イカすぜ、喜界島 (2)

 


 

さて

先週にひきつづき、喜界島である。

ヤギ尽くしの宴会にエネルギー充填しつつも消耗し

明くる朝の朝食後は、漁から戻ったご主人たちの獲物を見学。

ご主人が堂々として、夕食に食べたいものがあるか、と問うので

こちらとて南国の見知った魚達を前に、実に美味そうな

夕食用のヒラアジ(ギンガメアジ)をリクエストした顛末であった。

 

はてさて、今週はどうなりますことやら。

 


 

朝方の潮なので、早速漁港の防波堤へ釣りに行ってみる。

外向きの高い堤防から投げると、何かにルアーがかじられたが

針に掛からない。

ダツよりずっと太い歯形から見て、バラクーダ系だろうか。

下を見るとアオリイカの群れがウロチョロしているので

餌木を使ってみると、すぐにヒット。

カワイイサイズなのに、怒りまくって墨を吐いていたが

それが一段とまた可愛かった。

もちろん、大きな心?でリリース。

 

不思議と、逃がしたイカの周りに

どこからともなく群れがスッと寄ってきて

仲間の帰りを歓迎しているかのようであったのが印象深い。

イカにも(如何にも)家族愛があるかのようであった・・・

 

釣り場の手がかりが少ないので、観光ガイドを見てみると

荒木崎というところで磯釣りができるとある。

 

行ってみると、非常に分かりづらい集落の道を抜け

ノッペリとした磯に出る。

よく見ると皆、妙な釣り方をしている。

後で知ったが、ダツを専門に釣っているそうだ。

それにしてもヘタッピで、見ている間何度もかけて

一匹も上がってこなかったので、どう見ても専門の釣り方には

見えなかった。

この島の人はダツに優しいんだなぁ・・・

 

これをあらかじめ知っていれば、ダツを食べられたのに残念。

実はこの後、島の南側にある絶好の磯で、ダツをかけたのだが

針の掛かりどころが悪く、リリースに失敗し

海に返しはしたが死んでしまったのであった。

13センチのルアーがわりと小さく見える結構なサイズ。

ダツそっくりだが、エラのところが黒いから、オキザヨリだ。

い、いかんまたコダワッてしまった・・・

一度、ダツを食べてみたいと思っていた。

ブルーのプラスティッキーな背骨らしいのだが、見たことがない。

喜界島では刺身や南蛮漬けなど多彩な食べ方をするようで

ダツ料理を食べるために、もう一度来なければなるまいと思う。

 

ダツが釣れる前、実はイルカさんがサンザンッパラ遊んでおり

よくもまあ釣れたものである。

こちらのイルカは鼻があり、バンドウイルカだろうか。

でもずっと小さい気がする。2mくらいに見えた。

ジャンプして遊んでいるのは若ゾウなのかも。

 

そうこうするうちにシケてきたので納竿、やむなく磯は断念。

夕方は、再び昨日の釣果に味を占めて早町漁港へ戻る。

昨日のポイントはすでに人が入っていて、段々人が増えてきた。

クレーンを運転するコワオモテのおじさんがウロウロしているので

船が着いて荷役が始まるのだろうと思い撤収。

しかし、あくる日も同じおじさんがうろついており

純粋に暇だから釣りを観察しているだけであって

実際は恐るるに足らなかったのである。

 

しかし、これが運である。

 

すごすごと

反対側の人気のなさそうな波止でやることにしたのだった。

 

投げ始めてしばらく。

昨日使ったの緑色の餌木では釣れないため

南大東で爆釣したオレンジ色にしてみたら

なにやら足元でモササッとかぶさってきた。

 

引きは独特で、グググググっと連続で引く。

アオリイカはテンポが遅く、グッグッと引くから明らかに変だ。

それに見た目にかなり丸いし、色も違ってまだらだ。

アオリイカはシマシマにはなるが、マダラにはならない。

 

慎重に水面まで上げてみてビックリ!

