危ない昼と変な夜

 


徳之島は相変わらずムンムンの湿気で

暑さはジリジリ焼かれるようだが

横浜の遠赤外線の炭火で蒸し焼きにされるような感じと違い

日陰で風に当たっていれば十分すごせる。

南国でちょっとした避暑気分が味わえる、妙なことになった。

 

ただ

長男が訪れる前、七月はとんでもなく暑かったらしく

林道へ行っても静かだ。

鳥もセミもすごく少ない。

心なしか、蚊も少ない気がする。

 

新調したレンズを片手に、林道をあちこち巡ってみる。

出発の朝の、さらにもっと早い朝(二時)にOちゃんからメール。

クロウサギの林道が土砂崩れで、車が通れないほど

土砂に埋もれているというのが気にかかる。

 

撮影は思った以上に大変で

持ち歩く重さとしては5キロ弱なので、普段通勤で持ち歩く

5キロ半のカバンに比べたら軽く、苦にならない。

が、構えると一変する。

集中して撮影しようとすると、すぐ数分が経ち

腕が疲れ、震えが来て撮影できなくなってしまう。

カラータイマーが必要である。

  

都合、1120mmの長大望遠鏡レンズだから

手ぶれ補正があっても、ブレが止まらない。

 

でも、多少ブレていても、これまで以上の観察ができる

細かな写真が撮れるので無闇にがんばるのだ。

 

しかし、最初に想定外が訪れた。

 

小笠原以外、鳥が向こうからやってくることは

モビング(種を超えた、集団威嚇行動)以外ないと思っていた。

 

手々林道で最初に遭遇したのは

昨年秋にアレコレ悩まされたタッタッという声の持ち主だった。

 

ん?サメビタキ???

 

撮影しながら、ついタッタッと舌打ちして鳴きまねしてみると

向こうから寄ってくる。

かなりの勢いで寄ってくる。

サメビタキ系でそんなことはなかった。

一羽は幼鳥のようだったが、すばしこくて重いレンズでは

追いきれない・・・てゆ〜か、画角が2度くらいしかなくて

レンズの前がでかいのであいた左目で前方を見たくても

レンズが邪魔で見えないから、鳥がどこにいるか分からない。

これにはホトホトまいっている。

 

それでも何とか接近し過ぎる前に撮影できた。

ちょい手ブレしているが、まあテストにしては上出来じょうでき。

その後、3mくらいまで寄って来てしまい

ただ呆然と観察するしかなかった。

 

調べてみたらエゾビタキである。

サメビタキに近いが、好奇心が強いのはエゾビタキの特徴だろうか。

【訂正】
胸のマダラ模様が微妙だったのでモズ博士Tに調べてもらったところ、リュウキュウキビタキの若鳥とのこと。素人の長男には、ヒタキの同定は難しい!

 

遠いが、車から降りずに、レンズを車のミラーに置いて撮影した

アカヒゲのメス。

オスを撮りたいのだが、オスは更に暗い

沢の岩の上に居ることがほとんどで撮影してもブレるばかり・・・

(すでに逃げ腰、直後に森の奥へ)

それでも、豆粒くらいだった写真が

特徴が見て取れるくらいにはなってきた。

 

アカショウビンの姿も極端に少ない。

ただ、山に入ると、アカショウビンは景気良く応えてくる。

長男の口笛も3年目に入り、結構キョロロロロロっという声も

堂に入ってきたのだろう。

不思議と今年は親が来ないが、子供がすぐ目の前の枝にやってくる。

だが・・・当然動くと逃げてしまう・・・

こちらも、車から降りないで撮影に成功。

(置物みたいだ)

逆光そのものだが、成長したアカショウビンの幼鳥が

初めて鮮明に撮影できた。

胸がまだ赤くなくて、アカショウビンになる前の進化の過程を思わせる。

  

これに気をよくして、少し遠い別の林道へも行ってみる。

舗装されていなく、アカヒゲの多い山奥である。

しかし、尻尾が格別に長く、青いアイリングでトロピカルボイス

ヒーホレヒーホイホイホイ

聞き方によってはDVDホイホイホイ、と聞こえるサンコウチョウが

2羽しか確認できなかった。

しかも声だけ。

普通なら鳴きまねをすると、子育て中の親鳥がすっ飛んでくるが

ひょっとすると今年は繁殖をあきらめたつがいが多いのかもしれない。

 

仕方がないので、林に自生しているハイビスカスを撮影し

重いレンズを下にして、撮れ具合をチェック・・・

すると視線の向こう、足と足の間にフニョン!と動くロープが?

