ボーズは加速する、バイクは壊れる、やることなし・・・

本日の狂訓「昆虫採集は、中年ロマンだ」


バイクが壊れた日、足がないので釣りができないから

ロビーでぼんやりしていると、物知りでコダワリのS氏がやってきた。

そのうちOもやってきた。天気は不順だが、雨の降らない今が

例の場所のトンボのヤゴ捕りに適しているという。

例の場所って?

昔、水道がなかったころから使っているらしい、

天水をためるコンクリの桶が各家庭には今もある。

桶は直径1メートル弱、高さは1.3メートルくらいかな。

その中にどうもトンボが産卵しているらしいというのだ。

特にやることもないし、それがどのような状況下で生きているのか

ちょっと見てみたくなった。

白いワゴンだかバンだかに三人は同乗し出発。

Iさんのお宅にはもう連絡がつけてあるのかどうなのか

キビ畑の真ん中の道を進み、どうやらその家らしい方へ

ズイズイと入って行く。もちろん、舗装はされていない。

車を降りると「キューんキューん」と切ない声がする。

S氏とOは「当たり前ジャン」といった顔で

世の中の常識であるかのように彼の名を知っており

「ジョリー」だという。

世間が狭いので犬の名前まで筒抜けと言うことなのだろうか?

それとも人気の名犬か、由緒正しい珍犬なのか?

 

ジョリーといえば昔聞き覚えのあるテーマソングで

「走れぇ―ジョリー、ヒュルルルルルーっ

    ティキティキティキティキ、ジョリー!ジョリー!ジョリー!」という

まことにセカラシイ(せわしない)、あのカルピス名作劇場のジョリーか?

セバスチャンは元気なのか?今は何歳だ??などと

思われるふしは僕以外ないかもしれないが、

念のために名犬ジョリーは、このジョリーを数倍にした大きさがあり

白さと毛の長さは似ているピレニアンだ。 つまり、ピレネー犬。

ピレネーとはフランスとスペインを隔てる山脈で・・・

まあそんなことはキビ畑の真ん中では意味がない。

しかし、こっちのセバスチャンはハイジがオバサンのたくらみで

飛ばされたロッテンマイヤーさんのところで働く気のいい使用人とも

無関係だが・・・ということも意味がない・・・。

 

それはそうとして、Iさん宅のおばさんに今お願いしているではないか!

居なかったらどうする気だったんだ?

切ない大東犬(実は名犬ではないが大東犬)ジョリーはどうすんだ?

このイタイケなジョリーよりヤゴが大切なのか???と思っていたら

マゴウことなく彼らは裏庭へ向かう。

まったく意に介さなかった・・・。愛らしいジョリーもヤゴには勝てないとは

大東に我々の常識が通じないことの象徴のようだ・・・。

というか、S氏とOがあまりに虫好きすぎる。

ちなみに大東犬は究極的に雑種が島の中で洗練された姿で

雑種が一世紀にわたり交配した結果生まれた

突然変異型の準固有種?といった感じだ。

韓国のチンドー犬とも良い勝負かもしれない。

特長は、ちょっと豚さんに似た、外に曲がった短めの足である。

色は白が多く、ただ、毛足は様々で、短目から、ジョリーのように

長めのスピッツ風まであるが一様に足が太短い感じだ。

最近流行りのウェルシュコーギーとは違い、逞しくて短い足だ。

そういえば、沖縄は豚さんが大切な食材だが、この島では連絡船が

週に一度のため、豚さんも不足がち。豚に似たこの大東犬の足が

豚足の代用としてケンちゃんストアーや野村ミートに流通している。

宿の夕食のおでんには豚足らしい足があったが、あれも大東犬だろう・・・。

豚より油がずっと少なく、すっきりとしているがヤヤ独特の風味が

好みを分けるところだろう。多少スジっぽいところもある。

僕は昨夜のおでんのケンソク(犬足)は

けっこうイケル口である・・・

というのは全くのウソだが、確かに豚足似の足まわりに愛嬌と歴史がある。

 

