あらた

 

(あらた)の魂

前編

 


3月末の事である。

近くのディーラーから電話があり、オススメの車を説明するという。

 

セリカに乗って二年に満たぬ。

どうしたものか・・・おすすめってったって、こりゃオートマ車じゃないんか???

セリカの時にゆうたろうが。

 

・・・・・・・

 

「ま、ま、手動変速車(マニュアル)ぢゃあっ!

 

不眠症の半分味方、ドリエルを飲んでいた昨夜。

どうにも誘眠効果の二日酔いで頭がぼんやりしているが

かの車はサンゼンと輝く5速フロアミッションを備えていた。

「むむっ、値段は・・・」

「なにっ何ぞ?この値段はっ!

1300ccで190万円、トヨタ車かこれが。

そんなハイグレード感漂う瀟洒(しょうしゃ)な小型車があったろうか。

 

ふむふむ・・・ってカーナビ入っちょるぞ・・・なしてわい・・・

今着いちょるヤツで十分じゃろが。

てな具合で、カタログに目をやったのが運の尽きであったようである。

にしても高いのぉ・・・じゃけどマニュアル車は貴重わい。

 

ようよう眠さの高まる日曜の昼下がり、ディーラーのS原氏を訪ねた。

カローラ店は文字通り年度末の書入れ時とあって、うっすらと緊張感が漂う。

 

「この車、マニュアルミッションなんですね」

標準語で切り出した。

あれこれ聞くうちに、これがトヨタから子会社へ改造に出されて

手動変速装置(マニュアルトランスミッション)を装着、

その後(のち)にディーラーへやってくるという。

「それでこんなに高いんやね」

金の話になると、関西弁になっていた。

今にして思えば、すでに商談モードへ誘われていたのであろう。

 

その名はプチトヨタ、こと、パッソ。

何ぞ知らんが、ちっこい車でやたらに丸っこい。

そのわりにヘッドライトがツリ目で、ちょいとオカシナデザインである。

よくよく見ると、改造に出せるグレードは、一番上のレイシーというやつらしい。

伸びニガウリのような名だがレーシングの名に近いのだろう。

 

また、よくよく見ると、これが妙なエアロに身を包んでいる。

どうも気に入らん、セリカのパワーから見たら、軽自動車

どんなに頑張ったところで、ゴーカートの豪華なヤツみたいなもんに見える。

 

「これで、190万はないやろ」

「で、でへへへへっ」毎度思うのだが、S原氏の笑いは文字にするとだらしない。

でもこういう発音であった。

カーナビは要らない、しかし、手動変速は捨てがたい。

であれば、ああして、こうして・・・

 

なになに・・・このステアリングはっ!

MOMO(もも)ステじゃん!

チビのクセに

セリカにはなかったMOMOのステアリングホイールが装備されている。

かなりヤンチャで小賢しく、手動変速の心をつかもうとする。

 

そして事実、長男の心すらつかまれかけていた・・・

 

そんなとき・・・

「乗ってみますか?試乗車ありますから」

「ん〜まぁグレード違うけど乗ってみよかなっ」

といった具合に乗ってみた。

どうにもこうにも、小さい・・・・(1000cc、ノーマルのオートマ仕様)

がこの広い空間はなんだ・・・乗った圧迫感が全くなくて小さなボディ・・・

天井も高い、惜しむらくは屋根に窓が無い・・・

小さなくせにヤタラに気が利いて無駄のない装備

この車にかけるトヨタの意気込みが感じられそうになる。

おだやかな走り、アクセルをしまいまで踏んでも

安心して乗っていられる、このホンワカとした牧歌的な感覚。

 

試乗の最後に、セリカのある駐車場に入れてみた。

それはもう、狭い都会の駐車場で、何の苦労もなくクルクル回せる。

 

ディーラーにもどり、ドリエル酔いも覚めぬ中

かなり動揺していたが「う〜ん、ま、安全を買うっちゅうことで決めるかぁ」

 

またしても半日で決まり。

 

セリカの時も衝動買いであったが、今回もカナリ激しい。

あの時は元の車、カルディナがヘタッていたから良かったが

今回のセリかはビンビンであり、申し分ないではないか。

 

