閑静な職場とクロウサ

 


平日は企画課、

週末は商工水産観光課のお仕事である。

いきなり働きすぎだ・・・

 

町内の山中にある集落、当部(とうべ)には

公設のクロウサギ観察小屋がある。

週末、いきなりそちらへ左遷された・・・?

周囲はクロウサギが出没するダムと

鳥のさえずりが絶えない森林で、極めて安らかな職場。

 

一方、

室内は見た目こそいいが、いたって騒々しく、

換気扇と映像録画機の音がこもっている。

9月初旬から、仮稼動中の監視カメラには

夜な夜な出現するクロウサギが撮影され続けていて

そろそろハードディスクが一杯になる時分。

データが消えるのには、いささかの悔しさがあるので

協力させてもらうことにしたのだ。

 

ついでに先月取材した、観察小屋近くにある

巨大ドングリのウラジロガシの実が色づいた頃だろうから、

ついでに撮影しておく意図もあった。

 

観光課長には、DVDに書き出すのは遅くて不便そうだからと

USBメモリー16GB品を頼んでおいたら、2本も購入し

一週間と経たないうちに届いていた。 す、素早い・・・

 

池上通信機製、SDR-409Dというハードディスクレコーダー。

簡単に言うと、やたら外部入力の多い、家庭用DVDレコーダー

といった感じのものである。

当然、外部入力には赤外線センサーや、監視カメラなどが

接続されるという業務用の代物。

代物だから白っぽい色ということはないが、白っぽい。

確かPソニックのは、オーディオミキサーで総理大臣賞を受賞した

辣腕(らつわん)デザイナーA井が、シルバーとコバルトブルーを配し

新風を吹き込んだジャンルの商品だ。

 

元気かな、A井・・・僕が知る限り、ほぼ完璧な人間と思ったが

薬が主食のような、実は病気にさいなまされる男だ。

強くて、厳しくて、優しくて、ちょっとクセがあって

工業デザインで、彼以上に頼りになる人間はなかなか居ない。

彼が倒れたら、日本の工業会にどれほどのダメージか!

そういう男である。

 

あらためて

彼が新風を吹き込んだジャンルだな・・・と感慨深い。

でも、池上のは、操作も分かりづらいほど、ただ白い。

業務用だから、これで当たり前、とばかりに

横柄なデザインで、だれしも操作する気がなくなる。

高額なわりに、全くありがたみの無い物体であった。

 

警備の世界に遊び心など全く無い!などと

夏でも木枯らしが吹くような、殺風景な業界である。

 

それはそうと

かつてのライバル商品を、実際に使うことになろうとは

想像していなかったし、このジャンルの商品に

現場で相対するとは、世間は狭いのだろうか・・・

 

幸い、仕様書に書いてある内容は全て理解可能で

請け負ってみて、あらためて勉強になる。

が、何のための勉強は良く分からない・・・

 

しかしま〜、エーカゲンな仕様書と取扱説明書だ。

納入仕様書なのに、ハードディスクの容量が記載されていないし

取扱説明書はPDFのプリントアウト。

それらを安っぽい紙のファイルに納めただけのものだ。

 

沖縄のパイオニア電設という業者、なかなかのツワモノだぜ。

沖縄や奄美の野生生物保護センターで実績があるらしいが

この体たらくでは、他にはもっと怪しい業者しか居ないか

あるいはまともな業者が、南西諸島には存在しないのかもしれぬ。

カメラの設置に関しては、一応のスキルは持っているようだ。

問題はあるようだが・・・

 

基本操作は簡単なのだが、メニューの選び方などが

実に雑な説明文で表記されているのみ、

画面に現れるメニューもチープで初代ファミコン並みである。

 

しかしながら

名前は4文字までで、濁点も1文字に含まれますといった

制限事項は克服されているようである・・・

 

対して、監視カメラは赤外線LEDを装備した

なかなかキレイな映像のカメラである。

ICD-879デイナイトカメラ(昼夜両用)を3台配備している。

 

が・・・うち2台はピンボケ状態で設置されていた。

パイオニア電設よ、もう少し真剣にやらんね?

