本年最終の大島へ

 


今年、37にもなって結婚していない長男

親不孝にもほどがあるので、帰省だけはまめに早めに

というのが心情であったのだが、今回は例外だ。

 

ヒラスズキの条件がそろったので

伊豆大島が俺を呼んでいる!状態となったのだ。

クリスマスが過ぎてから大島へ行くのは初めて。

 

都会に住んでしまっている僕の場合

ヒラスズキに出逢えるチャンスは一生のうち

あと何度あるか・・・だ。

だが、今回はまずいことに、一眼レフを持って行った。

ヨセバいいのにである。

 

昨夜から雨が降り、朝も雨がパラついていたが

カッパを着て、しぶきをかぶりながらシケの海を釣る

この釣りでは、至って雨は関係ない。

関係ないが、富士山を見ながら豪快な釣りもできない。

そぼ降る雨の中、やっぱり富士山が気になっていた。

 

シケは思っていたより回復が早く、見るまに

波が治まっていく。

あちこちサラシをめぐって探るがアタリはない。

すると、空はやがて晴れ間が広がり、富士山も見え始めるころ

すでに長男は撮影三昧であった・・・・

気が散るどころではなく、すっかり釣りをそっちのけだ。

これは絶対一眼レフでは撮れまい!などと心で叫んでおり

水中パックに身を包んだディマージュが大活躍?だ。

ひとしきり怒涛をカメラに収め、ふと眺める右手には

いよいよ富士山が現れてきた。

もう釣りどころではない、が、一応竿を出しながら

探りを入れつつ、一眼レフを取りに戻る。

「コ!」

本日三度目に竿を出したポイントでアタった!!!

だが集中力が続かない。

アタった魚が小さいイメージだったからだが、それ以上に

なぜか富士山が呼んでいた。

あれこれチャレンジしたが、後が続かず。

その後は全面的に撮影大会に。

結局ヒラスズキには出逢えず、富士山も中途半端で

雲のとれない状態で終わった。

 

 

もう昼近いが、帰りのバスは2時前までない。

 

シケのときは出帆港が島の南にある岡田港になる。

だが、岡田港までは数キロあり、とりあえず近くの元町港で

食事などをしてから、2時前の岡田港行きのバスで帰ることに。

 

元町港へたどり着くまでにも、いつになく見渡せる

さらに沖合いの島々、利島、新島、式根島、神津島を撮影したり

たっぷり道草をくってしまった。

 

昼過ぎに元町港へ到着し、バス停で出発時刻をチェックし

一息入れたとき、痩せ型ながら柔らかい表情のオジイが

接近中であった。

突如、タクシー割り勘で、岡田港へ行こうと切り出してきた。

残念ながら、人のいない、静かな元町港で

ゆっくりとベンチの昼寝を楽しむのも悪くないので

丁重にお断りし、みなと周辺で開いている食堂を見回してみる。

 

すると・・・

オジイの話は止まらない。

もちろん、たずねてはいないのだが

これまでの自分の仕事、大島での暮らし、息子さんのことなど

いろいろ語り続ける。

 

こ、このままでは、昼飯を食わずに

この御仁の話を聞き続ける破目になる!と思った僕は

とっさに、思わぬ行動に出てしまった。

「ラーメンでも食べてきますわ・・・」

ラーメンがこの世からなくなっても問題ない長男だったが

普段なら食べようとしないラーメンが、避難場所になるとは

人生とは皮肉なものである。

イシヅチ丸、塩ラーメン

スープに背脂ぎらぎら、臭気漂うキョウビのキテレツなモンと違い

スープを取った素材がそのまま素人にもわかる香り豊かなもの。

長男はこういう、物量でごまかしたりしていない、真っ向勝負が好きだ。

たとえラーメンでも、正しい料理は好きである。

 

ラーメン後、昼寝をして、どうやらオジイはまいたと思ったが

彼は待合の見晴らしがきく場所に座っていて

「バスはもう少しですから」と柔らかな笑顔とともに

ちょっと遠くから、気を使ってくれていた。

 

に、逃げ切れん・・・・

 

バスに乗ったら、前後ろの席だ。

後ろの席から、乗り出すように語り掛けてくるオジイ。

「先ほどの続きになるんですがね」と笑いかけている。

つ、続きかよ・・・記憶力あるぞ、このオジイ・・・

でも続けなくてもいいんぞ、頼んでないんだから・・・

 

心の叫びは誰にも届くことはない。

 

仕事で500軒の家を二日で覚えたとか

アオムロの50センチをあげたという釣りのこと×2度など

あれこれ語ってくれた。

 

岡田港に着いて、もう少し時間がある。 

「少し時間がありますから、お茶でもいかがですか」

やさしくすすめてくれるオジイだが、さらなる続編が待っているのだ。

さすがに疲れ果てた長男は、どちらかというと昼寝の続編が所望だ。

 

なぜだか、悪いなあとは思いつつ、再び丁重にお断りし

一目散に待合室へ向かい、畳のスペースで横になった。

周囲をドカドカと容赦なく走り回るガキンチョが居て

ろくに眠れなかったが、横になれて楽だった。

あのままお茶であれば、いろんなことを語られたろう。

これ以上の疲労は免れた。

 

別れ際に

「私はHマナカと申します。家には電話がありませんが

 よろしかったらお電話をさせてもらえませんか?」という申し出。

とっさに断る理由を思いつかなかったので、電話番号は教えてしまった。

そのうちまた電話で、続、続Hマナカ伝を語り聞かせてくれるに違いない。

 

なぞのHマナカ氏とそれっきり、横浜への船内で会うことはなかったが

伊豆大島の幻の年配妖精のような人で、もう少し余裕があったら

語りを聞いてあげたい人であった。

次はいつ逢えるであろうか。

 

洋上からも、ひつこく富士山は撮り続けたが

顛末のごとく、一眼レフを持っていくと、どうしても釣れない。

けれど、島は釣りや撮影だけでは終わらない。

なぜか思いもよらない出逢いがあるから、この旅が止められない。

 

今年もいろんな出逢いがあり、魚とはちっとも出逢えませんでしたとさ。

さてさて、来年はどのような出逢いが待っているのだろう。

 

出逢いこそ人生と旅の醍醐味ではないだろうか。

それでは皆様、よいお年を。


へっぽこエンジェルネットは年末つながらずアップが遅れましたが

新年は7日から開始予定です。


ではまた