久しぶりの帰省、年末の一日

 


雨の朝、F本家具のご主人に電話して、空港に送ってもらう。

一時間以上前に空港に行くのが私流だが、あまりに早く感じたのか

干潟を回って、鳥類観察へ。

F本家具のご主人も野鳥の会員だが、こうして同行するのは初めて。

寒い雨の日はカニが穴から出てこず、鳥はまばら。

ハマシギとキアシシギがエサをついばみ、カワウが舞っていた。

どこへ行ったのか、ヘラサギたちも見あたらない。

とても寒く、さびしい干潟である。

 

ともかく私は、無駄に不安がつのるから、

先に先に処理して不安が膨らまないよう、

待合には早々と行くことにしている。

 

干潟を回っている間も、玄関に鍵がかかっていないかもしれないとか

早い便に乗っても、結局いつもの時間に到着するのではないかなど

無駄に不安が膨らんでいく。

 

その朝も、ずいぶん吐き気がしていたし、胃が変だった。

たかが帰省する程度で、ウツっぽさが出るとは思わなかった。

いつもユルユルの生活をしているためなのか

あるいは、やはりウツっぽさは増えも減りもしていないのか・・・?

 

ともかく私の精神は、湧き上がる不安でオカシくなっていた。

分かっていても制御できないほどに、イライラそわそわする。

 

不安な観察を終えて、空港に送ってもらい

やっとカウンターでチケットを手にし、カバンを預けた。

 

せっかくだから

パソコン教室の生徒さんが営む空港売店へ行ってみる。

土産の菓子を購入しようとすると、端数切捨てでいいという。

端数は2割近いぶった切りで、かなりの値引きになってしまう。

悪いなあと思いながら、甘えておくことに。 

 

送迎といい、値引きといい、島らしいというか

島の人たちはとても情に厚く、親切を貸しておかないと

気がすまない性分なのだ。

 

おかげで少し、気持ちがほぐれた。

 

待合では、不思議なことに誰一人として顔見知りに会わなかった。

とても稀有な感じがする・・・ 満員でのフライトなのだが。

 

久々のフライトは、帰りたい気持ちより

この風景から遠ざかることが寂しい感覚になっていた。

わずかに見える島の海岸や風景が、とても愛しいことに気づいた。

 

あまり眠れなかったためと、朝早かったため、ウトウトしてしまった。

 

鹿児島空港に降り立ったとき、かすかに雪が舞っていた。

ジェットでなくなったら、いきなり2時間以上乗り継ぎに待たされる・・・

なのでゆっくり土産などを見ていたら、豚味噌が目に入った。

豚味噌なら、土産には好適である。

日持ちするし酒飲み一家にはうってつけだ。

 

が・・・

鹿児島本土の豚味噌は、味噌に豚肉が手違いで入ったとです程度。

豚風味の味噌だから土産として情けなく感じられ、手が出せぬ。

 

前日、当部集落でいただいた島の豚味噌とは、まったく趣きを異にする。

(豚味噌はコレが正当!)

島の豚味噌は、皮付き二枚肉に味噌がからまったもので

味噌を食べるのではなく、具である肉の方を食べるのである。

主役は味噌でなく、具の方なのが島流。

これだけ具沢山でも、比率は味噌と豚が1:1くらい。

 

その他イロイロあって・・・鹿児島の土産はダメと確認したので

つぎは食事でもと、麺屋を探してみる。

手荷物検査の内側にはたいした店がないので、到着ロビーを出て

空港ビル内を探索してみることに。

 

和麺が、普通に美味しく食べられそうな店を見つけた。

待合いにある店の冷凍麺の空麺?のそばもけっこうイケルが、

一年ぶりなので、ちょっとゼイタクしたくなったのだ。

 

内地に戻ってきて、最初に食べるご馳走は日本そば。

その店のオリジナルだろうか? 黒豚そば・・・ちょっと気になり

ご当地っぽいので、つい食べることにしてしまった。

このごろ、あちこちのご当地商品が気になる。

 

さっと煮た黒豚の上に、しらがネギがトッピングされている。

なのに青ネギと柚子コショウが薬味でついていた・・・鼻から微妙・・・?

それには理由があるようだ。

出汁の上には無数のコテッとした脂が浮いている。

豚のスープに、そばのカエシで調味されているようである。

脂っこい上に、かなり甘い・・・徳之島の甘さの理由が分かった気がした。

味覚まで鹿児島に征服されているのだ。

(※カエシ=そばつゆに用いる、しょうゆとミリンや砂糖などを煮てから

  寝かせて味を馴染ませてある、薄めることを前提としたタレのような液体)

 

ちなみに

空港内に売っているツケアゲことすり身の揚げ物は

甘さひかえめ・・・だそうだ。

そもそも、甘いことが前提というのが不思議・・・

混ぜ物を変えた無理なバリエーション展開も重ね重ね愉快だが・・・

これをもらったら来る日も来る日もツケアゲである。

いささか具がかわったといっても、そりゃ飽きるわ、甘いし・・・

 

いろいろあって土産探しをあきらめざるを得なかった理由の一つが、コレである。

蒸しパンっぽいカルカンって何語?(笑)

米粉が入っているような食感だが、ニオイがイマイチの鹿児島銘菓?だ。

鹿児島の土産は、底抜けにオカシイ。

 

まー、島の空港売店でクリーム大福シリーズ

マンゴー味とムラサキ芋味を買ってあるので、無理することもない。

島のクリーム大福というのも、かなり底知れぬ・・・が。

 

さてさて、土産談義は置いておき

久しぶりのそばを口に含むと、いっしょに脂がなだれ込んできた!

