マイナス潮位には イノー歩き

 


 

年に数日ある、マイナス潮位の干潮。

すっかり失念していて、大島発のブログで時期を知ったので、おっとり刀の金曜午後。

カニをはじめ、寒波の悪影響が大いに気に掛かっていたからだ。

強かな日差し対策は必須だ。 長袖と、小野田さん的な日よけ。

クバガサ(菅笠)を被(かず)きたかったが、やや風が強い。

サングラスを置いてきたのは、歳のせいに他ならぬ。

波の反射光はシャレにならず、下手するとその日のうちに目がジンジンする。

 

足元は、履き古したジョギングシューズを素足で履いて、ナイロン繊維のズボンを履く。

南大東や小笠原で履いてきたズボンで、膝から下はファスナーでつながっていて、

これを半開きにすると涼しい。 シャツも島々で着ていた、速乾性のもの。

以前は靴下を履いていたが、砂利が入って靴下が傷むので、オミット。

サンゴの砂は軽いから、歩く水流で舞い上がり、どうせ靴に入ってしまう。

とゆ〜か、出腹が気になるなぁ。

 

いきなり、ガセ(ノコギリガザミ)が居た! カニ見えた・・・良形のミナミベニツケガニ。

甲幅7センチほどで、これでも大きい方だし、そこそこ美味しいらしい。

ガセに比べたら、オコチャマだけれども。(笑)

 

あ゛〜、コレがウザッタ過ぎるんだ・・・このイノーは。

ウザウザとあるノリヒビ。

 

シマンチュのだらしなさは、闘牛の脱糞が散乱する陸だけではない。

使わなくなったアオサ養殖の鉄骨が放置されているのだ。

見苦しい上に危険なのだが、何とも思わないらしい。

この体たらくで観光客を呼ぼうと謂うのだから、片腹痛いこと甚だしい。

 

ここの漁協は、外来種メヒルギに浄化能力がある・・・などと無知を振り回すのだが、

無知は仕方ないとしても、その前にやることがあるだろうに。

ろくに漁獲もありゃせんから、魚と謂えば冷凍モノ・・・などという、離島にしては

大変に恥ずかしい常識が定着している現状を、少しくらい反省してみたらどうだろう。

 

ことほど左様に

徳之島はともかく錆びてボロで雑で放置で、退廃した風景だから、癒しには程遠い。

世界遺産になったとき、残念三昧な現状に対して、認識がなさすぎる。

風景も、食も、サービスも・・・

タクシーなど、空港に2台しかなく、呼んでも亀津から30分かかったりとか・・・

島の常識は、そもそも世間さまとはカケ離れているものなのだ。

 

気をとり直し

まずは、イノーに点在する岩場で、ルリマダラシオマネキを探さねばならない。

 

これまで

ヒメシオマネキ、リュウキュウシオマネキ、ヤエヤマシオマネキの甚大なダメージは

トリトリデッキ周辺で確認済み。

なかでも、ヒメシオマネキの激減はすさまじく1/10未満ではなかろうか。

オキナワハクセンシオマネキや、ベニシオマネキは、ダメージは少なめだ。

6種のうち、残るのはルリマダラのみである。

 

それにしても、見当たらない。

いつもなら、岩の上にいるのが見えるのだが、今回はまったく見えない。

もしや・・・と思って、振動が伝わる岩場を避けて、まわりの浅瀬からアプローチすると、

チラッと見えた。

どうやら振動でなく、視覚的にコチラが気付く前に逃げているらしい。

先の小野田さん式日よけは銀だから、よほど紫外線を反射するし、風でベラベラ揺れる。

クバガサならそうでもないが、思わぬ弱点があったとは・・・

 

とゆ〜ても、ファインピクスS1は超望遠1200ミリのコンデジである。

そして私は、老眼がスペックアップしたオッサンで、遠視力の高いことこの上ない。(笑)

かくして、慣れてくれば・・・さほど観察は難しくない。

 

コンデジは、望遠端だと軽くてブレやすいので、重りが欲しい・・・

甲幅2センチあまりの、典型的な大人のオスである。

この派手さ、陸から観察できれば、女子のハートをワシヅカミ・・・間違いなしだが、

真水と外洋の海水が常に混じる、イノーの真ん中の岩場にしか生息していない。

6種いるシオマネキのうち、この一種だけは、トリトリデッキ周辺では観られぬ残念さ。

ちゃんとした流量の河川があれば、もっと身近なのだろう。

 

半数未満に減った印象はあるが、とりあえずガッチリ生きている雰囲気だ。

ものは考えようで、ライバルが少なくなれば、繁殖はしやすくなる。

 

周りをよ〜く見ると、保護色で甲幅1センチくらいの小さいのがいる。

あまりに地味で、視線のどこカニいても気づきにくい。

シオマネキ類のメスだが、場所からしてルリマダラシオマネキの幼体だろうか。

カニは栄養状態によって、小さいままでも成熟するが、派手になったら成熟・・・なら

オスメス双方にとって、判りやすくて無駄がない、良いシステムだと思う。

 

やにわにダンロップのジョギングシューズに、何かが刺さった!!!

