魚と命と心と

世界的鳥類研究者らが

蛋白源を求めているのだ!


ここ数年の大東で釣れたときと言うのは

シケている場所、もしくは島の東側であった。

コレ以外のところでは、長男の腕ではほぼ釣ることが不可能

というのが結論として頭にグルグルしていた。

 

うつ病というのは、こういった問題がグルグルするのが特徴だ。

 

結論のはずなのに、いやまだ何とかならんか?とか

待てば海路の日和ありとかアキラメのわるいところは

あきらめるのをアキラメた長男のモットーであるとしても

迷っていたら、短い休みが終わってしまう。

 

その夕刻、もっとも確率の高いマイポイント、北港を目指す。

どうしてもだめだったら、すぐにもどってイカ釣りでリカバーだ!

などというヨコシマな心がないわけではなかった。

北港と、下の写真の南大東漁港は目と鼻の先である。

もちろん、漁港の出入り口も立派な一級磯

そう軽んじて良い物でもないが、やはりもはやシマンチュ一般の

サンデー釣場と化していたから、長男にはかなり下方の妥協点だ。

まずもって北港へ赴くのがスジである。

 

果たして現場へ行ってみると

穏やかになったはずだが、北港には波が乗り上げている。

大東らしく「穏やかめ」なのだが、やや厳しい光景。

もちろん、人っ子一人居ない。

亀池港でヒンガーガーラが暴釣中であることもあろうが

ここは島の中で最も低い港である。

対岸の北大東を見ながら釣りのできる雄大さはあるが

波をかぶって居ることが多いので、港の上まで岩海苔があり

すこしでも濡れると立っていられないほど滑る。

 

本当ならスパイクを履いてやれば良いのだろうが

大東は岩が一般にスパイクの役割を果たすほど鋭く

滑らないので、荷物にもなるから持って行かない。

このヌルヌル港の右には未開の磯が続いている。

この泡の広がり・・・酸素タップリ、稚魚の隠れる泡がたくさん

こういうところに、お魚と言うのは本来居るものなのだ。

 

こんな感じの

波静かでまったりとした、日曜の昼下がりのけだるさのような

ユッタリした磯では小魚は隠れる場所も酸素もないわけで

すぐ岩陰に隠れてしまう熱帯魚系しか居ないので

ルアーを食うような回遊魚系、肉食魚系には捕食効率が悪い。

 

けれど、釣れそうだが、荒い上に磯が高い・・・

いや高くないと波にさらわれる・・・

他へ行っても、研究者らの食欲を満たす淡白源は釣れそうにない

「もう、ここでやるしかないな、絶体に・・・」

久々に覚悟を決めた。

覚悟を決めないとできないほど

恐怖を覚えてしまうような立場しか確保できない磯である。

もちろん

ココのようにキツイ磯で地元の人がやっている姿は見たことがない。

 

まず足場を決めて、次は取り込みのイメージづくりだ。

魚は掛けることはできるが、取る事が難しい。

テレビ番組みたいに誰かがヒョイとすくってくれるような釣りは

あれは娯楽とかダイミョー釣りといったジャンルである。

大東での磯釣りは独りだ。娯楽で終われない。


それにしても足場が狭いなあ・・・

荒磯を営むヒラスズキの思考がちょっぴり役に立つ。

幸い足元にはV字の切れ込みがあるから

ここに集中し盛り上がる波で

左のフラットな磯テーブル的な岩棚に魚をズリ上げることにしよう。

 

まてよ、実はこのフラットな部分の水面下には

岩があちこちにある、ここをすり抜ける様に泳ぐのが

こういう所で釣れる魚の得意技であるから

あまり魚を寄せすぎないで、弱らせてから

ズリ上げに入る必要があるだろうな・・・

多分、食いの渋さからみても

大きくても3〜4キロくらい(60センチまで)だろうから

それほど苦労はしないだろうけどな・・・

下の岩棚を見るとちょうどいい魚一匹分くらいのタイドプールがある。

おお、ここへ波の力で寄せてから魚を落ちつかせよう!

