思ぉ〜い出わぁ〜

 いつの日もぉ〜

  かめぇ〜♪

 


今年は、暖かな海のためか

サザンの歌を口ずさむ事が多かった。

 

釣りをする時、ウミガメが横切ったり顔を出したりして居座る時は

まずもって釣れないもんだから暇で、つい自然に口ずさんでしまう。

もうオリジナルの局がなんだったか忘れるくらい、今年は口ずさんだもので

磯は一人ぼっちで釣りをすることが多いので、はばかることなく歌える。

 

まぁ〜しかし

今回の八丈はカメが多かった。

宿のすぐ下にある一級釣り場の漁港、藍ヶ江でも足元をうろついていて

迷惑千万である。

一級磯の石積ヶ鼻でも、4頭が群れていた。

どこもみな、餌撒きボランティア隊の釣り人が居る場所でだ。

ひょっとすると、栄養効率の良い、オキアミを食べに来てるのかも知れぬ。

 

僕しか居ない磯だったが、ナカッチョの磯でも

僕が釣りをし始めたらカメが顔を出し始めた。

(これは5月のもの)

どうも、クジラなどもやるのだが、スパイホッピングみたいである。

水上の様子を見るために顔を出しているのだ。

空気を吸うだけなら、それほど何度も浮上しないし

しかも頭を高く上げて、ワザワザ水流の荒い磯際を泳ぐ必要もない。

 

これは推測だけれど

おそらく、池のコイと同じように、人の姿を見て寄って来ているようだ。

最初は一頭かと思ったら、なんと3頭も居て、みんな小型。

50センチくらいのから、80センチくらいまでの若いウミガメである。

 

とても邪魔である。

ルアーがかからないかと心配だったが

やっぱり糸が絡んで危なかった。

 

ウミガメの世界にも何か起きていて、主食のクラゲが少ないとか

居ないとかといったことで、ひょっとすると飢饉なのかもしれぬ。

それとも、楽して精のつくオキアミが好きになってしまったのか。

 

今回はシケが強めだったために、あまり磯では出来なかったが

チャンスをカメに阻まれるとは・・・

またしても、歌うしかないのであった。

いったん歌ってしまえば、思わず楽しくなり

心根が開き直り切って、妙に気持ちもゆったり落ち着く

不思議な替え歌となっている。

 

さて、今回はそうはいってもシケをも味方につけようと

無茶なポイントで竿を出したりしてみた。

中央左よりのシブキが立ち上がるところでやったが

幻のヒラスズキ・・・男のロマン・・・どころではない。

シブキの高さはこれで6〜7m以上になっていて、結構キツイ。

伊豆大島とはガラリと違い、うねりが重く

波の高さ以上に威力があり、移動する水量も多くて危険だった。

お陰で磯が底からかき回されて、魚の居場所もないようだ。

八丈の磯、恐るべしである。

 

見た目の波の高さ以上に波涛が厳しいために

何度か危うく走馬灯を見るかと思ったが、見ずに澄むうちに撤収。

見上げれば、八丈富士にウロコ雲がかかっていた。

一応やるだけの事はやったので気分がいい。空気もうまい。

 

道具をレンタカーに片付けつつ、腹の虫が声高に鳴いている。

こうなると、もはや、あしたば荘の夕食がまちどおしい。

昼飯も食べていないからなぁ・・・

 

関東はこの時期、夕暮れが早い。

西日本育ちの長男には、横浜生活10年だが

どうもいまだに早い夕暮れが体に合わない。

5時にすっかり暗くなってしまうというのは不思議な感じなのだ。

 

ともあれ、食事は六時頃からなので、お風呂に入ったり

竿を手入れしながらユックリする。

小さい頃に想像していた大人の生活というのは

夕暮れ頃に家に帰り、こうしてユックリ風呂に入って

ゆうげの香りを感じながら、夕食を待つ・・・というものであったが

子供の頃より次第に時間的豊かさが激しく失われた日本では

旅先ぐらいでしかこういう生活が出来ぬのは納得行かぬが。

何のためにアクセクするのか、馬鹿らしい生活を

こういう時に思い直す事になっている。

 

おりしも、ご主人の夕食の呼び出しがかかる。

待ってました!

道具の手入れもソコソコに、食道へ向かい

まずは、薄めの焼酎の明日葉湯割りを作り、ぐいっとやる。

 

ほ〜っ!

