とんぼ男、Oちゃんの島

中編

 


Oちゃんは、どうしてもアマミノクロウサギを長男に見せたいという。

長男は最初、まあ運がよければ見れるだろう

それに、釣り人が見たからどうなるというものでもなかろう、と

高をくくっていた。

 

沖永良部から帰ったばかりなのに、伊仙町から山まで40分以上かけて

やってきてくれた。

昨年、ケイバー(鍾乳洞男)のM住氏が訪れた時は

空振りだったというから、それほど期待せずに

北部にある宿の近くの林道へでかけることにした。

 

実はOちゃんも昨年のことがあったから、自信がないのか?

これまでの空振り系の思い出を語りながら、夜の林道を進む。

そ、そういえば、ろくに運転できんかったOちゃん、スゲーな運転上手いじゃん!

 

ふりかけをデパートに買い出しに行くくらいだから

お金に関しては予断を許さない生活なのはずなのに

家も、バイクも、車も現地調達してしまっている。

 

話の中で、彼が語るこのごろ最大の観察事件は

昆虫系の友人が来た時に、ケナガネズミがよってきて

彼の足先を嗅いで、帰っていったことらしい。

Oちゃんの方には、その経験がないというのだが

そりゃOちゃん、負けるのは当然だ。

多分、彼の足は珍しいくらい臭かったのだろうよ、だってOちゃんは

いつもビーサンじゃないか、ハブの山も、トゲトゲの磯も。

足が臭わないからダメなんだよ、きっと。

好奇心の強いケナガネズミだけに、怖いもの見たさに嗅いでしまった。

いきなり高レベルの臭気をツーンと嗅いだわけだから

今も生きているか、祈るばかりだよ、ナームー(合掌)。

一命はとりとめても、鼻が曲がってしまい

苦しい境地に立っているかもしれない。

 

てなことを思いながら、林道をさらに進むと・・・

トントンっと軽い足取りの黒い物体。

おおっ!早速クロウサギっ!

確かに、耳が短い、ずんぐり気味で、暑そうな毛皮・・・

この時ばかりは、Oちゃんが徳之島で

かなり熱心に、いや

けた違いに人生をかけて観察を続けている事を思い知った。

 

道沿いのススキを食べることが多いのだという。

考えるに、茂みの中では音も届きにくいし、雑音も多い。

180度背後がひらけた場所の方が、警戒しやすいからだろう。

 

やがて林道はそれほど長くなくて、向こう側の集落へ出てしまった。

 

とりあえず、見られたから宿へ帰ることに。

この時、長男のフォトグラフィックソウルに火がつき始めていた。

宿では奥さんが麦茶を入れてくれていたが

まさか見てくるとは思っていなかったようで

奥さんのほうも、かなり興奮気味であった。

 

どうせ釣れそうにない、ならば、今夜は徹底的に観察だ!

長男の心は180度方向転換し、夜行性観察モードとなっている。

 

一眼レフの予備バッテリーと懐中電灯を持って、今度は島の中央へ

本格的にお出かけすることにした。

もう、夜半近い11時過ぎ。

奥さんが冷たい麦茶を用意してくれたので、そのポットを持って

意気揚揚と出発だ。

 

夜空を見上げると、星の海である。

伊勢でも見たことないくらい、光る砂のような星である。

銀河がくっきり見えて、強い風が吹くとサラサラ落ちてきそうだ。

昼とは違い、ちょっと肌寒いくらいのヒンヤリした車窓から

ずっと夜空を見上げながらOちゃんと話しつづけた。

 

ポイントに近づくだいぶ手前から、一眼レフの電源を入れ

ストロボチャージしながら接近する。

余計な電力を消耗しないように、オートフォーカスも

手ぶれ補正ジャイロも切ってある。

 

と、急に左から

でかいクロウサギが飛び出してきた!

そして一目散に右の茂みへ突入、一瞬の出来事であった。

「こ、こりゃ撮影は難しいな、結構」

しかし、かなりの大物であった。

Oちゃんは、集落に近いのに出てくるとは

ずいぶん山から降りてきてるよ、と興奮して語っている。

 

すると、前方に軽トラック。

 

先行者が居たのである。

ん?!

地元の観察者がユックリと林道を流している、ということは

先行者が居たにもかかわらず、その後の道に

用心深いクロウサギが出現したということだ。

これもちょっとした発見であった。

 

軽トラックを追い越し、更に進む。

そろそろポイントだ、と思ったら出現!

おおっ大安売りだぞ、今夜はっ!!

慌てて車内からシャッターを切ったが

フロントガラスに反射するばかりで何も写せない。

3秒くらい、ヘッドライトに幻惑されて、クロウサギはたたずむから

チャンスはゼロじゃないことは分かった。

 

それからまたすぐ、チャンスはやってきた!!!

ウワッ、じっとしてる!

