プチスナイパー

 


我が家は秘密にしていたわけではないが防衛一家である。

親父殿はカメラマンで退役自衛官、ぼくは少年自衛官を受験し合格、

弟など防衛大卒で現役自衛官だ。

うーむ、長男はどうしても男所帯の自衛官が肌に合わず

道を分かつこととなった・・・。

 

しかし、その環境は防衛的であった。

 

小さなころから、自動小銃やら、ピストル類の現物にはことかかない。

だから、おもちゃの銃がどうも幼稚で苦手であった。

男の子なので、微妙に惹かれるが、買ってもらっても納得が行かなかった。

ルパン三世でおなじみの銭形のとっつぁんの愛銃がコルトガバメント45口径。

言わずと知れた、先代のアメリカ軍の制式拳銃だ。

日本でも使われていたので、航空祭では現物にさわることができた。

重くてでっかかったのを今も覚えている。

小学校のころに触れたガバメントは

今だと40センチくらいに感じるほど巨大に感じたもので

蚊に刺されたようにふくれた赤い紙の帯状の火薬を使った

学校の近くの商店で売っているペシペシ音のするオモチャとは

全然違うものであった。

 

更に12.7ミリ(50口径)のキャリバー50ことM2重機関銃など

小学校高学年の長男ですら、遊底を引くことができず

親父殿に助けてもらった覚えがある。

(遊底:撃鉄を引くと弾丸のオシリを叩き火薬を爆発させる部品のこと)

キャリバー50は今でも戦車のサブガンとして搭載されている。

あの、戦車の屋根についていたり、ヘリの横っ腹につけてあったりして

両手で構えて撃ちまくるアレである。

 

ちなみに357とか44マグナム、コルト45ガバメントといった風に

銃に数字があるのは口径の意味の場合が多くて

一インチ(2.54センチ)を1/100にしたのが1口径として算出された数値を

基準にした呼び名であるので、暗号じゃないのだ。

 

戦闘的用途によって使い分けられていて

ライフルには貫通力の高い弾丸(対人、対車両、対施設等汎用なので)

拳銃には対人用として口径が大きく、当たったら打倒できる弾が用いられている。

 

ちなみに、戦争映画などである、突撃シーンでざんごうなどに

突撃してくるような相手の場合、ライフル弾が貫通してしまうと

そのままやってきて、銃剣などでこちらが滅多突きされてしまうこともありうる。

本当は打倒する弾が必要なのだ。

 

ちなみにチナミにそれを半ば実現する卑怯で頭のよい方法があり

中東などでよくみかけるロシア製のAK(アーカ)シリーズはメタルジャケットの

先端部分に鉛がなく、命中するとそこが潰れて傷口を広げ

ダメージを増やすことで打倒力の代わりにしている。

ただし、これはゲリラ戦的な対人用以外だと威力が薄そう。

ダムダム弾と同じような効果があるため、ベルサイユ条約に反するという

見方もある。

 

ちみに因みにチナミに

ダムダム弾とは鉛の弾頭に切り込みを入れ、体内に入った衝撃で

潰れ、千切れ、肉や内臓を根こそぎ巻き込みながら進むもので

貫通した場合でも大穴が空くらしい。しかも体内に鉛の破片を残す。

 

戦争とは、殺すよりも殺さずに戦闘力や生産力を失わせるために

傷病者を増やすことも重要な戦術なのである。

殺さないで怪我人で置く方が、より戦力の減衰につながる・・・のである。

戦争などというものは血塗られた道でしかない。

 

長男は、こういった教育というか話を聞きながら育ってきたのであった。

 

さて

長男が保有するエアガンこと、おもちゃの銃はベレッタM92Fという

ダイハードで主役のマクレーン刑事が使っていた米軍制式拳銃のモドキだ。

イタリアの銃で45口径より小さい9ミリの拳銃をもとにしている。

45口径は11ミリ強、だから打倒力が違うのだが、現代では弾数優先らしく

9ミリ拳銃が主流になってしまった。

エアガンはそんなことは関係なく、BB弾だ。

23発も装てんできるぞ。

 

銃身が比較的長いため、命中精度が高く、エアポンプなどのギミックが

耐久性のある金属製で、うまくグリップに配置してあり

適度な重さや剛性感があり比較的安定して射撃できるのが魅力。

なんだか、まるまるエアガンオタクみたいなコメントだ・・・

 

大学時代、20年近く前に購入したものだが、

もう何年もしまったままであった。

5メートル以内なら、かなりの精度で当たるオモチャにしては大したもの。

長男はこの実用性を重視していた。

ん?エアガンに実用性???と思われるだろう。

 

人間生活で邪魔になり、厄介ものをやっつけるのに使うのである。

犬猫だの同僚だのを威嚇したり困らせたりする道具ではない。

鼻から命中精度にしか興味がなく、長男は役立てたかった。

当時フロンガス等を用いる連射機能などを有するものもあったり

妙なイデタチで森の中をいい大人がゴッコ遊びをする向きもあったが

先のような教育のおかげで、戦闘ゴッコに憧れることはない。

ただ、コクサイという会社が販売していた、サイクロンバレルと呼ばれる

実銃に似たライフリング(らせんを切った)をしてある銃身を持ち

BB弾に回転を与え、これまた実銃同様に直進性を高めるのがあり

こいつはチョット欲しかった。

 

ともあれ

家庭内で最大級の災いともいえる

もっとも厄介な敵、それはゴキブリだ。

 

その昔、夜更けに共通一次に向けて勉強をしていた時、長男は悟った。

ゴキブリは、空気の動きを感じなければ、実にユックリした行動なのだ。

こちらが過激に動けば、細長いヒゲで感じ、それに応じて過激に行動するから

慌てた人類には過激で俊敏な昆虫に見えるだけである。

彼らとていつもシャカシャカしていたいわけではない。

 

遠くで、ゴキブリが感じられないレベルで行動すれば感づくことはない。

 

その日

大胆にもテレビ背面の、我が家で最も注目度の高い白い壁面に現れた。

その大胆さと大きさと、鈍いがシッカリしたブラウンのツヤやかさが

絶対に許せない気持ちを起爆させたようだ。

素早くパッケージを開けベレッタを手にし、構えたが、二発ジャムッた。

実銃なら暴発して失明してるかも・・・でもエアガンでよかった。

何年前であれ、手入れは完璧にしてあるので

それほど信頼していないわけではない、弾が出れば

必ず長男の腕に応えてくれるエアガンである。

修練し、3メートル以内なら直径20ミリ、一円玉に命中させるなど

朝飯前である。

何年ブランクがあったとて、さほど鈍らないのが長男ならでわだ。

ジャムッた弾を排出し、静かに構えなおす。

 

パシュッ

ゴッキーは墜ちた・・・

 

買った当初のころを思い出すが

右手の一部のようにマルシンベレッタは応えてくれた。

ハエにも使えるのだが、ハエは分解してしまって後始末が大変だ。

だから、もっぱらゴッキー用である。

といっても久々だが。

 

マルシンのエアガンは専用の弾があり、精度の高い空色のものだ。

これがなくなるまではゴキ退治に使える。

いやはや、いまもって精度の高いエアガンである。

いかめしいアメリカ軍現用のリアルサイズでありながら

ほぼゴキブリ専用の我が家のベレッタは

まだまだ役立ちそうである。


ではまた