べんざ

 え〜っすっ!

 


誰しも知っているだろう

病気になって初めて、健康のありがたみに気づく事を。

 

長男、ようやく奥歯を削りに削って仮歯(なぜ仮なのか不明だが)を

入れられた。ご飯とはこんなに美味しいのか、とシミジミ気づく。

 

おそらく

これは誰しも全く知らぬことであろう。

便座が割れてしまい、不安定な姿勢で用を足さねばならぬ苦しみを。

この苦しみに、実は二年くらい耐えてみたが

ついに割れが進行し、もはや姿勢すら保てなくなっていた。

 

なぜ便座が割れねばならぬのか。

オシリが異常にトガッテいるとかいうことは無いと信じている。

理屈はこうだ。

冬の便座は冷たい。だから便座カバーをつけた。

ピンクのかわいい、安らげる柔らかなものだったが

これをつけたことで、便座を上げた時、垂直近くまで来てしまう。

更に時間がたつと、ともすればカバーのクッション効果で

手前に倒れてきてしまうのだ。

柔らか仕上げの柔軟剤の功罪である。

これを繰り返すこと10年余り、ついに便座は挫折したのであった。

 

そして、それから二年余り、否、三年近く

進行する割れと闘いながらも順応し、調和し

用を足してきたのであった。

 

(終に根元まで折れた)

あらためて、長き闘いであったことが偲ばれる。

 

安定した姿勢でできること、それはすばらしい・・・

 

このたび、満を持して購入した、木製のもの。

中国製はやや引っかかるが、TOTO製の樹脂のものと

300円くらいしか変わらぬから、もはや絶対に挫折せぬものを!との

思いを込めていたので、300円は惜しまれなかった。

それに、カバーなしでも、なぜか柔らかな肌触りすら感じる。

 

東急ハンズで、実は昨年夏にも下見していたが

なぜか妙に、まだ頑張れる!という闘志が邪魔をし

投資に踏み切れなかった・・・

その時はまだ、ここまで苦しく不安定な姿勢での用足しに対する

知識と経験がなかったが故の浅はかさ、青さがあったが

正に知る由もない。

 

当時、横浜店の確か6階あたりの高い階層で

しかもバス用品などとともに、比較的気軽な暮らしのファニチャー

といった扱いで陳列されてあったと思い

今回もそこへ行ってみたが、無い・・・・

何度も回ってみたが、無い・・・・

トイレットペーパーホルダーがあるのにである。

期待してきただけに、たいそう憮然となってしまった。

 

透明ブルーのアクリル製で、中にはカラフルな装飾が施された

トロピカルな便座まで想像し、結構心の中で迷っていたりもした。

冷たかろうが、でもこの上ない爽やかさが・・・しかしカバーしては

意味も無い・・・どうしたものか・・・などと考えていた。

 

しかし、影も形も無かったのだ。

多分、不況のせいで、売れぬ商品は流石にハンズでも在庫できず

ついに消え去ってしまったのだろうと想像する。

 

気を取り直し、別のものも買わねばならぬ。

街に足を運ぶ時は、正に買出しの時、必ず複数の買い物があるのだ。

次は接着剤だ。

夏休みに徳之島へ行った時、ついに長年大切に履いてきた

リゾート用クロスカントリーシューズのソールがはがれてしまった。

これを修繕せねばならないのだ。

 

だが、不況のさなか、暇はあまっているのだが金は無さそうな人たちで

ハンズはあふれ返っている。

正直、邪魔でどうしようもない存在だが、田舎でも田んぼの真中に

巨大なホームセンターが出現し、一大休日レジャースポットと

化していたことが思い起こされる。

今では、そんなレベルでは足りずに、ショッピングモールと

映画館がついていて当たり前になっているから

そういう点では、ここいらの、渋谷か横浜に行かなきゃ映画も見れぬ

といった不便さは無く、休日は雨が降ろうと風が吹こうと

車でそこへ行けば、安く楽しく過ごせるファミリーランドが根付いている。

 

しかしながら、レジがただごとではない。

接着剤、しかも定価売りである。

たかだか一本の接着剤で20分近く待たされそうだ。

あきらめて、ホームセンターで探すことにした。

 

ぐずついた土曜の午後、これほどに人があふれる横浜駅周辺。

相当ヒマ人が多いのだろうし、そこら以外の過ごし方が分からぬのだろう。

 

疲れた、疲れ果てて、ふと階を降りる時

4階あたりの水回りの蛇口とかパイプとか重たい商品がならぶ壁に

懐かしいたまご型のフォルム・・・

 

あった・・・あったんだ・・・

そうか、ファニチャーという軽いノリから、質実剛健な

建材設備系の扱いになったんか・・・

あらためて不況の波にもまれるコーナー構成にシミジミする。

 

商品は、ほぼ二種類と見ていい。

樹脂製の白いおなじみのもの。

それから、妙にチャチな金色の金具ながら

本体は重厚な色調で厚みもたっぷりとした木のムクのもの。

取り付け穴は同じ位置関係だが、本体自体がレギュラーサイズと

ジャンボサイズ?があって、一応念のため寸法を測ってきていたのだが

やはり我が家はレギュラーサイズだ。

用を足す時のボリュームが違うのか?

ファミリーで一緒に入るとか、ゾウ並みとか・・・

微妙に悩ましいサイズ関連だったが、悩んでいる時ではない。

温もりあふれ、頑強極まりない木製を選び、すぐに店員さんに

在庫確認だ。

しばらくして、ようやく倉庫の奥から持ってきてくれた。

 

思ったほど重くはなく、意気揚揚、ちょっと気持ちに余裕が出たので

かなり遠回りだが、そいつを持ったまま釣具店を回って

ちょっとだけ新たな道具を買い足して置くことができた。

 

帰り道、その日は月に一度の南日吉商店街の夜店の日だ。

 

渇いた喉と、心地よい空腹感から、いつものコトブキヤさんの前で

生ビールとフランクフルトを所望する。

 

たまたま帰ってきている関西方面のNHKに勤め出した息子さんと

あれこれ話が弾む。

大切な休日を、家族と過ごしたいからと、夜店も手伝っている。

聞けば、すぐこのあと出立だというから、感心な男である。

息子さんについでもらったビールが美味い、ほんとうに美味い。

あってよかった、それに会えて良かった。

(息子さん、一緒にしてすまぬ)

 

・・・・・・・

 

それは生活のなかで、大切なヒトトキを落ち着いて過ごす

大事な生活用品。

しかし失ってみなければ、想像もつかぬ世界。

またひとつ、失わなくても済む何かを失った反動で

学ばなくても済むはずのものを、また学んでしまったような気がする

38歳、夏の終わりの長男であった。


ではまた