 

「クブシミじゃ〜ん」思わず叫んでしまった。

 

あんまり丸いので重そうだと思い、用意していたタモ網を使った。

網を持つ手にグイッと重さが伝わり、結構な重さであることが分かる。

 

その場所は港の中でも岩が多く浅い方面だったから、

小魚が好きそうな場所。案外イカが多いかもと狙ってみたのだ。

それにしても

なんとまあ珊瑚礁に住む、沖縄語でクブシミこと

コブシメが釣れるとは、恐るべし喜界島であった。

今朝見た7キロ近い巨大なコブシメと違い、とっても可愛い。

アオリイカと違って、コウイカだから、甲羅を内側に持っていて

体も亀みたいに丸っこく盛り上がっている。

それより何より、コバルトブルーのシマシマが美しい!

アオリイカはエメラルドグリーンのシマシマが美しいのだが

これとは対照的に、紫に近いシマが短いヒレ?に入っている。

死んでしまってからは絶対に見えない色である。

 

イカに関してはダイバーのほうが幸せているのではないだろうか。

こんな色が生きたまま、海の中で見られるなんて最高だろう。 

これ以上釣っても、まあ昨日のアオリイカもあることだしと

明るいうちに早上がりした。

小さくてもコブシメ、子供だけど1.5キロもあるのだ。

果たして、宿へ持って帰ったら、結構うけた。

釣れるのは珍しいらしい。

でも幾晩か置いたほうが旨みが出るらしく、その夜は出なかった。

 

問題は今朝のリクエストであった。

何が食べたいかと聞かれたので、ギンガメアジを所望した・・・

だが果たして

出てきたのは漁師仲間の人がその辺で釣ったムロアジ。

ムロアジの刺身なんて食べたことないだろうというが

実は南大東の港で、釣った人がその場でさばいたのを

しこたま食べたことがある。

確かに、魚が大きい分、普通のアジより歯ごたえがあって

美味いには美味いが、旨みは薄い。

 

なめんじゃね〜ぞ!喜界の漁師よ!

大東通いはダテじゃないぞ! 

どうも、島の人というのは、都会の人間をなめかかることで

自分のプライドを保っていたいという潜在意識があるらしい。

その辺が田舎根性というか、大自然の中で暮らしているのに

とても肝っ玉が小さいというか好かん所でもあるが

まあそれも島の味わいといったところか。

 

ムロアジごときで騙せるものか、馬鹿にするな!

この時ばかりはかなり頭にきたが、まあ初めての宿だ、

こっちは島の初心者でもないから、寛大、寛大、穏便、穏便。

 

ムロアジの刺身は美味しいし貴重だ。

本来なら喜んでしかるべき。

だけど約束した事も守れんのか?というのが正直なところ。

ひょっとするとテンジクイサキの一件が琴線に触れたことで

一発逆転を試みつつも、安くて済み、一石二鳥を狙ったご主人の

会心の一撃だったのかもしれない。

まあ、魚で勝負しようとして、実は手を抜いたところ

相手が悪かった・・・といったところだろうか。

 

プライドを持つのは勝手だが

薄っぺらだと帰って自分が情けなくなるもんだ。

 

まあしかし

昨日釣ったアオリイカの墨汁だけは約束どおり出てきた。

どうも宿のご主人の好物だから、らしいイメージだ。

明日の夜がかなり不安だ・・・クブシミは出るだろうか。

 

体に良いので、刺身は食べないが墨汁は食べるのだという。

もともとそんなに健康そうな食事をしているように見えないから

気は心、やらんよりはマシ、といったところだろう・・・実際は。

 

ギンガメアジの代わりなのかどうか分からぬが

昨夜コイ・・・といって出てきた

巨大イシガキダイの煮付けは、際限なく出てきた。

これはこれで磯臭みはあるが、プリプリとした白身で実に美味い。

食べきれないほどたくさんあるものは、非常に気前がよい。

際限なくすすめてくれる気前よさ。

実に分かりやすい人たちだ。

 

はてさて

不安をかかえつつ

遊べる最終日の朝は雨、明日は帰らねばならない。

 

今朝も朝飯をたっぷりと食べていたら

昨日の夜の墨汁がまだあるから食べるか、とご主人。

 

もちろん二つ返事だ。

二つ返事だからではないが、二杯所望した。

先のゆうげにも出たが

墨汁は、イカの味噌汁に墨袋の墨を入れたもの。

いたってシンプルだが深みとまろみがありイカの香りもすばらしい。

アオリイカでやるのが美味しいらしく

コブシメのイカ墨は不味いので気をつけるようにとのことだった。

 

