文化祭が平日にある高校

 


暑い昼のこと、

家に帰る途中にF本家具に立ち寄ったところ、ハヤシライスを食いに行こうという。

 

島にしては気の利いたメニューだが、まずもってハヤシライスのもとを使っていることが

瞬時に知れる。 なにせ地元の高校である。

ケナスわけではな冷静に・・・ ハヤシライスの美味いのを、食ったことがある親など

いやしないし、町内で食わせる見せもありはしない。

島内でもハヤシライスを食える店など、なさそうである。

 

送迎バスの整備工場まで持っている私学、樟南二高。

幸い整備工場の前には一台分の駐車スペースがあり、F本さんが事務所に断りを入れて

無事駐車に成功した。

次男のK太くんは柔道の特待生だったと思うので、F本家は結構な有名家族らしい。

顔が利いて当然である。

 

さて、出店のテントに着いてみると・・・・あらら? 初々しいジョシコーセーはどこ?

メイドじゃないにしても、エプロン姿とか、慣れない頭の三角巾とかは?

煮えてないニンジンとかじゃないの?? なんでイツモの枯れた感じなの???

平日だというのにご両親というかお母さんが、熱心に露店を営んじゃったりしている。

向かいには牛丼、牛スジ丼と、これまた強敵である。 私なら牛スジ丼に行きたいところ。

こちらはコダワリの父上らしい人が営んでいた。

幸か不幸か、ほとんど知らぬ顔、ちょいホッとしてみたり・・・

 

キレのない香りからして、とっくにハヤシライスのもとである。 しかも鍋で作ってるし。

ビーフシチューのジャガイモ抜きをご飯にぶっかけたヤツ・・・といった方が合点が早かろう。

固形ルーのデミグラスソースは、とてもタマネギフレーバーがきつく胃にもたれる。

既製品の安物ハンバーグに入っているタマネギ臭の原因物質と共通だ。

あまりツッコミたくないが、妙に缶臭いところもあるので、缶のデミグラスソースを

無駄にブレンドした可能性も大である。

缶よりルーの完成度が高いから、缶は臭くなるだけで、無駄・・・とは理解できぬだろうし

今さら言っても始まらぬが、我が口の中はエライコッタ。

この際記載するが、缶の煮物類の缶臭さは、日常の他の料理とブレンドできるレベルでなく

非常に缶臭いのであって、正に非常時以外は冷静に食してはならぬ風味なのである。

少なくとも、自分らの舌で判断していないものは、他人が何を言っても反論できぬ代物で

赤いナゾの煮物は、ドロドロと勝手に煮込まれ、ご飯にかけられ供されているのだった。

 

ま〜見た目は赤くて、カレーよりずっと爽やかなイメージである。

少々すえたデミグラスソースと、甘ったるい味付けに悩まされつつ、

思った以上の人気に驚かされる。 おそらく「珍しさ」パワーが源とも考えられる。

ジャガイモが入らないことで、煮ても煮ても味が深まる感じのハヤシライス。

こういったイベントには向いているし、カレーのようにやたら汗をかかずにむのも

好感がもたれる原因といえなくもない・・・が・・・くどいルーの味である。

肉は当然のことながら炒めてはなく、焼肉用だろうか?超薄切り牛の赤肉で、

恐ろしくまっすぐ平たいのが印象的。

 

大なべにトマト缶を3つほど加え、ナツメグとバジル、ケチャップ適量と

ウスターソース1本を加えると、もっとスッキリとした味わいになろうものだが・・・

脂物、甘味食材大好き民族には好適らしい。

 

たずねたところ

学生達の出店もあるのだというが、それにしてもお母様方の張り切りようときたら

とんでもないパワーである。 通りかかる人らに、ともかく食ってけ!という勢い、意気込み。

島民の人口など限られているから、意気込みのほどは都会の呼び込みなど軽く凌ぐ。

駅前のティッシュ配りなんて、幼稚園の演技・・・みたいなノリである。

食わせないと、必ず腐るくらい残る!と感じた主婦らの必至の呼びかけは続く。

 

不運にも

牛丼食ったあとで、ハヤシライスを食す先生方も、散見された・・・

 

それにしても、出店の料理の仕込み量・・・かなりのものだ。

平日なのに文化祭にやってくる、私のようなオッサン等が、まだまだいるということか。

っていうか、おそらく高校生が昼ごはんに食ってくこと前提のようでもある。

ソレにも増して、仕込み量が多すぎたため、親族友人その他に連絡が入る仕組みらしい。

 

