忘れかけた夢がまた一つ、かなった秋
(今回は釣りネタなので、文章の長さにご注意ください)
体力を温存し、睡眠をできるだけとって迎えたはずの週末。
でも、金曜の夜ってのは、サラリーマンにとってどうにもならない程の
開放感と、それがもたらしてくれる心地よいダルさに満たされてしまいがち。
そこで飲むビールの美味さはイケル口の人ならご存知の通りでしょう。
でも最近はお酒をやらないので、実は週末の体力の残存量も多いのが不思議。
気持ちは落ち着くお酒だけれども、どうも体にはよろしくないというか
今一つ、体力の回復自体には貢献していないのが分かってきた今日このごろ。
独特のダルさを振り払って、金曜の午後の会社では天気予報に耳をそばだて
週末の波の加減、天気の移り変わりを丹念に分析しながらの仕事。
いやはや、この秋は大釣りができないから、せいぜい地元の釣りは
欠かさないで、チャンスを活かしたいし、行き場のないストレスを
なぁんとかしたい!というのが正直な所なのでした。
すると、先週の半ばごろに大島から伊豆半島沖へ出向いたダイバーが
流されて事故になっているじゃないか!
どうも嫌な予感、何しろ前回は60グラムのジグ(魚型のオモリのルアー)が
ビュンビュン流されて釣りにならない状態だったのが脳裏に焼き付いていて
今回は、こんなこともあろうかと、既に80グラム以上のジグを用意済み。
今年はそもそも黒瀬川(くろしお)が激しく流れているみたい。
早々と会社を切り上げて、7時前のNHKの天気予報で最終チェックすると
気圧配置は早くも西高東低になりつつあって、荒れ模様が迫っている!
日曜には波が高めになり、気温も低くなるようだから、断じて土曜日が
釣り日和ということが明白になったわけで、あのダルさを振り切って
いつものオカユを食べ、恋人街道である桜木町から山下公園へ向かう
今話題の神奈川県警察本部の前の道を大桟橋へ向かったわけです。
このところ、気温が随分と不安定なので、着る物が選びにくくて
ちょっと服選びで遅刻気味の10時直前に出かける事になってしまい
いつもより15分も遅い出発となってしまいました。
焦りつつも、挙動不審を悟られないように県警前を通過して
久しぶりの大桟橋の待ち合いへ行くと、まあ、ソコソコの人出で
ちょっと安心。
今回は多分、団体さんはいないだろうから、この人数ならゆったりと
寝る場所が確保できそうだからです。
この夜の気分いかんが明日の朝の気分へとつながるので
結構、神経質な長男には大切な瞬間だったりします。
何やら入念にメンドウな手を使って、ここ一番割引きを使おうという
ダイバー集団代表が切符を買うのに手間取って、
エラク長い事待たされたものの、乗船開始の10分前には切符を買って、
無事、いつものDデッキの角に寝床をとって、
トットと毛布を3枚借りて、(育ちのよい僕は下に二枚毛布を敷く)
アイマスクをしてから、寝る体勢に突入。
もう、5年もこの生活を続けているので、「さるびあ丸」での夜も
何回目だか分からないくらい乗った気がする。
転勤して来た年の秋、丁度この十月はじめに訪れてからもう5年なのです。
当時はまだ元気だったし、仕事にもそれほど情熱がなかったので
金曜の夕刻でも、結構体力が残っていたし、若くもあって平気だったけど
今は毎日ジェットコースターのような仕事もメッポウ楽しいし、
釣りにも行きたいけれど、ペース配分というかバランスが取り難くて
しかも着実に体力が衰えて来ているのが、チビッと悲しい現実。
ここで黄昏てばかりもいられないので先へ進むと、
朝は曇っているせいで寒くなくて快適そのもの、
たまたまセミナーハウス行きのバスへも一番乗りで
バスの大物置き場へも、ゆったりと背負子(しょいこ)を下ろせたのです。
大島の路線バスは島の広からぬ道とは対照的に大型の観光バス
しかし、背負子の石鯛師や磯釣り師も多いので運転手の後ろの席は
シートのお尻の部分が外されてパイプがむき出しになっていて
そこへ大型の装備を置けるようになっているのです。
観光バスの高級シートを守る手段でもあるようですね。
まあ何しろ一番乗り、どっかりと好きな席にすわって
明るくなってきた空を見て、ちょっとマドロミぎみ。
バスで一級の釣場のそばまで行けるのが大島のすごい所で
偶然なのか、僕と同じ境遇の人が多くなったのか、今回の磯は
いつもの常連オジサンと二人きりで独占状態。
沖合いの前線からやってくるウネリがちょっと気になるけど
まあやれない事もないコンディションですが、問題は潮の速さ。
やっぱり速い速い!ダイバーが流されるのも無理はない
時速にして6キロ以上はありそうなほど。
速度の速い潮のおかげで海底にある障害物から湧き上がる海水が
鏡のような波のない水面をあちこちに作っていて
これまで見た事もない海の表情。
時折くるウネリに半身をびしょぬれにされながらも、
速い流れにと用意したジグ80グラムで
底をとりながら(海底まで沈めて)の釣り。
底についたらズルズル引きずられて、再び糸が引き出されるので
慎重に底についた感触を見張っていないと釣りにくい状況。
こうなれば、どうせ重いジグだからと、ストレス解消に
思い切り遠くへなげ始めた矢先、ぐっと重くなったかと思うと
ギュギュギュギュっと引き始めたじゃないですか!