痛い! なのに限りなく絶妙に心地よい・・・流血しないギリギリで、イイ゛〜痛み♪

 

サンゴの砕けた砂地に、サンゴの枝が埋もれていて・・・気付かず踏みしめた。

このごろデブっているためか、見事にブッ刺さり、絶妙にイタイイわい。(笑)

 

刺さったサンゴは、特別ドM記念物に相応しかったが、持ち帰ってしまえば、

この場で自然なイタさを味わえなくなってしまうから、この場所に温存することにした。

 

このイノーの生い立ちはやや複雑で、もともとサンゴがたくさん生えていたのが、

リーフ上への空港建設により、海水の流入が妨げられ、

たたみ掛けるような農業政策は、水稲からサトウキビ栽培への全面移行だったから

赤土の流入が蔓延し、サンゴが絶滅・・・その骨格が、折れたり砕けたりして、

ガレ場じみた砂地に変わっていった歴史がある。 農業は楽になったが、海は瀕死だ。

空港完成は東京五輪のころで、爾来数十年の間、キビ畑の赤土が流入し続けてきた。

ゆえに、砂泥の下にはごっそりとサンゴの死がいあり、たまにブッ刺さってしまう。

生物は豊かだが、先の鉄骨もあるし、ガイドするには厄介窮まる。

以前も長靴をブチ抜かれて、これまた絶妙のイタ好さだったが、長靴はパーになった。

 

またまた 気を取り直し

キュイキュイと馴染みの声がするので、練習がてら必ず応えておく。

声の主、キアシシギが近くの岩場に降りてきた。

このごろ上達したためか、はたまた渡りの途中のウブな個体が多いからか、

効果てきめんである。

私に気付いていながら降りてくるので、あまり圧がかからない距離を保っている。

私の姿とは別に、そこらに仲間がいると感じる習性があるらしい。

こちらが慌てたり極端な動きをしなければ、怖がらせることはない。

 

次の目的地は地元でシロハーマと呼ばれる、徳之島空港の北部にある砂地。

マチャラグチでは、いろいろ伸ばすのが特徴で、他の集落ではシロハマと呼ばれている。

たとえばアカショウビンなんかも、クッカルでなくコカールだったりするそうだ。

ただし、キッパリやモッチリ、マックが・・・キパーリ、モチーリ、マーックにはならない。

 

時に、ウミガメが産卵するが、大潮の満潮時に冷やされ、ふ化することはない。

実際のところ、産卵場所はかなり減っているし、気候変動で風向きが変わり、

これまで砂浜だったところが痩せ細ったりしているから、思ったより深刻らしい。

 

漂着物のなかに、大好きなのが見つかった。

ウニなのに前後があり、伝説ではシャシャッと高速移動するという、ブンブクチャガマの殻。

夜行性で、簡単には歩き回る姿が観られない、なかなか小憎らしいヤツである。

居場所は砂が盛り上がっているらしいから、ヨナマビーチで入念に探してみるか・・・

 

ここらでは毎夏、シロチドリとコアジサシが営巣するのだが、声はしても巣はなかった。

時期が早かったのかもしれない。

 

もどりがてら、往きより念入りにダメージをチェックする。

徳之島では確認されていないとされる、コアマモの群落は逆に拡大しているようだ。

やれやれホッとした。

美味しかったチヌの胃袋から、ずいぶん出てきたからだ。

カニばかりでもなくアオサばかりでもなく、まんべんに食べているメスはとても脂がのり、

ナニ臭いわけでもなくバランスし、美味しかった。

 

見たこともない大きなニセクロナマコを見つけた。

のに・・・ アリエナイようなピンボケカットの連続。

ゆうに50センチはあるから、ギネス級?である。

 

こんなこともあろうかと数枚撮ったのに、ど〜ゆ〜ワケか、すべてがピンボケだった。

サイバーショットのフォーカスは優れており、被写体にピンボケであっても、

すべてにピンボケなどアリエナイはずだが、稀に発生する。

実はイノーの主で、無礼な撮影に腹をたて、心霊力を用いたとか???