食べている最中から、F本さんの奥さんが、ヤケに熱心に茶の湯を薦めてくる。

おそらく、高校でムリヤリ企画し、地元の茶の湯の先生にお願いしたのだろう。

島の風紀とは全く異なる儀礼だから、当然のごとく閑古鳥が鳴いて叫んで、

飛びまくって、ウンコまきちらかすくらい、誰も来ないというのが、様子から痛感される。

 

F本さんも、奥さんのモーレツな薦めっぷりに勘付いたようで、如実に嫌がっている。

が・・・結局、寒々とし、さらに着物のためにエアコンが効きまくって、なお寒い部屋に

突入してくハメになってしまっていた。

 

不思議と教室の半分くらいのスペースに、パッケージエアコンが導入され、

冷気に満たされた部屋は、戸を開けたらシュ〜と白煙が足元に下がってきそうなほど。

 

冷気が直撃するパイプいすに腰掛けていると・・・

ラクガンが大小2個、和紙の上に載せられてきて、それをいただいていると、

やがて、薄茶らしいのが運ばれてきた。

 

手元がやや盛り上がり、模様がなんとなく入ってて、そこが正面だという。

そしてややふちが下がったところで飲めというのだ。

景色がついているところが、正面だという。 景色・・・島人に解かる言葉だろうか。

 

早速、碗を回転させて、正面でないところから茶をふくむ。

薄茶の温かさが、なぜか恋しい・・・妙に美味しい・・・コレか、コノためか!?

この心の一服ために、エアコンの冷気を利用していたというのか!?

自大と共に変化する文化、茶の湯。 エアコンまで使いこなすとは、現代的にイトオカシ。

 

関西人限定だが、夏の近鉄電車から降りたとき、一歩目にムッとした熱気が襲うのに、

妙にホッとするような・・・アレである。 もちろん、その後はフツーの関西の炎天下だ。

 

ちなみに、職人があまりに整ってつまらない仕上がりのとき、わざと崩すのも

景色をつける・・・なんてこともある。 この茶碗、どっちだ? もともと整ってないけど。

学習用なのか、見事に同じように整ってない碗があつらえられているのが面白い。

 

やっと儀礼が終了し、それでも奥さんが愛想で話をつないでいる。

と・・・アカラサマに嫌そうな顔が写っていた。 心のない会話に嫌気がさしている。

そんなご夫婦の様子を、碗で隠すようにしながら向かいのお客は茶をたしなむ・・・

なんともいえぬ、茶の湯の醸す妙な空気、思わずシャッターが進む。

 

シニカルな私を避けてか・・・お茶の先生方は、遠ざかっていく・・・

こういう茶の席で、何を話すのか・・・すらビミョーである。

一から十まで、困った空間、解釈に苦悩するモテナシのひと時。

 

ところで、さっきから気になっていたが

博文約礼ってなんだ? 知らぬ四字熟語だった。

しかも友愛、至誠、進取?? 進取ってナンだ???

左側の細かな字は校歌。 教室に校歌があるのも珍しい気がする。

 

博文約礼は、結局調べたけど、その説明文章が理解できぬ。

う゛〜む、学問を究め道理を覚り、礼によって実行する・・・? って何をだ??

先生に成れってことか??? 学問で知れることなんて、文字通り知れている。

学問に道理があれば、原子力や戦はなかったろうに。

漢文的に視ると、博識を得て、礼を約すべし。

学んだ事柄を、常に礼を守って役立てよ・・・ってことかな。

 

進取とは、積極的に行動することらしい。 進んで取り組むって感じだろうか?

私の人生でもっとも縁遠い言葉だから、知る必要が無かったようだ。

書くのは好きだが、読まんから、知らぬ単語は数知れず・・・ が、さして困らぬ。

 

ちなみに関係ないが

ご存知の向きもあろう我が座右の銘は、現代においてトテモ的を射たものだ。

「信じる者は、皆だまされる」 どうだ?博文約礼よりも、千倍は実践的、実質的である。

 

さて、

相当なダメージと無駄な時間を過ごしたからか、F本さんは早々に帰ろうという。

帰りしなの車中つぶやいていた。 「子供の運動会とか文化祭に来たの、コレが初めてよ」

 

お後がよろしいようで・・・ っていいのか? ソレで?

 

お店があるから、どちらか一方が留守番する必要があった・・・んだろうよ、きっとな。

私は、返す言葉に困り、エアコン以上に、ひんやりした空気に包まれた車中。

 

平日の文化祭、くれぐれもビミョーなものであった。


ではまた