その朝

青の声を聞く男あり

ヒラマサの夢に長男も相乗りす

 


大洋へのかすかな夢と、確かな手応えを追い求める男が居た。

その男BLB氏は、伊豆半島を知っている。

 

太平洋の覇者ヒサマサを、研ぎ澄まされた感覚で「磯から狙う」男だ。

強力なタックルを身にまとい、磯を伝うその姿は磯の忍びのようだった。

一見地味ないでたちだが、その強力な道具を操る腕は確かである。

 

とは反対に、長男は浮かれていた。

 

関西在住

男らしく海のフライフィッシングを興ずるT木氏が教えてくれた

ユニクロの全身ピッチピチに締まるオーシャンスーツ(ウソです)に、

朝を迎える眠い時分、いきなり身を引き締められて、

マゾマゾ感と釣り意欲が交じり合い、すでに目がいっている。

 

本当は

ユニクロ製、ボディテック・ドライコンプレッションシリーズという

長い長い名の服だ。

地元?慶応大との共同開発とのことで、すぐに気に入ってしまった。

 

最近の若者と違って、背丈はなく、肩と胸、太ももの筋肉が発達し

スペック上とはちょっと違うようで、丈が足りないし締め付けもキツイ。

 

珍しく長男は、かの男の案内で東伊豆の磯への突入を開始する。

おっと、かの男との出逢いはHMS氏が仕組んだものだ。

HMS氏は2週間前に手術をした体で、出釣してきている釣り狂だ。

いい加減にしないと体を壊すぞ!てゆ〜か壊れてたのか!?

 

なんだかんだ言っても、お二方とも長男より釣行日数も多いし

腕もいいから、長男はだた浮かれてついていくだけだ。

さすがに術後の体、HMS氏は道行きがキツそうである。

 

残念ながら、夜明けまで釣れぬ・・・と思っていたら

HMSが抜け駆けし、してやられた。

さすがの腕である。

一同、でっかいメバルに驚き!

(二人も目がいってしまっている・・・)

サラシの中から現れるのはヒラスズキと思っていたが

メバルが出てくるとは!?

メバルが釣れるような静かな真冬の凪、

メバル凪・・・というのは迷信だったのだろうか???

 

人生、分からぬことが、まだまだある。

 

それにしても

夜明け前から、さかんにミズナギドリのような声がするが

意に反して天空を舞うのはツバメだった・・・ん?

 

彼らはツバメではなくアマツバメだ。

いわばカツオではなくイケカツオみたいなもので

人間の都合で名前は似ているが、種は違うのだ。

 

我々日本人の名前で言えば

イトウさんとサイトウさんくらい

タナカさんとハタナカさんくらい

タナベさんとワタナベさんくらい

ツムラさんとマツムラさんくらい違う

ヤベさんとアヤベさんほども違う・・・・ひつこいね。

 

でも

名前が似ているからといって、生物的には似てないのが

分かってもらえるだろう。

 

とかなんとか言っているうちに?

時は過ぎ、試合終了。

結局釣果はHMS氏のメバルのみ。

いいオヤジが三人そろってこの体たらくだが

三人とも、心地よい伊豆の朝風に吹かれていた。

 

沖合いは、80グラムのジグ(オモリ型ルアー)を沈めても

30秒以上かかる深場である。

こんな場所は、そうそう見つからない。

この場所を見つけただけでもBLB氏は偉大だが

彼の力はそんなものではない。

 

その片鱗は道具にも現れていて

頑丈でいて、とても鋭い手作りと思えぬギャフもその一つ。

ステンレスを溶接し、曲げ加工して作られた逸品。

野太いつくりとは裏腹に先端は鋭すぎるくらい鋭く

ちょっと手に当たって刺さったとき、一瞬イタッ!と思って

放っておいたら知らずに出血して指が真っ赤・・・

ということもあったほどだ。

(一番右のギャフがそれ)

 

なんとラッキーなことに

長男は彼の手によるギャフをモニターさせてもらうことになっていた。

触っているうちに、ちょっと油断するとブッサリやってしまう。

自分を含め、すでに被害者は2名にのぼっている。

魚を掛ける前に、まず人から・・・・恐るべしBLBギャフ!!!

これだけ鋭いと、冗談にもカミサンを引っ掛けるのに使いたい、とは

どうしても言えぬ長男であった。

 

この事に気をよくし

釣り場を深く知り、ヒラマサの魚道を探すべしと

前から欲しかった海図を探すことにした。

横浜船用品、会社から歩いて5分ほどのところにある

主に大型船舶用品を商うお店を見つけた。

ムクの木材で作られた、横浜とは思えぬ静かなたたずまい。

社長さんをはじめ従業員の皆さんは

釣り人の酔狂と知りながら暖かく対応してくれる。

時折電話の会話などで使われる「べらんめえ調」が

開港当時の横浜以来続く、港町横浜の老舗を感じさせるが

このお店の立地では、おそらく開港当時海の底だったことが

残念といえば残念だ。

 

カクカクしかじかアレコレどれそれと注文をつけると

忙しい黄昏時にもかかわらず、真摯に対応してくれる

熟練の商売人気質が嬉しい。

 

バブル時代は海図も多く存在したらしく

レジャーボートも多かったので

手ごろな縮尺で沿岸海域を網羅した海図があったのだそうだ。

だが、今は本船と呼ばれる大型船に装備される

本図と言っていたと思うが、そういうプロ用のものしか

なくなってきているらしい。

かろうじて湘南、伊豆半島、伊豆大島の海図を

見つけてもらったが、残念ながら、徳之島は

奄美大島のオマケとして、徳之島町の北限が

わずかに記載されているだけであったため

購入できなかった。

(伊豆大島は詳細なものが手に入った)

仕方ないので、徳之島は自ら潜って探るしかなさそうだ。

 

いよいよ本州にも梅雨が上陸するシーズン。

ヒラマサもシーズン真っ只中となる。

今年の釣り運はかなり使い果たした感があるが

魚道は見つかるだろうか。

 

ともあれ

BLB氏よ、HMS氏とともに長男までも

釣り場へ連れて行ってくれてありがとう。

それと

待ち合わせにズイブン遅刻してすみませんでした・・・


一方

黄金週間にロウニンアジを釣って以来

妙にノリノリでギャフを作ってくれている男がもう一人居る。

伊勢のオヤジ殿である。

先日、オフクロ様へ間接発注されたらしい、ギャフ袋も製作され

なにやら使途不明の紐も付いて完成したそうだ。

柄は竹製で、このギャフのために七輪を買って仕上げたという

これまた風流で酔狂な逸品。

詳細はまた後日。


ではまた