そんなことを考えているうちに、彼らはもうすっかり視野から消えていた。

声の方へ言ってみると、ちょっと苔むした裏庭には半分ふたがかかった

野ざらしの天水タンクが口をあけている。

すでに二人はのぞき始めている。

これまでに見たことがない真剣なまなざしで、薄暗いタンクの中をノゾク

その姿が、「彼らの生きがい」に対する疑念を、

心の中で大きく育んでいくのがハッキリとわかる・・・。

な、なんなんだこの真剣さは。

新型の網も良いが、真剣なわりに箱めがねくらい持ってきたら良さそうだが

その辺はやたらラテン系に近く陽気な出たとこ勝負だ。

ともあれ、枯葉やあれこれ風に吹かれてやってきたモノが堆積し

その上に更にうっすらと吹けば飛ぶ状態で藻類が茂っている。

第一発見者は、なんと僕であった。

(ピンぼけだが、本邦初公開の生態写真?)

彼らの真剣なまなざしをよそに

ヒトキワ真剣になっていたのは僕であったようで

なにしろ、20年ぶり?ともいえるヤゴ探しなのだ。

ジョ、ジョリーどころではない!のだ・・・。

すっかりジョリーは脳裏から消えている。

ナントカトンボ・・・といっていたが肝心の種類をすっかり忘れた・・・。

マニアック路線の長男である僕の経験でも、ヤゴの識別は遠く担当外だ。

ともあれ、バケツには黒くたくましいヤゴが横たわる。

洞察力に優れた方は、どうやって捕ったのか?と思われることだろう。

これは網を使っていない。つまり堆積物が舞うので網は使えないのだ。

おあつらえ向きに、そのへんにあった天水を導くためのパイプの残骸か

開口が1センチ程度、長さ1mの鉄パイプが落ちており

それをスポイトのように使うという、S氏がその場で考案した方式である。

S氏のインスピレーションのすごさはこの辺にある。

あらゆる現象、事象、仕組みを記憶し、都合よくアウトプットしてくる柔軟さ

アイデア商売のデザイナーの僕ですら舌を巻く。

長いパイプの手元部分を親指でふさぎ、空気を入れたまま水中へ入れる、

そしてヤゴのそばに持っていき、親指をはずすと、

水圧でパイプの中に水が殺到する

というよりは、パイプの前の水がスポンと吸い込まれるのだった。

スゴイ!どうしてトンボにそこまでのジョー熱とアイデアが???

ラテン系準備体制を、このあたりのヒラメキで補完しているようでもある。

 

ストローで実験してほしい。たしかにストローの先の水が吸い込まれるはずだ。

梅を入れてチョット崩したお湯わり焼酎で実験すると判り易いだろう・・・。

フワフワとただよう梅が勢い良くストローに吸い込まれていく。

(良い子は無理にショーチューのお湯割で実験をやる必要はありません。)

 

さて

S氏の下見(下見をしていたのだが、コッソリしたのか、断ってしたのか・・・)に

よれば、もっと大型のが居ると言う。勢い、目を皿にするが見つからない。

皿にもいろいろある、僕のは良くて350円の鍋用のとり皿程度だが

彼らは2800円のスープ皿くらいにトンボの経験と知識に開きがありすぎる。

次はS氏だった。

側面の藻についていたと言う。

これはアカトンボ系ということらしかった。(詳しくはちんぷんかんだ)

こいつの足は一本取れており、ひょっとすると食料の厳しい環境下で

ヤゴの共食いがあったのではないか、と、またしてもことのほか真剣にOが言った。

確かに、人生をかけて、トンボを追うOにしてみれば今が生きている証の

瞬間のようなものであるわけだ。

が、彼は発見していない・・・ということは

彼は、彼の目は税抜き200円の刺身醤油皿見当なのだろうか?

