいのだと思ったらしい。

あくる日に驚いた顔で、よく上がったなと言っていた。

ちょっぴりプロに舐められていたみたいだ。

まあプロだから許す。

逆立ちしたって、この腕ではプロには勝てぬ。

 

その夜はいきなり宴会であった。

 

ミズイカが出してもらえるかと思ったら

ヤギ尽くし+地鶏攻撃だ!!!

(ヤギの皮と肝)

また地鶏が・・・今度は地ヤギもだ!

後で知ったのだが、そこにいたオッサンやアンチャンは

漁師仲間であった。

みなヤギ料理をしこたま食べていた。

一人、隣にいた優しげなオジイサン系漁師さんが

「あんたは運がいい、ヤギ料理は

  天皇陛下を迎えるのより大歓迎だからね」と標準語で

きっちりと教えてくれた。

このヤギ料理が強烈で、さっき庭で炒り煮していたやつだが

冷めると結構脂が多いのか、白くなりとってもくどいのだ。

豚の脂のようにざらついたりはしないのだが。

(地鶏)

そのほか、その日の網に入ったという7キロの巨大なイシガキダイの

刺身やら、ポン酢で煮てある奇妙に美味い地鶏

そして極めつけのヤギのキ○タマのお刺身をいただいた。

(〇ンタマ)

思えば、魚の白子と同じで、マッタリした味。結構気に入った。

 

最初、イシガキダイを、学校の横の池で取れた鯉よコイ・・・と

真顔で言っていたのだが、どこまで本気なのかよく分からん

オジイサン系だ。

ということは、大歓迎の宴も、まあ、それほどすごい宴でも

ないのかも知れぬ。

が、一頭つぶしていることは確かであった。

 

何の祝いか分からぬまま、方言なので僕はあまり参加できない状態で

ひたすら食べ続けた宴であった。

 

最後に「ヤギ汁食べるか?」とご主人。

せっかくだから食べねばなるまい。

若いアンチャンが、体がポッポあったまりますよ」と標準語で

笑って教えてくれたが、二口飲んだだけで体がポカポカしてくる。

このヤギ汁、少しの塩だけで煮てあるので、やっぱり臭いは強烈。

好みでニンニクや塩、しょうゆを加えて食べるのだが

醤油を入れると極端に美味しくなった。

こちらの醤油は甘辛いからかもしれない。

できれば一味も入れたいところだ。

「ヤギ汁飲めるなんて、シャイコウよ、あんた」と

再びオジイサン系のコメントが加えられた。

 

更に

「いいとこやろぅ、喜界島は

  帰ったらシェンデンしてね、友達にね、シェンデン」

と連発されていた。

(シェンデン ≒ 宣伝)

 

散々ヤギを食べ、黒糖焼酎のお湯割を飲んで

その夜はよく眠れた。

が、あくる朝、体中がヤギ臭い感じで、ちょっと閉口したのだが。

 

さて、朝食はというと、これが結構手抜き系。

ただし、地卵は美味しい。

同じく地卵で作ったという卵焼きがすごい!

冷めているのだが、異常に硬く、箸で切れなかった・・・

恐るべし地鶏・・・

 

食事を終えるころ、奥さんが

朝の刺網漁からご主人が帰ってきたという。

 

漁協へ行くのかと思いきや、道路の向こう側の港に

横付けして網から魚をはずしている。

すごい便利な宿である!

昨日の宴のオッサン系オジイサン系がいろんな魚を網から外していて

ふと見ると、頭をかじられている魚がポツポツある。

 

「サメですか?」と問うと「イカよ、あれ」と指差す・・・

で、デカッ!

噂には聞いていたが、コブシメとはこんなに巨大なイカなのかと

あらためて驚かされる。

一匹7キロもある、すげー巨大なイカである。

ほか、ギンガメアジ、バラフエダイ、珍しいテンジクイサキ、コショウダイ、

メジナ、アイゴ、ナンヨウブダイ、巨大なベラ系などなどが掛かっていた。

(立派なテンジクイサキ)

思ったとおり漁師さんはイスズミと思っていたが

全部大型のテンジクイサキで非常に珍しい光景である。

しかし、その指摘をちょっと眉をしかめて見るご主人・・・

ちょっと漁師の琴線に触れたかもしれぬ印象だった。

 

長男は実のところ、小さなころから魚を生甲斐にしてきた男だ。

漁師になるために修行した男と違い、魚の種には、ちとウルサイのだ。

 

直後

「晩、何か食べたいものある?」とご主人。

「じゃあ、食べたことないので、ギンガメアジお願いします」と

お願いしておいた。

(銀色のがギンガメアジ)

 

ヤギ尽くしをで、喜界の風習を強いた宿、客を試すとはいい度胸だ。

だが喜界島の宿を営むご主人は知らないだろうが、長男は小笠原で

臭うカメ鍋を、ラム酒のパッションフルーツリキュール割りで食べた男だ。

 

漁で取れた魚を、どれでもご馳走してくれるとは太っ腹だ。

テンジクイサキの指摘ごときでタジログ漁師でもあるまいが

はてさて、ご主人の懐の深さはどうだろうか・・・

次週、長男に降りかかる、大自然の恵み?そしてご主人の所業!

お楽しみ?に。


ではまた