とっさにカラダが勝手に、手とカメラだけを外に出し、撮影をしてしまった。

車内から撮影してはダメだと思ったが、そういう風に撮るとは

自分でも驚いた撮影方法であった。

ウサギを驚かすことなく、最小限の動きで撮影しようとしたら

とっさにカラダが反応した・・・

南大東で鍛えた?蝶の空中撮影が、このノーファインダー撮影を

可能にしているようであった。

幸い、子ウサギで、何が起こったか理解できず

30秒くらいたたずんでいたと思う。

 

が・・・

早くからストロボチャージを続けきたせいか、2カット撮り終えて

バッテリー切れ・・・・む、無念。

交換したが、ようやく正気を取り戻した子ウサギは

撮影前にユックリと去っていった。

 

まぶしいストロボたいてゴメンナ・・・と思いつつ

かろうじて撮影した画像を確認してみると・・・

「バッチリ写ってるぞ、Oちゃん!、初めてで撮影できちまったよ!!!」

もう、興奮のルツボと化したレンタカー車内。

 

その後、ユックリだったのに近すぎて撮りそこねもあったけれど

とりあえず、その夜6回の目撃と2度のシャッターチャンスに恵まれた。

(マニュアルだから、ヘボはつきもの)

 

すごい、こんな観察ポイントをよくまあ知っているものだ。

Oちゃんも、一晩の最高目撃記録が5回だから、記録更新だった。

 

生活リズムを考えると夕食後10時ごろ観察したくなる。

でもそのころはまだ、おそるおそる寝坊気味に穴から出てくる時間だろう。

夜半になれば食欲全開であちこち旺盛に歩き回るのでないだろうか。

Oちゃんも、この時間に来たことがなくて、新たな発見だったようだ。

 

ケナガネズミやトゲネズミは出なかったが

更にもう二種類、撮影に成功していたのであった。

正直、僕には目にもとまらなかったのだが

ぜんぶOちゃんが示した先に居た。

こんな小さいのに、良く運転しながら見つけるな・・・15センチくらいだ。

オビトカゲモドキ、ヤモリに近いらしく、昼間の似合わない体色だ。

他の島にいる種類に比べ、帯がハッキリしていて美しく

輪っかの入った太い尻尾を立てていて可愛い!

長男は逃げないように望遠で撮影したのだが

あとから再生してみて一目惚れ・・・ちょっとイクラの古漬け気味の瞳

きれいなシマシマ、何より立てた尻尾と、もさっとした動き・・・

たまらんっ!手にとって、お腹のヒンヤリ感が伝わってくるのを

感じたいぞっ!!!

 

それから

じっとしていて茂みと見分けがつかないヤマシギ。

アマミヤマシギなのだそうだ。

あまり逃げない体質らしく、これは外に出てバッチリ撮影。

しかし・・・あろうことか、手前に横切るススキの葉にピントが・・・

普段こんなピンポイントに合焦したことないのにっ!

バカオートフォーカスっちきしょーっ!!!といっても後の祭り。

ヘボファインダーで、夜で、最近めっきり悪くなった右目では

こまかいピントが分からない。

夫婦二羽でいるところは、ちょっぴり珍しいようだ。

余裕が十分あったのに、う〜残念。

 

次の日、なぜかこのことを奥さんが連絡したらしく

隣の集落から区長さんがやってきて、写真を分けてくれという。

徳之島では、あまり撮影されていないようだ。

ガイドは良かったが、写真の方は釣り人の撮影だから、かなりヘボだし

しかも内臓ストロボだから10メートルも届かないために

感度を最高まで上げていて、画像はざらついている。

それでも良いという。

 

ただ

 

一番上手く撮れているのに、オビトカゲモドキは人気不良であった。

なしてだ・・・?

ついでにその朝、宿のすぐ近くまでやってきた夏鳥

キュロロロロ〜っと景気のよい鳴きっぷりのアカショウビンも

所望されていった。

こちらは、なぜかボケ気味・・・手ブレだろうか?

こんどは、望遠ビーム砲レンズでこいつを狙ってみるか・・・

 

夏休み

既に南大東の飛行機は予約してある。

しかし、徳之島も予約した。

 

う〜む、悩ましい・・・

 

南大東の青い海、宿の社長、奥さん、そして美人若奥さんに子供達

大東そばのI佐さん、鳥類研究のA谷さんにM井君たち・・・

行きたい、会いたいが

ビーチギャルもいないけど徳之島にも惚れてしまった・・・

 

夏休みともなれば、さすがに人も増えるだろう。

気のいい島の観察者が、ボケナス観光客の勢いに負けて

ドヤドヤと林道に繰り出さぬとも限らぬ。

撮影できるかどうか分からないが、クロウサギももう少し美しく撮りたい。

昨日、ストロボも買っちゃった。

まだ徳之島の装備の手入れも終わらぬ中

もう夏休みまで来週末しか週末がない。

 

どちらにしようか・・・

 

揺れる長男のココロ、揺れる長男の旅の趣味・・・

ココロをゆさぶる徳之島の魅力とは?

次週、後編につづく


ではまた