●キンチョー徹夜とロウニンアジ

 

冗談ながら、

まだ二十数名の宿泊者に出すほどのお刺身は確保できていない。

Tや館長にカラオケを誘われたが、

最後の朝のチャンスを逃したくないので、

涙を飲んでお断わりし、決意を新たにする。

 

明日の準備を整え、寝床につく。

夕暮れの釣りが頭を離れず、あれ以上の大物が来たらとか、

取り込みはもっといい方法がないのか?

などなど様々な思いが湧き出してきて眠れない。

磯釣りは掛けてから、取り込みまで独りで通すのが男らしい。

しかし、究極的な状況の揃ったあの磯で不安はどんどん膨らんでいく。

 

ゴロごろと寝返りを何度も打ってみたりするものの、

寝付けない。

気にすれば気にするほど眠れないので、

もう眠れないだろうと、遂に朝3時ごろ起きだして、

衛生放送を見ながら念入りに準備する事にする。

 

いつぞや見た梅辰の出演する

伊豆半島は真鶴のオニカサゴ釣りを放映していて、

ふと都会の日常を思い起こされたけれども

反対に今の釣りザンマイの秘境にいる幸せを感じて、

天国にいるような気分がし、

テレビから下界を見ている様な感じであった。

 

5時が近づき遅い朝が明けてくると、

いつものようにコッソリと会館を抜ける。

モットーが「コッソリ」と「ひ・み・つ」であるから

こういった朝にはうってつけの人生であった。

 

原付のエンジン音がけたたましい。

実は昨夕の「山坂道がーら抱きしめ登り事件」は、

うっかりガソリンを足し忘れていたからで、

農協の経営するたった一つのスタンドは

日の長い沖縄の今なお斜陽も照り付ける5時には閉まってしまい、

夕寝坊しようものならタイミングを逸してしまうのだ。

 

果たして、

また山坂道の上で駐車を決心をした自分に、

嫌な予感がしながら、

寒いくらいに澄みきった暁のサトウキビ畑をひた走る。

 

山坂道を歩いて下ったところで、

まだ足元が暗いため、ぐるんぐるんと体操をしたり、

磯の写真を取ってみたりしながら夜明けを待っている。

「ここは日が上がっても十分釣れるのは分かっとるけん」と独り言を

自分に言い聞かせながら更にじっくりと待つ。

 

今日もいい天気だが、

次の台風の影響なのか、雲が躍動を帯びている。

海は昨日より更に穏やかで、

黄金週間の時と同じ顔にようやく戻っている。

 

「もう安心だ」と思った。

 

昨日のこともあって、今更ルアーの速引きははしない。

すぐ足元で1キロちょっとのオカズサイズがヒットしたが、

やはり昨日の凄まじいファイトの後なので

アッサリ上がってしまう。

これでも本当はスズキの60センチ級の引きは

あるはずなのに・・・。

 

その後また当たり「これもオカズや」と余裕カマシていると、

当たりとは数段違う走りが始まった。

平気でギリギリとドラグを出していくが、

まあ、このぶんちゃん最強の仕掛けが

この程度で・・・と思ったトタン、

今度はアッサリと切れてしまった。

 

「油断したー、根ズレしたら一発なんやなー」

震える手足で仕掛けを作り直すのだが、

震えて一回失敗してしまう。

 

昨日のカスミアジよりは小さそうだったので、

落ち着いているはずなのに、

深呼吸したりするけれど、

なかなかこの震えは止まらず制御できない。

 

目の前の海で、

内地では絶対お目にかかれそうもないサイズの魚が確実に釣れる!

という興奮がこうさせるのだろうか?

 

今度は切られないように思い切って磯を降り

しぶきをかぶる所まででる。

こうすると、さっきの手は食わないのだ。

ただ、波にさらわれる危険は上にいるより100倍だ。

(極私的危険スケール)

 

しかも、足場は移動できないほど険しく狭い。

前は1メートル程のカウンター的なハエ根で、

その先が水深6メートル以上の海、

後はバスタブほどの潮だまり。

 

足場は30センチ幅の

超トゲトゲの露天風呂の縁の様な感じだ。

これが露天風呂なら尻が血だらけであり、

血の湯地獄である。

 

写真、上の岬の水際から

カウンター状のハエ根が分かって頂けるだろうか?