そうか・・・真剣という言葉が南西諸島に無いなら

せめて真面目にやらんね?

ピンボケがウソかホントか確かめにくるといい。

 

多少困った設備だが、

自治体としてクロウサギ観察できる装置を導入したのは

世界初の試み、動いてくれていて感動である。

しかも、記録早々クロウサギが写っている。

 

USBメモリーへ

最初の記録日から二日目の朝までを

テスト用として書き出し始めたが、

二時間ほどで63%とは、少々遅すぎるように思う。

USBメモリーの書き込み速度を大分下回っている。

 

晴れる予報だったが、時折ザーッと勢いの良い雨が通る。

内地的に表現すると、集中豪雨というたぐいのもの。

島では単なる通り雨レベルである。

こうした西からでなく、南西からやってくる雨雲と豪雨に対して

奄美地方で降ったことを報道すれば、内地でも安易に予測できるが

そういう文化は全くない。

 

こちらのスコールだった雨雲が到達し

紀伊半島で時間60mm豪雨!などと報道されるのを聞くと・・・

慌てるまでもなく、本来ならとっくに分かっとろうが、

と呆れるばかり。

 

雨に慣れている島民にも、多少鈍いところがあって

雨くらい慣れっこよ的な顔をして無視しているが

コンクリのドブ板が何ヶ所も浮き上がって、ずれていた。

ま、それ以外は、畑から大量の土砂が道路を川として

海へ流れ去っていくだけだから、あまり実害がないようだ。

道路に畑の土砂が積もることも日常茶飯事。

確実に表土が流れ、土砂が失われていくことに

あまり頓着しないようだ。

牛小屋は水浸しになり、牛さんの醸した臭いただよう

変な汁は、やはり海へ流れていく。

海は排水池、兼、ゴミ捨て場という習慣がしみついている。

 

閑話休題

あまりにも遅い書き込みに、いったん中止しようか

一度は書き込んで、一日の容量サンプルを取る方が先か・・・

 

こんなこともあろうかと

役場の仕事に裸族をからませるのは、いささか迷いもあったが

我が家で遊休品となった250GBのハードディスクを

直接つなげてデータ取得する方が早いだろうと、用意しておいた。

南国での使用を考え、

背面から直接ファンで冷却する機種を選んであり

裸族シリーズ特有の、ハードディスクを裸で使うようになっている。

無駄なものがないから、かさばらない反面、扱いは気をつかう。

幸い、南国は湿気が多く、静電気で回路が破壊する率は低い。

 

部品単位で入手するので、とても安価だが、

官費でバルク品を購入するというのは、かなり裏技系だと思われる。

 

ちなみに、

この装置(下の部分)は「裸族のお立ち台」シリーズという。

なお、現在はかなり涼しいので、私生活は裸族系からシフトし

Tシャツとジャージズボンを羽織っていることが多い。

 

課長!ランニングコストを考えると、

裸族のお立ち台がオススメです!と皆の前で言えそうにない・・・

役場の注文書に裸族のお立ち台クール、とか書けそうにもない・・・

 

この職場の最大の弱点は、トイレがないことである。

離れた集落でトイレをかりるか、その辺でマーキングするしかない。

むろん、ヒタスラ我慢という手も残されているわけだが。

 

ナンヤカンヤで基礎データを取るのに一日かかった。

1日10時間分のデータを書き出すのに、3時間50分必要で

データ量はDVD一枚分を超え、5.4GBもある。

720X240で秒間数コマだけれど、3カメ分あるので

書き込みデータを変換しながら吐いているのか

それとも、録りながらでも吐くことができる仕様だから遅いのか

良く分からないが、ともかく超絶非効率的なコピー作業だ。

 

想像通り、裸族で一気に読み出すのが効率的だが・・・

どうしたものか・・・

 

そんなこんなで、

2回データを取っただけで夕方6時過ぎになった。

いきなり残業だぜ・・・

途中、Aコープの土曜特売たまごと洗車へ行ったけど・・・

 