磯の上で、酸欠のまま、まな板の上の鯉状態だと

バッタバッタと暴れて大変だ。

最悪大きい魚が掛かったらイケナイから、さっきのタイドプールに

魚を落ちつかせてから取り込む段取りもイメージイメージ・・・

しとかないと自分の命も危ないのが大東の磯である。


そして、あらためて仕掛けを作って

狭い磯に立ち、しばらく波の状態を観察する。

なにしろ、宵の口のころが満潮だから、波は高くなる一方で

危険度はアップこそしてもダウンすることはない。

 

「・・・・・・・・」

 

はじめてヒラスズキを釣るために、本州最南端の磯に立ったとき

恐怖で竿を振る体がゆうことをきかなかったが、その時の感覚に似た

恐怖心が体を包んでくる。

 

恐いなんて、久しぶりだった。

 

足もとのV字の溝に向かって周囲の岩棚にかからないように

ルアーを引いてくるしかないから

探れる範囲もちょっと狭い。

V溝を外すと岩に掛かってしまい、地球を釣る羽目になる。

何回か投げたとき、すぅ〜っとなにかが沖から一直線にルアーの後

3メートルくらいのところを追ってきていた。

 

次の一投・・・

 

「な、なんじゃっ!」

 

引きずり込まれないように

魚に引かれる力に糸がやや出やすくはしてあったが

基本的に最強のハイテク糸を使ってるため、テンションは強め。

おもったよりズッとデカイ!食べごろサイズを超えた手応えが

ずしっと手に伝わり、不安定な足場と強烈な引きに

足が恐怖で震えるため、腰を下ろしてファイトすることに。

 

なんでこう、狙ってない時にカギって来るかなあ・・・

 

デカ過ぎるよなあ、この状況じゃあ・・・

    

やたら元気に暴走しまくるところをみると、ヒラアジ系間違いなし。

夕暮れのサラシ(泡のベール)の合間に見え隠れする魚影

白銀のボディ、ロウニンか?と思って良く見ると、カスミアジだ。

青とエメラルドグリーンメタリックが垣間見えた。

去年の五月は結局ロウニンアジしか釣れなかったので

2年ぶりの待ちに待ったカスミアジである。

ヒラスズキ、カンパチ、カスミアジ、バラフエダイといえば

僕の人生ナンバーワンのターゲットであるから、言うことなしだが

状況が状況だけに震える足をなだめながら

「慎重、しんちょう、しっかり弱らせろよ・・・」

とつぶやいて自分に言い聞かす。

 

ちょっと妙な針掛かりをしている。

食いが悪いのか、後ろのフックを食っており、走りまわる間に

おなかの方に前のフックが掛かってしまっている。

魚の真ん中あたりから糸がのびているイメージだ。

寄せようとすると、お腹の方からやってくるので

不自然と言うか、荒波の中、抵抗が大きい・・・。

 

それでも、ヘロヘロに弱らせてから、何度か失敗しつつも

波に乗せ、磯に乗せ、更に波を待ち、一匹様専用の

小さなタイドプールへのご招待に成功した。

 

案の定磯の上からでは6メートルのギャフが届かない・・・

そさささぁーっとすばやく磯を降りて、横っ腹にぐっとギャフをかけ

ようやく安堵の重みを全身で感じることができた。

7.1キロ78センチ、カスミにしちゃ思ったよりずっと良い形だが

おかげで長男の命を洗ってくれたものだ・・・

ルアーが反対向きになってるのがわかる。

元気で立派で美しいカスミアジだ。

出血が激しいのはギャフが動脈にでも入ったからだろう。

死闘を物語る写真になってしまった感じだ。

人生最幸の瞬間に、誰も居ない北港で、なんどもガッツポーズして

喜びをカミシメまくっていたのであった。

が、派手でドアホなリアクションを

誰かに見られてやしないかと

あとでチョッピリあたりをうかがってしまった・・・。

 

ズシリと重いカスミアジをバスケットに乗せ、夕日を後にする長男。

魚と自分の命の重さをかみ締める黄昏、

決まってるなあ・・・(しみじみ)