ここは短くて、長いところは5メートル以上せり出している。

血の湯地獄は手前のサラシの更に手前。

今更言わしてもらうとカスミが来たのは手前のサラシ。

 

 

「来たらどうしようかなー」とつぶやきつつ引いていると、

やっぱり来た!

今度はさっきより少し強い位。

ドラグを締め込んで沖向きに体を乗り出し、

左へ走る、さっきと同じ例の逃げ道を力でかわす。

左はシモリの沢山ある小さな湾になった方面で、

なぜか最初はみなさんここへ突っ込む事になっている。

と、

 

グイングインと今度は右へ。

これまでのオカズサイズのお魚なら

これでファイトはジ、エンドだったが、

今回はかわしたと思ったら反対の岬の先の

1メートル程離れた根と、

足元のハエ根の間をすり抜けようと言うことらしい。

 

「ヤルな、こいつ」などと言っている暇はない、

そう分かったトタン、ズリリっと妙な感触が伝わって、糸が動かない。

 

ハッキリとは分からないけれど、

コレが根ズレか?と思いつつ、今度は大胆にも、

リールのベールをかえし、ふわりと糸を出してしまったのだ!!!

 

僕なりの賭けだった。

が、

とっさに他の操作を思い付かなかったのだ。

 

「こんな時はレバーブレーキ付きのリールが要りそうだな」などと

アイデアを繰り出す余裕?があったりもした。

 

実際は竿を支えるので精一杯で、

レバー操作に回す握力が残っていないはずなのだが、

じっくり考えるほど暇ではなかったようだ。

 

そんなことはさておき、魚が我に返ったのか、ふと沖を向いた。

「よーし、えーでぇ、えーこや」と何やようわからん関西弁がでる。

 

もう余り体力が残ってないせいか、

ヒラアジが足元の真下を向いて入りだした締め込みを

体で味わう余裕もでてきた。

竿先のカウンター状ハエ根を気にしつつ、

竿をためていい引きを堪能する。

 

リールが巻ける!

サファイアブルーの底から見たこともない白銀の魚体が見えてくる。

透明度のせいか遠近感があいまいで大きさに実感がない。

 

上がってきた瞬間

「ロウニンアジや、うそーぉ」

と独り磯で叫んでしまった。

今回もしっかり掛かっているので、

試しに最高級磯玉の柄に付けたギャフ

(大きな悪役海賊船長の様な、引っ掛けみたいな奴)

を使ってみようとすると、

3節目から出てこない、延びやしないのだ。

 

今度は磯玉の柄と竿を放り出すことになってしまった。

トゲトゲ露天風呂の縁部分で、それは結構難しい。

 

が、どうやったかは、もう覚えてやしない。

 

気がつくと、

30号のハリスを持ってバスタブ潮だまりに

あの「ロウニンアジ様」が横たわっていた。

 

その前に入れておいたカスミアジがその下をこれまた元気に泳いでいる。

 

 

 

あまりに曇りのない白銀のために最初は別のアジ類では?

と思ったが、どうやらメスのロウニンアジはオスの様に黒くないらしい。

後で真子が出てきたからメスは本当だ。

 

ただ、テレビで普段見ていて思ったが、

同じGTといってもずいぶん固体差があり過ぎない?

ということがあるように、

実際は分類が進んでいないらしいから、

これはロウニンアジで良いのだと思うことにした。

 

 

これ以上釣っても原付までたどり着けまいと言うことで、納竿。

実にさっぱりとした、

食べるために釣る「運動釣本舗」のコンセプトを絵にかいた様な朝である。

 

こうしてまた、夕食の後、「もう使わないと思うけど」といって

厨房でいただいてきた大東島オフィシャルゴミ袋に入れて、

やはり口元に妙な笑みを浮かべつつ磯を登り、

朝の山坂道を帰っていった。

 

ただ、今度は震えは来ず、

一つの夢をかなえて、ちょっと虚しくなったからか、

不思議に切ない気分を抱えての凱旋であった。

 

 

 

●館長は俺が倒す!