 

嬉しそうに、これは高知へ送るという。

 

あれは忘れもしない。奄美や沖縄へたどり着く前、

土佐へ釣りに行くのが僕の大物狙いの遠征だった。

四万十川は90センチ級のスズキに逃げられた思い出の場所である。

それに、おそらく本土の沿岸魚最大の30キロにも達する魚、幻の「アカメ」が

遡上してくる川でもある。

(ミノウオともいう銀色の魚で最大1.5メートルになる。

 その名の通りルビーより明るく輝く赤い目が特徴。

 厚く硬いうろこがミノウオの由来だ。

 高知市のあの龍馬像の近く桂浜水族館で見られるが

 あれは館長が趣味で釣ったものらしい・・・スゴイ数いる。

 しかも近縁種でウリフタツの東南アジア産の

 バラマンディーまで混入する不可解さだ。

 過去に40分粘ったことがあるが、見分けがつかなかったし

 おまけに、答えを言ってくれる人も居ないのだった・・・)

大物を夢見てしつこく通ったあげく

昼寝の場所に使ったのがトンボ公園であったのだ。

このトンボ公園の長というのが

トンボの権威らしいことは当時も知っていたが

まさかこんなところで関係が出てこようとは思っても見なかった。

当時、アシスタントの女性を二人も雇い、中村市のはずれの山あいに

トンボが住める水辺を作って勤めている、

とてもうらやましい男だと思っていたものだ。

トンボ以上に自分のパラダイスを作って住んでいる。

うらやましすぎて

そこで売っている七宝焼きのバッチを買う気にはなれず

散策しては、ひたすら昼寝に徹していたのである。

正確には午前中から行っていたので、朝寝であった。

 

そこへヤゴのサンプルを送ろうというのだ、これも、何かの縁だろう・・・。

南大東の狭い大地で、しっかりと生きているトンボたち。

捕獲した後、

興奮冷めやらぬ三人は自然研究家のニシハマ先生宅へ押し入り

トンボやその他、インターネット接続から魚まで、あれこれ様々に語り合い

夕刻の釣りを忘れてしまうほど愉快な時を過ごしたのである。

と、なぜだか庭に出てS氏が、またしてもズイズイと押し進んで行く。

そして手にして戻ってきたのが、釈迦頭(しゃかとう)。

宿の物干し場からちょうど見えるこの庭は、ニシハマ先生の庭であった。

たわわに実る釈迦頭を、いつの日か口にしてみたいと思っていたが

とんだことで実現してしまった。

ついでにシークヮーサーといわれる

小さくてキリリと美味い柑橘までいただき感激である。

いっぱい木になって仕方がないから持って行けとニシハマ先生も

釈迦頭をすすめてくれるので、全く遠慮せずいただいて帰ったものである。

タップリとした甘さと、ほんのりとした酸味、書物によってはヨーグルト味と

賞することもある風味であるが、

いかんせん、黒豆のような種の回りに白く柔らかい実がある構成になっており

地元の人は、「種ばっかり」と、あまり好まない向きもあるようで、

Mモータースの大物釣り社長の奥さんが嫌っていたのが印象にのこっている。

でも、ずっとアケビよりは食べやすく、種も少なく身離れもよろしいので

僕はかなり気に入っている。

そうこうしているうち、日が暮れ

やっぱり夕マズメのチャンスを逃がしてしまった。

 

ひたふるに追い続け心行くまで語らう男たち、

そして、ただ何もできず撮影し、話しを聞き旅する男・・・。

たしかにこの人たちといると、津々と好奇心が涌いてきてやまない。

逆に僕の生きがいってなんだろうか、と思うほど真摯なまなざしに

夜の、飲み会&大東談義のお誘いも断れない長男であった・・・。

明日朝も早起きして釣りなんだが・・・。


いなしたもののボーズはボーズ・・・いたってつづく

いよいよ最終回

南大東、冬の「中スペクタクル」!!!

大東のダッシ―か?謎の水中生物!?

目撃シーンを光ファイバー並のリッチコンテンツ!(豪華超巨大動画データ)で

今、貴方の目の前に!!!

長男の中冒険は、このまま中満足で終わるのか!?

乞うご期待・・・


ではまた