久々に、夕焼けの見える帰り道、南日吉商店街を抜け
ふと空を見上げると、茜色の空が、どうにも南の島の生活を思い出させる。
この時間なら、まだ磯にたたずんで、ひたすら黒くて深くなった海原を見つめて
魚をねらっていることだろう....なんてことを。
そんな時決まって思い出すのはカスミアジなのです。
ご存知でしょうか?カスミアジを。
南洋に行けば、別段それほど珍しくないお魚であるカスミアジ。
南洋の島国では毒ヒラアジとも呼ばれ、イワユル「アジ」のわりにヒラッタくて
不思議と毒を持ち、シガテラ毒というメチャクチャ強くはないけれど
吐き気とか腹痛をもたららす厄介もの。
日本では安心して食べられるけど、今ヒトツ色が鮮やかなので
あまり美味しくないと誤解されがち。
ロウニンアジを美味しい!といわれる方も居るけれど
純粋に味だけ比べたら、ずっとこのカスミアジのほうが冷静に美味しい
というのが僕の見解であったりする。
アジの仲間には、それぞれ特徴的な高級魚の陣営がひかえています。
●いわゆるアジと、意外な中間達
アジの開きになってしまうマアジをはじめとして、プランクトン食のアジ類。
口は柔らかくて、薄い膜をもっていて、餌を飲みこむときは「ひょいっ」と伸びる。
内海性のマアジ、外洋性のマルアジ、すごい外洋性のムロアジ、オアカムロ、メアジなど
種類は豊富で、「アジの開き」のみならず、クサヤなんかにも変身して驚かせてくれます。
例外的にドエライ大きな「オニアジ」(マアジを拡大コピーしたような種で80センチ以上)も
いて、実に大きさ的にあなどりがたく、しかして、その味は?と疑問もわく今日このごろ。
主に温帯に住み、おなじみマアジは北西太平洋の固有種だったりもします。
●シマアジ系
寿司ネタとして聞いたことだけはある極超高級魚。スタイルはマアジを薄くのばして
平たくしたような感じですが、釣ったときの引きは後述のヒラアジ(ロウニンアジ)以上と
いわれており、恐るべきパワーで釣り人をホンロウします。
大島でも、かかったところは目撃していますが、切られてばかりで、釣れたところを
見たことがありません。
口はマアジと同じように薄くて鯉の様にホイッと伸びます。
ただ、食性は肉食系で海底の甲殻類やら、小魚系を食べているようです。
釣りをするときはイワシのミンチやブツ切りで狙います。
寿司ネタや市中で食べられるものは養殖なので、ふつうは正確な味見ができません。
ちょっと違う種ですが、カイワリといって、シマアジを更に平たくし、チョロQにしたような
寸詰まりなで小さなアジが稀に船釣りで掛かるそうですが、とっても美味しいそうです。
●ブリ、ヒラマサ、カンパチ、ヒレナガカンパチ
ゼンゴとよばれる側線に沿ったヨロイのようなウロコが特徴のアジ類ですが
ゼンゴのないこれらの種もアジ類です。
よく、見分け方が分からないといわれますが、カンパチは頭を上から見ると
八の字のストライプがあるので分かります。けれど、ブリとヒラマサは
平たくて、唇の後ろの所が丸っこいのがヒラマサ...と言う位しか差がないので
釣り人にも間違う人が多い。かくゆう僕も間違えた...。
ヒラマサ以外は養殖可能なので、店先のものは天然!と書いてあっても
普通は養殖ものです。温帯から亜熱帯に分布しますが、ブリは北限型で
かなり寒い海にも生息しています。
ヒラマサは30キロ、カンパチのたぐいは80キロにもなり
実は魚屋の陳列ケースには収まらないほど巨大化しますが
でかいとちっとも美味しくないので並んでいないだけだったりもします。
おいしいのは4〜5キロくらいまでで60〜70センチ程度です。
好みにもよりますが、ブリはでかくても油が乗り1メートルでも美味しい幸せ者。
●ヒラアジ系
ロウニンアジ、カッポレ、カスミアジ、ギンガメアジなど、1メートル近く成長する
肉食のアジ類で、南洋に住んでおり、シャープなピラニア風のイデタチです。
強力なゼンゴを持っていて、釣り上げた時に、喜びのあまり素手で尻尾をつかむと
付け根にある水きり(尻尾を振る時の水の抵抗を抑える形)のため
ヒトキワ鋭いゼンゴに手が切れてしまうほどです。(実際切ってしまった...)
