ぶらりと昼から、小さな旅
天気は相変わらずすっきりしない週末だが
久しぶりに休暇をもらえたので、カルディナを駆って
最後の旅に出かけることにした。
思えば、あちこち走らせたのに洗いもしないで
ろくにオイル交換もしないで、燃料だけ足して走りつづけた。
スタンドで燃料を足す間、長男の所業が悪すぎる気がしてきた。
あれこれ考えても、これで最後のガソリンチャージだ。
満タンにしても余るだけなので、20リットルだけ入れているところを
すかさず記念撮影しておく。
もちろん、こういった肝心の時は好天に恵まれない。
静岡方面は雲行きがかなり怪しく、雨もぱらつき始めた。
最近は、音楽を鳴らすのも飽きたので、もっぱらラジオを聞いて走る。
山の中では、AMもFMも入らなくなるが、車窓からは民家も見え
ケーブルテレビでもない限り、一切メディアから隔絶された
電波の孤島みたいな土地もまだまだ日本にはあるのだろうなあ。
静岡の平地に出たら
TFMのトーキングFM(パーソナリティ福山雅治)が入ったので
日曜のおそい午後の番組を楽しむ。
最近はテレビがつまらないのでラジオを聞いていることも多くなった。
特に日曜午後の山下達郎のサンデーソングブックと
福山雅治の番組は愉快だ。
JFN系の番組はどこへ行っても大概聞けるのが嬉しいが
ローカル局のパーソナリティや話題も愉快この上ない。
日本を走り抜けているなあという感覚がヨロシイのだ。
夜走るときは、NHK・AMのラジオ深夜便がオツである。
朗読や、大昔の歌謡とともにリスナーの手紙などを読む
静かなアナウンサーの声がなんともいえず良い味である。
もう、10年来、車での深夜の友である。
(普通は、ご年配の友のようにも思うが・・・)
道は空いているようでいて、あちこちで80キロを割ってしまう
追突には油断大敵な道行きだ。
ましかしパソコンのナビソフトの予測よりずっと早い到着で
夕方の釣りまでずいぶん余裕がある。
早めの軽い夕食
サークルKで買っといた、釣りどきの定番サンドイッチと
ブルーベリー入りヨーグルトドリンク、そして久々登場のデジ一眼を
持って浜へ出た。
風は涼しいが相変わらず天気は悪く、海は沖合いまで泥にごりだ。
おそらく、イシモチを狙って投げ釣りをする人たちだろう
そろそろあきらめてボツボツ帰り始めている。
大井川河口は実のところ、まだ一度も見ていなかったので
行ってみることにした。
車から降りてずいぶん歩くのと、河口が狭いのを知っていたので
釣りにはならないと思い、見ていなかったのだ。
濁流の河口で一人同業者が投げていた。
かなりのコダワリがあるらしい、ベイトリールの釣り人だ。
普通、スピニングリールを使うのだが、たまにこういう人を見ると
まだ、釣りの世界を無闇に楽しもうとする人が居てくれて嬉しくなる。
最近、不況で売れない道具がどんどん廃番となり、画一的な
釣り方がハビコって、つまらない思いばかりさせられているからだ。
おかげで釣り番組までつまらなくなった。
どのスポンサー(メーカー)も同じ道具を出しているので
番組が似通っていて、釣り方も同じだから、見る甲斐がないのだ。
さて、コダワリをおいといて
どう見てもこれは釣れそうにない。
江戸の昔より、越すに越されぬ・・・といわれる大河が
幅40mほどになって海へ注ぐのだから、その勢いたるや
魚でも泳げないくらい速い。
しかも濁流、何が流れてくるか分からないなかで
泳ぎ回る魚などいないだろう。
流木なんかも結構流れてくるから、何にぶつかるかわからない。
だが、一応ここまできたら投げるしかない。
長男たるもの策がない訳ではなかったので
改めて仕掛けを持って、一キロを帰り、一キロをやってきた。
なぜ一キロと分かるかというと、堤防に距離が書いてあるのさっ!