 

巷は7時を回っているけれど、

館長はまだ昨日のカラオケのためにお休み中。

 

少し怖かったが、オソルおそるノックすると、

ボセボセ頭で目を真っ赤にして酒クサイ

最悪のキックボクサーがそこにいた。

 

「ヤバイっ」と思ったが、

手のひらを正面に差出し決めポーズの「モルツ待った」を打つ。

すると館長の顔が少し起きて

「んー、ぉぉーあー何、おおーっ!」と変わってくる。

おもむろに原付からがーらを持ってくると、

「ぅやぁーったぁー!やったなーオイ!」

と目が覚めたようだ。

 

「これでもォー晩飯の刺身には十分やで、

ホンマにやるとは思ってなかったわ!」と

高笑いし、シッカリ仕事を忘れていない。

この人は本当に吉里会館を愛しているようだ。

 

釣り談話室の年間大物賞で

いきなりスズキの72センチのトップを倒すには、

長モノのテンジクダツしかない!というのと似ているが、

 

釣りのできないキックボクサーは釣りで倒すしかないのである。

 

この後館長には会館の送迎ワゴンの前で、

しっかり記念撮影していただいた。

 

 

無理やり表情を作っているけれど、

実はもう度重なる寝不足でヘロヘロ。

最初手袋をしなかったら、巨大なゼンゴが食い込んで、

手が切れてしまったので、

あわてて手袋をして撮っているのだ。

 

男というものは単純で、

いくつになっても爽やかな友情風景が好きである。

だからして、示し合わせたかのように、

館長とがっちり握手をかわしたのは言うまでもない。

 

夢に賭けている者に対する気持ちは皆同じなのである。 

 

裏から回って厨房へがーらを運ぶと、大奥さんが

「昨日のより小さいねぇ」と鋭く見抜いた。

 

昨日のは叉長(頭の先から、尻尾の谷間まで)72センチ、

今度のは71センチ。

わずかに短いのだが、重さはといえば

6.4キロと5.6キロとずいぶん差がある。

そのボリュームを見抜いていたのだ。

 

さすが、いなだ(ツムブリ)を

ビシバシ釣るだけのことはあるおカミさんの眼力だ。

更に「どこで釣ったん」と「やっぱりルアーで?」

という無駄のない質問も抜け目ない。

 

良く、

ポイントを隠し立てする人がいるが、

大東まできて地元の人に「ひ・み・つ」にしても

心のスケール感が情けなくなるので、

僕は普通に教えてあげるようにしている。

 

が、

文中では「西側の磯」ということになっている。

皆さんには「ひ・み・つ」である。

 

いつになく早目に現われた掃除のオバンズに理由を尋ねると、

「がーらを見にきたんよ」とじゅんこさんの答えが心なしか興奮ぎみだ。

ぞろぞろとギャラリーが集まってきて照れクサイ。

 

この島のオバサンたちは

なかなかよそ者に口をきいてはくれないが、

大きめのがーら2連発に、多少の実力を認めてくれたのか

このとき始めて「大東の人より名人だわ」と

かなりオーバーだけど、最高の賛辞をくれたのであった。

 

この島では40キロ位までは出るので、

全くたいした大きさではないのだが、

身近な人が釣って、釣りたてを実際に見ることは稀の様だ。

 

加えて餌を使わないでこのサイズを釣ったことが、

サゾかし珍しかったらしい。

 

僕の歴史に残る出来事が起きた朝であった。

 

朝御飯をいつものように卵御飯で3杯たべて、

問題の原付の燃料を足しに行く。

 

後はもう気が大きくなって、

今回まだ見ていないこの島で一番美しい海の色を見たくなった。

 

下ろしタテの防水カメラ「キヤノンD5」の

性能を確かめるには絶好の被写体である。

 

 

島は全体が珊瑚の化石で白い石灰岩。

 

とびきり透き通った水を十メートル以上潜って、白い岩に跳ね返り、

戻ってきた熱帯の陽光は、例え様もない深い蛍光ブルーを放つ。

 

亀池港はこの島一番の釣り場だが、海の色もまた絶品なのである。

 

  

ドウダーと言うくらいマブシイ青、

手前はシケに持って行かれた波止の傷口。

 

ここでやっているカゴ釣りにボラの様なものが湧いている。

南大東村誌にはボラがいると記されていたが、

このときは驚くことにツムブリだった・・・

 

高速回遊魚ツムブリが、ボラみたいにユルユルと

新鮮な餌のある仕掛けの方へ泳ぎ回っている。

 

