走れ!トラツグミ君

(長文警報解除中?)

 


母島にきて、すぐにはバイクを借りていなかった。

というのも、たるみきった精神と、腹、足腰を危惧していたからだ。

一方来る前から、どうしても見ておきたい場所もあった。

東港である。

昔、捕鯨船の経由地として利用されていた湾であるが

今は防波堤があるだけの、洋上でありながら、湖畔のような

山に囲まれた静かな水面が広がる別天地であった。

ここなら釣れまいが日差しが強かろうが、何もかも爽やかに感じる・・・

くらい美しいと記憶している。

ついでに、宿のオカミサンがすすめてくれた昼の釣りポイント

大沢海岸の磯へ偵察に行くことも計画していた。

 

バイク、こぶの木号はしばらく動いていないようであったが

多少マフラーの音が高い以外、問題なく稼動するようだ。

むしろ、稼動させるガソリンの方が問題で、2リットルで536円も

ふんだくられた。

昼飯に調達している冷凍食品も高いし、この島の経済は自然以上に?

厳しいものだ・・・・

 

出発して程なく、出遭ってしまった。

狙わないと決めていたトラツグミが、道端に多いのである。

徳之島のアカヒゲにも似て、道端から道を横切り反対の茂みへ

飛び込んでいく感じである。

やっぱり、撮影はしちゃ駄目だ・・・と言い聞かせようとするが

なにしろ出る数が数である。一キロ進む間に何度も見る。

これには固く見えた意志も簡単に砕けて、つい撮影に入ってしまった。

幸い、近くの木の枝にとどまる個体が居る。

ただ、たいそう薄暗い場所がお気に入りのため、ISO感度1600でも

全然ブレが防げない。シャッタースピードが1/25より遅くなるくらいだ。

仕方なくISO感度を限界の3200まで持ち上げるが、それでも厳しい。

スポーツ撮影用に、高感度で使えるデジカメが、プロ用に発売されていたが

今はプロ用ですら高画素化の波を受け、感度は下がる一方だ。

更に言えば、オートフォーカス全盛なのか、ファインダーがピント合わせに

使えない・・・ピントの山が非常に分かり辛いのだ。

F値5.6、開放で使うので、被写界震度が極端に浅い。

ピントが合う奥行きが近距離では数センチあるかどうかだ。

少し暗くなっただけで、ピントが合った場所に出る、合焦表示も出なくなる。

20万円もしたキヤノン20Dがこれか!?

フォーカシングスクリーンも交換できないのだからなすすべは無い。

(ファインダーの中のピントを合わせる光学パターンを交換できる機種もある)

数秒間でピントをずらして撮影していくしかないが

激しい動きについていくのがやっとの場合が多い。

幸い、トラツグミは思いのほかじっとしている方だ。

ついでに言い切っておくと、シャッターもやかましい。

鳥は逃げるし、もちろん人間も緊張する。

こうした本質とは違う部分で、暴走的にスペック競争せざるを得ない

現在のメーカの姿勢に懲りて、会社を出たのだが。

※よく見ると体は成鳥だがクチバシが黄色く、白いアイリングも薄い、2年目だろう

 

トラツグミ撮影に困っていると、どんどん日が昇り、磯での釣果が落ちていく。

いかんっ!もう止め・・・と思いながら何度も失敗カットばかり撮影してしまう。

 

ようやく着いた7年ぶりの東港は、変わり果てていた・・・いや完成していた。

母島漁港(東港)とあるが、民家が無い以上、漁港たり得ない。

漁港は、その近辺に居住する漁業組合員によって営まれるもので

この港に投入された農水予算は全く意味が分からぬ。

集落を復活させるのだろうか?この薄い生態系の中で・・・

つくづく小笠原とは意味が分からぬ島である。

しかも、長大に湾へ突き出し、高い堤防が築かれているため

風景をまったくさえぎって、見晴らしの悪い釣り場になってしまい

長男としては風景の魅力もなくなった。

 

一分で立ち去るハメになろうとは。

 

仕方なく、北港から大沢海岸をめざすことにした。

しかしこれがハードであった。

高低差90メートル、1400メートル程度の道のりながら

たるみきった心体には厳しいものである。

途中、他の場所以上に人が通りかからず珍しいと見えて、鳥たちの

大歓迎というか大モビングに見舞われながら、もう撮影の余裕もなく

海岸へひたすら向かうことに。

 

こちらは来たかいがあった。

小笠原らしい雄大な景色に浸る感動がある。

正面には父島も見えるが、そんなものは別に見えなくても十分にいい。

 

う〜む、磯釣りはどうだろうか・・・

しかし、漂流ゴミが多いな。

一番多いのは、やはり国内のもので、ほか中国などなど

珍品は中米エルサルバドルのメディカ(たぶん薬品)と書かれた

樹脂ボトルもあった。

 

左手は断崖で全く踏破不能だが、右手は良さそうな磯があり

クレバスもあるが行けなくはなさそうだ。

(この角度がたまらない)