久々のお魚の手応え!しかも、巻き取る毎に重さを増す力強さ。
沖合いで食ったので、ジワジワと弱らせながら寄せつつ
しかし、寄せすぎると手前の沈んだ岩の陰へ入られてしまうので
距離を置いて浮かせるように、ハジメテ距離を置いたやり取り。
この距離を置くというのが通でして、なかなか強い相手ほど
顔が見たい物で、つい早く見たいがために焦りがち。
そこをぐっとこらえて沖で粘るのが難しくもあり、味があるのです。
これまでにない重さとスピードを持った急激な引き込みを繰り返すので
カンパチでもヒラメでも、ましてやホウボウでもない
こりゃ、マダイちゃうか?などとつぶやいて寄せてくると
案の定、魚自身が磯際を見た瞬間、
また下へとものすごい勢いで潜っていく。
しかもすごいパワー、よく考えて見ると、糸は以前より細くて
PEラインの2.5号、以前は3号だっだのですが
内地では細めで十分と思った矢先の出来事なのです。
引っ張り強度では十分ですが
摩れるとすぐ切れてしまう危険なPEライン
足元には険しい岩、最後まで強い引きの魚。
上がってきたのはヤッパリ「マダイ」でして
青黒い濃い海からピンクのメタリックの魚体がひらりと上がってくる。
しっかりと合わせてあるので、予想通り、がっちりと鈎をくわえていて
少々では外れない状況。
磯際では波が逆巻いているし、シブキもきついので、体が不安定。
タモ網を使うのをあきらめて、あのカンパチを寄せた竿の意地を見せ
一気にゴボー抜き!で磯の上へ。
大型リールのステラ10000Hが小さく見える)
50センチあるかなーと思ったら58センチもあって、
2.3キロの立派な、青いアイシャドーと
同じブルーメタリックの斑点をちりばめた美しい魚体。
日本を代表するお魚の王者、マダイが釣れてしまった瞬間でした。
午前7時半ころのことです。
春先、専門に狙おうと思っていたのですが、
こんなタイミングで釣れてくるとは、ルアー釣りらしい例外だらけの
釣果とあいなってしまったのです。
お腹からは貝殻やカニの殻や砂が出て来て、ひょっとすると
キラキラのボディの先に付けておいた、ピンクの毛が
ちょっとエビ風かイカ風にでも見えて食っちまったのでしょうか。
ともあれ僕の釣りの歴史に貴重な一頁を加えてくれる週末になりました。
そのあと、早便で熱海へ上がろうと
10時半ごろ最後の一回と投げたポッパーを追ってきたのはカンパチ!
チョトだけと思って、そのあと数回投げた時、深い青のなかから
飛び出すように水面のルアーを引ったくり
一気に深場へ駆け込んだのです!
あろうことか、いつぞやのブチキラレ事件のあった岩へ直行!
なんとか磯を駆け上がり、岩をかわした瞬間、ぽろりと外れました.....。
ポッパーはこれがあるんです、食いが浅く、よく外れるんです。
これは、早上がりなどしている場合ではない、そう思い狙い始めると
いよいよ波が上がって来て、乾いた服をびしょぬれにする大波が
ドカーンとやってき始めました。
どうもカンパチは波で出来た白い泡が嫌いみたいで
すっと滑らかな海になった時に一気に群れでポッパーを追ってきます。
すると、どれが食ったかは分からない状況で、糸がギューンと水中へ。
シーバスロッドが半月に曲がって、スゲー引き!