食事が済んで、歯を磨き終わったころ

小止みになったので出かけることに。

 

もちろん、今日こそ磯である。

だが、昨日ダツを釣った磯は大シケで入れず

荒木崎は人気が高いのか、風裏のためか、ばっちり人が入っている。

長男は来訪者だ。やっぱり地元優先を心掛けている。

地元の人が地元で楽しむ釣りを大切にしたいので

その横に無理矢理入ってルアーを投げまくるような

無粋な真似はせんのが心情。

 

結局、早町に戻って釣りをはじめたが魚信なし。

雨もぱらついてきたので帰ってフテ寝であった。

フテ寝の最中、雨音で目が覚めるほど、雨は強くなっており

さすが南国は雨が多いことを思い知る。

そういえば昨夜もこんなザンザン降りで目が覚めた気がした。

 

夕方になっても雨は止まず、今回の旅の釣りはあっけなく終了。

心にかかる問題の夕食を迎えた。

 

案の定、クブシミはない・・・

ご主人から提案のあった、ヤコウガイ(湯引き)だけは登場。

ご主人が釣ってきた、アオリイカも加勢している。

(奥の左がヤコウガイ)

おっさん、やっぱりウソついたな!

だが、釣り人たるもの、ここであきらめる訳には絶対にイカナイ。

もう二度と口にできないかもしれない、自分で釣ったコブシメだ。

嫌な顔をされたが、なんとかコブシメを出してほしいと

お願いしたところ、思いもつかないほど素早くさばいて出してくれた。

このあたりの包丁さばきは素晴らしいものがある。 

が、面倒くさがらずに鼻から出してほしいものぞ、漁師!

(イカは柔らかいから、あんたのデカイ鼻の穴から出せるだろう

 というのではなく、最初から出してほしかったぞの意、念のため・・・)

 

漁師の宿というのは釣り人にとっては敵かもしれない。

自分の漁でとった魚が一番値打ちがあるだろう。

釣り人がどんなに苦労しても、プロから見たら遊びだ。

客の釣った魚を出すのは苦痛、いや屈辱に近いのかもしれないなぁと

小さな反省心がわいてきていた。

 

でも、漁師さんとは、そんなに狭い了見なのだろうか・・・

 

プロから見たら、ナンチュウこともない釣り人の魚ぐらい

ちょちょっと出してくれても良さそうなものだが。

 

そうすれば、へっぽこ長男ごときにこんな記事を書かれずに

済もうものを。

 

しかしまあ

甘くて美味しい。

一日おいて甘く軟らかめになった身だが

歯ごたえは新鮮なアオリイカと比べ遜色ない。

 

お、そういえば、このアオリイカ、何やらご主人が夜な夜な

出かけて釣りに行ったのだが、対抗意識でもあったかな?

 

アオリイカのイカそうめん、コブシメの刺身

飽け食い気味の食べ比べであった。

(奥がアオリイカ)

このとき、刺身のつまは非常に大切であることがしみじみ分かった。

確かに刺身を頼みはしたけれど

正味、刺身しか出てこないんだもの、この宿。

まいったまいった。

これはおそらく、自家栽培の野菜だから

つまとして食べられるかどうか分からない客に出すのは

もったいなかったのかもしれない。

島としては正しい判断だろうが

一言聞いてくれるくらい、気を利かせてくれても

バチは当たるまいが・・・

 

クチナオシするのに、黒糖焼酎を飲みまくったので

その夜は飲み過ぎで、明日に響くのであった。

 

ようやくイカ刺しの完食にメドがたって来たころ

美味しそうなものが登場!

一瞬、肝心の写真を撮り忘れた

ヤギの血液入り炒り煮風かと思ったが

真っ黒だし、強烈な臭いもない。

 

・・・

 

ま、またイカか・・・

 

これは、墨汁の汁をなくしたような料理だ。

たぶん、イカを味噌で煮て、最後に墨を入れた感じのもの。

美味いっ!タイミングは微妙だが・・・

努力している食べっぷり、飲みっぷりをわかってもらえたのだろうか?

