美味しい事はクロズに始まる

 


職場の同僚で微妙に年上の女性から

クロズというのをいただいた。ちょっと勘違いしていたのだが

中国でぽぴゅらー?といわれるコウズとは違うというのは

あらためてテレビを見てたら気づいた。

 

だが、いまだに、なぜ、開封して微妙に使いかけのクロズを

その女性が僕に与えようとしたのかの謎は深まるばかり。

最近、ココロ的にも元気のない

僕のために気を使ってくれたのかもしれないが

80CC程度なくなっている瓶を見れば見るほど謎である。

 

やはり、本人に確かめるしかあるまい。

 

長男であるからには

林檎酢、ワインビネガー、レモン還元、バルサミコと

使い分けているのだが、クロズは眼中になかった。

クロズは要は米酢であり、カメじこみということを考えると

米焼酎とカメ仕込みの球磨焼酎といった感じだ。

もちろんカメ仕込みといえば、泡盛も同様である。

 

長男にとって酢は最大の難関であったことは

誰しも知る由もないだろう。

もちろんいうまでもなく実は秘密にしてあったのだ。

 

それは親の代からの影響による。

 

僕のおやじ様はカメラマンであった。

白黒写真はもちろん自分で現像するのだが

よく現像室(暗室)に連れて行かれたものだった。

自分の撮影したものが、じわじわと現像される様は圧巻だが

いかんせんそれは鼻を突く酸っぱい臭いに満ちた空間で

行われていたことが問題であった。

 

すなわち、酢は食品ではなくて、現像用の薬品であった。

それを食するのは、繊細な長男の子供心には

台風の中で剣玉の東京タワーをやれといわれているに等しかった。

 

だがしかし、30歳を超えるあたりから、長男はずいぶん

違いのわかる男となっていた。

体質は変化し、好みも地味になり、魚は一層好きになっている。

週末の一週間の買出しでも肉を買うことは、皆無となった。

 

ところで

長男は律儀であり、義理と人情は大変に大切にする。

 

いただいた以上、使いかけかどうかは別として

これにて美味い料理を発明しなくてはならないのであった。

人生36年余、すでに半生が自炊にて過ぎ去っていった事実。

これに恥じないクロズ料理が必要であった。

けれども、残念ながら?鼻を突こうと薬品だろうと

酢は好きになっていた。

これも寄る歳によるものだろうが、それもまた嬉しいものである。

なにしろ嫌いなものが減るのだから、人類の食べられるものの限界に

近づける、強靭な体質を身に付けていっているわけであるのだから。

 

ためしに養命酒の小さなコップみたいのがついていたので

「これでグイッといきなさい」といっているようなので

グイッといってみたが、これはヒジョーに喉に、食堂にシミて

やはりpH(ペーハー)が低いので酢酸とて酸は酸であり

酸っぱいというよりは喉が薬品で焼ける感じだった。

 

気を取り直して料理に入らねばなるまい。

 

といって、不況時のサラリーマンに心豊かな料理の時間などない。

手っ取り早くお腹が豊かになる料理を作ることになる。

 

冷蔵庫にあるのは

脂ぎったシーチキンが苦手なので、代わりに買ってあるカツオのなまり

キュウリや大根、ニンジン、ゴーヤ、高知産赤ピーマン、白ねぎあたり。

その他、かまぼこ、チーズ、保存のきく充填豆腐(絹ごしね)。

 

で、ひらめいたのが、書く義理サラダもとい角切りサラダであった。

特徴はやっぱりゴーヤと豆腐となまりを使っていることだ。

もちろん、個人的ひいきの高知産赤ピーマンだって欠かせない。

甘味とコクがぐんと増すからである。

そして、マイルドさ激増の絹ごし豆腐がとどめをさすわけ。

 

絹ごし豆腐は、特性のタレ

ぶどうオイル、ごま油、義理と人情のくろ酢、しょうゆ、黒砂糖

テンメンジャン、トウバンジャン、料理酒、ニンニク、ショウガ適量

などなどと、最後になじんでマイルド感を演出する。

 

コツは、タレになじませるのは豆腐以外であり

10分から数十分なじませて、豆腐を加え、そっと和えるのが技ありだ。

でないと、やさしくてマイルドな絹ごし充填豆腐は崩れ去ってしまい

サラダちゃんぷるーって感じになってしまう。

 

もともと、カツオのなまりをつかったサラダなどというのは

長男オリジナルであるだろうが、問題は、使いかけのクロズと

角切りサラダの微妙な関係である。

なんで、使いかけの酢だったんだろうか

なんで、この角切りが、いきなりマイブームなんだろう?

サラダに絹ごし豆腐を入れたことが一因とも感がえられ

さまざまな食感と刺激とまったりが同居しながらも

さっぱりとしているところに惚れているようだ。

これをシーチキンでやってしまうと台無しだ。

ベタベタのシーチキンサラダに成り下がる。

材料が個性的なので、魚も個性と味の強いカツオのなまり

このあたりがキモになっているのだ。

 

これから夏にかけては、キュウリよりはゴーヤの量をふやし

昨年のヒットであったゴーヤサラダをバージョンアップした

角切りチャンプルーサラダ・・・ということで

スタミナアップのための、もう一工夫の改良の余地が出てきそうだ。


追伸

なぜ少しなくなったまま長男に手渡されたかということを本人から聴取した。

実は、手渡されたときにしっかり説明を受けていたのだが

最近の長男は頭が昼行灯になっており、薬を飲んでいる状況なので

おそらく聞いた直後に忘れていたのだ。

つまりこうだ「味を確認してからでないと、渡せないと思ったからっ!」という

力強くも、また極超律儀な現象からであった。

それほど細かな心遣いとあっては、なお微妙に感じるのはナゼナゼだろうか・・・

ましかし、ピンチの長男の体のために手向けられた唯一の救いである。

神様からのいただきものと思って、大切にいただいている。


ではまた