ゼンゴ以外はとてもアジとは言いがたい形と大きさで、釣り味は抜群。
パワーとスピードとスタミナあふれるファイトが釣り人をとらえて放さないのです。
ただ、最近は、生態系の頂点であるためか、釣られた後の繁殖が進みにくく
現象と小型化が進んでしまっているようです。
ただし、大型化すると巨大アジいや大味になるので2キロから大きくて6キロ前後が
食べごろのようです。
いずれにせよ、独特の強い引きと赤身まで行かない、しっとりとグミグミ感のある
コクの深い味わいが、共通の魅力です。
今回、登場しているカスミアジは、そのなかでも、おなじみのカンパチに近いアジ?
味でして、カンパチよりも、もう一回り歯ごたえが強めです。
カンパチが記憶にない人は、ハマチから脂を少し抜いて
歯ごたえは一回り増強したような、そんな感じです。
カスミアジは僕が南洋に出かけて釣った、初めての強い魚でした。
(40センチ、1.1キロ)
たった40センチそこそこなのに、一キロ以上ある重量、スズキをはるかに越えるパワー
鮮やかで角度によって金色に光るターコイズのボディに、鮮烈なコバルトブルーのヒレ
目のまわりは黄色と念入りにカラーリングされています。
引きの強さの割に小さな魚体が複雑な心もちだったことを覚えています。
夕暮れではありましたが、最初に釣れた南大東の亀池港は
生まれて初めて見る蛍光ブルーの、石灰岩の海底を持つ海でした。
目がおかしくなるほど透明のブルーで、海面を見つめていて、他の場所を見あげると
ピンク色に見えてしまうこともありました。
実は、このブルーの海にマッチしているのが、別名ブルースターとも呼ばれる
カスミアジみたいです。
肉食魚は、基本的に小魚を海面に追い詰めて狩るので、やや深めにいます。
水面を見上げたら、ただの黒い影でしかないので、この青い魚体は役立たずですが
下に居るぶんには、深い珊瑚礁の色にマッチして、目立たない存在になります。
忍び寄るには良いのかもしれません。
小笠原で泳いでいたときに、目線の高さで目撃しましたが、
同じ高さだと実に目立つ魚体です。
コンディションや興奮度合いによっても色調は変化するように思いますが
死んでしまうと、想像どおりドス黒くなってしまい、不味そうな姿に変わってしまいます。
たそがれ時に、力と力のぶつかり合いを見せて、ようやく上がってきた魚体が
静かに波紋をたたえて横たわる姿は、何か胸に響き渡るものがあるものです。
(76センチ、6.4キロ)
宵闇にいっそう深みを増した色合いと限りなく透明な潮溜りの水が対照的で
しばらく不思議な感覚に包まれて見とれてしまったものでした。
日中釣れても、また美しく、メタリックターコイズの体が光り輝き
コバルトブルーが海より深い色合いで、目に染み込んできます。
(60センチ4.5キロ)
カスミアジは、よくルアーを追ってくる姿が見えるのですが
このコバルトブルーのヒレが見えるわけでして、この位置関係からも分かるように
背中から尾びれにかけてのブルーを倍くらいにしたら全長になりますから
予測はつきやすい魚でもありますし、追ってくると勇気づけられたりもします。
これは小笠原で釣れた人生最大のカスミアジで86センチ、8.4キロあります。
老成すると頭が大きくなり、でこが出てきて、オヒレはちびて小さめになっていき
ちょっとヨレヨレ感がただよってしまいますが、コバルトブルーは健在で
実に美しく、鮮烈なコバルトブルーをしていました。
最近流行りのGTことロウニンアジを釣っていても
あまり水面には出てこない用心深さと、美しさ、味覚としての美味さをあわせ持ち
躍動感あふれるこのお魚に、僕は既に釣られてしまったのかもしれません。
たとえ白身のお魚が釣りたくても、かならずカスミアジの姿をみなければ始まらない
そんな気がして、いつも南国の磯に立っています。
晴れ上がった空よりも、大東の海よりも深く鮮やかなコバルトブルーが待っている。
デザイナーをやってて、この魚の美しさは、どうしても人間の手では超えられない...
と、悟ったのもカスミアジでした。僕の求める「美」の原点でもあります。
ああ、夏休みは行けるかなぁ、また南の島へ...。