やれやれ、島はシマンチュ以外にも、アヤカシ系の厄介事が多いのである。

リーフの外側で、台風の時に漁火が見えるという、カチャブフゥジの親戚かな?(笑)

 

このカニがいないと、干潟ではない。 愉しみのひとつ。

ハサミを閉じ、体と一体化すると、石のような防御力のソデカラッパ。

通常、カニは目を倒して守るが、カラッパ類は「引っ込む」特殊構造で念が入っている。

あまりにカラクリじみているが、そこがイイ。

腹側は、小さいころチョクチョク見かけたカブトガニを思い出す。

フンドシと呼ばれる部分が、あまりにも狭いので判りづらいものの、三角でない。

おそらく、メスである。 次は、抱卵しているところを観たいものだ。

 

かねがね知りたいと思っていた生物がある。

数センチで、砂地を歩くたびにピヤっと逃げるヤツである。

甲殻類だと思うのだが・・・せっかく追いかけのに違っていた。

ハゼじゃん!? ハゼはピャッ、ピピッ!なのだが、それとは印象が異なり、

同様の高速でニュロロロロロ!と滑らかに逃げるヤツがいるのだ。

 

石のわきや下に隠れるのと、砂地のくぼみに隠れるのがいる。

石の下に隠れるのは、先のハゼと薄緑のシャコである。

シャコは速過ぎて、未だ撮影できないし、ウカツに捕獲しようとすれば、

生物界最強と謂われる強烈なパンチで、怪我しかねないので手出しは控えている。

あちらこちらの石の下から、パチン、パキッと音がするのは、シャコパンチである。

 

くぼみに隠れるのは、見るからにカニだから、逃げ場を目で追って捕獲してみた。

1円だまくらいのボディで、砂地のカモフラージュカラーである。

ヒレ足は紫色の縁取りで、半透明なのが地味に美しい。

ここの北側にあるヨナマビーチでも撮影したことがあり、

ガザミらしく、甲羅の左右端が突出しているヒメガザミとは違うことは知っている。

ただ、こうしてハッキリ撮影していないから、何者かはわからず、

データベースに登録できずにいたのである。

 

これまでの私ならサッパリ調べられなかったろうけれど、そこは歳の功。

科が判ってしまえば、学名の仕組みを利用して、属や近縁種をキーワードに

画像検索をたどると見つかり易いのだ。 今回はワタリガニ科。

意外と?海外サイトの方が充実しており、学名が判明した後で日本語で検索し直すと

和名に行き当たることも多々ある。

グレートバリアリーフのあるオーストラリアも情報が充実しているし、

シオマネキはマニアがいるのか、専門のサイトがあったりする。

 

しばらく検索を続けたら判明した。 その名も、サメハダヒメガザミ。

いかにも覚えづらい、マイナーな種らしい標準和名であった。

 

保護色なのに、すぐに砂地に潜ってしまう。

潜っても、必ず目だけは出していて、おそらくこの状態でエサが来るのを待ち伏せ、

やにわに挟みかかるのだろう。

なんでも食べるワタリガニだが、狩りは十分アグレッシブなのだ。

植物ばかり摂取していたら成長が遅くなるから、動物食は欠かせないのだろう。

覚えたところで、食べられもしないし、モテにも関係ない、地味すぎるカニ見える。

おそらく徳之島でも、まずもって知られていない名だろう。

 

さて

だいぶ陽が傾いたので、もどって川筋をチェックすることにした。

 

もどりもどり・・・つい道草してしまう。

実は幼少の頃は道草王で、幼稚園へ行く朝に、後輩の家で二度目の朝食を摂ったり、

帰りにカバンを背負ったまま、数時間も田んぼで遊んだり、虫を探したりしていたのだ。

一緒に道草していた同級生の母親はノイローゼになり、家庭が崩壊したようだった。

今にして思えば、ノイローゼになる前に、なぜ迎えに行かなかったんだろうか・・・

 

ふと、違和感があるので捕まえた、オサガニのたぐい。 ハサミが小さく、メスだ。

オサガニは甲羅の奥行よりも幅が倍くらいあり、一目でわかる。

やたら眼柄が長くてアンバランスだ。 また調べるのに骨が折れそうだ。

ヒメヤマトオサガニや、フタバオサガニとはとは違うように見える。

このままだと、カニマニアになってしまいそうで、地味にヤバそうだ。

 

あまりに小さいので、思わず捕獲してしまった。

稚ガニなのか親ガニなのかも判らないから、小さいカニは調べにくい。

足を含めた全幅が1センチもない。 小さなメカのようで愛らしい。

将来的には、こういうドローンができてしまうのだろうなぁ。

耳や鼻の穴から入られると、脳を乗っ取られそうである。

 