律儀な建設省の方が作らせたものだろう。
途中、草っぱらにはずいぶん久しぶりのホオジロが
透き通った声で高らかに鳴いていた。
沖合いに白波が見えるが、あれは浅くなっているところだ。
川の流れが、波の押してくる砂山を沖へ追いやっている
せめぎあいの現場だ。
その手前、川の本流が岸側でよどむ場所に、川から流された
小魚なんかが退避していると思われるから
そこの水面で「私は淡水の魚だから、塩分でもうだめ・・・」状態の
おぼれる魚を演出して釣るのだ。
スズキを釣りにきているのだが、スズキは眼力の魚だから
濁流では目が利かない、だから音で誘う。
水面を溺れる姿でチョボチョボと音をたてて誘うのだ。
魚には側線という器官があるので、多分そこで感じてくれるはず。
一時間半ほど粘りに粘ったが、さすがに沖合いまで水潮になり
魚が散ってしまっているようだ。
日が暮れて、大井川港へ行ってみる。
大井川港は砂浜の只中にあるのに、アオリイカも釣れるという。
が、アオリイカも眼力の生き物であるから、今夜は絶望だ。
濁っているので、黒鯛でも来ないかなあと、ユルユル釣る。
遠くに何回か花火が上がり、こりゃ風流だわいと思ったら
ほんの数発で終わっちゃった・・・。静岡も不況だ・・・。
そろそろ場所を移ろうかと思った矢先、何かが引っかかった。
と思ったら魚だったが、小さくて、ひょいと上がってきた。
むむっ?
セイゴ(スズキの子供)じゃないぞ・・・?
25センチ以上はあろうかというコノシロである。
「に、肉食魚ではないっすよね、あんた・・・」
何かの勢いで飛びついたらしい。
こっちは何者かを傍若無人に引っ掛けるような釣りはしていない
実にゆっくりマッタリと釣っていたのだから、魚が悪い・・・?
ともあれ、ルアーでは釣れないはずながら
味覚的には大好きな魚がかかったので
お持ち帰りすることにした。
その夜、ラジオ深夜便を聞きつつ、たった一匹の珍客を持って
最後の旅を終えようとひた走るカルディナがあった。
まあ、釣れないよりいいか
釣ってまだ数時間、身がしまりきっているので
薄造りができた。
もともと、ものすごく小骨の多いコノシロだから
中骨も取るのをやめて、ハモの骨切り風に
骨ごと超薄切りにするのだ。
シャリン、ショリンと小気味良い音がする。
薄切りにしても、まだ身が十分に張っているので
盛り付けても全くぺたっとしない。
特製の柚子からし入りの酢味噌ダレを付けて
何枚も一度につまんで、一気にいただく。
身も骨もコリコリで美味い。
コリコリの向こうにほんのりとした旨みと香りが広がる。
これだ、コレこそがコノシロ最高の美味さだ。
普通、骨の入った刺身は嫌われるが、こいつだけは別格だ。
いや格別といった方が正しいかな。
その昔、十年以上前、コンピュータの仕事をしていたころ
設計の友人の実家に無理やり泊まったとき
連日連夜、出てきた刺身がこれであった。
諫早湾で四手網をやるのが趣味という父上様の仕業である。
このとき初めて骨入りの刺身の美味さを覚えたのだ。
それまでもコノシロ自体は好きで
酢でしめて漬け込んだ
シメサバならぬシメコノシロが好物であった。
刺身だけは、今もなかなか食べられない。
会社に入ってから、これで三回目だ。
数年前、伊勢でコノシロが大漁だったことがあってそれ以来だ。
今回のものは、硬直が頂点に達して
これから身が馴染んでいく、一番身がしまった状態だった。
究極的に骨身を楽しむことができる最上のタイミングで
ここまでコリコリしたものは初めての体験だ。
こんなの毎日食べていたら、カルシウムもあることだし
ほかの魚がフニャっとした身だけでつまらなく感じるかもしれない。
さあ、来週はいよいよセリカ登場だが
実は釣りに行っている余裕が全然ない。
南大東への準備があるからだ。
とりあえず、大井松田あたりまでドライブしてみるか・・・
本当は今週よりずっと潮も良くて釣れそうなのだが。
追伸
さっき、会社帰りにちょっと遠回りして
閉店間近のディーラーへ行ってみたところ
片隅の薄明かりの中に、ダークグレイメタで
ウイングのないセリカがナンバーの取り付けを
静かに待っていた。