もちろん、

ブルーや黒の40センチ位のハギ類、

ベラ類もわきあがっている。

 

満ち足りた気分に、

そこで釣れている奇麗なツムブリ、

コバンアジのお写真を撮ってしまう。

(上がツムブリで両方とも1キロ位のイケルサイズ)

これまで、

他人の釣ったお魚を写真に撮るような心の余裕はなかったのだが・・・

 

その日の午後、料理長に「何か食ってた?」と

ロウニンアジの解剖結果を確かめる。

料理長は、

「昨日の奴と同じ様な十センチ位のハギ食うとったで」と

教えてくれた。

始めての魚種なので最初に包丁を入れるところを見たかったのだ。

 

 

実は島に来て最初に釣ったとき、魚を料理長に任せて、

さっさと笑顔で食卓についていたとき

館長は

「釣ったのはお前ナンだから、この魚の最後を見届けろ!

ただ自動的に料理されて出てくるような

アマイ所じゃあないんだぞ、大東は!」

とばかりに戒めを込めて、

 

「自分の釣った魚がさばかれるところを、しっかり見とけ!」

と厨房の中に僕を呼んだことがある。

 

反対に僕は見たいけれど、

部外者が邪魔してはまずかろうと我慢していたのだ。

 

だから喜んで入って行き、

「あれ?ハラワタはどうしました? え、もう生ゴミといっしょ?」

といいつつ、生ゴミをあさって、

トウガンかなにかの皮をよけて内蔵を発見し、

嬉しそうに手にとって、

胃袋をしごいてみたり、肝臓をシゲシゲと眺める。

「うーんそうかぁ、何も食べてないなぁ、可愛そうに・・・」と

ポツリ言ってしまったのだ。

 

まさかの事態に、あっけにとられた館長は、

「アンタ、何もんや?」と逆に驚いて、きかれてしまった事があった。

 

ただ一つ

魚に対する好奇心と愛情は人一倍であり、

食べる責任を感じているのだ。

それに、うちの家族は解剖好きなのかもしれない。

魚をさばくときは、

みんなが何かに期待して、家族揃って観察するような

不思議な習性があった。

 

今夜の料理をつくりながら、

「もう釣って来んでエエで、もう十分やお客に出す分もあるし、

これ以上釣ってこられても、さばくんが一苦労なんやでぇ」と

宣告されてしまった。

 

この言葉は僕の戦意をダウンさせるに十分なパンチである。

 

美味しく食べるために釣る、それが身上の釣りだからだ。

 

いつも夜はいろいろあって1時2時に寝付き、

朝は5時には起きて釣りに行く生活を続けていた。

 

がーらの腹具合を確かめたので、

昼には十分眠くなるから、お昼寝タイムだ。

 

と、ついヤル気を無くしたせいか夕寝坊してしまった。

 

まあ、今更記録だけにこだわる人生でもないので、

せっかくの大東最後の黄昏に「しみじみ」しに行くことに決めた。

 

燃料だけはたっぷりある。

 

南大東はやはり西側がいい、海水浴のできる塩屋の海岸へ行く。

夕やけを見に地元の人も来ていた。

 

海を見つめているだけで十分幸せであり、

このまま黄昏が終らなくてもいい。

厳しすぎる自然に、

ここで生きていけるほど僕は強くない、

しかし

この夕やけは何物にもかえ難く、

この深い青の海に沈んでも良さそうな気分にさえなる。

明日横浜へ帰る理由などひとつも思い付かないのだった。

 

思ったより耳がとんがっているなー。

おやじがこっそりと、切なそうに火星を見上げていたっけ・・・?

 

 

●意外ながーらの味

 

夕刻、食堂へ行くと「お一人さん」と館長のいつもの声。

館長はこの時間は料理人を装っていて、

とても白い板前装束が似合っている。

度胸のすわった男の貫禄といったところだが、

おそらく料理の腕はそれほどでもないハズだ。

 

奥では料理長が「ヨッシャ」的に

僕がやってきたのを察知して、腕を奮ってくれる。

 

今夜の夕食は他の人より豪華だ。

人生最大のカスミアジのお刺身は

トリタテのマグロと一緒に標準装備になり、

僕にはそのカスミのカマの塩焼きと、

ロウニンアジのお刺身が加わってテーブルが狭い。

 

 