こちらは、小型のベニツケガニだが、抱卵している。

こんなに小さいのに繁殖できるのは、ミナミベニツケではなさそうだ。

 

カニのくせにフサフサとは、実に生意気なヤツだ。 甲幅は2センチ弱。

その名もケブカガニ・・・まんまだ。

仲間には、頭どころか全身丸めた?スベスベケブカガニという殊勝なヤツもいるらしい。

実はガチャピンの相方のモデル、と謂うウワサがある。(笑)

 

藻の間から、全力で威嚇するベニツケガニのたぐい。 甲幅は4センチくらい。

手を近づけると、トラバサミのように両のハサミを体の前でパチンと合わせる動作をする。

いささかカラカイがいのあるヤツだが、もうオッサン疲れたわ・・・

ハサミのカラーリングが、さっきの小さなメスとソックリである。

すごく気が荒いが、油断すると、一瞬で砂に潜る技を有している。

 

すっかりカニマニアになったカニ見えるだろうが、そうでもない。

茶碗くらいの潮だまりにいたケシウミアメンボを捕まえてみた。

大きなメスでも、体長は2ミリほどである。

カニ以前に、十分ウミアメンボ・マニアだったのだ。(笑)

小さくて素早い上に、手の上でもジャンプする!

しかもよく観るとメスの上にオスがしがみついて合体しているのだ。

なのに、なんという機動力。 さらに、オスのシガミツキ・パワー!?

 

ようやく、駐車してある川筋まで戻ってきた。

 

川と謂っても、国交省的には溝扱いとなり、名は失われている。

もとはムェゴー/前川だったのだが、今は一本南にある川が前川になった。

もとはシリゴー/後川だったが、前川が溝になったために、シリゴーを前川にしたよう。

「シリ」がイマイチなこともあるが、四万十川など後川は全国に在り、避けたのだろう。

 

ちなみに

島ではニシンコー/北川、前川、後川、ナンゴー/南川は人気だったのか、

あるいは安直ネームだったのか、ダブりがある。

 

さてさて

上陸前に、とりあえずシューズの中の砂利を洗い流しておく。

ジャリジャリして足裏が半端に痛いし、家に帰って流すのも面倒だ。

 

川筋で観たかったのは、コメツキガニ。

いカニも内地のとソックリだが、数年前に新種になったリュウキュウコメツキガニ。

捕まえやすいし踏んづけやすいヤツで・・・素早く巣穴に入るカニ見えて、

巣穴に足が掛かるとしばらく立ち止まるクセがある。

案の定まわりを見回すと、様子のおかしいヤツがいて、どうやら知らずに踏んだらしい。

 

周囲を見回すと、オキナワハクセンシオマネキのわきで、

ちょこちょこウェービングしているのが見える。

この時節、まだシオマネキは全力で潮を招かず、一瞬ピッとやるだけだが、

こいつらはいつも全力で、ハンパなウェービングはしない。

甲幅5ミリほどの保護色、ツノメチゴガニ。

ハサミだけは白くて目立つが、振り上げなければ、石粒にも見える。

ここまでツノが長くなることは知らなかった。

どうやら折れやすいらしく、片ちんばのも観られた。

 

実は、食用以外で最も気に入っているカニが、ツノメチであった。

私はどこか、尖ったヤツが好ましい性格であるらしい。

 

それにしても

S1のマクロは中途半端で、思ったように寄れないのが残念だ。

焦点距離によってチョコマカと最短撮影距離が変わるから、不便窮まる。

こうした小動物の観察や撮影には、センサーサイズが小さい超望遠ズームが

相応しいだけに残念である。

 

とまれ

かなり日が傾いたなぁと思ったら、やがて3時間が過ぎようとしていた。

仕事をキャンセルして出かけた手前、なんとか食材が欲しかったが・・・

ポケットのスーパーの袋は空振りに終わった。

ま゛〜ポン人が好む「二兎を追う者は理論」からすれば、観察のみだったから

正しい活動だった・・・のかもしれないな。(笑)

 

しかしながら

二兎でなく、一兎一狐や、一狸一猪、あるいは群れているから二鹿もアリ

かもしれないから、早計は禁物だろう。

ついつい短絡し、心の安らぎを得たくなるものの、コトワザは古人の鋭いセンスで

語られているのだから、現代人の感覚より存外シビアなものだろうと思う。

 

長く歩いたので、体が芯から火照っている。

試しに水シャワーを浴びてみたら、ギリギリOKだった。 いよいよ夏だ。

とゆ〜か、これから梅雨だが、内地の春夏秋冬はアテハマラナイから、

夏はあるのだが・・・そのほかの季節はサッパリ判らんなあぁ。


ではまた