どっぷり日が暮れてしまって釣りも手遅れとなった。

次の朝、ボランティアのゴミ拾いなので夜遊びは禁物だが

どこかエネルギーが余っている感じがあるので

久々に晩酌前観察へ行ってみることにした。

 

南国とはいえ、いまや6時前には日没である。

クロウサギの食事時間は、相当前倒しになっている。

 

法面工事で、クロウサギがさっぱり出なくなった県道へ。

町内だが、片道15分くらいかかる。

 

さっぱりクロウサギが出なくなって、虚しいばかりだったが

最近、ちらほらと出現していると情報が入っていた。

 

そしてつい先日、

課長から逃げない子ウサギを見た!との情報があった。

ひょっとすると、見られるか・・・と思ったが往路では出ず。

仕方なく、少し離れた林道入り口まで行ってみるも空振り。

復路、すれ違う車もチラホラあって、クロウサギが居ても

引っ込むかな?それとも食欲が勝るかな?と

運転しつつ半信半疑の葛藤がつづく。

 

戻る途中、キビ畑のなかで声がした。

止まってエンジンを切ってしばらく・・・ガサガサと音が。

姿は見えぬが、案外元気そうだな。

 

再び走りだし、法面工事の峠を登って下る。

 

法面のコンクリがなくなったところでムクムクの黒い影!

駆け上がる法面が急すぎたのか、

逃げるのが面倒なのか、途中で停止。

顔の形からすると、オトナでもなく

巣立ったばかりの子供でもない。

今年の春先に巣立った子供ではなかろうか。

 

車のエンジンは回っているままなのに

ふと、開発中だった鳴き真似をやってみた。

 

おおっ!? こっち向いた!

しっかり聞くではないか!

 

2度試したら、

2度とも反応してくれたから、イケていると思う。

 

方法は簡単、歯笛の要領で前歯の隙間から

クロウサギが出す声と同じような

とびきりの高周波をピシーッ、ピシーッと出しているだけ。

人間が聞いても似ていない。

 

動物の鳴き真似は、ガキンチョにはバカにされるが

人間が聞いて納得する必要は全くない。

 

ちなみに、開発中その2はカラスバト。

犬の門蓋(観光地となっている最寄の磯)へ散歩しつつ

実験しているが、こちらもまずまず。

ウーウー、ウウウウウ、ウーウーと、喉の奥で鳴く。

口笛ではなく地声を使うのが、新しい♪

 

アタフタと飛び始め、必ず見える茂みの中へ飛び込み

こちらをうかがう仕草が観察できる。

冬場は良く鳴き、声に反応しやすくなるようだ。

もう少し実験すれば、何か分かりそうである。

 

ともあれ

午後8時前に観察することができ、かえってゆっくりと

晩酌を楽しむことができた。

クロウサギをもう一度じっくり、モニターで観察しながら。

 

クロウサギが戻ってきてくれて、本当に嬉しい。

鳴き声に反応してくれたので、もっと嬉しい。

 

友からの電話で

何か明るいな、彼女でもできたか?と問われ

ま、そんなようなもんだと言ってしまったが

こういうことだったんだ、ワリーな♪

 

ところで

一日5GB以上のデータを全て蓄積しておくなんて

現代のテクノロジーとコストでは難しいと思う。

そっちはどうしようかなぁ・・・

 

一応、マニュアルを読んで

後で編集しやすいよう、動体検出機能を設定しておいたが

近くを通る虫や、落ち葉にも反応するから、

はたして使えるかどうか・・・

 

遠くのクロウサギも同じ大きさだから仕方ない。

ともかくも、アレコレ実験しながらやっていくしかあるまい。

 

動物相手というのは、失敗の連続こそが

成功への近道のようにも感じるが、

もっと近道もあるような、ないような・・・

 

要は、犬猫が居なくて

アクの少ない草の若葉やシイの実などがあれば

食べに来るわけなのであって・・・

それって、現代社会では難しいことなのかなぁ。

 

鳴き真似にコチラを向いても、

寄ってきてはくれないから、悩ましいこの頃であった。


ではまた