Tさんにも押してロウニンのお刺身をすすめてみる。

多分一生のうち、

釣りをしない彼女がこれを口にする機会などないはずなのだ。

 

同じ酒好きとして、その事態を見過ごすわけにはいかない。

 

脂がのって、引き締まったカンパチのようだ。

カスミはというと脂ののらないキハダマグロの様だった。

 

カスミの方が老成していて、コッテリしていそうだが、

我々ヤマトンチュウの常識なんて簡単にくつがえす。

 

カマの塩焼きを食べてはっきりした。

全然脂がない!少し赤みがさして「半生かな?」という

とてもデリケートな仕上がりは、

嘘かホントかスゲー技ありである。

 

白身と化してシャキシャキ旨いのだが、

肉汁に脂が浮いていないのが異常なほど。

これほどアッサリとした魚があっていいのか?という感じだ。

 

刺身の腹身を食べ尽くしたので、

料理長がロウニンアジを持ってきて、

「今度はどこにしょ、今度は背にしてみよかぁ」というから、

一通りの味わいを楽しもうとお願いする。

 

 

背の方も脂がのって、更に爽やかさが加わったように旨い。

が、料理長が勤務中だが、

いつものように泡盛りの水割りコーヒーカップを手に、

またやってきて、

「なんかしらんけど、がーらは磯クサイんやなー」

「せやから、50センチ位までが一番おいしいんや」という。

 

確かに、

冷静に慎重に味わうと鼻の奥で「キン!」と感じる。

 

「明日はこれを味噌でお客に出そと思うんやけどな」と言う。

僕はそのころは横浜にいるはずだが、

この人は本当に料理を愛している様だ。

 

「最後のがーらを任せて、間違いない人だな」と

心底有り難いと思う。

美味しく食べられるがーら、

彼女は何も悔いる事のない生き方だったと、僕は確信している。

 

味噌汁もタダでは済まない。

がーらのアラと、昨日大奥さん達がクーラー一杯釣ってきた

ベラ類などのぶつ切りがフンダンに入っており、

すごいボリュームだ。

 

料理長は

「この味は料理人にはできん。

おれらやったら、もっと臭みをとったり、

いろんな手を使ってしまうやろけど、

これは新鮮な臭みが大胆に出とって、ならではの浜料理や。

さすがこの島でずーっと料理をつくってきただけのことはあるわ。

おれらでは出せん味、出しよる」

という。

 

まぎれもなく、

味噌の香の後に強大な魚の臭いがたたずんでいる。

  

立ってはいられない位満腹になった。

 

その夜は、食堂でTさんと館長がサシで飲んでいて、

僕がお邪魔してしまった。

やっぱり館長は芯の強いこの京都の女性が好ましいらしい。

 

飲んでいるうちに、館長はまたカクンと寝入ってしまった。

 

やっぱり起こして部屋で寝てもらうほうが良さそうなので、

起こしたいけれど、キックボクサーなので機嫌を悪くされると怖い。

 

ここはしかし、

男の役目と思い、僕が起こして促す。

 

こうして、

いつものように体に久米仙を補充して

最後の夜を安らかに眠ったのであった。

 

 

●いつかまた

 

やっと、最後の日がやってきた。

色々なことをイッペンにやってしまったので、

長かった様にも思える。

 

今日は朝飯は2杯。

 

カナダ製のリュックに全装備がスッカリ収まってしまう。

 

部屋に掛かっていた着替えにルアー、タオルももうない。

僕が来る前と変わらない姿に戻っている。

 

9日間は終ったのだ。

 

帰りはあの日立ダイバーと同じ便で筆談によると、

彼はもうすぐ次の台風13号がやってくるけれど、

八重山へ行く予定だという。

 

早目に部屋を出て、

フロントに出るが、やることもない。

いつになく目を吊り上げてTが立っていた。

 

どうやら、

台風が接近して、キャンセル待ちが殺到し、

館長が「まかせとけ、大丈夫や」といったものの、

全然取れそうにない雲行き。

 

離島周りを趣味にするTだが、

仕事に影響を出すことは絶対にしない方針らしく、

すごいケンマクで館長に迫っている。

 

「大丈夫、任せろてゆーから・・・」

「帰られへんやん、どーしてくれんの!」といい、

最強の男の胸倉をツカミ上げた時は、

最強の男とて手違いを認めざるを得なかった。

 

