そうだ、秋磯へ帰ろう

 


もう20年になるだろうか

家を出て、一人暮らしをはじめて。

 

それっきり、我が家に帰りたいとか

我が家が一番だなんて言った事もないし

考えたことも無いように思う。

 

横浜の家にいても、どうもしっくりこない。

だから出不精を振り切って出かけることになった。

 

横浜に住んで足掛け10年になる。

同じように、大島へ通い始めてからも。

関西ではできなかった外洋の釣りができる。

 

日吉駅へ背負子をしょって出かけるのにも

山下公園あたりを散策するカップルの間を歩くのにも

気恥ずかしさは感じなくなった。

 

荷物は重いし、桜木町駅から横浜大桟橋は遠いのでおっくうだが

秋はカンパチ、冬はヒラスズキ、大島の釣りはこの上なく心地よい。

南国の大東にはない、きりりとした空気がある。

 

三連休、なぜか予約しておいた真中の日だけ好天である。

夜明け前の大島、岡田港が今日も秋の朝を迎え入れようとしていた。

すがすがしい風を眠い体に吸い込みつつ

海の状態、本日の天候を読む。

晴れていてよかったと、

胸いっぱいの朝の海風とともに心膨らむひととき。

 

三連休、それは皆々様のものである。

磯は前日からきたお客さん達か、ことのほか混雑しており

先々週と同じ場所しかあいていない・・・

つまり、やり難い場所。

 

やり難いのは釣り場だけじゃない。

海まで先々週と同じで、流れておらず

早朝から頑張っていると思われる

美味しからぬ魚を狙う方々、

いわゆるエサマキボランティア隊にも音沙汰ないようだ。

足元には、ボランティア隊の撒き倒した餌で

小魚たちが大量に群れているのだが。

 

すると・・・

左隣のおっちゃんが掛けた!

 

見るからに、テレビのメジナ釣りのいでたちを

そのままコピーした姿が愉快だ。

道具から入っちゃう典型。

 

竿先はというと一定のテンションを保って沖を向いている。

これは間違いなくソウダガツオである。

メジナと違い、岩場に突っ込んで

竿先が海中に突き刺さる感じとは正反対だ。

 

ひとしきり引きを楽しんでいたのか

ようやくタモ入れしたら、笑顔がもれていた。

 

メジナ釣りなのだが、一応ボーズを免れた安堵感

わかるぞ〜、ヘタッピルアー人の長男には

心底シミジミ分かるぞ、おっちゃん・・・

 

いきなり、竿を置いて隣の同行者と話し始め

とっても余裕ソウダ

たとえソウダガツオでも、とってもとっても嬉しソウダ

一緒に竿先なんか眺めちゃって

聞かれてもいないことをアレコレ語ってソウダ

これでようやく、一息ついて朝食を食べられソウダ

同行者を捕まえて、まだまだ今しばらくは

ご機嫌が続きソウダ。

ソウダガツオパワー爆裂であった。

 

僕のルアーには、ダツと謎の海底魚の塗装はがし攻撃ぐらいで

手ごたえのない釣りが続く。

上州屋のルアーは安いけれどヒタスラもろいのが恨まれる。

太平洋の魚には雑魚ですら、やっぱり安物では太刀打ちできない。

 

ふと手を止めて、後ろを振り向いたら

三原山にヘンな霞がかかっている。

妙に粉っぽい。湿気が感じられないのだ。

晴れているのに不自然に霞んでピントも合わない状況だ。

雲の下の粉っぽさが奇妙だ。 

ちなみに、下が二週間前の晴れ状態。

秋晴れだと、普通はこういう感じでスキッとしているはずだ。

 

釣れないと周囲の活気を探ってしまう。

 

おそらく、伊豆大島の大(だい)の字に夢を馳せ

初めての大物狙いだろうか

20センチくらいの生きた中アジをつけて

泳がせ釣りをしているアンちゃんがいた。

 

釣れないのか

ひときわ高い岩の上で電話してしまっている。

た、多分、餌のアジがでか過ぎるんだぞ・・・それは・・・

アンちゃんの足元に二本、竿が見えると思うが

真横に向いているのはルアーロッドで

馬鹿でかいルアーが装着されており

時々退屈しのぎ程度に投げていた。

れ、レッドヘッドじゃん・・・(赤い頭に白いボディ、スズキ用カラー)

それじゃムリばい・・・

 

ちなみに、手前の黒いいでたちのおっちゃんもヒラソウダを釣って

とってもうれしソウダった。

でも自分では持って帰らず、隣のおっちゃんにあげていた。

 

喜びの魚、ソウダ。

釣った人はみな幸せソウダ。

でも、釣れない時だけ幸せにさせてくれるソウダ。

実は生きグサレするほど、持ちの悪い魚であるソウダ。

マルソウダ、ヒラソウダ、両方とも外道、いつもは嫌われていて

ぼんぼん、捨てられちゃうソウダ。

今回は隣の、多分三連休で遠征してきたおっちゃんに渡り

捨てずにさっさとさばかれて、おクーラー入りしたソウダ。

 

今日ばかりは幸せの魚、良かったな、ソウダよ。

でも僕には幸せは分けてくれそうに無さソウダ。

 

天気は良かったし、時期的にも最高の条件だったが

釣りはさっぱりだった。

 

なんにしろ、気持ちよい秋磯。

秋磯へは、やっぱりついつい出かけてしまっている。

 

一週間分ルアーを投げ、体力を使い果たして

爽やかな秋風に吹かれながら、空を見上げてバスを待つ。

バスが来たら、また横浜だなぁ

帰りたくないよなぁ

まあ考えても仕方がない、空でも見ていよう。

 

連休は混んでるよなあ、やっぱり。

じゃあ、次の連休は、僕もどこかへ行って

夢あふれる初心者になるとしようかな。

 

秋磯は、何処に居たって気持ちよさソウダ・・・


ではまた