このクドサには、青ネギどころか、おろしショウガも欲しくなる。

 

コウダイが高いドンブリなので、中華やラーメン屋では出てくるレンゲはなく

熱くても男らしくドンブリを持って食せ! ということだと解釈した。

ドンブリ自体は案外扱いやすく、熱くないコウダイのおかげで食べやすい。

が・・・味の方が食べやすいのとは別問題である。

それに、ドンブリをもつ親指にキトキトぬるぬるの脂がついてしまい、

次第に滑りやすく気持ち悪くなる。

 

汁まで飲み干すと、甘さ、熱さ、柚子コショウの辛さで、

口の中が麻痺してしまった。

二度とひっかかってはいけないそばだと記憶された。

 

ところで

帰省では空路も電車も行程が細切れなので

バゲージに預けたカバンに、パソコンが入れてある。

頑丈パソコンだが、必ずフラジャイル扱いになる・・・

むしろ、ヤマハの小型スピーカーの方に注目して欲しいのだが。

 

たまにはパソコンでなく、ノートに思うことを書いてみようと思い立つ。

が・・・あまり書き心地の良くないメモしか手元にないので

空港内のお店を探してみるも・・・コンビニがない。

 

先ほどのそばを完食して勘定するとき、オネーチャンに聞いておいた

サンクスとローソンのうち、ローソンを目指すことに。

 

空港を出ると、なぜか西郷さんがにらんでくる。

徳之島にも西郷公園というのがあるが、空港前にもニワカ造りの

西郷公園が存在していたのである。

島の西郷公園は、西郷が政略で流されてきた際の「たっ居」の跡だ。

西郷が鍛錬に使った石まである。

コチラのような派手さはないが、実際に西郷が歩いた場所である。

 

それはそうと

空港を出てしばらく歩くが、レジの彼女が示した方向には

影も形も見えてこぬから、ついに携帯電話で地図を見てみた。

すでに、だいぶ近づいたはずのローソンは、まだ先に1.5キロ・・・

サンクスが戻って1.3キロ・・・サンクスに変更することに。

 

田舎らしい国道が通り、沿道にあるサンクスがオアシスに見える。

釣りに行っていた頃、全国のあちらこちらで見たような光景。

 

ずいぶん空港から遠いなぁ、オネーチャンの答えるまでの間(ま)は

思ったとおり、この距離感にあったんだろうと想像がついていた。

 

思った以上に、周りに学童がいないのか、ちいさなノートしかなく

或いは学童以外に、こんなチビノートを誰が求めるのか気になる。

まさか空港から歩いて買いに来るヤツは、私以外にはいないだろう。

どれもイマイチだったが、A6でページ数の多いノートにした。

ポケットに入るので楽である。 残念ながら3色も4色ボールもなかった。

 

しかしこれが、本当にサンクスの品揃えなのか?と思うほど。

微妙に、サソワス?とか書いてあったのだろうか・・・

 

肩に、機内持ち込みしている10キロ強のカメラ機材の重さを感じつつ

えっちらおっちら空港にもどり、出発ゲートわきのベンチで

ヨシナシごとを適当に記して時間を過ごしている。

 

すると、もうじき登場時刻というころ、バスを入れ替えているので

お待ちくださーい、という声がする。

 

あらら? なんでバスなんだ?

 

ななななななんと! 大阪行きの便までプロペラ化されていた!

いわゆるボンバル機という、子供の頃憧れたサンダーバード2号よろしく

胴体着陸しても大丈夫という、実績ある機体なのだ・・・

まー、島からもそうだったから、別にいいかと思うが、

乗り換え時間が長すぎる。

ちなみに私は、安定感のある飛行をするので、ボンバル機が結構好きだ。

確か、鹿児島から大阪のフライトは1時間15分。

ジェットである必要はないが、乗り継ぎの悪さは問題だ。

ANAに乗り継げば、もっと早く帰られるのである。

 

伊丹空港着陸後、20分で15:00発の上本町行きバスに乗り

所要時間35分で上本町に到着後、15:51発鳥羽行き近鉄特急に

乗らなければ、次の特急は結局1時間後となり

ジェット時代の12:30徳之島発に搭乗したときと同じ特急になってしまう・・・

朝早い9:30発の便で出かけた意味がなくなる。

 

クリスマスの日曜午後、阪神高速は意外にも混雑気味であった。

ゆるゆる走るバス。 不安は募るが、仕方ないことだ。

 

仕方がないのだが、やはりウツ系思考なのだろうか・・・気が落ち着かぬ。

ノイズキャンセルウォークマンで、オジサン向けインストルメンタルロック?