網目模様に三角頭!

 

うわっ!

 

毒蛇をぎりぎり踏まないでまたいでいる。

ハブか?ヒメハブか??

良かった、頭をもたげているがかまれずに済んだ、というか

ひょっとすると靴を噛んでいるかもしれない。

久々に肝が冷え、蒸し暑さが吹き飛び、心身ともに冷やされた。

(また林道の真ん中で寝てしまった・・・)

 

その後、林道の土の上に足を下ろせなくなってしまい

早々に退散することに。

(アカヒゲのオス、幼鳥)

帰り際、暗い森の中でアカヒゲのオスの幼鳥をブレブレで撮影し

続いて林道出口のため池でカワセミを発見し、窓にレンズをもたげて

楽チン撮影してから撤収。

(時折上を気にする)

餌取りの飛込みには追いつけないので

まったく止まった姿しか写せなかったが、とんだところで

じっくりカワセミを撮影できた。

 

朝食中に

天城町役場のYさんが、役場に顔を出すように連絡をくれたので

役場へ向かいたいが、例のOちゃんメールの林道へ行って

あわよくば開通しておきたいと思っていた。

 

山海荘で、スコップを借りてきており、土砂を何とかしようと。

 

ほとんどのところは何とか車が通れるが、最後の土砂崩れは

大きく道をふさいでいて、30センチくらい土砂をどけないと

走り抜けられそうにない。

 

よしっ、やるか!と

すでに毒蛇はどこかへ吹き飛び

道路に積もった赤土を、再び落ちてこない場所へ放り投げる。

泥岩だろうか、もろい岩もいくつか持ち上げて移動した。

もろいわりに鋭くはがれる構造で、転がすと砕けてしまう厄介な岩だ。

40分くらいで、何とか通れるように開通できた。

やれやれ、これでとりあえずクロウサギ撮影は何とかなる。

 

開通作業を終えたら、ようやく天城町役場だ。

 

さっきの林道でまたいでいた毒蛇を見せると

「ハブじゃないよ、ぶんちゃん、マムシよ」

って聞いてないから!

ハブのほかにマムシも居たわけ?

内地では最強の毒蛇として恐れられるマムシも

ハブのように攻撃的ではないので、おとなしい蛇として

わりあい安心な蛇なのだそうだ。

だから存在していても、まったく気にしてないために

内地へ情報が届かないのだ。

 

道の真ん中でゆっくりしているが、毒蛇に代わりない。

「ハブならとっくに噛まれてるよ、運が良かったねぇ」と

笑って済まされたが、ハブ撮影がまだなのでやや残念。

 

しかしマムシにしても、初めて撮影できたので

自然を満喫できてきている気もする。

 

あれこれ話をしたり、天城町町誌を見せてもらったりして

徳之島も沖縄同様、あちこちから侵略されてきた歴史も

少しだけ知ることが出来た。

お盆休みと思ったら、課にひとり出勤しているので

Yさんはやたら忙しそう。

銀行の支店長という方が来ており、僕のレンズを見て

「そういえば、横浜から徳之島に来て写真を撮り

 伊仙町と天城町役場に知り合いがいるという人がいるらしいですよ」

という、どう聞いても長男以外何者でもない。

聞いてみると、島で生まれ、今は鹿児島に住んでいるという

話好きのおばさんと、機内でずっと話していたのを

聞かれてしまっていたのである。

ほかに誰かいたら、自分が町を案内するのだがと言いつつ

あちこち連絡をとってくれているうち、新聞社のE藤氏に行き当たり

彼と合流してアカショウビンを見に行くことに。

 

ガジュマルの木の穴に巣を作ってしまった珍しいつがいで

お盆には巣立つのでは?という。

 

行ってみると、結構人気があるらしく、何人もの人が集まり

中には日がな一日いるようなオジサンも居る。

 

残念ながらというか、予想通りに巣立った後だったが

まだ幼鳥はそれほど飛べないようで、周囲のガジュマルで

すごしているようだ。

 

何度か鳴きまねをしてみたが、反応がない。

子供がまだ上手く鳴けないので、反応しないのかもしれない。

 