しかしまあ、オーナー社長でもないかぎり、

仕事はひとりで背負っているわけでもない。

仕事の事を心配するのも分かるが、

ここまで来て、

乗れない飛行機のために人を攻めても始まらないのである。

 

館長は堂々としたもので

定刻になって送ってくれるはずが、まだ朝食を悠々と食べている。

好物のランチョンミートを御飯と一緒にジックリ味わっているようだ。

 

僕は昨夜の久米仙がのどを涸らせているので、

その横でお茶をいただく。

 

飛行機が来たときに乗ればいいんだ・・・という

極く当たり前の思考になっているのだ。

別に30分前に行って待つ決まりがあるわけではない。

 

「さて」と館長が腰をあげ、僕もワゴンにリュックと竿を乗せる。

見ると、庭先まで寂しそうにTさんが見送ってくれるが、

どういった心持ちなのだろうか・・・

 

館長へのプレッシャーかアルイは本当に優しい人なのか、

やることがないので、見送る気になったのか?

 

ともあれ、吉里会館は見えなくなっていく。

 

風が強くなってきているキビ畑の中を走る。

でも、客のはずの僕はまたなぜか助手席に乗っていた。

 

ほどなく真新しい空港に付き、

一応「料理長にもよろしく」とあいさつする。

本当は近いから家まで行って言えばよかったのだが、

仰々しくて、そんな気分にはなれない。

 

日立ダイバーや僕たちが空港に入りチェックインしているころ、

館長も空港ロビーに入ってきた。

 

迎える人があるのだろう。

 

屋上に行って、ガクシャ君でなないが、

いよいよ新しい機体DHC8が風下からやってくるのを屋上で待つ。

 

こう見えても、自衛隊一家の長男として育てられた僕も

飛行機にはチトうるさい。

あの事故の時、ガクシャ君が言っていた

自衛隊機の型番程度は簡単に識別できるのだ。

 

着陸を確認して、その着陸距離の短さや制動性能の良さに驚く。

通称「STOL」性能と言うヤツだ。

(うんちく:Short Take Off and Landingの略で短距離離着陸の意味)

 

サスガ、

国産傑作機YS-11より後から出た高性能機だけはある。

 

 

下へ降りて館長のそばに行き、もう一度別れを言う。

 

二人は、

約束とも友情ともつかないドラマみたいなカッコイイ握手を

無言のうちに交わす。

 

形にはまったモノではない、

ただ、男同志の自然なふるまいなのであると分かった。

 

 

もちろん、最後のことばはいつもの、

 

「それじゃあ、また」

 

である。

 

 

プロペラなのにすごいパワーで上昇する、

とても快適なトイレまで付いた新型機のなかで、

純粋なブルーの海を見下ろしつつ、

「まだまだ、カッポレもタマンも食ってないぞ」

と懲りない根性を燃え上がらせた。

 

台風接近の気配が漂う那覇空港で、久々にヒトゴミを味わう。

ここで日立ダイバーとは道を分かつ。

 

ここでまた爽やかな握手を交わし、都会へ舞い戻るジャンボを待つ。

今度はいつ来れるのだろう、そうだお土産を買わなくては。

 

珍しく観光客風にお買いものし、一路横浜の我家へ。

 

その夜、

久々に徳島の太めの素麺を茹でて食べ、これまた久米仙を補給した。

 

開けていないリュックサックの傍らには、

疲れのあまり、早々に眠り込んだ夢枕に

大東島での釣りはまだまだ続いている僕であった・・・。

 

やれやれ「寝ても覚めても」である。

運動釣本舗の夏期特別営業は終ったけれど、今度は秋が待っている。

 

それじゃあ、また。

 


 

ただただ長い長いエピソードをお読みいただき有難うございました。

もし、御感想などがありましたら、お願いしますね。

 

参考までに今回の主ながーら仕掛け

竿

シマノ、アルファズームライトキャスト360-420

 

リール

シマノ、ステラ8000ハイスピード(10000スプール換装)

 

道糸

PEライン5号

 

ハリス

バリバス、かと思ったらダイリキ30号(130ポンド)

 

ルアー

ラパラCD14MAGサバカラー

 

てな具合。

相手に取って不足ありありの超ゴウリキ仕掛けでした。