だが、愛してない、乗り降りし辛い、異様にパワーが高い

高速道路に乗ったら最後、普通に170キロ出したくなる・・・

おまけに遠征して釣りに行くはずであった静岡は、もはや枯れた川ばかり。

乗るなら便利で小回りがきいて、気合を入れなくてすむ車。

 

贅沢でとんでもない衝動買いとは思ったが、セリカに乗る理由も見つからぬ。

 

S原氏と再び見積もりに挑む。

こうなったら徹底的に長男仕様に見直すしかない

改めて長男ソウルに火がついていた。

 

「この、自分に合わんエアロ、何とかならんじゃろぅかね」

言葉が元に戻った。

「どぅへへへへへへっ、そうですねえ、ん〜っ」

相変わらず文字にするとだらしない。

 

カタログを探すS原氏、アチコチ見回すと別のが目に付いた。

その中、かなり長男の心を捉えたエアロがあった。

よく分からんが、このなんとかスタイルのエアロにしたい、

それは車のイメージを壊さずに大人の車になっていた。

まあ、ベンツとかワーゲンには届かぬが、なかなかの好印象である。

 

ただ、レイシーのエアロの大半を捨てる事にはなってしまうが

後付けでは装備できない、レイシーの粋で控え目なリアウィングは残せる。

実にもったいないお買物になりつつあった。

 

それに・・・ももステは標準なんだ・・・それじゃこのシートは???

え?このシートじゃないの?じゃあれ?あのフニフニの標準のやつ?

そりゃまずいじゃろ、ももステには合わんじゃろう〜

などと、結局、牧歌的な走行感覚を残しながらもセリカの意気込みを継いで

最小限の足腰を大事にした仕様にまとめていったのだが・・・

 

「じゃさ、最後にさ、あれ入れといて、あ〜なんてったっけ、ペイントシーラントっ!」

結局、愛そうと思っている矢先にワックスをかけないつもりであった。

慎重に算出し終わった、S原氏のペン先をじっと見つめた。

頭が2の数字、200万を上回っていた・・・

まあ、下取りもしてもらうし、よかろか。

カーナビをつけてしまうとセリカに肉薄する価格だ・・・なしてだ・・・

とんでもない、高価な1300ccとなっていた。

 

その夜、どうにも眠れなかった。

時を同じくして、心底惚れた女性との微妙なやり取りもあったのだが、

この後悔も大きかった。

 

納車までの日々は一ヶ月、案外長い。

あれこれ考え、後悔しては思い直し、セリカを見ては後悔していた。

だが、4月末のある日

ディーラーに届いている、改造を待つ小柄なパッソを見に行った時

この車なら愛せそうだな・・・不思議とやわらかにそう思った。

またしてもガラには合わぬ車になりそうだが

なんだか長男の身の丈にあった車だ。

こうしてディーラーオプションを付ける前に見られるのが

近くのディーラーの良い所である。

 

ヤンチャなエアロも悪くないな・・・とも思うが

やっぱりこのクラスにしてはオカシイ。

軽自動車のツッパリエアロと同じで、 懐かしのなめネコっぽいというか

なんとも微妙にくすぐったい感じがする。

しかも、1300NAエンジンでは軽自動車のターボほどの加速はない。

「じゃあ、一応後ろからも撮影しとくわ」

ん?バンパーにナンバープレートが・・・

「あ・・・」

わずか0.4秒くらい先にS原氏が早く気づいた。

S原氏の表情が営業笑いの下でメリメリと凍り付いていくのが分かる。

「今からだと・・・・えと・・・・〇△にちにもう一度行って取り直せば・・・

 ブツブツ・・・(十数秒のシンキングタイム)

  ・・・あ、デヘッ、多分大丈夫です。陸運局へ6日に行けば大丈夫です。」

自分に言い聞かせるような焦り様であった。

 

気づいた方も居られるかも知れぬ。

そう、このバンパーはヤンチャなエアロだから、外すのだ。

そこへナンバーを取得して封緘してどうすんの?

 

大丈夫だろうか・・・

後日、大丈夫ではなかったのだが・・・

 

暗雲たちこめるなか

どのような長男好みの姿になったのか・・・

こうしてスリルをはらんだまま、黄金週間の最終改造が始まる。

 (ももステは本物だ)

 

つづく


ではまた