これは良い形だぞぉ、と慎重に鋭い引き込みをかわしつつ
上がってきたのはなんと40センチの当歳魚!!!
あの引きがこの子魚?とよく見ると、体型が幼魚のままで
大きさは2年目のものに近付いているのです。
今年は水温が高いので、成長が早かったらしいのですが
大きくても体型はそのまま、しかもカンパチは小さい時ほど
体高が高くて、こんな風にイサキのようなフォルムなのです。
だから、同じ寸法でも一際強いパワーを発揮するわけで
重さも900グラムありました。
40センチで900グラムといえば、スズキの2倍!
パワーが桁違いなのはそのせいです。
その後も何度か追ってきましたが、一度かかっただけで
やっぱりポロリととれてしまいました、無念.......。
(良く見ると前後の鈎とも、微妙に外向きにのされている)
まあそうはいっても、マダイとカンパチがそろったわけで
金曜夜のだるさはどこへやら、久々に勝利の興奮と
釣果安泰との開放感に浸りつつ、帰路に着く事ができました。
帰りのバスで、荷物の関係で最後に下りる事が定番となってますが
降り際に運ちゃんがどうですか?釣りは、とたずねてくるのです。
マダイが釣れた事を告げると、一キロくらい?というので
2キロ強だぞ!と念をおすと、ちょっと驚いた風。
これはマズイ!噂になるかも!と思って
「ルアーなんで、まぐれですよ」と取り繕うと
今度は、目がやけに真剣で
「毎年来られてますよね、毎回、結構釣ってますよね。」
と問い詰めるように、はぐらかしを覆してくるじゃないですか!
まあ、向こうにしてみれば、他の客と違いムキにならないままに
日が高くなってからバスで出かけて、それなりに釣果を上げるので
どうも覚えてしまった模様。しかも覚えやすいヒゲヅラと風体。
釣れる事広がると釣場が混むので、ほうほうの体で脱出し
遅い昼食を摂ったのでした。
日吉駅から我が家への途中、例の見合いまで企画する行き付けの酒屋
コトブキさんへ寄り、しっかりとブツブツ交換の予約をして
これまたおなじみのホワイト急便こと洗濯屋のまえで店長と遭遇。
どうも、もうひとりの奥様と、今日あたり釣りしてそうだと
話題になっていたそうです。
なんかこう、話のネタに、もてあそばれてしまう人生みたいですね
僕って.......、まあそれだけ分かりやすい生き方なんでしょうか。
予測しやすい生き方って言うか........。
魚を卸して、冷蔵庫に入れ、シャワーを浴びて物々交換へ。
マダイとカンパチの半身を提供して、いただいたのは
「日の丸」という勇ましい名の日本酒で、爽やかな香りと
スッキリとした甘みが、豊かな気分にさせてくれるものでした。
脂ノリノリの美味しい魚、スガスガしい疲労、気持ち良い酔い心地
久しぶりにすばらしい夜を過ごす事ができたのでした。
うんちく
マダイは40センチに成長するのに早くて5年、瀬戸内では7、8年といわれ
カンパチが当歳魚で40センチになってしまうのとは対照的。
白身のお魚は貝とかカニとか地味な食生活である場合が多くて
子供の時から小魚丸呑みのカンパチとは成長速度がまるで違うのです。
だから、釣りすぎると、すぐにいなくなりそうだけど、稚魚放流が異常に盛んで
まずもって絶対にいなくなる事がない、日本の魚の王者なのでした。
ちなみに今回の子カンパチは喉までキビナゴが入っていて、食欲旺盛でした。
それから、これはまだ調査中ですが、今回釣れた真鯛は顔が丸く
しかも受け口、下唇の方が出ている変わり者。
しかし、これは奇形ではなく、どうやら、少数の個体が持つ因子のようで
進化の過程で出た可能性の一つのようです。
もちろん、味は全く同じでしたし、小さな卵巣を持ち始めていました。
メスだったんですね。
罪深き長男、ぶんをお許しください、マダイ様.........。
魚のメスは食っても、人間のメスは食わない、ぶんでした。