どやどやと来ていた女性陣が撤退した後

じっくり周囲のガジュマルを探していたら、やっぱり居た。

鳥のヒナは、黄色いクチバシなのが特徴だが

アカショウビンのヒナは黒くて短い。

体の赤もずいぶんくすんでいて、保護色風だ。

 

しばらくすると、親が何かをくわえて帰ってきた。

クモだ、巨大なクモをとったのだ。

なんか体に悪そうだが、バッタやトカゲなども織り交ぜながら

偏らないで食べているみたいだからヨシとしよう。

 

ともあれ

重たいレンズには困ったもので、本当に使えるのか疑問だ。

なかなか手ごわい逸品である。

一、二年で使えるようになるか悩ましい。

でも、必要以上に近づかないで撮影できるのは嬉しい。

動物にかかるプレッシャーが少ないのは大きなメリットだ。

観察者がいることで、行動が変わるのでは、観察する意味がない。

 

一方

宿では異変が起きていた。

それは夜やってくる。

この音を聞くと分かるが、マッコウクジラに似ている。

 

クリック音サウンドファイル(1.92MB)

(新採用のガンマイク使用)

 

これは規則的に発せられるハギシリ。

大酒をくらったときに、こうしたクリック音を出しながら

よなよな転がり、移動する某大学の先生だ。

部屋の角に頭が向いて移動できなくなると

むっくりと起き上がり、あぐらをかいて座った状態になり

再びごろりと横になることで、反転動作を行う。

 

部屋を出て廊下を転がる。

学生の居る隣の部屋も転がり、PSPを破壊する困りよう。

 

おそらく

彼に秘められたストレスがそうさせると思われるので、

いっそ、庭側へ逃がして開放してやってはどうか、

県道へゴーさせ、どこまでも行かせてみてはどうか、

と進言したが、周辺住民への影響も懸念したか却下され

部屋の扉を 微妙に閉めて風のみを通すように仕組んで

総員眠りに付いた。

 

これは確かに、御付が居なければ旅にならぬが

同行していたS君も大変だろう。

  

世の中には大変な御仁が居るものである。

 

本人は無意識だからどうしようもない。

考えようによっては、寝ながら運動することが出来るわけだが

運動量をコントロールできないので、実用性はなさそうだ。

どうやらこれは遺伝らしく、一体なぜ、DNAがそれを選んだのか

未来の人間には、夜も寝ながら移動する必要が発生するのか

生物とは不思議なバラつきを見せるが、行為そのものは

夜中にバタついているだけなので、迷惑行為でしかないのが残念。

本能ととれば、近くで眠るメスに対して自動的にアプローチする

繁殖行動の名残とも思われるが。

 

一定のクリック音を出し、転がり続け、時折ぶつかり、笑い、唸る。

眠るローリング族とでも言おうか。

(最初はゆっくりだが、だんだん速くなる)

 

発展的に考えれば

夜、我が家へ帰宅し、目覚めたら出勤しているといった

便利機能ともなりえる。

が、手荷物をどうするかや、改札の幅広化、上り坂、川、階段など

まだまだ超えなくてはならない課題山積の機能である。

 

むむっ、もしや!?

 

このハギシリによるクリック音は、暗闇で移動する際に

周囲の障害物を無意識に探知するために発せられているのだろうか

とすれば、反射音の戻ってこない方向へゴロゴロしていくはずだ。

それから、最終的に一定の方向を目指しているのかも興味深い。

がしかし、本日をもって無事、旅立ってゆかれたので

検証することはできないが、それはその方が・・・

謎は謎にしておいた方が、良き事もあろうと安堵しておくことにした。

 

はてさて

後半は何が巻き起こることやら。


追伸

Oちゃんにマムシのことを伝えたところ

「それはヒメハブだよ、マムシは居ないから」とさらり。

は、ハブなんだ!と思ったら、

ヒメハブはハブなのかマムシなのか怪しいらしい。

毒蛇だがハブのような強力な毒ではなく

死にいたることは少ないようである。

方言、恐るべし。

マムシとヒメハブを混同したり、逆に

いわゆる島のマムシをヒメハブとは別種と思っている島の人は

そこそこ居そうである。

困ったものだ・・・

 

で、済んでよかったのか、そうでもないのか微妙だ。


ではまた