 

一日の疲れが、否、このところの疲れが

静かな吐息とともに吐き出される感じで

焼酎は反対に、おなかの底に行き着くまで

じんわりと癒しを与えてくれる。

ウチナーグチ(沖縄語)でヌチグスイ(命の薬)というが

こりゃ正にそれである。

 

季節ごとに、様々に変わる魚のメニューが楽しめる。

もちろん、あしたばも毎食必ず付いている。

ただ、いつも思うのだが、右上にある鉄板の料理だけは

ナゼか異常に塩っぱくて、舌がしびれる。

ちょっと口に含んだだけで、お酒やご飯が相当すすむ

そこらの漬物以上の塩気であった。

 

その夜も4時間くらい、食道でお客さんやらご主人やらと

話をしながら焼酎がすすみ、おそらく一本近く飲んでしまった。

 

ということは、当然、次の朝は、朝寝坊する必要がある。

 

明日葉湯割りは、残ったとしても頭痛はないのが優れており

さりとて、残っていては運転にも釣りにもならぬ。

 

ゆっくりゆっくり朝ご飯を、昼後半分も含めて4杯いただいて

いざ偵察に出発。

船戸鼻

石積ヶ鼻

一際険しい、大ヶ根

どうも波をかぶってしまったり、風が強すぎて

カンパチを狙えそうにない。

 

結局昼寝をし、夕刻に港へ行ってみたら、結構な人出である。

人出はあるが活気はない。みな一様にぼんやりと水面を見ている。

中には子供をあやしている若奥さんの姿も。

別の釣り場(上の二番目の石積ヶ鼻駐車場)でも見たが

女性はいつも待たされる事が結構好きみたいに思えるほど

車の中や防波堤で何もせず、ぼんやりと待っている方が見受けられる。

 

涙が出るほど健気で、この上なく理想的奥さんに見えるのだが

よくよく考えると、待ってられたのでは、かえって釣り辛いなぁ長男としては・・・

 

ともあれ

とても、シマアジが釣れる一級の漁港には見えぬ。

竿は別の磯で出したが、やはり不発だった。

 

磯でも、港でも、ほとんど魚を見ない

今年の海そのものを象徴する光景がゆくゆく展開していったのであった。

 

今回はしかし

一匹だけ宿にお持ち帰りできる魚を確保できた。

ある朝、珍しく誰も居ない藍ヶ江港で

カンパチを狙う仕掛けを切り替え、ちょっと底近くを釣ることに。

 

するとココン!と当たった。

 

い、イカン・・・この手ごたえは・・・こりゃまたマダラエソさんぞ・・・

いやな引きであった。

中途半端で、それほど強くない、細長い魚の魚信が伝わる。

下品ではないので、ダツではないだろうからルアーは傷まなそう。

 

ユルユル寄せてくると、防波堤の足元で妙に突っ込みが激しい。

「ん?、んん?」

これはマダラエソさんよりガッツあり!

なんかな〜とそっと上げてくると、おなつかしや、南大東でみかけた

タイワンカマスさんである。

サイズも昔と同じで、40センチくらいだ。

色的にはツムブリみたいでカッコいい。

久々に、ちょっぴり南国気分を味わった。

 

当然、塩焼きも味わった。

 

その夜は帰る前日の事。

ご主人から、祭りの準備をしているから行ってみろとのことで

ちょっと顔を出してみる事に。

 

途中、帰り道らしい集落の人から「今から行くの?」などと問われ

宿から同行していたI嬢もいぶかっていた。

もうとっくに終わっているのではなかろうか・・・

これでも早めにでてきたつもりであったのだが。

 

提灯の向こうに、なにやら人影が見えてきたがまばらだ。

新しい神殿を建てたのだというが、引き返したものか

ココまで来た以上、行ったものか・・・

お、おいI嬢よ、静かな表情とは裏腹に、行く気満々ではないか。

 

一応お社にお参りし、長男の義理人情から、お賽銭も欠かさず

拍手も打っておいたのだが、どうも空気妙な感じだ。

 

お、おい、やっぱり行くのかI嬢よ・・・

不用意におっさんに声を掛けなさんなって・・・

長男の心の叫びは、先ほどから降り始めた

怪しい雲行きの空に吸い込まれるばかりで

I嬢の心に届く事はなかった。

 

中之郷の夜は、一体どのように更けゆくのであろうか・・・

このままスンナリとは帰れそうにない予感に少々動揺する長男であった。

 

つづく


ではまた