ヤギだって結構イケたし肝刺しはスゴうまであった。

イカだって大好きだ。

食べさせたいと思って捕られた物だし

食べたいと思って釣ってきたものだ。

だからこそ美味いし、大切にいただくのである。

 

いろいろ漁師なりに気を使ってくれたり歓迎してくれ

イカ料理に関しては、かなり贅沢をさせてもらったのだが

漁師の宿には気をつけろ、という大切な教訓を得た夜だった。

釣り人たるもの漁師のプライドを傷つけないように

細心の注意を払って行動すべし

である。

 

あっという間の休暇であった。

 

帰路につく日も、すっきりしない天気。

宿賃が気になったが、一泊いくらか聞き忘れた。

さんざん飲んで食って、三泊で税込み15500円は

漁師ん?価格。

 

せっかくだから車を返す前に

空港近くの美しいビーチへも行ったが、まだ半分ドンヨリだ。

ようやく、宿からは解放されたが、その後はまた

レンタカー屋が待ち受けていた。

 

いや、待ち受けていなかった。

 

空港前にある事務所は無人だ。

電話すると、すぐ係員が向かうと言うが、本人だろう。

待てど暮らせど来やしない。

余裕を持ってきたのだが、やがて目前にある空港から

鹿児島行きの受付開始を知らせるアナウンスが聞こえてきた。

 

それからまた二十分もかかって、やっぱり電話の主らしい

同じ声の女性がやってきた。

島の反対側にでも居たのだろうか・・・?

 

もちろん、キーをもらい、車を借り受ける時

お互いで帰りの便の日時は確認済み。

やれやれ、確認せずに遅れたのならまだしも

こんな確信犯じゃあ、これまでのどんな南国の島より

イイカゲンである。

喜界島、案外穴場でありながら、そんなこんなが積もり積もって

な〜んとなく二度目に行きたくなれない

もうたくさん系の困った島なのかもしれないなぁ。

 

もったいないなあ。

 

南国にはゆるすぎるところがあって、これがはじめての人間を

二度と来れなくしてしまうようなところがある。

 

ようやく車を返せたから

フライト30分前ごろになって

あわててチェックインしたのだが、他に人がいない。

狭い空港ロビー?はガラガラだ。

そしたらフライト20分前くらいから人が集まりはじめ、

直前には待ち合わせる人たちが入りきらなくなった。

空港の待合よりはるかに巨大な隣の休憩所

(もちろん屋外)が退避場所のようだ。

 

急激に人口密度が増えて

居場所が定まらず空港前をブラブラしていると声が・・・

「お、ニイチャン、もう帰んのか?」

その声は初日の意味不明ヤギ尽くし宴会にいた

オッサンの一人であった。

このあたり、一度顔見知りになってしまうと厚い人情。

島はやっぱりイイもんだ。

(右の屋根が休憩所)

 

そもそも長男が奄美群島に近付かなかったのは

奄美大島で嫌な思いをし過ぎたせいであった。

ビッ○フィッシングという釣り具屋で

960円のルアーを買ったら1152円を請求され

宿に泊まったら、3月なのに古くて綿が縁に寄ってしまい

ほとんどカバーの表と裏、布二枚のような夏布団。

南国を期待したのに寒くて眠れなかったことなどがあったのだ。

今回はそこまで悲惨ではなくて良かった良かった・・・

のだが、やっぱり微妙な旅となってしまった。

 

ダツを食べるほどの、魚好きな島民であるし

儀礼的にだけあると思っていたヤギ料理だが

みんな美味しそうに食べていた。

漁師さんたちは朝からヤギ汁を食べていたほどだ。

これまでの旅にはない素晴らしい島文化があった。

 

しかし何か、そこここにシコリの残る旅であった。

 

次の奄美群島は大切な友人が移住した徳之島だ。

旅費が大東と同じなので踏ん切りがつかないが

沖永良部やヨロンは今のところ行く気が無いので

徳之島が最後のチャンスである。

奄美群島は、やっぱり困った島々なのか

その確認時節は未定である。

 

奄美群島はイカがなものか・・・

 だが、イカ釣りにはイカす島だったといえよう。

 


ではまた