さっそく、ウキウキこごろを抑えながら研究室へ行くと

昼の部の連中は一人も居ない。

出てきてくれたのは

ウットリしたような表情がキュートな夜行性Aさんだけだ。

ダイトウコノハズクに生活を合わせていてくれて助かった。

せっかくだから、無理矢理記念撮影をお願いした。

久々のカスミアジだったのと、彼女は珍しかったこともあって

しばらく二人でしみじみカスミアジを眺めるという

見た目には、意味不明でやや怪しげな夕暮れを過ごしたのであった。

 

で、結局T博士をはじめとする昼の部の連中は

こちらはカスミはカスミでも、夕刻のカスミ網での鳥の捕獲が

かきいれどきなので、Aさんの努力も空しく

携帯でもうまく連絡がつかず

結局、カスミアジは僕の力で何とかサクにするから

夜は伊佐食堂へ集合ということにして分かれた。

  

とはいえ、どうしよう・・・

宿へ帰ると、吉里社長一家がロビーでテレビを見ていた。

やっと釣れたのを一同ホッと受けとめてくれたわけだが

もともと寿司屋もやっていた社長が、カスミをさばいてくれると言う。

 

すごい!すばらしい!!歳も住む所もどんなに離れていても

やっぱり友は友であり、友情とはありがたいものであった。

あっという間にたっぷりとしたサクになり

研究者連中や仲間だけでは一晩で食べきれず

二晩かけて食べることとなった。

もちろん僕は連夜、伊佐食堂で2度目の夕食を食べたことを意味していた。

それと、宿のお客さんにも、まだまだタップリとあった刺身と

味噌汁(ヒラアジの赤だしね)をだしてもらえたので

長男大満足の結果となった。


さてさて

つとに、南大東で釣りをつづけ

釣れない原因、釣れる場所

釣れる状況、命を懸ける状況をつかんだ感じがしたのが

今回の一匹であった。

 

新たな命の懸けどころを見つけた長男。 

 

釣れない、釣れないのはルアーが古いから?デカ過ぎるから?

いや、そうではなかった。攻める心が弱くなった自分が事態を招いていたのだ。

1999年、小笠原以前から使っている、フィンランド製ラパラ社の

14センチマグナムである。

アチコチ傷を受けているが、必ず戻って来た歴戦のルアーだ。

このルアーを使う理由はひとつ、丈夫だからだ。

本体は木製、リップ(泳ぎの動きを生み出す舌のような板)は金属製。

スタイルはお世辞にもリアルではなく、緻密さはない、しかも輸入もとの

利益追求からか、本来価格の倍以上は普通であった。

それでも国産より、丈夫でそうとう安いのだ。

(これだけの損傷を受けても、木部が露出した部分はない)

 

世界で七割がラパラ社のルアーだと言う。

このルアーを食わないような海を作ってはならないし

むしろ魚の居場所を知らないで釣りつづけた数年を思い知るべきだった。

 

このルアーは人気がなくて、使い方も難しいために

もう国内ホトンドの店で、どんどん姿を消して行っている。

かわりに、一度使うと、リアルで美しかった姿がボロボロになるような

ひ弱で高価なルアーが巾を利かせる。

まあ、それも時代の流れと言うものだろう。

 

実は、こんなこともあろうかと、何本も買い置きしてあり

今回、そのなかの最も実績の高いカラーを、T博士にも提供した。

Tがこのルアーを使い飽きるほどの腕を身につけるまでに

僕はどれほどの進化をできるだろうか。

初めてTと共に食べたうまいカスミアジ、これがお互いの人生を

大きく変えて行っているのかもしれないなあ。

 

そう考えた時、次の釣りが頭をよぎった。

はやり、命とひきかえに、ヒラスズキと同じ釣り方を

大東でもやってみるしかない!!!

 

これから、新たな道具、新たな作戦、新たな直感が必要になる。

生きて、やるべきことが増えた。

うれしい。

ありがとうT、ありがとう島の友、ありがとうカスミアジ。

 

また、そのうち、新たな釣り方については

記事にして行きたいとおもうが、まだまだ予測不明な部分が多く

仕掛けや釣り方、装備など、アイデアを出すのが楽しみだ。

 

とりあえず結果が出たので、仕事場にも原寸大デジタル魚拓を貼り出しておいた。

手前は一月のヒラスズキ。今年に入ってまだ2匹・・・ガンバらにゃ


ではまた