のようなDIMENSIONの曲を聴こうとするが、余計に落ち着かない。

 

思ったより渋滞の影響は小さく、15:41ごろ上本町のターミナルに到着。

急いで切符売場に飛び込んだのが46分ごろ。

販売するオネーサンはテキパキと処理して、すぐに切符を渡すのかと思ったら

「すみませんが、一番後ろの席でよろしいですか? 荷物が大きいので」と説明する。

 

すごい!すばらしい! 頼もうと思う前に気がせいていたので

ともかく乗ろうと思っていたが、近鉄の社員教育は行き届いているぞ!

そりゃもう、即座に結婚を申し込もうかと思うくらい、イイ女性に思えた。

 

嬉しさのあまり「ありがとうございます!」としっかり頭を下げ、足早にホームへ向かう。

15:47・・・とても長い1分だった気がする。

 

オネーサンはホームまでの時間が1分程度と分かっているので余裕だったが

私はソートー慌てていた。

改札からすぐに特急が見えたとき、ほっとして時計を見ると、少々余裕がある。

といっても、あと2分くらいである。

 

最後尾の座席の後ろのスペースに旅行カバンを押し込み

一度はパソコンを取り出そうと思ったが、そのままにし

先のノートを片手に、シートに収まった。

近鉄特急は全席指定なので、ゆったりと安心して乗っていられる。

新幹線と同じ幅の軌道で4席乗車だから、新幹線より広々している。

 

やれやれ・・・ジェット時代の3時間前に出たが、

1時間だけアドバンテージが得られたことに、ようやく安堵できた。

 

ゆるゆるとホームを走り出すころ、ノイズキャンセルウォークマンを再生し

おもむろに肘掛けからテーブルをとりだし、セットしてノートを開いた。

クリスマスの土曜午後だが、とても空いている車内。

 

大和八木に着いたら、客が入れ替わったが、それでもほとんど増えない。

京都からの乗り換え客が乗り継ぐ駅である。

年末に奈良や三重に行く人は少ないのだろうか・・・

 

ノイズキャンセルの静けさの中で、音楽に耳を傾けつつ

流れる八木の街並みに、我が人生の一年など・・・思いふけっていた。

錆びて崩れたような家並みはなく、整然とした家々が並ぶ姿に

いささか異様さを感じる感覚が不思議だ。

見渡す限り、街並みが続くのにも、気分がめいる。

こんな場所に住んで、幸せと思える感覚・・・今となっては理解不能だ。

 

そんなとき、オバハンが足早にやってきて車掌さんに訴えはじめる。

 

「あのー 八木で降りようと思たんやけど、乗り越してしまって・・・

 次の駅までどうしようもないですやろか・・・どうしよ 困ったわー・・・

  もうじき着くて、さっきメールして、駅前で待ち合わせしてたんです」

 

無論、車掌さんにもどうすることもできぬ。

奈良県の大和八木の次は、三重県西部の名張(なばり)である。

 

ま、なんだな・・・

こうしてクリスマスに寝過ごして引き返すゼイタクというのも

悪くないんじゃなかろうか? などと、考えてみたり。

榊原温泉口を目指す道すがら、車窓は雪景色になった。

 

こうして、ぼんやりウトウトしながら、風景は流れ

名張、伊勢中川、松阪、伊勢・・・無事1時間早く伊勢に着いた。

 

のだが・・・

 

なぜか、宇治山田駅には、久しぶりのオヤジ殿の笑顔とともに

念入りに奈良キャラが出迎えていた・・・・・・・・

日本史上もっとも破綻しているキャラ、せん○くんだ!

あれ? こんな感じだったよなぁ・・・なんか、よく分からないわ。

地蔵にツノを生やしてある、無礼千万、意味不明、超絶不快キャラ。

泳いだ視線と、微妙にどこかを触りたげな手つきがイカガワシサを醸す。

結構歳いってる、可愛くない、欲しくない、覚えていたくない。

 

こんなんに侵略されるようでは、伊勢もヤバイ立場なのだろう・・・

商店街がシャッター街になっていることは事実だ。

 

宇治山田駅の外に出ると、17:40ごろ。

島なら日没直後でまだ明るいが、伊勢ではすっかり夜になっている。

さびれた駅前だが、島のどこよりもニギヤカな夜景・・・

以前は田舎の風景に見えたが、今ではド派手な景色に感じられる。

 

久しぶりの伊勢の空気は、

季節風のためだろうか、島並みに澄んでいるように思えた。


こうして、内地で暮れと正月をすごすことにしました。

皆々様、今年も読んでいただき、有難うございました。

良いお年をお迎えください。


ではまた