実際に踏み込んでみると、80センチくらいのクレバスなのに

なかなか向こう側へとりつけない。

小さな岬へ装備なしで行ってみると、なかなか潮通しもよさそうである。

(アオブダイ、4キロくらいありそう)

ここも余程人が来ていないのだろう、足元には巨大なアオブダイや

40センチ級のササヨ(ミナミイズスミ)が悠然と泳ぎ回る。

 

改めて装備を背負い再チャレンジを試みるのだが

クレバスの向こう側にあるオーバーハングが厳しい。

先ほどの偵察で、もろく崩れ、鋭くとがった小石が右手中指に

傷を負わせており、手にも力が入りにくい。

すると!持っていた岩がもげた!いや崩れた。

幸い、こんなこともあろうかと体重を分散していたのだが

こうも簡単にモゲルとは、恐るべし火山地質。

 

これでは、もし何かが釣れてしまったときに、もっと危うい。

仕方なく引き返すことに。

 

しかし爽やかな潮風が吹いてくる。

もうしばらく居よう・・・と少々尻が熱いが、なぎさを突き出た岩に腰掛ける。

気持ちいい・・・何もかも忘れて心が透き通るようだ。

(別に尻を焼かれて痔がかたまって気持ちイイのではないし、痔でもない)

ふと見ると、体まで透き通るアオリイカの子供たちが足元にやってきた。

やっぱりここは大自然わい・・・。

尻の熱さも、すっかり忘れていた。

 

90メートルの高低差を帰る鋭気は養った、さあ撮影だ!

容赦なく接近してくるメグロを、こちらも容赦なく撮る。

しかし、ピントずれや被写体ブレが防げない。

初日に相まみえた時の感動と、素早い技前はどこへ行ったのか?

ゆるいにもほどがある体たらく。

 

行きには気づかなかったが、実はハシナガウグイスも濃い。

オスもさることながら、チッ、チッとこっそり地鳴きし

草陰を接近するメスに、目の前に来るまで気づかないこともあった。

オスはテリトリー宣言のため、高い場所を来る。

声も大きく分かりやすいのだが、常に葉の向こう側に居るので

撮影は苦しい。

 

初日に撮影したのがあるので、大沢海岸遊歩道はあっさりと撤収。

 

やはり帰りのバイクの前にも、ビシバシ登場するトラツグミ。

もう昼だというのに、ヒィーィ、フゥーと明け方と同じ鳴き声を出している。

普段の地鳴きといい、図鑑の記述というのは案外あてにならぬことを

またしても体感する。小笠原だからかも知れぬが。

 

と・・・道に立ちふさがる影・・・

トラツグミじゃん!しかも逃げないぞ!

ナシテか知らんがあり難い、早速撮影ぞ。

バイクから降りると多分逃げる、だからバイクに腰掛けたまま

バスケットのリュックからカメラを取り出そうとするが、どうもままならぬ。

かなり遅れたが、まだ往来で仁王立ちし、シュリリリリッと鳴いている。

ん?これはイソヒヨドリの巣立ち直後のヒナの声に似ているな、と気づく。

鳴き声自体は、むしろサンショウクイにそっくりだが、ヒナや幼鳥独特の

響きがある。スズメのヒナも似たような声を出している。

 

ともあれワンカット。

(と、撮られたッ!)

実は親を呼び、鳴いている姿。

まだ警戒心が薄いので助かった。

 

特に警戒心の強い親はきがきではないのかグェグェグェと鳴きながら

茂みの中を飛び回り、かなりジタバタしている。

それに促されたのか、やっと動き出した。

親も下草のなかを走るのが得意だが、幼鳥もそのようだ。 

(丸目は天然)

ツクンとした、寸詰まりのクイナのようで愛らしいトです!

足、長いんだ・・・

 

道路わきの草むらに飛び込んだ後、山の斜面を水平に飛んで枝へ。

そのあと、またシュリリリ三昧である。

親鳥はなおも心配で、枝を飛び回りながら警戒グェ三昧に・・・

逃げないのでまたワンカット。

(また撮られたッ!)

 

面白い親子わい。

心配だが親は遠巻きにしかできないようだ。

もう昼一時に近い、空腹が帰路を急がせる。

これだけ居るのだ、また撮ればいい、それに小笠原で撮らずとも

また撮る機会もあるだろう。

とりあえず、巣立ちのころの習性も少し分かったし。

 

さて

先日釣れたチギだが、フリャーではなくて、天ぷらになった。

口いっぱいほおばれる、特大キス天のような味わい。

う、う、うまいじゃん!

宇宙一おいしい究極の料理は「天ぷら」と

小さな頃から決めていた長男にとっても、新鮮な味だ。

そういえば、今回の母島沖港にはミナミイズスミの群れが

全く居ないのだ。

7年前には数日に一度、群れが大挙して来たのだが。

小笠原も変わっているのだろう。

今を釣り、今を撮る・・・とても大切なことに思えてきている。


ではまた